チート勇者ろうらく作戦会議(4)
オーマがワンウォール諸島にやってきて、魔王として魔王軍へ編成している間に、帝国も“魔王討伐”を掲げて大陸の各国家をまとめ上げて、魔王軍と戦う準備をしていた。
そのため、大規模な戦い(魔王大戦)が予想され、一同に緊張と不安が走るも、そこにゴレスト、オンデール、センテージの三カ国が加わっていないことが分かると、レインとサレンを中心に一同から安堵の声が漏れていた_____。
「そうか、センテージだけでなく、ゴレストとオンデールも魔王大戦には参加しないか・・・」
「一安心ですね」
「ああ、戦力的なところもそうだが、プロトス殿やデティット殿、アラド殿と戦わないで済む」
「それに安堵しているのは、むしろ我々の方だよ」
「そうですね。ハッキリ言って、魔王軍と戦ったら、例えそちらが手心を加えてくれても無事で済むとは思えませんから・・・」
「確かに。こちらに殺す意思がなくても、帝国の指揮下で動けばどんな扱いをされるか分からんからな」
「囮に使われて、殺さざるを得なくなるのが目に浮かぶ・・・」
「そういうときの帝国の用兵はえげつないからな」
「知っていますわよ」
「あたしたちが一体誰と戦っていたか知っているかい?イワ?」
「む、失言だった」
「では帝国軍・・・と呼べばいいのか?」
「そういえば、敵軍の名称が無いと会議がしづらいな・・・“人類連合”と呼んでおくか」
「団長。ダサイ」
「う・・」
「ネーミングなんて何でもいいだろ」
「まあ、ネーミングセンスはこの際、無視しましょう」
「賛成だ。話が進まんからな」
「じゃあ、その人類連合はベルヘラを使えないなら、ボンジア公国とココチア連邦の南東側から来るのか?」
「主力は帝国の支援で強化されたココチア海軍でしょうね」
「ココチア海軍が帝国軍の主力を乗せて、エルス海に敷いてある魔王海軍を突破、ワンウォール諸島の島々に帝国軍を上陸させて制圧して行く・・・ってところでしょうか?」
「それか勇者ルーリーを加えた魔王討伐隊を魔王の城がある島に上陸させるか、か?」
「いや、大将殿を直接狙うのなら、もっと秘密裏にやるんじゃないか?」
「派手に軍を動かして、その裏で魔王討伐隊を組織して____って、可能性も有るんじゃない?」
「いや、その可能性は低いぞ、アデリナ」
「何故です?アーグレイさん?」
「魔王である大将殿に直接勇者をぶつけるなら、魔王城に魔王殿が居ると判明してからでなければならないだろう?向こうの勝利条件は魔王の討伐。魔王の城だけを落としても意味が無いのだから」
「そうか。人間同士の国盗りとはワケが違いますもんね」
「それに大将殿はその能力で、一人で城を・・・いや、魔王の力なら国さえも建築できる。どこにでも拠点を作れる。そして、この事は向こうも知っているはずだ」
「確かに。団長は、魔王になったばかりの時にクラースやカスミ相手に自身の力量を量っていますから・・・」
「当然、向こうは魔王の能力を把握しているわね」
「じゃあ、人類連合の最初の一手は_____」
「団長の居場所の特定」
「なら、軍を展開しようとしている理由は?」
「魔王軍の戦力を削ることと、人類連合の結束を強めるため、立場上ワンウォール諸島の人々を助けなければならないからでは?」
「____いや、恐らく誘導だ」
「「誘導?」」
「あるいは脅迫かもな・・・本当は向こうも分かっているのさ。魔王軍が帝都に乗り込んでくるってな」
「そうなんですか?」
「クラースの奴は陛下に嘘を吐いて俺にフェンダー殺しの濡れ衣を着せた張本人だ。そして陛下が勇者ん位なったときの俺の態度で、俺が陛下と戦いたくないと思っている事も理解している。更にサンダーラッツ幹部の死体がなくなっている事で、俺が蘇生能力を持っている事にも気づいただろう。なら______」
「団長が、陛下の誤解を解くためにフェンダーを蘇らせるために帝都に来ると読んでいると?」
「ああ、そしてクラースなら、俺に勇者をぶつけるために、俺が直接乗り込んで来るしかないように誘導するだろう」
「誘導する?」
「そうだ。魔王との戦いでは、拠点を落としても決着が付かないのはクラースも知っているはずだ。だから必ず魔王である俺に、勇者である陛下をぶつけるはず。そしてウェイフィーはそのために、奴らは先ず俺の居場所を特定するだろうと言ったが俺はそうは思っていない。奴はそんなまどろっこしいことはしない。必ず俺を誘い出そうとするだろう。その方が確実だからな」
「この人類連合の動き全てが、その為のものだと?」
「ああ・・・」
「マジかよ・・・団長・・いや、魔王1人を誘い出すのにそこまでするかよ?」
「何言ってんだ、フラン。大将殿は魔王なのだから、そうする価値は十分に有るだろう?」
「サスゴットの言う通りだ。人類連合の作戦は魔王1人に絞られていても全然不思議じゃない」
「魔王様が倒れれば、我ら魔族は組織崩壊しますからね」
「でも、何で人類連合のこの動きが、団長が自らフェンダー様を蘇らせるために帝都に行く事に繋がるんですか?」
「それは・・・悔しいが、俺がクラースの奴に思考パターンを読まれているからだろうな」
「大将の思考パターンを読まれている?」
「何を言っていらっしゃるのですか?それが分かっているのでしたら、いつもとは違う考えで行動すればよろしいではありませんか?」
「コレル、それも出来る場合と出来ない場合があるだろう?」
「?」
「今回の作戦では、クラースに考えを読まれていると分かっていても、変えられない部分があるという事ですか?」
「その通りだよ、ロジ」
「何ですの?それ?」
「“手加減”だよ」
「「!?」」
「クラースの奴は、俺が第一貴族以外の帝国軍からは出来るだけ犠牲を出したくないと思っている事も理解しているだろう。だから帝国が軍を分散させて攻め込んだら、俺が敵からも味方からも被害が極力でないように采配・・・つまり、勇者候補だった者達を分散させて投入する事を分かっているんだ」
「なるほど。クラースは、魔王様が勇者候補の皆様をそちらに回さざるを得ない状況を作って、帝都への潜入チームに魔王様自らが加わるしかない状況を作ろうとしているのですね」
「その通りだ、ボロス。そして、そうと分かっていても魔王大戦の被害を最小限に抑えるためには、帝国軍や第一貴族相手にも殺さない様に手加減ができる勇者候補たちを使わないわけにはいかない」
「それって、ある意味クラースが自分の軍を人質に取っているようなものじゃないか?」
「だな。“関係無い、何も知らない平民の帝国軍人を死なせたくなければ、お前自ら帝都に来い”って言っている様なもんだぜ」
「嫌な奴だな、クラースという男は」
「アーグレイさんも陰湿だと思いますよね?」
「ああ、それもあるが、クラースには自分の判断に自信が有るのだろう。もし読み間違えて、大将殿が帝国軍からの被害はやむなしと思っていれば、軍を分散させた分だけ各個撃破される可能性が高まる。個の力は勇者候補だけじゃなく、魔族を使役している我らの方が強いからな。少数での戦闘はこちらが有利だ」
「それを堂々とやるわけだからね。大将に対して帝国軍人が人質として価値があると分かっているって事だね。大将、とんでもなくヤバい奴にずっと目を付けられていたんだね」
「ああ・・・」
そういった意味では、やはりオーマにとって“敵”であり最大の“障害”は、勇者ルーリーではなく、第一貴族でありクラースなのだろう。
“救国の英雄”の頃からの因縁もある・・・。
(必ず勝利で決着をつけてやるからな!そして貴様には今度こそ地獄を味合わせる!!)
クラース達との決戦を前に、オーマは改めて決意を固めるのだった______。
「じゃ、相手の動きも分かって、作戦の展開も読めたし、ここいらでまとめましょ!」
「ああ。攻めてくる帝国軍とココチア海軍を主力とした人類連合を、両軍ともに被害を最小限に抑えられるように勇者候補を中心とした迎撃部隊で迎え撃つ!そして、その間に俺を中心とした潜入部隊で帝都に潜入。フェンダーを生き返らせて陛下を説得し、第一貴族を断罪。その後は、人類と魔族との間に停戦協定を結んで、魔王大戦を集結させる!!」
「「おう!」」
オーマの号令で、一同の意思がまとまる。
そうして、一同は“魔王大戦”と“チート勇者ろうらく作戦”の準備へと入るのだった_____。




