オーマとプロトスの駆け引き
プロトスとの面会当日_____。オーマは一人でプロトスの屋敷を訪れていた。
使用人の案内で通されたのは裏庭だった。
屋敷は崖の上に在るため、裏庭に出ると爽やかな風を受けることができ、海が一望できる。
庭の中央は石畳が円状に敷き詰められていて、真ん中に白いアンティークのテーブルと四つのイスが在る。
そこを中心に花壇が円を描くようにレンガのブロック状に広がっていて、花壇の隙間が通路になっている。
通路も石畳で、仕切りになっている花壇は、高さが成人の膝くらいまである。
花壇には温かい気候に咲く暖色の艶やかな花が咲き誇っており、中央で待つ人物までの道を彩ってくれている。
(すごいな・・・)
オーマは感心する。
高い遮蔽物は無く、視界が開けて周りが良く見える。
侵入者を見つけやすく、風も吹いているため、会話を聞かれる心配が無い。
また、襲撃があっても膝まである花壇がレンガ状に置かれているので、走るのに邪魔になる。
綺麗な庭であると同時に、盗聴や侵入の対策がされた機能的な庭。
単純に見た目にこだわるだけでなく、常に危機感も持っている証拠だ。
(敵なら厄介だが、味方にできれば頼もしい限りだ)
そんな事を考えながらオーマは石畳の通路を歩き、中央で待つ人物の下へ向かっている。
これから交渉する相手は、容易な相手ではない。だが、オーマに緊張の色は無い。
理由は帝国の第一貴族ほどの圧力を感じないからだ。
たった数回だが、クラースとの駆け引きは、こういった場面でのオーマを確実に成長させていた。
(ありがたいやら、ムカつくやら・・・)
少し心中複雑になったが、それも一瞬、プロトスの前まで来ると、オーマは気後れすることなく頭を下げて挨拶した。
「お初にお目にかかります。私、雷鳴の戦慄団の団長を務めるオルス・ロイゲルと申します。本日はお招きいただき、光栄にございます」
「ようこそ、オルス団長。そのように畏まる必要は無い。公の場ではないのだ、顔を上げてくれ。私はベルヘラ領主、プロトス・ライフィードだ、よろしく」
そう言って、プロトスは顔を上げたオーマに右手を差し出す。オーマも一瞬躊躇したが、右手を差し出す。
二人は、互いに顔を見合わせて、握手した。
プロトスの力強くハキハキとした口調。
だが相手を威圧する感じは無く、親しみさえ感じる温かさの有る声。
オーマはプロトスから、レインと同じ気さくな印象を受ける。
だが、プロトスの瞳には、薄らと観察の色が隠れている。
そして、巧妙に隠されたプロトスのそれをオーマは察知していた。
(上手く隠しているな。だが、俺でも気付けるならマサノリも気付くだろう。やはり、帝国との交渉は不利か?)
オーマのプロトスに対する第一印象は、良くも悪くも“予想通り”だった。
(この男がオルスか、なるほど。穏やかで真面目な雰囲気だが、戦い馴れした気配がある。歴戦の猛者といった感じだ・・・・・だがやはり傭兵では無いな)
プロトスはオーマの礼の仕方に“慣れ”があると感じていた。
何度もこういう風に王侯貴族の前に立ったことが有るのだろう。
そういった経験が無い者は、どんなに丁寧にしようとしても、多少はギクシャクするものだ。
オーマを傭兵では無いと判断できたのは、それだけではない。
先ず、握手した時の掌のタコは長年武器を振り続けてきた者のそれだった。
だが、身に付けている装備は新しく、体に馴染んでいない。
そして、その装備の下の服や肌の跡がおかしい。
長年傭兵をして金属鎧を身に付けていたならば、服にも肌にも擦れた跡やシミが残るものだ。
なのに、オルスの服は新しい物ではないのに、その跡が無い。
長年戦場に居ながら服などに鎧の跡が無いのは、今まで跡が残りづらい高品質な鎧を身に付けていたからだと推測できる。
北方で活躍の場が無かったのに、高級な鎧を身に付けていたのは変だ。
だからプロトスは、この人物がどこかの国に仕えている、あるいは仕えていた可能性を考える。
その場合、今、品質の劣る防具を身に付けている理由はなんだろうか?
除隊したから仕方なく?それならば何故、傭兵をしていたとウソを付く必要があるだろう?
キャリアを偽る必要は無い。国に仕えていたという方が、いい仕事が取れるはずだ。
それとも偽らざるを得ない形で辞めたのだろうか?
その可能性も有るには有るが、そういうスネの有る人物には見えない。
わざわざ安物の防具を身に付けて、傭兵と名乗るっている訳・・・やはりスパイの可能性が一番高い。
プロトスは最初の挨拶でそこまで見当を付け、抱いた感想は“予想通り”だった。
お互いに第一印象を“予想通り”という感想を持ち、二人とも相手に気付かれないよう警戒レベルを上げて、話を始めた。
「急な誘いで、すまないね。最近、娘がよく君の話題を出すのでね、どうしても会ってみたくなった」
「とんでもございません。レイン様の講師として、まだまだ至らぬ自分の事など、話題にしていただけているとは思っておりませんでした」
「至らぬなどと、その様な事はない。娘は大変君を気に入っている。講師としてだけでなく、男としても見ているほどだ」
「その様な過分なお言葉は・・滅相もございません」
「そうか?せっかく君を気に入っているのだ、娘を妻にどうかね?」
「はぁ!?あ、い、いえ、そんな、私のような者が、ベルヘラの次期当主となる方の相手など」
「ハハハハハ、冗談だ♪」
「は、はあ・・・」
(クソッ!正気か!?なんなんだ!それとも俺を怪しんで、レインを使って揺さぶっているのか!?)
そう思った瞬間、オーマの中でクラースとの交渉で揺さぶりを受けた記憶が蘇る。
ただ相手を揺さぶるために、あえて本題からズレた質問をして相手の態度を見るという手だ。
(チッ!同じ手に何度も動揺してたまるか!)
心の中で、再度警戒レベルを上げ神経を研ぎ澄ます。
「いやいや、冗談でしたか。びっくりしました。しかし、私のような一傭兵にその様に気さくに接してくださるとは、プロトス様の寛大さが知れるというもの。このベルヘラも素晴らしい街だと思っておりました。寛大かつ聡明なプロトス様が領主なればこそ、発展しているのですね」
「そうであったら喜ばしいことだ。ここは私の故郷でもあり、最愛の妻が眠る地だ。このベルヘラのために腐心することに、辛いと思うことはない」
「正に領主の鏡にございます。ベルヘラの領民の皆様は、きっと幸せでしょう」
オーマは美辞麗句を並べ、プロトスはそれに応える。
一見、傭兵の領主へのゴマすりだが、そのやり取りの中で、二人は頭では別のことを考えていた。
オーマはプロトスの何気ない言葉から、プロトスの人間性を読み解こうとしていた。
(・・・センテージ王への忠誠は口にしないのだな。先に妻への思いが出た。公の場ではなく、俺が外交相手じゃないから忠誠をアピールする必要が無い?これはやはり、プロトスは王や国より故郷と妻を一番に考えているな・・・)
そして、プロトスの方は、自身が知りたい本題に触れた。
「ハハハ、オルス殿は世辞が上手いな。先程の礼儀作法といい傭兵とは思えん。昔どこかに仕えていたのか?」
もちろん、この質問でオーマが本当のことを口にするとは、プロトスも思っていない。
何か反応があればいいと、気まずくならないくらいのノリで、軽く触れただけだ。
だが、顔を笑顔にしていても、集中して真剣になっているオーマは、その質問を重く受け止める。
プロトスは本心を見せていないつもりだろうが、今の質問でオーマは何故、自分が呼ばれたのかを察した。
(何気なく口にしただけだろうが、一瞬目から笑みが消えたぜ、プロトスさん。完全に探りだな。いや、この後探りを入れ易くするために話題にしたか?どちらにしろ、ただ娘に悪い虫が付いてないかの確認じゃない。俺を、どこかの国のスパイと疑っているな・・・フン)
オーマは心の中で警戒しつつ、同時にこの段階でスパイと見当を付けた事に感心する。
第一貴族と渡り合うには厳しいが、それでも優秀な人物であることは間違いなく、是非仲間にしたいと思った。
(さて、どうするか・・・ただ何気なく振っている話題なんだから、適当に答えても良いだろうが、仲間になってもらうために信頼を得るなら注意が必要だ。ここでごまかして、後々バレたとき問題にならないとも限らないし、ごまかしたところでスパイ疑惑は晴れない。いや、どうせスパイとバラすのだから、晴らす必要が無いな。バラしたときに信用してもらえるか?だ。正体を明かした時、一番信用してもらえるタイミング・・・それは今だ)
「いえ、昔では無く、今現在ドネレイム帝国に仕えております」
「はぁ!?な、何だと!?」
オーマの意外過ぎる発言に、プロトスは思わず声を荒げてしまった。
相手より先に胸襟を開いて誠意を示す____。
相手を選ぶ危険な交渉手段だが、プロトスに対しては有効だとオーマの中で確信があった。
「私はドネレイム帝国の軍人です。帝国軍北方遠征軍第三師団所属、雷鼠戦士団の団長、オーマ・ロブレムと申します」
「・・・・・オーマ・ロブレム」
オーマの急な告白にプロトスは動揺を隠せない。
(急に何を言い出した!?本気・・いや、正気か?帝国の人間・・・冗談?・・・いや、しかし)
動揺していたのは一瞬。プロトスは気持ちを直ぐに落ち着かせ、警戒レベルを最大まで引き上げ、オーマの瞳を覗くように見据えて、疑問の言葉を投げかけた。
「帝国のスパイが私の前で堂々と身分を明かすなど正気か?冗談なら、それらしい表情で言ったらどうだ?」
「いえ、冗談ではなく本当の事です」
オーマは帝国の紋章と、自身のドッグタグを首から出した。
(本物・・本当に帝国の者だ。何故?・・・使節団が来るのは表向きで、裏で私を脅すのが帝国の策略か?コイツがわざわざ身を明かしたのは脅すため・・・レインは人質か?だとしたら考えが甘い。娘を人質に取られようとも、私と娘がそれに屈することは無い!)
頭の中にセンテージと帝国の状勢が頭に入っているので、すぐに人を呼んでオーマを処分するということはしない。今すぐ首を飛ばしてやりたいが、理性で堪える。
とはいえ、領主としての誇りが、帝国のやり口を拒絶する。
“たとえ、国が不利な立場で、娘が人質になっていようとも、このような真似には屈しない!”・・・と。
「冗談で無く、本当に帝国の人間でこのような真似をするなら、些か趣味が悪いのでは?あなた方には死に体に見える国の者でも、全員が闘志を無くしたわけではないぞ?格下の者だからと侮られたくはないな!」
プロトスは瞳と語尾に、確かな力を込めて意思表示した。
そして相手の出方を待つ。
どんな反応が返って来るだろう?
ザコが粋がっているという、嘲笑だろうか?
それとも、更なる脅しのカードを切ってくるか?
あるいは、脅迫が効かないと悟り、この場で殺し、別の人物を脅すだろうか?
だが、帝国の人間から返ってきたのは微笑だった。
嘲笑の類ではない。その瞳に相手に対する敬意を宿した、誠実な表情だ。
まるで、プロトスの発言を心から喜ぶような態度に、プロトスは訝しげな表情を浮かべる。
「さすがはプロトス様。貴方ならばそう言ってくださると思っていました。素晴らしい気概です。私の目に狂いは無かった」
「貴様何を言っている?貴様の・・いや、帝国の目的は何だ!娘をどうするつもりだ!?」
「帝国の目的はもちろん、センテージを併合することです。このベルヘラの旨みを失くすことなく、です。ですが私の目的は違います。私の目的は・・・その帝国と戦うために、貴方とレイン様の協力を得ることです」
「何だと!?まさか、貴様・・・」
「私が今、自身の素性を明かしたのは、帝国の命令で貴方を脅迫するためではありません。もとより、そんな命令は受けていません。もちろん、レイン様も人質になど取っていません。私が素性を明かしたのは、帝国に対して反乱を起こすつもりだからです。プロトス様、私の話を聞いていただけないですか?」
「・・・・・」
プロトスは警戒を解くことなく注視して、オーマの真意を探ろうとしている。
オーマはプロトスの態度を勝手に肯定と受け止め、クラースの呼び出しから始まったこれまでの経緯をすべて話した_____。
「魔王の誕生か・・・まさかそんな事態が起きていようとは・・・フン。そんな事態を前に、人間同士で勇者を巡って争うとは何とも・・いや、仕方が無いのか?・・・勇者か」
「はい。そして私は、その勇者を帝国の傀儡とするための生贄として殺されることになるでしょう。そうなればレイン様も・・・」
「フン。勇者なら傀儡にされ、勇者で無かったとしても、最高の軍事力を持つ帝国に最強の個が加わってしまえば、こちらはされるがままだな」
「はい。かといって、今ここで拒絶しても勝算は無いでしょう。ですので、我々の生き残る道は、互いに手を取り、勇者と共に帝国から独立する以外に道はありません」
プロトスはオーマから目をそらさず考える。
(勇者、魔王、そしてコイツの反旗、とてもじゃないが信用できない。だが、どれも今の私では裏の取れない話しだ。否定も肯定もできない・・・ただ、コイツがウソを言っているようにも感じられない・・・ならば___)
「とてもじゃないが信用できないな。話しが荒唐無稽すぎる」
プロトスは自分の疑問をそのまま口にする。オーマに喋らせるために。
結局、否定も肯定も、受容も拒絶もできない。今のプロトスにできる選択は聴取と揺さ振りだ。
オーマの話を聞きながら、できるだけボロが出るように、揺さ振りながら話しをさせる。
プロトスは、現状、これしか打つ手が無いことに内心で舌打ちする。
「ありがとうございます」
「は?」
「否定はしないのでしょう?今はそれだけで十分です」
「・・・・・」
「私の話を否定しないのは、魔王はともかく、私の話した帝国の行動には納得のいく部分があったということでしょう。私の話に一定の評価をしてくださったのは素直に嬉しいですし、同時にそれだけ帝国の事を警戒なさっているということ。それも頼もしい限りです」
「機嫌を取るのが上手いな。だが、それと話が上手いだけで、一方的に話を信じろというのは無理があるぞ」
相手の世辞には付き合わず、プロトスはオーマを詰める。
だが、オーマは微塵も動揺しない。ただ用意したカードを切るだけだ。
「承知しております。私もそんな虫の良い事を言うつもりはありません。提案があります」
「提案?」
「私は今現在、レイン様の魔法の講師をしております。現状、レイン様の魔法技術は向上しておりませんが、これを飛躍的に向上させる方法があります」
「・・・それは?」
「それは、私が帝国で受けた軍事魔法教育をレイン様に施すことです」
「何!?・・・それは」
「はい。私がセンテージに帝国の魔法技術を横流しするということです。これの意味は、もちろんお分かりいただけますね?」
「・・・・バレたら、まず間違いなく死刑だ」
「そうです。これなら私が本気で帝国に対して反旗を翻すつもりでいると信じてもらえますね?」
「いや、どうかな」
「・・・・・」
「帝国はセンテージを併合するのだろう?だったら、後に帝国が我々を軍に組み込んで、我々に教える技術かも知れん。少なくとも勇者候補のレインは、その力を引き出す教育を受けることになるだろう。ならば今教えても構わないと、貴様が上から言われている可能性だって有る。そうやってお前の話を信じさせて、後に反乱を起こすため、今は堪えて併合を受け入れろと説得するのが狙いでは?反旗を持っていようと、併合できてしまえば後はどうとでもなろう」
オーマは誠意を持って交渉カードを切ったが、プロトスには通じなかった。
プロトスも国を背負う者、国の命運がかかっているならば、そう簡単には信じない。
疑う部分が有るのなら尚更だ。
プロトスは オーマを信じる信じないは一旦置いて、オーマの理論の隙を突く。
信じる信じないは、隙を突かれたオーマのリアクションを見てからでも遅くない。
だが、オーマも引き下がらない。自分達の命運がかかっているのだ、引き下がれるワケがない。
「いえ、今回に限りそれは有りません」
「何?」
「レイン様という勇者候補がいるからです。勇者は世界を脅かす魔王に匹敵する存在。故に、帝国が勇者を味方に引き入れる際は、絶対に反旗を持たない、持てない状態で引き入れねばなりません。だから籠絡作戦を実行しているのです。帝国はレイン様が真の勇者で且つ、プロトス様が反旗を持った状態で帝国に加わった場合も考えています」
「・・・・」
「もし、プロトス様とレイン様が反旗を持った状態で、レイン様が帝国の魔法教育を受けて真の勇者として覚醒した場合、帝国は勇者レインと対立する可能性が有るわけです。だから、併合後に魔法技術を提供するからといって、併合前、正確にはプロトス様とレイン様が併合に納得する前に提供することはあり得ません」
「む・・・・」
「ですから、この提案は間違いなく帝国の意思ではなく私個人の提案であり、そうする理由が帝国に対して反旗を持つが故だと信じていただきたい!」
「・・・・・」
二人に、しばしの沈黙が流れる____。
その後、先に口を開いたのはプロトスだった。
「仮に・・・」
「?」
「仮に信じて、それでどうしろと?私達へ魔法技術を流出して、それで私が信じたとてどうなる?仮にお前を信じたとしても、帝国を拒絶するとは限らんぞ?」
「いいえ、拒絶します」
「ほう?何故?」
「私の話を信じたプロトス様なら必ず、ご自身で帝国の本性を看破するでしょう。そしたら貴方は間違いなく、帝国を拒絶します。どんな事があっても」
「自信満々だな。だが仮にそうだとしても、私はセンテージに仕える一領主。王の意向を無視して、自分勝手をするとは限らんぞ」
「いえ、限ります」
「なんだと?」
「貴方にとって一番大切なのは王でも国でもない、家族ですから」
「・・・・・」
「帝国は勇者を傀儡とするために俺の死、つまり愛する人の死を利用します。プロトス様、もし帝国が妻のシェリー様の死を利用して貴方を縛ろうとしたら____どうですか?」
「・・・私にとって最大の屈辱だな」
「帝国はやりますよ。会った時、注意深く見れば分かります」
「・・・・・」
「ですが、それが分かったとしても、現状では帝国に抗う術が無いでしょう」
「だから、お前と手を組めと?」
「はい。今の帝国の力に対抗するには、勇者やその候補となる者達を束ねるほかありません」
「・・・・・」
__________。
この後、プロトスは半信半疑ながらも、レインに帝国の魔法教育を施す事を受け入れ、面会は終わった。
結局、プロトスは答えを出せないままだった。
だが、オーマは手応えを感じていた。
(やはり正面から行って正解だったな)
この街の雰囲気、民からの評判、軍の規律と士気、第一貴族の評価、そして初対面の印象からの判断だったが、間違いなかったと確信できた。
オーマの足取りは軽い。
気分が良いのは、交渉の手応えがあったという理由だけじゃない。
「いつ以来だ?こんな交渉したの?ひょっとして初めて?・・・フフッ」
真正面から誠実に訴え、それを真正面から受けてもらえる交渉_____。
そんな交渉はした覚えがない。
少なくとも、帝国の貴族、敵対国の人間相手にしたことは無かっただろう。
そもそも人に誠実になったのが、仲間以外では久しぶりだった。
「フフッ♪」
プロトスと正面から向き合った交渉は、不謹慎ながらオーマを高揚させていた。
楽しかったのだ。オーマにとって、プロトスとの会話は。
オーマは少しだけ、昔の騎士道精神を持っていた頃に戻った気分でアジトに帰って行った____。