魔王大戦(4)「ゴレスト」
場所が変わってラルス地方。ゴレストとオンデール______。
ゴレストとオンデールは人類の裏切り者として、人類連合からの攻撃を受けていた。
これに対してゴレストとオンデールは、お互いに物資と人材を共有し、連携して迎え撃つ。
戦場は二つ。ゴレストから東に出たイロード共和国との国境付近と、その北に位置したオンデンラルの森。
この二か所で、二面作戦を展開していた______。
ゴレスト神国側の戦場では、デティット率いるゴレスト神国聖騎士団をメインに、傭兵という形で参戦したアデリナ率いるラヴィーネ・リッターオルデンを軸にして編成された魔王陸軍が人類連合と戦闘中だった。
ゴレスト・オンデール側と人類連合側との兵数差は圧倒的な差があった。
ゴレストが約5000で、オンデールが約3000。人類連合がゴレスト側に約23000でオンデール側に約17000兵を差し向けている。
ゴレスト側にはこれに魔王軍も加わるわけだが、魔王軍側も海を越えて、敵国のイロード共和国の国境も密約で超えて派遣するのでは、そう多くの兵を連れてくることは出来ず、このゴレスト戦域に加わった魔王軍の数は約2000程度だ。総数は約10000となるが、人類連合とは4倍もの大差がついてしまう結果だった。
「「うぉおおおおおお!!」」
______ズドドドドドドドドド!!
「ひぃ!?」
「な、なんだよ!?あの強さは!?」
「あんな傭兵団がいるなんて聞いてないぞ!!」
だが、そんな大差がついている戦場では、ゴレスト軍の前衛を任されたアデリナとラヴィーネ・リッターオルデンの砂壁盾隊が猛威を振るっていた。
ゴレストの前衛を務める砂壁盾隊の数は約300人。対して人類連合の前衛は、約3000もの兵士がいる。
これだけの人数差がありながら、魔王陸軍はアデリナという指揮官と、ラヴィーネ・リッターオルデン砂壁盾隊という精鋭の力によって、易々とその人数差を覆していた。
「ふん・・・思っていた通り大した事ないねぇ」
この事実に、当のアデリナは驚いた様子も、苦労している様子も無かった。
それもそのはずで、相手の実態は人類連合とはいうものの、ドネレイム帝国の兵士はおらず、イロード共和国、ノーファン共和国、旧ポーラ王国、旧オーレイ皇国という西方諸国の軍で構成された、いわば西方連合だ。
装備こそ帝国軍から支給された物を使っているが、兵士はその魔法の魔力、練度、全てが帝国兵士より数段劣る者達だ。
経験値もそう高いものではない。
今、アデリナの目の前にいる実質西方連合の人類連合軍で、大きな戦を経験している者は、数年前のドネレイム帝国と、ポー王国が中心になって結成した西方連合の大戦で生き延びた者達だけで、数もそう多くはない。もちろん指揮官もだ。
対するアデリナとラヴィーネ・リッターオルデンは、帝国軍でも精強で知られる北方遠征軍のサンダーラッツを率いるオーマが、「真正面からでは勝つことは不可能」と断言するほど精強な部隊で、兵士一人一人の能力、経験、そして何より闘争心が西方連合とは段違いである。
「ヒャッハーーーー!!」
「オラオラオラァ!!かかって来いよ!!」
「「ひぃいいいいい!?」」
実際、戦闘大好きなラヴィーネ・リッターオルデン兵士達は数の不利など気にもしない。
どころか、その状況を楽しんですらいる。
こう言ってはなんだが、西方連合軍の兵士と、ラヴィーネ・リッターオルデン兵士とでは、大人と子供ほどの戦力差があるのだ。
「でも、魔王大戦がいつまで続くのか不明で、何日戦うことになるか分からないからね。相手に出来るだけ被害が出ないようにって、大将からのリクエストもあるし_____」
少数で大多数を相手に、いつまで戦うのか分からない戦場で、敵味方共に被害を最小限にする・・・・全くもって無茶な注文ではあるが、アデリナとラヴィーネ・リッターオルデンの兵士達は、そのオーマからの無茶なオーダーを全く気にしていない。
大将の意思に沿って戦うのが兵であり、戦士だ。
アデリナ達は戦闘狂だが、その事に矜持もあるし、一応オーマのことをフレイスの夫としても、自分達に勝った強者としても認めて尊敬している。
魔王になったことについても全く気にしておらず、何だったら戦闘訓練などで殺りがいのある相手(魔族)を呼び出して用意してくれる便利な存在とさえ思っている。
それに、アデリナ達は戦うのが大好きだが、弱い相手には興味がなく、無理に相手を殺したいわけでもない。
むしろ、そんな者達を相手にするなら、これくらいのハードルを用意してくれた方が楽しめるという者達だ。
「とはいえ、ペース配分ってのも考えなきゃいけないからね」
少し物足りなさを抱きつつも、アデリナは今後と状況を考え深追いは止めて、前衛を蹴散らした後は速やかに後退すべきだと判断する。
「あの子達が長期戦にならないように上手くやってくれるだろうしね」
この戦場____表立って魔族を参戦させてしまうと、ゴレストとオンデールが魔族側についたと誤解されてしまう(実際は誤解では無いが・・・)。
アデリナ達はそれを避けるため、連れて来た魔族達は別動隊にして戦わせることにしていた。
ゴレスト側には、夜行性の魔獣を中心に編成された夜襲部隊。
オンデール側には、森に適性のある魔獣や隠密能力の高い魔獣で編成された奇襲部隊。
そして、敵味方の被害を抑えるため、敵の後方の補給線を叩く、最上級魔族を指揮官にして上級魔族で構成された精鋭部隊だ。
この精鋭部隊が首尾よくことを運んでいれば、今頃は敵の補給線を見付け出し、攻撃を仕掛けている頃だろう。
「よし!!前衛を蹴散らしたら後退するよ!!今日はそれで終わるだろう!!手早く片付けて一杯やろうじゃないか!!」
「「うぉおおおおおおお!!」」
「ひ、ひぃいい!」
「うわぁあ!!」
「こいつらまだ勢いづくのかよ!!?」
アデリナの号令で、ラヴィーネ・リッターオルデン兵士達が奮起する。
最初は数の差で余裕だと考えていた人類連合の兵士達も、数をごっそりと削られて、そこから更に勢い付いてい来るアデリナ達にいよいよ恐怖し、それが伝染し始めた。
その敵兵の表情を見て、アデリナは勝利を確信する。
「夜になったら魔族で夜襲も出来るし、こりゃ意外と余裕かな?おーい!ナナリー!」
「はい?」
「サレン達の方はどうだい?ちょっと連絡取ってみて」
「了解です。______もしもし?はい。こちら、ゴレスト側の迎撃部隊です。敵の前衛の迎撃に成功。本日の戦闘はもう直ぐ終了します。敵味方ともに被害は軽微。夜になったら負傷して動けない兵を魔獣で回収。さらに作戦通り、魔獣達に夜襲もしてもらう予定。すべて順調です。そちらは?援護は必要ですか?______はい。______はい。_______はい。了解しました」
「どうだった?」
「はい。向こうもすべて順調だそうです」
「まあ、予想通りだね。オンデンラルの森でダークエルフを相手にするわけだし、神出鬼没な魔獣達が遊撃でかく乱もしてくれて、切り札でサレンもいるわけだし、こっちよりも盤石のはずだ。だが、予期せぬ事態になっていないと分かってよかったよ。ありがとう」
「いえ、通信兵ですからお安い御用ですよ」
「アデリナ副指令!!敵前衛の撃破に成功!敵は撤退して行きます!」
「お?上出来だね。じゃあ、言った通り深追いはしないよ?敵がいなくなったのを確認して私たちも後退する!」
「了解!各部隊に指示を出します!!」
「頼んだよ」
「他の戦場でもこれくらい楽だと良いのですが・・・」
「厳しいだろうね。エルス海やワンウォールはフレイス様やミクネ、ジェネリーが居るといっても敵の主力が相手だろうし、大将の帝都と潜入はあの勇者とクラースがいるはずだし、一筋縄じゃ行かないはずだよ。ただ・・・」
「ただ?」
「一番読めないという意味で不安なのは、隠密の戦いになるシルクロードだね」
「シルクロードの補給部隊を叩く隠密精鋭部隊ですね・・・」
「____っと、悪い・・・あの部隊は、サンダーラッツの幹部隊が中心だったね。縁起でもないこと言っちまったよ」
「いえ、大丈夫です。信じておりますから」
「そうかい?まあ、あいつらも相当タフな連中だからね。普段は頼りないけどさ」
「フフフ♪そうですね_____」




