事情説明・状況説明(2)
魔王となっても、人間達と共存し、大陸に平和にしようと考えているオーマ。
呼び出したデティットとアラドにその意志を示すと、アラドからは、“それならば、何故魔王になったときにクラース達を排除しなかったのか?”といった類の疑問を向けられる。
オーマはその事は聞かれるだろうと思っていたので、動揺はしなかった_____。
「なるほど、それを疑っていたのか」
「はい。魔王にしろ、反乱軍のリーダーにしろ、帝国の第一貴族もまた、世の平和において障害なのは言うまでもないでしょう?そして、貴方が魔王になったタイミングと状況____その場にいたのは、皇帝とクラースとカスミ・ゲツレイとフェンダー殿。貴方は魔王で、そばには最上級魔族のリデル・シュグネイアも居たのでしょう?貴方とリデル・・・いや、魔王となったなら、あなた一人でも、その場でクラースとカスミを排除できたはずでは?」
「・・・・・」
デティットも無言ではあるが、その瞳で同意の意思を示していた。
「だが貴方はそうしなかった。その理由は何故か?私には魔王となった貴方は、すでに人々を滅ぼすつもりでいるから、人々の平和に関心がない。もしくは、ここで反乱軍の私たちを焚き付けて、人間同士で争わせて漁夫の利を狙うつもり・・・そんな可能性が考えられますが、いかがですか?」
「確かにそう思われても仕方が無いな。だが誓って違うと断言する。俺はその場でクラース達を殺さなかったんじゃない。殺せなかったんだ。その理由は二人共“すでに知っている”と思う・・・」
自分達がその理由を“すでに知っている”と言われて、デティットもアラドもハッとした表情を見せる。心当たりが一つあるからだ。いや、心当たりが一つしかないからだ。
「私たちもすでに知っている・・・それってもしかして・・・」
「オーマ、それってまさか・・・じゃあ、あの噂は本当なのか?」
「ああ、今、大陸中で噂されている“ドネレイム帝国に勇者が現れた”というのは事実だ。俺は真の勇者に邪魔されてクラース達を殺せなかったんだ」
「じゃ、じゃあ、やっぱり、あの日に真の勇者が帝都にいたということは、勇者候補達の中に真の勇者が居たんだな!?」
「一体誰だったのですか!?」
「いや・・・幸か不幸か、真の勇者は勇者候補達の中には居なかったよ・・・」
「え!?」
「で、では、一体誰が・・・?」
「・・・・真の勇者は、ドネレイム帝国皇帝、ルーリー・イル・ラッシュ・ドネレイムだ」
「「ッ!!?」」
そう言ってオーマは、魔王となって目覚めた後の出来事を二人に話し始めた______。
魔王になって目覚めたオーマの最初の感情は、やはり“戸惑い”だった。
何故自分が生きているのか?何故この姿なのか?思考はそこから始まり、周囲と自分の状態の状況把握が最優先で行われていた。
幸いなことに、クラースとカスミも魔王となって復活したオーマに動揺して戸惑っていたことと、直ぐそばにリデルが居てくれたことで、オーマはそう時間を掛けることなく且つ危険にさらされることなく、無事に自分が魔王になったとことを自覚できた。
そして、魔王であることを自覚できてしまえば、後は簡単だった。
直ぐに自分の中で魔法の派生属性の扉が開いていることを理解し、自身が創造属性と生命属性まで持っていることを感覚で理解する。
そうして、自分の“力”もすぐに自覚し終えると、オーマは早速行動を開始した。
それは、一石二鳥ともとれる作戦。クラースとカスミで自分の力試しをすることだった。
自分の能力を把握することに加えて、クラースとカスミを始末するという一石二鳥・・・・・違う。
そうともとれるが、オーマが狙ったのは、“ここで帝都にいる第一貴族全員を殺す”ということだった。
自分の力に自覚が出来た時、その感覚だけでそれが出来ると思ったのだ。
だから、自分の魔力と能力がどれ程なのかを、他の第一貴族たちが中庭に来るまで、クラースとカスミで実験し、第一貴族たちが現れたらクラースとカスミもろとも仕留める______。
オーマがその場で思いついた一石二鳥の作戦とは、クラースとカスミを自分の力試しの“実験体”にする事と、他の第一貴族たちを誘き出すための“餌”にする事という意味だ。
だが結果として、この作戦は裏目に出る。
オーマはクラースとカスミの二人相手に力試しを始めたわけだが、魔王になったオーマにとって、二人を相手にする事は容易で、オーマはこれまでの恨みと、他の第一貴族たちが駆け付けるのを待つのと、自分の力をより深く把握したい事とで、わざと時間を掛けていた。
そうしていたが故に、オーマは二人を殺す前に、ルーリーに真の勇者として覚醒されてしまったのだ。
勇者となって目覚めたルーリーと、その時の周囲の様子は、オーマが魔王となって目覚めたときと酷似していた。
ルーリーも自分が今どうなっているか分からず、周囲も何が起こっているのか分からない状況。
だが、ルーリーから感じる魔力・・・。その底知れぬ魔力から、その場にいる者達は、魔王となったオーマに比肩するものだというのを感じ取り、脳裏に“勇者”の二文字が思い浮かんだのだった。
そして、その場にいる者達の中で、その勇者というキーワードに真っ先に反応し、利用したのがクラースだった。
魔王オーマに追い詰められて瀕死であるがゆえに、何か打開策をと必死にアンテナを張り巡らせていたことが、クラースに幸いしたのだ。
加えてオーマの方も、ルーリーが勇者だと分かっても、それを利用しようという狡猾さを持ち合わせていなかった。
これもクラースにとって幸いだった。
クラースはオーマに力が及ばなくなっても狡猾さでオーマの上を行き、ルーリーを利用する策をオーマより早く画策して実行したのだった______
“陛下!!フェンダーはオーマに殺されました!フェンダーは魔王となったオーマから、気絶している陛下を護るために戦い死んだのです______!!”
_____こう叫んだのだ。
オーマが“しまった!”と思った時には、もう遅かった。
オーマは懸命に「誤解だ!」「違う!」「やったのはクラース達だ!」と叫びはしたのだ。
だが、中庭でのリッツァーノの事や、第一貴族を断罪すると宣言していた事なども、カスミの精神支配を受けていたせいで記憶には無い様で、オーマの叫びがルーリーの耳に入ることはなかった・・・・。
ルーリーはクラースの言葉でフェンダーの下へと駆け寄り、体を起こし、そしてフェンダーがただ倒れていたのではなく、死んでいるのだと理解する・・・・。
ルーリーは愕然とした表情を浮かべ、驚愕し、困惑し、認識し、嘆き、悲しみ、そして_____
「魔王ぉおおおおおお!!」
_____憤怒した。
オーマもルーリーとは戦いたくないので、必死に弁明した。
だが信じてもらえなかった。それは、そうだろう。
ルーリーから見れば、魔王の姿のオーマより、昔から信頼厚い側近のクラースを信じるのは当然だ。
ルーリーは、魔王のオーマに完全にキレており、その場でオーマに戦闘を仕掛けてきた。
やむを得ず、オーマは応戦する羽目になってしまった。
だが、それでも、なんとかルーリーを死なせない様に抑え込もうと考えたオーマだったが、その戦いで自分の甘さを痛感するのだった________
______ズドォオオオオオオオオン!!
「______がはぁあ!!?な、なんだとぉおお!?」
魔王となったオーマでも、勇者として覚醒したルーリーには、全く歯が立たなかったのだ。
オーマはルーリーの火炎魔法による猛攻に手も足も出ず、防戦すら許されなかった。
生命力が魔王でなければ死んでいただろう。
魔王となり、肉体も魔力も究極に強化され、RANK4の生命属性まで手に入れた魔王オーマが、ルーリーにここまで圧倒されたその理由は、非常に単純だった。
勇者ルーリーが魔王オーマを圧倒できた理由は、勇者となったとこで手に入れたルーリーの能力が理由だった。
その能力とは、このファーディー大陸において、まさに最強とも呼べるチート能力だった______。




