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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間:魔王となったオーマ・ロブレム
360/375

事情説明・状況説明(1)

 「はい♪皆さん、お茶ですよ♪」

「レイン様、その様なことは私が_____」

「いいんですよぉ、ボロス。父様の子供のメイド兼教育係になるのは、兄様の嫁になる事の次に私の大事な目標ですから」

「はあ・・・・」

「ふふふ♪相変わらず、メイド修行に熱心なようだな。レイン」

「はい!父様♪魔王軍になっても、そこは変わりません!ね?兄様♪」

「まあ、そうだな。特に変える必要が無いからな。レインの好きにしたらいい」

「はい♪」


 魔王の城の貴賓室。

そこで、メイドとしてお茶を入れたレインと、父プロトスのライフィード親子にオーマも加わって和やかな会話が弾んでおり、室内には明るい雰囲気が漂よっている・・・。


「あのーー?和んでいるところすまないが・・・」

「ん?」


だが、当然と言うべきか、その三人の和やかな会話に、デティットが1/3呆れ気味、1/3困惑気味、1/3キレ気味で話に割って入って来た。


 「オーマ・・・魔王?・・と、とにかく、私とアラドは全く状況を把握していないんだが?」

「そうです。我々を放って和まないで頂きたい。数日前に、いきなりプロトス殿から“オーマが魔王になったから、会ってやってくれ”と言われてここまで来ただけです。我々は完全に置いてけぼりですよ?」

「ここに来たら説明してもらえると聞いたぞ?できれば一秒でも早く、このわけの分からない状況と、そのオーマの今の姿の説明が欲しいのだが?」

「そうです。そのために嵐の中、船の揺れに耐えてここまで来たのですから」

「そういえば、大丈夫だったのか?昨夜は物凄い嵐だったが・・・?」

「え?ああ、揺れは激しかったが、それだけだったから特に問題は無かったな」

「当然だ。私の魔導船、ブルーライフィード号を持ってすれば、嵐の中でもエルス海の何処にでも行ける」

「はい♪父様のブルーライフィード号は、ベルヘラ海軍最高峰にして大陸最強の船ですから!」

「ふーん、すごいな。他の魔導船も嵐の中を渡航できるのか?」

「魔導船は並みの船より耐久性に優れているから、嵐の中でも海に出られる魔導船は幾つかあるぞ。ただ昨日の嵐の規模でとなると、我がブルーライフィード号くらいだろう♪」

「シーヴァイス殿も、あのレベルの嵐の中で進む船は、生まれてからこれまで見たことが無かったそうですよ」

「へぇ・・・シーヴァイスが認める程か、それはすごい」

「おい。また話が脱線しているぞ」

「ああ、そうだった。すまん、デティット」

「もう、急かし過ぎですよ、デティット?」

「申し訳ありません、サレン様。ですが、こちらもいっぱいいっぱいなのです」

「はい。なにせオーマ殿姿をしているとはいえ、目の前にいるのは“あの”魔王なのですから」

「もう、二人共・・・」

「いや、いいよ、サレン。二人の言い分はもっともだ。その話をするために、ここに来てもらったわけだしな。じゃあ先ずは、その辺の事情から話をしよう」

「よろしく頼む」


 二人の心情を察したオーマは、レインの入れてくれたお茶を一口含んで口を湿らせると、デティットとアラドに事情を話し始めた______


「実は俺、魔王だったんだ」


______そして事情を話し終えた。


「・・・・は?」

「・・・・何故?」


だがデティットとアラドの二人は、全く理解することが出来なかった・・・・当たり前である。


「何故と言われてもなぁ・・・」


だが実際、オーマが何かをして魔王になったわけでもないので、オーマからも“そうだった”としか言えなかったりする・・・。


「あー、分かったよ、オーマ。なら、お前が魔王となったその日の出来事を詳しく話してくれないか?」

「確か、オーマ殿が魔王になったのは、例の作戦を決行した日ですよね?」

「ああ、その通りだ。あの日の夜、俺はフェンダーと待ち合わせて_____」


仕方が無いので、オーマは自分が魔王となった日の出来事を、覚えている限り全て話すのだった_____。




 「______と、そこで気を失って気が付いたら魔王となっていて、隣にリデルが居たんだ」

「なるほど?つまり、自分の意志で魔王になったわけじゃないんだな?」

「そうだ」

「ふむ・・・」


 オーマが元々魔王になるつもりで、そういう計画をしていたとか、目の前に魔王になるチャンスがあって、オーマ自らそのチャンスを掴んで魔王になった等という、自主的な形で魔王になったわけではないと分かって、デティットとアラドは少し安堵の表情を見せていた。

ただやはり、それでもまだ懐疑的な気配はなくなっておらず、案の定デティットが再び口を開いた。


「では、確認させてもらうがオーマ、お前は世界を破滅させる気は無いんだな?」

「魔王としては既に君臨してしまっているが、世界を滅ぼす気は無い・・・というより、争うつもりすら無いよ。人間ともエルフとも争う気は無い_____」


オーマはきっぱりと即答した____。



 魔王となったオーマに、人間に対する憎しみが無く、争う意欲も無いということには、実はオーマ自身も疑問を抱いていたことだった。

 オーマは、魔王となった存在は自動的に世を恨み、世界を滅ぼすために動くのだとばかり思っていたからだ。

いや恐らく、オーマ以外にも・・・というより、魔王に対するこの大陸中の住人たちの認識がそうだろう。

 だが、何故だ?という疑問は残るものの、オーマの心の中には、魔王となった今でも、世を平和にしたいという気持ちが残っていた。

 いや、むしろ、前より世を平和にしたいという気持ちは強くなっているくらいだ。

その理由は、オーマが魔王になったからだ。

 このファーディー大陸に、真の平和をもたらす上で、最大の問題となるのが魔王の存在だ。

だが、その魔王に自分がなったらどうだろう?

“人に害をなす魔族の者達を一声でまとめられるリーダー”

今のオーマは、自分も大陸中の魔族も意のままに操れ、生かすも殺すも自由・・・つまり、人間と戦う事も“戦わない事も”自由に決められる立場にある・・・。

考えようによっては、これほど世を平和に出来るポジションも無いのではないだろうか?


(俺の前の魔王たちには、そういう気持ちは残っていなかったのかな?考えたことも無かった・・・)


確かに、何かの無機物や、何かの象徴、発想、概念などが憑代となれば、その意志は測れないが、人間やエルフなどの高度な意志を持つ生物が魔王となったことだってあるはずだ。


(その者達はどういうつもりで世を滅ぼそうとしたのだろう?)


 オーマだけがたまたま恨みによる絶望だけじゃなく、世を平和にしたいという希望が残ったのだろうか?

それとも、何か別の要素が絡んで、オーマに人間性が残ったまま魔王となったのだろうか____?

これは今だけでなく、オーマが魔王となってから今日にいたるまで、オーマの頭の中で幾度となく考えられてきた事だが、歴代の魔王たちが何を考えていたのかなど、オーマも含め誰にも分からないので、結局答えは出なかった_____。




 「“人間ともエルフとも争う気は無い____”ですか・・・」

「信じるのが難しいか?アラド?」

「いえ・・・信じられるとも、信じたいとも思っているのですが・・・」


 事情を知り、オーマの意思確認もして、プロトスや勇者候補達、そしてワンウォール諸島の住人が無事である(むしろ、多大な支援を受けている)という状況から、オーマのことを限りなく信じられると思い始めているデティットとアラドではあるが、二人にはまだ引っ掛かるものがある様子だった。


「何でも聞いてくれ。せっかく二人共ここまで来たんだし、今後の事を考えれば、蟠りは無い方が良い」


 オーマはその二人の態度に、“不満も疑問もすべてぶつけてくれ!”という姿勢を見せる。

オーマがこういう態度を見せる理由には、自分にやましいこと・・・人間やエルフを滅ぼす気持ちなど無いからというのがあるが、それに加え、二人にこういう態度を取られることを予想していた、というのも理由である。

 今の自分は魔王_____。

それが意味するところを考えれば、例え反乱軍の同士となったデティットやアラドからでも懐疑的に見られると思っていた。

だが、例え魔王となっている自分に対しても、誠実に対応すれば、この二人には理解してもらえるとも理解していた。

 実際にプロトスがそうだったのだ。

帝都を脱出して、ワンウォール諸島に逃げるため、ベルヘラに辿り着いたときのプロトスの態度は、まさに今の二人と同じだった。

いや、それで言ったら、勇者候補たち、サンダーラッツ、ラヴィーネ・リッターオルデンだってそうだった。

オーマが魔王になった後、なし崩し的に皆を巻き込んでしまい、気が付けば全員が魔王のオーマに慣れてしまっていたが、最初にオーマを見た時は全員パニックを起こしていた。

だから、オーマのデティットとアラドから信用を得る手段は“誠意”のみだし、それで十分。それが肝心だと分かっていた_____。


「そうですか・・・それなら、気になっていた事があるのですが・・・」

「何だ?」

「・・・何故、魔王となったとき、その場で第一貴族を殺さなかったのですか?」

「・・・・・」


そして、このアラドの疑問も予想がついていた_____。


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