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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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閃光の勇者ろうらく作戦:魔法授業

 レインの魔法授業初日_____。


 オーマ、クシナ、ジェネリーの三人は、レインとの待ち合わせで街の外に来ていた。

レインの授業は人目に付かない街の外で待ち合わせ、ベルヘラ陸軍の軍事演習が行われる草原で授業をして、街の外で解散する流れだ。

 あからさまに互いの関係を表に出したくないやり方だが、オーマは気にしない。

貴族社会では、どこもこうだろうと思っている。

むしろ、帝国の方がそういった事にはあからさまだ。そもそも平民からモノを教わる、というのが無い。権力者が知識を独占する社会なのだから。

後、何よりレインの人柄に触れて、そういう平民を見下す意識は無いと思ったというのもある。

授業の流れの打ち合わせをしている時も、言い回し、話しの持って行き方はごく自然なものだった。


(そういう意識が無いのに、こういう配慮をするのは教育のおかげだな。プロトスの教えが行き届いているのだろう・・・)


 今回のろうらく作戦は、反乱計画の事を考えると、プロトスも仲間に引き入れなければならない。

だが、この街の様子と、レインの言動から、プロトスはかなりの傑物だろうと想像でき、懐柔は困難になると思った。


(まあ、そうでなきゃ、センテージの重要都市であるベルヘラをセンテージ王から預かりはしないか・・・どうしたものかな・・・)


できるだけ早い内に(特にマサノリが到着する前に)一回は会いたいところだが、レインに直ぐにその話を持ち出して怪しまれたくはない。

 何よりまだプロトスの情報が少ない。

フランを中心に情報収集は任せてはいるが、プロトスにつけ込めそうなボロは出ない気がしていた。


(やはり、直接会ってみないとか・・・)


頭の中でプロトスと繋がる方法、そして実際に会えた場合、どう話を持って行くかを考えていると、人が近づいてくる気配があった。


「___団長」


近くに来たのはクシナで、その声で我に返る。

 そして、クシナの視線の先を追うと、フードを被った人物がこちらに小走りで近づいて来ていた。

その人物は三人の前まで来るとフードを取り、金の明るい髪と、明るい笑顔で三人を照らした。


「お待たせしました、オルスさん!本日より、よろしくお願いします!」


元気一杯のレインの挨拶を受け、オーマも柔らかな笑みを浮かべて、姿勢を正して挨拶する。


「おはよう、レイン。こちらこそ精一杯講師を務めるよ。よろしく」


さらに一礼してから、クシナとジェネリーを前に出るよう促す。


「レイン、紹介するよ、授業のアシスタントを務める、セリナとミスティだ」

「初めまして、レイン様。セリナと申します。授業で気になったことは、何でも仰ってください。よろしくお願いします」

「本日アシスタントを務めさせていただきます、ミスティです。以後お見知りおきを」


クシナは最低限のマナーを押さえた上で、少しオーマのノリに合せた明るい口調で自己紹介した。

それに対し、ジェネリーはやや固い口調での挨拶だった。


「セリナさん、ミスティさん、よろしくお願いします!ただお二人ともそんなに堅くならないで下さい。私のことは“レイン”でいいです、ね?」

「え、ええ?」

「で、ですが・・・」


少し困惑気味の表情で、二人はオーマの方を見る。

目が合ったオーマは大きく頷いた。


「こう言ってるんだ。ここは素直に公の場以外ではレインと呼ぼう」

「は、はい」

「分かりました。では改めて、よろしくお願いしますね、レイン」

「はい♪よろしくお願いします」


レインはやはりくだけた雰囲気の方が好きなのだろう、ニッコリと笑い返した。


「挨拶も済んだし、早速行こう。レイン、案内してくれるかい?」

「はい!では、ついて来てください」

「はい」

「よろしくお願いします・・・」


明るく元気なレイン、レインのノリに困惑気味なクシナとジェネリー、プロトスとレインの攻略で頭がいっぱいなオーマと、多少ぎくしゃくしながらも一同は演習場へと向かった____。






 「アハハハハ!オルスさんってば、おもしろ~い」

「お、面白いか?」

「はい♪普通そんな事まで考えませんよ~。真面目なんですねー」

「そりゃー、一応皆の命を預かっているわけだし・・・」

「そこまで、部下に気を遣うなんて傭兵というより、軍人ですね。いや、軍人でもそこまではしないかな~?」

「ヴッ!?・・そ、そこまで、堅物かな~」

「う~ん・・・少しぃ?・・でも、私はその方が好きですね」

「バッ!?・・あ、ああ、ありがとう・・・」

「クスッ」


 晴天の空の下、打ち解けてきた一行は歩きながら明るい会話を楽しんでいる・・・・主に、オーマとレインで。

ムードは演習を行う戦士というより、友達でピクニックに出かけているノリだ。

 明るくおしゃべりなレインに、最初こそ少し戸惑っていたが、今はレインに主導権を預け会話を楽しめている。

元々お喋りな方ではなく、普段お喋りなヴァリネスと良く行動するオーマにとって、レインとの会話は慣れてしまえば楽しいものだった。

 そして、その二人の会話を、クシナとジェネリーは後ろから眺めている。

ただ、その態度は対照的だった。


「思っていたより、にぎやかな子ですね」

「いいのですか?あれで?」


オーマとレインのやり取りを好ましく見ていたクシナに対して、ジェネリーにはややトゲがある。


「いけないのですか?団長も上手くコミュニケーション取れていると思いますが?」

「それは・・はい。ただ、その・・・ちょっと、会ったばかりで馴れ馴れしくないですか?」

「そうですか?」

「会ってまだ二回目ですよね?何か距離が縮まるの早くないですか?」

「まあ・・・でも、それはいい傾向でしょう?」

「それはそうですけど・・・なんかオー・・・団長、私の時より楽しそうですよね・・・・」

「あー・・・」


 小さく呟いたその言葉で、クシナも完全に理解する。

ジェネリーは頭では任務と理解していても、オーマが他の女と仲良くするのが面白くないのだ。

嫉妬は止められるものではない。

クシナには痛いほど分かることだった。


(困ったなぁ、人選ミスだったかも・・・。トラブルにならなきゃいいけど・・・)


 演習場までの道中、オーマとレインの会話の盛り上がりに比例して、不機嫌になっていくジェネリーを見て、クシナの不安も同じく増していくのだった___。






 徒歩で30分ほど歩いて、一行は演習場に到着する。

演習場といっても、広い草原に川が流れているだけの場所だった。

ただ、そこかしこに人が踏み荒らした後や、魔法の痕跡があり、遠くにはキャンプを行った跡などもある。


「到着です!私達はいつもここで演習しています」

「なるほど。ではどうする?早速始めるか?それとも少し休むか?」

「そうですね・・・もう少しオルスさんとお喋りを楽しんでも好いかもです♪」

「レインは訓練をしに来たのですよね?ふざけないで下さい」


 いよいよジェネリーがレインの不真面目な態度(オーマと楽しそうにしているだけ)に不快感(嫉妬)を顕わにして、レインにぶつけ始めた。

ジェネリーの物言いに、オーマとクシナは慌てるが、当のレインは気にもしていなかった。


「分かってますってぇ。その為にオルスさんを雇ったのですから、訓練が始まればちゃんとやりますよ」

「なら、気持ちを切り替えてください。真面目にやらないと怪我しますよ?」

「ちょ!?ジェ・・いや、ミスティ!?」

「だから、分かってますって。ミスティは堅いですねー」

「なっ!?ひ、人にものを教わる態度ではないと申し上げているのです!」

「ちょ、ちょっと!」

「言いすぎだぞ、ミスティ。訓練が始まってもいないのに、訓練の態度を叱咤するな」

「む・・・す、すいません・・・・」


 オーマに怒られ、さすがに悪いと思ったのかジェネリーはレインに頭を下げる。

それに続いてクシナも頭を下げた。


「し、失礼しました、レイン。ミスティは少し真面目過ぎるところがありまして・・・」

「あ、いえ、大丈夫です。気にしないでください。私も少し浮かれていたなって思うので」


ジェネリーと一緒に謝るクシナに、思わずレインは両手を振る。


「まあ、レインはずっと魔法技術を向上させる機会を探していたわけだからな。それが見つかれば多少浮かれてしまうのも無理はない」


レインが大人な態度でジェネリーを許したのだと思ったオーマは、お礼代わりにレインをフォローする。

 レインはそのフォローに対して、少し含みのある笑顔で本音を吐露した。


「それもありますが、それだけじゃないのです。・・・私、周りに気軽に話せる人が居ないので・・・」

「そうなのか?勝手だが、プロトス様はそういった事にはある程度寛大な印象があった」


 これは世辞ではなくオーマの本心だ。

そういう交友関係にも厳しい人物なら、得体の知れない傭兵を雇うことを許さないだろう。たとえ娘を信用していてもだ。


「あ、はい、そうです。もちろん人を見るようには言われていますが、交友関係はある程度自由で、この国の貴族の中では寛大な方です。お義父様は人を身分ではなく、人格で見るので・・・気軽に話せない原因は私にあります」

「レインに、ですか?とても社交的な印象を受けましたが?」

「ありがとう、セリナ。でも私、焦っていたので・・・」

「焦り?」

「私は・・・知っているかもしれませんが、養女です。だから、お義父様にも街の人達にも、領主の娘と認めてもらえる人間にならなきゃと焦っていたのです。そして、遊ぶのを後回しにして、武芸や学術に没頭していました。それに加えて、魔法技術が伸び悩むというのもあって、子供の頃から今日まで、友人を作る機会を逃してきました。実は数日前にも、お義父様にその事を言われてしまいました」

「それで我々に?」

「魔法技術の向上という悩みが解決できるというのもあって嬉しかったし、オルスさんとのお喋りも楽しかったので、つい羽目を外してしまいました」


 少し照れくさそうに笑うレインに、オーマとクシナは本心で暖かい笑みを浮かべた。


「いや、本当に気にしないでくれ。楽しいのはこちらも望むところだからな。なあ?」

「はい。訓練は訓練。メリハリがつけばいいと思います。ね?ミスティ?」

「う・・・はい、すいませんレイン。楽しくやりたい気持ちは私にもあります」

「本当ですか!?ありがとうございます!じゃあ、仲直りですね♪」

「・・・はい!」


ジェネリーから気持ちのいい返事が返ってきて、二人は笑顔で仲直りした。

不穏な空気になった場から何とか盛り返し、オーマはホッとする。


「よし。じゃー、仲直りもしたし、そろそろ始めようか?」

「そうですね。レインも良いですか?」

「えーと・・・じゃー、あの、最後に一ついいですか?」

「何ですか?」


三人の視線がレインに集まる。


「オルスさんって、恋人いるんですか?」


「「ブーーーー!!」」


____三人は盛大に吹き出した。


「な、な、な、何を・・・」

「いきなり何を聞いているんですか!?あなたはッ!!」

「い、いえ、別に・・・ちょっと気になっただけなんですが・・・」

「貴様!やっぱり、ふざけているだろ!!」

「べ、別にふざけてないですよ~、そんなに慌てます?あ・・ひょっとしてお二人ともオルスさんのこと・・・」

「わー!わー!わー!」

「き、きき、貴様には関係ないだろ!?」


レインの指摘に、クシナとジェネリーは顔から炎魔法が発動しそうになっている。


「う~ん・・・まあ、関係無いと言えば、関係無いのですが・・・でも関係しても好いかなって♪」


「「はあ!?」」


「な・・・なんだと?」

「いや~私って、子供の頃から年上の軍人の方とばかり親しくしてきたせいか、同世代の男子は緊張しちゃって・・・だから、わりとオルスさん好いなぁって」

「あ・・・あうあう・・・」

「ふっっざけるなぁぁあああーーーーーー!!!」


作戦の事を考えると良い傾向なのだが、いきなり過ぎてクシナはテンパる。

ジェネリーに至っては、完全に役目を忘れてブチ切れている。


(ハ、ハハ・・・この子はこの子で、空気が読めないんだな・・・)


レインの性格の一端が見えて、ありがたいやら、大変やらで、オーマは疲れた笑いをこぼした。


 この後、何とか場は治まり訓練が始まったが、ジェネリーはずっとレインを睨んでいて、オーマは冷汗が止まらなかった。

クシナの方は終始苦笑いしか出来ないでいたため、助けを求められず、オーマは孤軍奮闘するしかなかった。

 唯一の救いは、当のレインがジェネリーの態度を気にしていない事なのだが___


(その性格は、それはそれで、この先苦労しそうなんだよな・・・)


 閃光の勇者ろうらく作戦、レインの魔法授業初日。

結果こそレインの好感度を得られて成功と言えるが、中身は波乱に満ちたものになった____。

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