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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第七章:勇者と魔王の誕生
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魔王誕生

 突如として現れ、オーマを救った一人の女性。

その女性が魔族である事が、クラースとカスミに女性の正体を直ぐに教えてくれた。

こんな場所のこんな状況に割り込んで来られる者など、たとえ魔族でも一人しかいない_____。


「間違いないわ。前魔王大戦で見た覚えがある」

「貴様がリデル・シュグネイアだな?」

「お久しぶりね、カスミ。そして・・一応初めましてになりますか?クラース卿」

「貴様・・・」

「クラース。油断は____」

「____していない。バカにするな」

「貴方をバカにしているのではないわ。彼女を警戒しているのよ」

「・・・・・」


カスミの発言を、クラースは沈黙で受け止める。二人共、リデルに対して最大級の警戒をしているのだ。

 カスミは前(前魔王大戦時)に見かけた頃より、リデルがはるかに強くなっていることにより、クラースは自分がオーマに放った必殺の魔法を防がれたことにより、リデルを脅威として認識していた。

そしてそれは正しい認識だった。

 事実リデルは強い。ハッキリと言ってしまうと、カスミとクラース一人一人でなら、リデルの戦闘力の方が上回っている。

クラースもカスミもその事を肌で感じており、リデルと戦闘になったら二人で協力する必要が有ると判断していた。

だが_____


「そんなに警戒しなくてもいいわ。戦うつもりは無いから♪」


「「?」」


_____ウソではない。

リデルが言う様に、リデルからは殺意はもちろん、敵意すら二人に対して抱いていない。

完全に“白旗”状態だった。


「貴様・・・何故?」

「_____プッ♪アハハハハ!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「“何故”!?今、クラース卿は何故と仰いましたか!?アハハハハ♪ドネレイム帝国の宰相ともあろう者が、ずいぶんマヌケな事を口にするのねぇ!?アハハハハ!」

「・・・・・」

「・・・・・」


そうやってリデルは無邪気に、そして無警戒に笑っていた・・・。今、クラースかカスミが切り込めば、簡単に殺せてしまうだろう。

だがクラースもカスミも、リデルに仕掛けることはなかった。

 リデルがあまりに無邪気で無警戒すぎるので、気が逸れてしまった_____?

或いは、何か罠があるのかと深読みして動けなかった____?

どちらもありそうに見えるが、どちらでもない。

クラースとカスミが、そんな理由で敵を仕留めそこなう事など有り得ない。

相手がスキを見せたなら容赦なく仕掛け、仕留める。気が削がれる事など無い。

 罠があるかもと警戒する?____これもない。二人は罠があるとすれば即座に看破・対応できる。

なによりここは貴族区画。ドネレイム帝国本城の中庭で、クラースたちのテリトリーだ。

たとえリデルでも、罠を仕掛ける事など出来やしない。


 二人がリデルを襲わないのは、“それどころではなくなった”からだ。

二人はリデルがここに現れた事と、リデルの態度とで、リデルがここに来た理由を理解できたのだ。

だからこそ、リデルに仕掛けない。仕掛けてもしょうがないと思っているのだ。


 クラース達は、ずっとリデルの行方を追っていた。だから分かる。

リデルは、クラース達と同じ様に、ずっと真の勇者と魔王の憑代を探していた。

真の勇者の暗殺、もしくは魔王を探し出し、無事に誕生させ、魔王軍を再建する事がリデルの目的だ。

そのリデルが、リデルにとって現在最大の敵であるドネレイム帝国第一貴族達が居るこの城に、危険を顧みず現れたというなら、これが理由以外にない。

 そして、その二つの目的の内、一つはもう否定されている。

もし、ここに真の勇者がいたのなら、リデルはオーマの守護ではなく、その人物に暗殺を仕掛けているはずだ。

実際、この場に居るクラース、カスミ、ルーリー、フェンダー、オーマの、誰にでも暗殺を仕掛けるチャンスがリデルにはあった。

ならば、それをしなかったのが答えであり、オーマを守った事がその証明だ_____。



_________ドクンッ



 クラースとカスミは冷たい汗を背中に流していた。

この事実は、フェンダーや勇者候補、そして目の前の最上級悪魔より急を要する事態だ。


「ま、間違いないの・・・?」

「あら?この状況で私の勘違いって疑うの?それは、確認がしたいという理性からかしら?それとも____」

「・・・・」

「_____それとも、“勘違いであってほしい”という恐怖からかしら?」

「・・・・どうやって、“彼”が、“そう”だと分かったの?」

「“神の予言”よ」

「!?」

「ちょっと旧友から魔道具を借りてね。貴方と同じ魔法で、神から予言をもらったのよ。ふふ♪悪魔が神から予言を貰うなんて、もう喜劇ね?」


旧友という単語から二人は直ぐにジェイルレオを思い浮かべ、“レジネスハート”の使い道を理解した。

そして直ぐにそれを頭から切り離す・・・今はそんな事どうでもいい。


「私より先にあの予言を解読するなんて・・・」

「あら、悔しい?自分より明晰な頭脳を持つ者がいるのが悔しいのね?フフッ、残念♪・・・なんてね」

「?」

「今、最高に気分がいいから、正直に言ってあげるわ。別に私が貴方より頭が良かったわけじゃないわ。私が貴方より先に魔王様の存在に辿り着けたのは、完璧に運よ」

「・・・運?」

「オーマ・ロブレム様・・・前から“客”として来てくださっていたのだけれど、ずっと気になっていたのよ。身体の相性が最高なんだもの?」

「身体の相性・・・」

「相性がいいはずよ。だって私のご主人様になられる方だったんだから?」

「そんな・・・」

「だから、予言を手に入れて、それを翻訳して内容を知ったときには直ぐに分かったわ。この予言はオーマ様を表しているものだって♪」



 “長く、身が凍るような冬が終わって、春が訪れる

春の訪れを祝い、皆の心に光が差せば、ワインが落ちる

こぼれたワインが広がること無く、地にしみ込んでいけば、それは疫病の始まりだ

疫病は地獄の業火でも燃え尽きず、神の罰を受けても裁かれない

陽の光とは対立し、時に夢を見て、時に立ち止まる

そうして自殺の五芒星を描き、六つの星が欠ける夜を迎え、世に平穏をもたらす王が誕生する”


 この神の予言。リデルの解説によると、こう解読されるそうだ____


“長く、身が凍るような冬が終わって、春が訪れる”の部分は、長きにわたり行われた、北方でのバークランド帝国とドネレイム帝国の大戦の終結と、ドネレイム帝国の勝利を表している。


“春の訪れを祝い、皆の心に光が差せば、ワインが落ちる”の部分は、その勝利を喜び皆が喜んでいる事と、「ワイン」が祝い=昇格を表しており、それが「落ちる」とあることから、この勝利による祝い=出世があったはずなのに、それがなくなったことを表している。

つまりこれは、オーマの貴族への昇格と、それが第一貴族によってご破算になったことを暗示している。


“こぼれたワインが広がること無く、地にしみ込んでいけば、それは疫病の始まりだ”の部分。

これは、オーマがそれを甘んじて受け入れた事と、そうして大人しく帝国に居続けた事により、ろうらく作戦を任されこと。「疫病の始まり」とは、オーマが反乱を計画したことを指し、それによって各地で反乱軍勢力を広げている事を暗示している。


“疫病は地獄の業火でも燃え尽きず、神の罰を受けても裁かれない。陽の光とは対立し、時に夢を見て、時に立ち止まる”の部分。

これはそれぞれ、「地獄の業火でも燃え尽きず」は不死身を表し、「神の罰」が雷を表現していて、「陽の光とは対立」は、つまり光と影、エルフとダークエルフを表している。

「夢」は幻惑を表し、時に立ち止まるとは時空魔法のこと。

つまりこの部分は、勇者候補たちの存在と、反乱計画のためにオーマが奮闘していることを暗示していた。


 オーマの疫病、つまり反乱計画のろうらく作戦は、不死身の勇者ジェネリーを大陸中央のドネレイム帝国の帝都で、閃光の勇者レインを大陸西南のベルヘラで、静寂の勇者サレンを大陸西方のオンデールで、烈震の勇者ミクネを大陸東方のアマノニダイで、幻惑の勇者ベルジィと凍結の勇者フレイスを南東部のスラルバンで攻略しており、これらを線でつなぐと五芒星になる。

“自殺の五芒星”の部分は、オーマが自分が死ぬことになると知りながら、その計画を実行してい行くことを表現していた。


そして、“六つの星が欠ける夜を迎え、世に平穏をもたらす王が誕生する”の部分とは今日の夜、つまり今、オーマを支えていた六人のサンダーラッツ幹部が死んだことにより、オーマが魔王となる事を表していた_____。




________ドクンッ!!


「「ッ!?」」


「____アハッ♪」


 リデルの高笑いを遮る様に、大きな鼓動が鳴り響く・・・。

心臓の鼓動・・・・なのだろう。

三人は辛うじで、それを理解する。

だが、その鼓動はあまりに大きく、あまりに深く強い・・・・。

そして何より全てを呑み込むような凶暴さがある・・・・。

全てを包み込むような凶悪さがある・・・・。

 その鼓動に対する三人のリアクションはまちまちだ。


「こ、これは・・・」


 クラースは自分でも予想だに出来なかった事態に困惑し、今誕生しようとしている“それ”に恐怖心を抱いていた。


「なんと恐ろしい・・・でも、ずばらしいわ・・・」


 カスミはクラースと同じ様に、恐怖心を抱いて危機感を募らせてはいるものの、その存在が放つ気配と魔力に好奇心を刺激されてもいて、強い関心を寄せてやや猟奇的な表情になっていた。


「うふフフフ?」


 リデルの表情と感情が一番分かり易い。

愉悦、羨望、懇願、愛情、興奮、更には快楽まである。

つまりは“幸福”だ。

前の魔王大戦以降、リデルが待ちに待っていた瞬間が訪れるのだ______。


「さあ!我らが魔族の新たな王、オーマ様!ご降臨!!」


「「ッ!?」」


______ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


そしてまたもリデルの言葉を切っ掛けに、闇の大きく深い鼓動が大地を震わせる。まるで卵の殻を破るヒナのようだった・・・。




_____ドォーーーーーーーーン!!




そして、その闇の殻を破って、このファーディー大陸に新たな魔王が誕生した______。


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