魔王大戦「エルス海」(3)
魔王大戦の戦端が開かれ、エルス海では、ワンウォール諸島に進攻しようという人類連合艦隊を、レイン率いる魔王海軍をメインにした部隊が迎撃にあたっている。
そして魔王軍から見て右翼になる艦隊には現在、リヴァイアサンの姿となったシーヴァイが迎撃にあたっていた______。
「ウォーターブレス」
_____ズドーーーーーーーー!!・・・・ボゴォオオオオ!!
その巨大な身体のみで、一隻の船を転覆させてしまったシーヴァイスは、更に口から自慢のウォーターブレスを発射して別の船を攻撃する。
上級魔族の上級魔法でもかすり傷で済ませていた、ココチア海軍の軍船も、最上級魔族のシーヴァイスの一撃を前にしては耐えられず、ウォーターブレスはいとも簡単に船体を貫通して、二隻の船を同時に撃破する。
「敵の攻撃が被弾!!船体に穴が空き、被害甚大!!持ちません!!」
「チィッ!!総員、魔法術式を展開しつつ、海へ避難しろぉ!!」
「「うぉおおおおお!!」」
人類連合艦隊の船長は、海獣の居る海に入るのは危険と知りつつも、そこしか非難する場所が無いため、兵士達に迎撃態勢をとるよう指示を出しつつ海に飛び込むよう指示するしかなかった。
だが、シーヴァイスを前に海に落ちては、そんな迎撃手段はないのと同じだった。
「ライトニング・ボルト」
________バリバリバリバリィイイイイイ!!
「「____________!?」」
シーヴァイスは仕上げとばかりに電撃魔法を海面に走らせて、海に投げ出された人類連合の兵士達を感電させて無力化してしまった。
「よし。回収しろ」
“いっちょあがり”というノリで仕事を終えたシーヴァイスは、動けなくなってしまった人類連合の兵士達が溺死する前に、連れて来た海の魔物達に救出させて捕獲すると、“もういっちょ!”と、ノリよく反動をつけて海を泳ぎだし、次の標的目掛けて突き進むのだった______。
エルス海の人類連合艦隊中央______。
敵艦隊中央の迎撃を務めるレイン達は、魔王御手製の船の性能を活かして、敵艦隊と戦っていた。
敵艦隊の陣形の中を砲撃をしながら行ったり来たりして陣形を崩し、敵を引き付ける。ロブレム号に、囮とかく乱の両方を担う仕事をさせるわけだ。
そうして敵艦隊の隙を作り、海中の上級魔族に海の中から船体を攻撃させ、船を沈めるという戦法だ。
ロブレム号で敵艦隊の中を入っては出て、入っては出てを繰り返す中、敵に一艦隊の陣をかき乱して離脱したところで、レインがひょうきんな声を上げる。
「うひゃーー!すごいですねー、シーヴァイスは」
「この距離からでも戦いぶりが分かるのですね・・・・」
シマズもそれに続き感嘆の声を漏らす・・・。
シーヴァイスはあの後、他の艦隊を迎撃するために、自慢の“大災害”を起こしていた。
他の大型海獣と共にその巨体をうねらせて荒波を起こし
水属性上級魔法で豪雨を降らし
風属性上級魔法で暴風を起こし
雷属性上級魔法で雷鳴を轟かせる
荒波、豪雨、暴風、雷鳴を広範囲で引き起こす、シーヴァイスの二つ名である“大災害”で敵艦隊を迎撃していた。
さすがにシーヴァイスの姿は巨体とはいえ、数十キロメートル離れたレイン達には目視することは出来ないかったが、右翼に起こったシーヴァイスの大災害は、ロブレム号からでもその凄まじさを眺めることができ、その様子に・・・その破壊規模に、味方ながらに圧倒されていた。
「あの攻撃・・・?いや、あの災害の規模は、ミクネ様の射程範囲に匹敵しますよね?」
「ですねー。ヤバいですねー」
「サレン様はよくシーヴァイス殿に一対一で勝てましたね・・・」
「ですねー。ヤバいですねー。多分、戦う場所が海だったらサレンでも勝てなかったんじゃないですか?」
「なるほど・・・・」
シーヴァイスの力(とその巨体)は、その戦場が広ければ広いほど有利になる。
サレンと戦ったサヤマ湖は、湖としては広く、シーヴァイスがリヴァイアサンの姿で戦うことのできる場所ではあったが、その広さはエルス海とは程遠い。そもそも湖と海では比べようがない。
そう言った意味で、もしサレンが海でシーヴァイスと戦うことになっていたら、結果は逆だったかもしれない・・・。
「シーヴァイス殿は海戦では、まさに無双しますね」
「ですねー。ヤバいですねー。伝説になるのも納得です」
「あのー、レイン様?シーヴァイス様の戦いぶりに感心しているところ申し訳ないのですが・・・・」
二人が自分達の戦闘そっちのけで、感心するように会話していると、海中用の通信兵であるセイレーンが恐る恐る話に入って来た。
「どうしました?セイレーン?」
「敵に防衛線を突破されました」
「チィ・・・やはり迎撃を魔獣だけに任せては決定力不足でしたね」
「そのようですねー」
敵艦隊の船が並の船だったならば、上級魔獣も組み込んで編成した部隊で、十分に迎撃可能だっただろう。
ただレインの想定を上回るパワーアップをしたココチア海軍の船は防御力も推進力も段違いで、その部隊では勇者候補のフレイスや、かつて魔王軍幹部にまで上り詰めた最上級魔族のシーヴァイスが迎撃を務める両翼のように迎撃することは出来ず、敵に防衛線を突破される事態になってしまったというわけだ。
「仕方がないですね。後方の最上級魔族達に連絡して迎撃を_____」
「_____待って下さい」
防衛線を突破された以上、第二次防衛ラインの最上級魔族達の出番だと思って指示を出そうとしたシマズに、レインは待ったをかける。
「セイレーンさん。防衛ラインを突破した敵艦隊の位置は分かりますか?」
「え?・・・はい。北西9時の方向。距離は30キロほどですが・・・」
「どれどれ~?・・・おほー!さすが兄様の作った望遠鏡。よく見えますね~♪いましたよ♪」
海軍総司令を務める上で必要になるだろうと、オーマがレインのために作った魔導望遠鏡で、レインは防衛線を突破した敵艦隊を捕捉することが出来た。
そして______
「じゃー、行ってきます!」
「「はい?」」
______そう言って、視界から消える
______ズガァアアアアアアアン!!
「「!?」」
後から雷鳴が響く・・・そして数十秒後
「ただいまー♪」
_______ズガァアアアアアアアン!!
再び姿を現して、雷鳴を響かせた_____。
「レ、レイン様・・・まさか」
「はい!全員感電させて来ましたー♪」
「「・・・・・・」」
レインはそう答え、あっけらかんとしていた。
「・・・人が悪いですよ?レイン様」
「へ?」
「ロブレム号でかく乱と囮をして魔獣達で迎撃。そして、取りこぼしが出れば、ご自身が直接迎撃するつもりだったのですね?言っておいてくださいよ。驚いたじゃないですか」
「あれ?言っていませんでしたっけ?アハハハハ・・・すいません」
「ふぅ・・今後は気を付けてくださいよ?貴方は海軍総司令。この海域の戦場の指揮官なのですから」
「ははっ、以後気を付けます。ではセイレーン。魔獣達に命令して、船と敵兵を回収してください。兵士全員感電して動けなくなっていますので」
「畏まりました。_____♪」
レインから支持を受けたセイレーンが、海の魔獣達に指示を出す。
その間シマズは、防衛線を突破した敵艦隊をあっさり迎撃したレインを、冷汗を垂らしながら眺めながら、ベルヘラで閃光の勇者ろうらく作戦を終えて帰って来たオーマ達から聞かされたレインの話を思い出していた・・・。
(・・・そういえば、レイン様は一日でベルヘラからバークランドを往復できるのでしたっけ?)
それはある意味、シーヴァイスやミクネ以上の攻撃範囲を意味している。
(実はシーヴァイス殿以上に海での戦いに向いているのでは・・・?)
シマズのその考え方が示すように、これ以降、数日にわたってこの海域の戦闘で、一番敵艦隊の突破を許さなかったのは、レインがいるこの中央前線だったりするのだった______。




