大陸の平和のためにすべきこと
「陛下が勇者であったことに特別不都合はないさ」
デティットとアラドを魔王の城に招いて、事情諸々を説明した後、話は今後の展望についての方向に舵がきられた。
そこで、ドネレイム帝国の皇帝ルーリーが勇者であることは、デティットとアラドは不都合だと感じていた。
だが、オーマはそれをきっぱりと否定する。
魔王であり、一番不都合だと感じているであろうオーマにそう否定されると、二人は意外そうな表情を見せて疑問を吐露してきた。
「そうなのか?やりづらいんじゃないのか?オーマは皇帝には忠誠心を持っていただろう?」
「そうだな。そういう意味では、やりづらくはあるな・・・だが仕方が無いだろう?」
だが、オーマは否定しておいて、デティットの質問に素直にそう答える。
確かに“オーマの今後の展望”では、ルーリーが勇者であることは、少しやりづらさもある・・・。
「覚悟なさっているのは結構なことですが、勝算はあるのですか?帝都では勇者ルーリー・イル・ラッシュに手も足も出なかったのでしょう?」
素直にやりづらいと言うオーマに対して一定の評価をしつつ、アラドは確信を付いた質問をする。
アラド達は、勇者ルーリーと戦う上では、やりづらい以上に勝算が有るかの方が重要だと感じているのだ。
それはもちろん正しい認識なのだが_____
「・・・・どういう意味だ?」
_____オーマは理解できていなかった。
「「へっ?」」
_____オーマが理解できていないことが、二人には理解できなかった。
どうやらオーマと二人の間に認識のずれがあるようだ。
「アラドの言う“勝算”ってなんだ?その言い方だと、まるで俺が陛下と戦って勝てるのか?と聞かれているようだぞ?」
「はい?・・・はい。まさにそう聞いておりますが?オーマ殿は勇者と戦わないのですか?他の者に任せると?」
「だが話を聞く限り、真の勇者ルーリー相手では、オーマ以外では相手を努めるのは難しいんじゃないか?勇者候補だった者達に戦わせるにしても______」
「_____いや、待て待て待て。何故そうなる?」
「「はい?」」
ここでオーマはようやく認識のズレの正体に気が付いた。
「二人共、どうやら早とちりしているな。俺・・・というか、魔王軍は勇者とも帝国とも戦うつもりは無いぞ?」
「「え?」」
オーマの一言で、デティットとアラドも認識のズレに気が付き、オーマに“何で?”という表情を見せる。
「帝国の皇帝とは戦わないぞ。これは個人的な・・・事情も正直あるが、状況的に見ても、帝国を滅ぼすことも皇帝にして勇者である陛下を手にかけることも、するべきじゃないんだ」
そう、デティットとアラドの二人は、魔王軍は帝国軍と戦い、魔王であるオーマは勇者を倒して大陸を平和にするものとばかり思っていたが、オーマの考えはそうではなかった。
「どういうことです?」
「それは_____」
_____そこからオーマは、帝国とも勇者とも戦わない。戦ってはならない理由を二人に説明し始めた。
オーマのルーリーに対する気持ちとは別に、魔王軍には帝国も勇者も倒してはいけない理由がある。
オーマ達が人間との共存を果たし、大陸に平和をもたらそうというのなら、帝国を滅ぼしたり勇者を倒したりしてしまえば、その平和への道は完全になくなると言っても言い過ぎではないのだ。
何故なら、もし帝国と戦って帝国を倒してしまえば、それが大陸の国々に対する“見せしめ”になってしまうからだ。
帝国は現在人類国家最強の国、もし倒してしまえば、各国の魔王に対する恐怖と警戒は最大レベルまで引き上げられて、良好な関係を築くなど不可能になるだろう。
そうなったら和平交渉など夢のまた夢となり、世を平和にする方法は、脅迫や恫喝による“恐怖支配”しか手段は無くなってしまうだろう。
戦争がなくなるのなら一時的ならばいいのでは?
多少は仕方が無いのでは?
そう思う人も居るだろう。
だが考えてみて欲しい。このファーディー大陸に定められた理について。
この大陸には神が作った理によって、負の感情が一定まで溜まると、何かを憑代にして魔王が誕生するのだ。
つまり、もしオーマが魔王として大陸を恐怖支配すれば、当然支配される人間達は負の感情を抱くので、いつかまた新たに魔王が誕生することになってしまうのだ。
それが続くことになれば、大陸に平和など永遠に来ないだろう。
ただでさえ恐怖支配は、帝国と同じ様な方法でオーマにとって真似したくない手段だというのに、永遠に平和にもならないなら、そんな手段は論外だ。やる意味が無い。
そしてこれは勇者を倒しても同じだ。
何故ならば、勇者という存在は、人類にとって最後にして最高の希望だ。
もし勇者が魔王によって倒されたとなれば、人類は絶望し負の感情は一気に世界を覆うだろう。
事態は帝国を倒した場合以上に深刻になる。
よってオーマ達魔王軍は、帝国や勇者はもちろん、他の国々だって一各国も落とすわけにはいかず、戦えないのだ。戦闘行為は自衛のみに限られる______。
「____だから戦わないよ」
「なるほど・・・それは分かりました。ですが、それだったら____」
「____ああ。一体どうやって人類との間に平和をもたらすというのだ?オーマ、お前は人間だった時に、第一貴族が大陸の最大の障害だと言っていたな?その第一貴族達と魔族になった立場で、どうやって平和を築くというんだ?」
「ああ、すまん。言い忘れたが、帝国とも勇者とも戦わないが、第一貴族は別だぞ」
「「?」」
「クラース達第一貴族は大陸にとって百害あって一利なしだ。奴らはどんなにキレイな言葉を並べても、根っこの部分では相手に死か服従をつきつける連中だ。排除すべきだと、魔族となった今でも断言するよ」
「「・・・・・」」
そう言われてデティットとアラドは複雑な表情を浮かべる。それは納得と疑問の両方を持つ表情だった。
納得は、第一貴族を排除する必要性に対してだ。
第一貴族がいては大陸に平和は無い。
あるのは戦争か支配だというのは、デティットとアラドも理解している。だからこそ反乱軍に加わったのだ。
そして疑問というのは_____
「どうやって?」
_____ということだ。
当然の疑問だろう。帝国や他国と争わず、勇者とも戦わず、魔王という立場で魔族を率いている状態で、どうやって第一貴族たちを排除し、大陸に魔族と人類が共存する平和を築くというのか?
二人が唯一想像できる手段は暗殺だったが、第一貴族たちとルーリー相手に実行するのは、魔王と勇者候補達でも難しいのではないだろうか?
そんな疑問を孕んだ二人に対して、オーマはニヤリと笑って答えた。
「皇帝陛下だよ」
「「?」」
「魔王から世界を救う勇者であり、大陸を牛耳っている帝国の皇帝ルーリーに協力してもらえばいいのさ」
と、ドヤっとした顔で言い放つオーマだったが、デティットとアラドの表情は先程以上に歪んでいて、“何言ってんだこいつ?”だった。
別にオーマの言っていることが理解できないのではない。
確かに大陸を支配する皇帝であり、魔王から世界を救う勇者であるルーリーが協力してくれれば、第一貴族の排除も、人類と魔族との間に平和をもたらすことも可能かもしれない。
だが、当然疑問が有る。それは_____
「どうやって?」
_____ということだ。
「なんだ?二人とも、分からないのか?」
「当り前だろう」
「さっぱりですね」
「はっきり言うな。デティットもアラドも“俺達のやり方”は知っているだろう?一度は強力だってしてくれたんだし」
「「は・・・・」」
そのオーマの一言で二人の脳裏に、“まさか・・・”が生まれた。
オーマはその“まさか・・・”を理解しているかの様に、何かを察した二人に力強く頷いた。
そして、大陸の平和と第一貴族打倒のために魔王としてすべきことを口にした
「そう。“ろうらく”するんだよ。チートとなった勇者ルーリー陛下をな。つまり______」
_______“チート勇者ろうらく作戦”だ




