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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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親子の団欒

 ベルヘラ領主の館____。

 いつものように晴天に恵まれ、眩しい明かりが差し込む部屋の中、小鳥のさえずりをBGMにプロトスとレインは一緒に朝食を摂った。

 レインが養子になったばかりの頃、二人はお互いに忙しいながらも、一緒にいる時間を作ろうとしていた。

お互いに血がつながっていない事を気にして、プロトスはレインの父親になるために、レインはプロトスの娘になるために、関係を少しでも良いものにしようとしていたためである。

 今では二人とも完全にお互いを家族だと思っているが、その習慣は無くなることはなく、お互いに忙しくても、こうして食事をする時間を作っている。

 プロトスとしては、レインも年頃なので友人と遊んだり恋人を作ったりして、そっちに時間を割いてくれても構わないのだが、自分からは言わない。

そう望む気持ちよりも、娘と過ごしたい気持ちが強いからだ。

我ながら親バカだなと思いつつ、朝食を終え、食後のお茶と娘との会話を楽しんでいる。


 ここ数日は、帝国の使節団の受け入れの準備で、一緒にいる時間が無かった。

だから話題は、海上警備や戦術などの話しが多く、今は海賊退治の話しになっている。

あまりに色気の無い話ばかりだったので、やはり、“少しは恋人や遊ぶ時間を作ったらどうだ?”と、アドバイスしようかなどと考えながら、プロトスはレインの会話を聞いていた。


「___そうか。では、そのオルスなる人物のおかげで、海賊を捕まえられたわけだな」

「はい。雷属性の魔法を非常に巧みに扱っておりました。・・・申し訳ありません。私がもっと上手く魔法を扱えていたら、私一人でも・・・いえ、それ以前に一人で戦う必要が無く、人質を取られることもありませんでした」

「うむ・・・。まあ、そのように落ち込むな、レイン。今後精進すれば良い・・・」

「はい」


 この海賊退治の件はレインからだけでなく、ダグラス船長からも報告書を提出してもらって知っていた。

 正直、この件に関するプロトスの心中複雑だ・・・叱咤したい気持ち、慰めたい気持ち、両方ある。

ただ、どちらにしろ、レインの魔法技術の向上なくして改善はされない。

そして、レインの魔法技術が伸び悩んでいるのは、レインだけの所為ではない。

 はっきり言って環境が悪い。

自国の魔法技術が、レインの素質を引き出せるだけのレベルにないことをプロトスは自覚している。

よって叱咤などできないし、かといって今のレインには慰めの言葉だけでは意味が無いことも分かっている。

プロトスにとっても落ち込んでしまうことだった。

 落ち込んだ気持ちを娘に悟られないよう、どう話題を変えようかとレインの表情を見ると、いつもこの話になると沈んだ表情を浮かべるレインが、明るい表情なのに気付いた。


「・・・何かあったのか?」


いつもと違うレインの様子に、思わずそのまま疑問を口にしてしまう。

 そのプロトスの言葉にレインは、“待ってました!”という得意げな表情で答えた。


「はい!実は、その“雷鳴の戦慄団”のオルス団長から魔法の指導をしていただけることになりました!」

「何?傭兵団の団長に?」


今度は少し訝しげな口調で疑問を口にしてしまう。そして、頭の中で父親から領主へのスイッチが入る。


 傭兵全部を否定する気はプロトスには無い。

だが、プロトスもレインも立場が立場なだけに、素性のはっきりしない者を近づけるのは危険だ。

世間から何を噂されて風評被害に遭うか分からないし、傭兵と名乗っているだけで、実は犯罪に手を染めている強盗集団の可能性だって有る。

傭兵と強盗の両方を稼業にしている武装集団は多い。特に敗戦国の兵士等が、食うに困ってよくやるのだ。

 そして何より厄介なのが、他国の間者である可能性だ。


 正直言って、プロトスにとって娘に近づいてほしい類の人間では無い。

 だが、娘の表情を見る限り、恐らく「やめておけ」と言っても無理だろう。

そういった人物を近づけるリスクは、当然レインには教え込んでいる。その上で、という事なのだろう。

ならば、頭ごなしに否定することは、プロトスにはできない。


「どんな人物なんだ?そのオルスというのは?聞いたことの無い名だな、その傭兵団、えーと・・・」

「雷鳴の戦慄団です」

「ダサッ!・・・あ、いや、ゴホッ・・・うん、聞いたことの無い傭兵団だ。雷属性の魔法を扱えるならば、こっちの耳に入っていてもおかしくない筈だが・・・」

「はい、北方のリジェース地方から来たらしく、例のドネレイム帝国とバークランド帝国との戦争にも参加していたとか。ただ、両国が強兵揃いで、あまり名を上げる機会が無かったそうです」

「ふむ・・・」


 “リジェース地方出身”という事に、プロトスの中で更に警戒心が高まる。

帝国がポーラ王国に宣戦布告をして直ぐに、国境の警備を徹底したが、帝国の間者が入り込んでいる可能性は十分ある。

帝国の間者の可能性を頭の片隅に置いて、話しの続きを聞く。


「西方連合の戦いの後、この辺りで戦火が広がると踏んで、このベルヘラにやって来たそうです」


____ウソとも本当とも取れる話だ。


「なるほど・・・それで?講師としてはどうなんだ?」

「我流で学んだので、人に教えた経験は無いと仰っていました」

「何?それで講師として認めたのか?」

「いえ、私が強引に頼み込んだのです。あちらはあまり乗り気ではなかったのですが」

「む・・・そうか」


 “こちらが頼んだ立場”というのが、多少探りを入れづらいなと感じるが、娘の置かれている状況を考えると、焦るのも仕方が無いと思えてしまう。

何より、領主として、多くの者と駆け引きをしてきたプロトスにとっては、本当に多少やりづらいといった程度なので、そこは許容範囲だ。


「報酬は?」

「はい、私が雷魔法をコントロールできるようになるまでなので、期間は未定ですが、一回につき金貨2枚です」

「何?大丈夫なのか?一般的な学問の一日の授業料としては妥当だが、魔法の講師だぞ?」

「私もそう申し上げて、授業料の上乗せも提案したのですが、自分も講師の経験が無いから多くは貰えないと・・・」

「傭兵にしてはやけに謙虚だな、怪しくないか?こちらに取り入ろうとしているのでは?」

「クスッ・・・それが領主の娘には少しでも取り入りたいと、面と向かって言われました」


レインはどこか嬉しそうに言った。

恐らく意外だったのだろうと、プロトスはレインの態度から、そう受け止める。


 レインは養女といっても、たった一人の領主の娘。小さい頃から政治に巻き込まれ、レインを懐柔しようとする者達が後を絶たなかった。

そのせいで一時期は人間不信になり、目に見えて他者に冷たくなったりもした。

そんな経験と自身の性格もあって、レインはおべっかを使ってくる相手を好きにはならない。

だからこそ、真正面から取り入りたいと正直に打算を打ち明けられて、意外に感じて面白かったのだろう。

 レインは若い。だから、口で上手いこと言えば懐柔できると思っていた連中が殆どで、“あえて下心を語る”という相手には出会わなかった。

プロトスにとっては、その手口は何度も目にしてきたものだが、レインにはその経験が無く、相手の手口に引っかかった可能性が有る。


(もし、そのオルスという人物がスパイなら、駆け引きはレインより上だな。なら、娘だけに相手をさせるのはマズイな。私の方でも把握しておく必要がある)


レインに調子を合せながらそんなことを考え、プロトスの中でオルス(オーマ)への対応が決まる。


「ハハハ、なるほど。面白い人物だ。機会があれば紹介してくれ。父親として、娘の講師に挨拶もしたいしな」

「あ、はい、そうですね。えっと・・・それは」

「できれば最初は非公式な形が良いな」

「分かりました。では時間が合う時に、ご紹介します」

「よろしく頼む。授業、頑張りなさい」

「はい!これを機会に、必ず自分の魔力をコントロールできるようなります!」


娘の気合の入った返事に、領主として嬉しく誇らしさがこみ上げてくるが、やはり色気の無い話ししかしない娘に、ちょっぴり不安も付き纏う。


「うむ・・・領主の娘として頼もしい限りだ・・・ただ、なんだ?その・・他の事に興味があるなら、無理をする必要はないぞ?」

「は?いえ・・無理はしていませんが?」

「むー・・・そうか」

「どうしたのですか?」

「い、いや、例えば恋人なんかが居るなら、その人と過ごす時間も大事だろう?」

「ブッ!こ、恋人ですか!?いませんよ!そんな人!」

「そ、そうなのか?」


きっぱり断言されて、ホッとするような・・・・悲しいような・・・。


「はい。変な心配は無用ですよ、お義父様」

「いや、むしろ恋人が居ない事の方が心配なのだが・・・」

「え?そうだったのですか?・・・それは領主としてですか?それとも父親としてですか?」

「父親としてだ。まあ、世の中恋愛がすべてとは思わないから、恋愛も結婚も強く言う気はないのだが・・・最近の話題があまりに・・その、なんだ?色気が無いというか、な」

「う、うーん・・・そうでしょうか?」

「今日だって朝から、海上警備や戦術、海賊退治の話だ。いや、レインにそれを頼んだのは私だがな?だがその、一日中というわけではないだろう?恋人ができたどころか、友人と買い物やお茶をした話しすら無いのでな・・・」

「ヴッ・・・・それは・・・確かに・・・マズいかも」


落ち込み始めたレインに、プロトスは慌てる。


「あ、ああ、いや、その、もちろん、レインがやりたい事をやれているなら、それで良いのだ。すまん。だから・・その・・・と、とにかく無理をしているわけではないなら、それでいいという話だ」

「はい、無理はしていません、本当に」

「そ、そうか・・・なら、いい」


プロトスは少し気まずくなった空気に、変なことを言ってしまったと思い後悔した。

 レインは、何とか色気のある話を父親に聞かせようとしたが、武術、魔法、軍事の話題しか思い浮かばず、少し落ち込んだ・・・。



 そして、その後の公務中も、父親に言われたことを気にして、恋愛や恋人について考えていた。


(恋人かぁ・・・・そもそも魔力がコントロールできないと、暴走したら大変なことになる。先ずはそこからじゃ・・・・いや、でも・・同じ属性の魔導士ならどうだろ?・・・暴走しても大丈夫な人・・・・・オルスさんって恋人いるのかな?)


オルスとの授業が、より楽しみになってきたレインだった____。

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