魔王大戦(38)「レイン、センテ・ジニル潜入」
ヴァンパイア・オリンズの能力について触れておくと、ヴァンパイア・オリンズは信仰魔法RANK2の氷属性とRANK1の水属性と土属性を三つともSTAGE5まで扱え、高位の魔導士と同等の魔力と魔法技術を持っている。
これに加えて、ヴァンパイア特有の能力を持っているのが大きな特徴だ。
まずヴァンパイア・オリンズは、魔族でなくとも、蝙蝠や梟、鼠といった小動物くらいなら自分の意のままに使役することが出来、それらを使って、建物の内部を探る、誰かの内緒話を盗み聞きする、敵配置を把握するといった諜報・索敵を行うことが出来る。
さらに、ヴァンパイアという種族は、自身の眷属の召喚に長けていて、一体でも集団戦が可能だ。
ヴァンパイアは自身の下位の眷属を召喚し、その召喚されたヴァンパイアもさらに下位の眷属を召喚する。
そういった形で、ヴァンパイアという種はネズミ算式に数を増やせるため、一体でも十数人、高位のヴァンパイアならば、一体でも百にもなる頭数を揃えることが出来る。
自分より下位の眷属という条件が付くが、頭数を揃えるだけなら魔族の中でもトップクラスの召喚能力を持っている。
ヴァンパイア・オリンズの場合で言うと、ヴァンパイア・オリンズはカスケット・ガール(棺の女)と呼ばれる上級魔族に位置するヴァンパイアを複数体召喚できる。
そしてカスケット・ガールは、その下位の眷属、中級魔族に分類されるヴァンパイア・エルダーを複数体召喚でき、そのヴァンパイア・エルダーもさらに下位の低級魔族であるロウ・ヴァンパイアを召喚できる。
前魔王大戦で幹部を務めた准魔王ディディアルほどではないが、ヴァンパイア・オリンズも一体で100~200体規模の部隊を編成することが可能だ。
加えて、同じ眷属同士かつ主従関係もはっきりしているので、魔族の中ではチームワークが取れるのも特徴だ。
帝国軍の部隊程の練度はさすがに無いが、帝国軍相手でも囮役くらいはしっかりこなせるだろう。
また、ヴァンパイアは人間の血を好んで吸う種族だが、逆に人間に自身の血を与えると、自分より魔力の弱い者ならば幻惑にかけて操ることも出来る。
最上級魔族のヴァンパイア・オリンズならば、相応の数と質の人間を手懐けることが出来るだろう。
それでもヴァンパイア・オリンズ自身には帝国の騎士団という群を殲滅する火力も、第一貴族という個の強者を圧倒する火力も無い。
だが、それでもそれらの能力を駆使して潜入、索敵、諜報、かく乱といった仕事ができる魔族で、レインのサポート役として打って付けと言えるだろう。
「オリンズさん、兄様の話だとオリンズさんがエスコートしてくださると聞いております」
「はい。魔王様の命により、レイン様をセンテージ王とプロトス卿の下へと案内するよう承っております。ご安心ください。すでに小動物たちを使って城の内部を把握し、お二人方の居場所も掴んでおります」
「さすが兄様に選ばれた魔族さんですね。首尾が良くて助かります。ですが、私が案内してほしい場所は陛下やお父様の居る場所ではありません」
「?」
「敵の・・・マサノリのいる所へ、案内を頼みます」
レインは丁寧に頭を下げて、そうお願いした_____
「ッ・・・・・・」
_____が、そんな低姿勢でありながら、その気配は怒りと殺気に満ちており、それは味方で魔族の中でも最上級魔族にあたるヴァンパイア・オリンズでさえも背筋が凍るものだった。
「・・・最初から思っていましたが、今日街に来て確信しました。陛下とお父様を救出しただけではセンテージを救うことにはなりません。マサノリを殺さなければならないと感じました。そうでないと、どうにもなりません。陛下とお父様のお二人もセンテージ自体が救われることを望んでいるはずです。元凶を断たなければなりません」
「・・・なるほど、分かりました。では、敵大将の居場所へとご案内いたします」
「危険を背負わせて申し訳ないですね」
「いえ、お気遣いには及びません。大して変わりませんから」
「?・・・どういうことですか?」
「三人とも地下におりまして・・・センテージ王とプロトス卿がいらっしゃる所に行くには、敵大将のマサノリがいる場所を通らなければなりません」
センテ・ジニルの城センテルシアの地下は、一階から地下に下りて行くと、正方形の石造りの広間に出る。
そこから罪人なんかを収容する独房エリア、食糧や武器などを保管する倉庫エリア、城の従者や使用人の寝室エリアへと別れている構造になっている。
ヴァンパイア・オリンズの話によると、センテージ王とプロトスの二人は、大広間の正面を降りた独房エリアの地下四階にある特別房に居るらしい。
だが、マサノリはそこへ向かう手前の地下一階の大広間に待機しているらしく、接敵は免れないという。
「では、どちらにせよマサノリを突破する必要があるのですね?」
「はい。レイン様からの申し出がなければ、こちらから事情を話して相談させていただくつもりでした」
「そうでしたか・・・。でも、帝国の要人であるマサノリがセンテージに来て客室でもなく、そんな場所にいるなんて・・・」
「はい。十中八九、待ち伏せでしょう」
「やっぱりそうですよね」
マサノリはセンテージ王を人質にして、センテージ軍を無理矢理に魔王大戦に参加させた。
恐らく、その時点で魔王軍から救出部隊が来ることは想定出来ていた可能性が高い。
(ということは、私が来ることも読んでいるかもしれませんね・・・)
レインの中で、敵ながらにマサノリの評価は高い。
外交戦で父プロトスを手玉に取ったマサノリの洞察力や推理力の手腕を考えると、レインが来ることまで想定していても不思議ではない気がしている。
(なら、地下の広間を待ち伏せ場所にしているのも、そのため・・・?)
レインの魔導士としての最大の長所は、なんと言ってもその“機動力”だ。
戦場が広い空間であればあるほど、雷の速度を活かして動き回り相手に的を絞らせずかく乱できる。
そして、相手との距離を詰めたり、相手との距離を取ったりする場合において、距離を詰める速度も距離を取れる広さも常人の比では無いため、閃光の力は広い空間であればあるほど活きる。
閃光の力を使えば、相手の間合いというより、その戦闘区域自体から一瞬で出ることも入ることも出来るため、極端な話、戦場そのものから出たり入ったりのヒット・アンド・アウェイが可能だ。
フレイスに落とされたときのように、一撃で倒されなければ、広い戦場でレインが負けることはそうそう無い。
また、別の戦闘区域にも、今回のように容易に移動できる。
レインは単独でならば、このファーディー大陸を一周するのに5日も掛からない。
だからこそレインと同じ能力を持った先代の勇者(閃光の勇者)は、巨大怪鳥となって空から大陸を壊そうとした魔王を倒せたのだ。
たったの一人で軍を殲滅できる存在が、数日も掛けずにあちこちの戦闘地域に移動出来たら、大局的にどれほどのアドバンテージとなるか想像できるだろうか?
だが、戦場が狭い地下なんかの限定された空間になると話は変わってくる。
センテルシアの地下の大広間は約20平方メートル。
人間数人が戦うには十分な広さだが、レインの機動力が活かせるほどの広さではない。
地上ならば、例え何階であっても無理矢理に壁をぶち破って広い空間を確保できるが、地下ではそうもいかない。
地下での狭い空間で戦うことは、そのまま閃光の勇者対策になるのだ。
(あいつのことですから、誰が来ても対応できるようにはしているでしょうけど、それでも私を本命と見ている気がします)
レインには、この状況は偶然ではなく、マサノリが自分と戦うために意図的に選択したものに感じられてならなかった______。




