反撃の狼煙を・・・(3)
フェンダーと密会し、第一貴族の強さの秘密を知ったオーマ。
だがその現場を皇帝のルーリーに見つかってしまった。
オーマはその状況を逆手に取って、ルーリーにリッツァーノの石像の秘密を密告した。
そして、この賭けにオーマは勝った_____。
真実を知ったルーリーは、オーマ達の狙い通りに第一貴族の断罪を決断してくれた。
ルーリーの決断した姿は、若くても正に皇帝____覇気を纏ったルーリーは皇帝として二人に命令する。
そして次に発したルーリーの言葉もオーマ達の予想以上のものだった____。
「先ずはこのリッツァーノ様を連れて、この場を離れるぞ!今すぐにだ!」
「「は?」」
ルーリーの意外な判断に、オーマだけでなく付き合いの長いフェンダーも一瞬困惑した。
二人は、ルーリーなら今すぐにでもクラース達を処罰すると言い出すのではと思っていたのだ。
「何だ二人共?私の判断はおかしいか?」
「あ、その・・・」
「いえ、その様な事は決して・・・」
「ふぅ・・・二人共、私はバカでは無いぞ?今すぐにクラース達第一貴族を処罰するなどという事はしない。というより出来ないだろう。なあ?フェンダー?」
「は・・・?」
「私が処罰すると言ったら、クラース達は大人しくそれを受け入れるのか?」
「それは・・・」
「まさかだろう?自分の恩人であり、最強の存在である勇者まで辱めたのだ、皇帝の立場とはいえ無力な私の言う事など奴らは聞き入れはしない。違うか?」
「は・・・はい!仰る通りかと」
「第一貴族を罪人として処罰する事は、そう簡単にはいかないでしょう」
「だろうな。第一貴族全員を処罰するとなれば、内乱が起こるだろう・・・いや、内戦か?私の判断に大義と正義を感じて集ってくれる者もいてくれるだろう。だが、これまでこの国を実質支配してきたのは第一貴族だ。利己的な者達はクラース達に付くはずだ。戦いの規模は国を二分するモノとなり、これまでのどの大戦よりも大規模で苛烈な戦いになる事が想定される」
「「ハッ!」」
オーマとフェンダーの二人は、ルーリーの言葉に恐縮した。
ルーリーの言葉はまさにオーマ達が想定していたものだからだ。
もし、第一貴族全員を罪人として処罰するとなれば、勿論反抗されるだろう。
そして、その規模はまさに、ルーリーの言う通り国を二分するモノになる。ファーディー大陸全土をほぼ手中に収めている現在最大最強の軍事国家の内戦となれば、魔王大戦を除けば、この大陸で史上最大規模の戦争となるだろう。
「その内戦で確実に勝利するためには、国内の民衆を味方につけ、他国からの支援も必要だ。ならば、世界に対して我らが正義であり、クラース達が罪人である事を示すために、私とリッツァーノ様が証人と証拠として必要だ。第一貴族の手からこの二つは絶対に守らねばならぬ。違うか?」
「まさに仰る通りです」
「異論はございません」
「ならば先ずは一旦この国を離れて、第一貴族を告発する舞台を整えねばならんだろう」
「「ハッ!」」
オーマとフェンダーの二人は、ただただルーリーの言葉に恭順する。
(すげぇ・・・・)
オーマは、先程までの自分を恥じていた。
先程まで“場合によってはルーリーに進言しなければ”とか、“ルーリーが今すぐにクラース達に問いただしに行こうものならどう止めるか?”などと考えていた。
だが、そんな心配は杞憂だった。ルーリーはオーマが想像している以上に周りが見えている。
(あんな衝撃的な事実を聞かされた直後だというのに、この先の展開を予測する慧眼、信じていた者達に裏切られたも同然なのに、迷いなくその者達の動きを読む分析と洞察・・・それらを使って、直ぐに今すべきことを見出して実行しようとする即応力・・・どれをとっても一級品だ。あの若さで・・・この陛下はッ!!)
オーマは別にルーリーを侮っているつもりなど無かった。
むしろ、晩餐会で初めて会って話した時から、自分にできる最大級の評価と敬意を持っていたつもりだった。
だが今のルーリーは、そのオーマの評価を超えて、正しく世の正義を全うしようとしている。
オーマはそのルーリーの姿に、心底ホレこんでいた。
オーマの中で、かつて帝国にあった忠誠心が蘇って来ていた。
そう、親を戦争で亡くし、世を平和にしたいと願い、オーマが帝国のために戦おうとしたのは、まさにルーリーのこの姿のためだ。
この姿こそ、世に平和をもたらす正義だと思ったからだ。
オーマが共感した帝国の理念。殆どの貴族が形骸化させ、私利私欲でこの大義を利用する中、皇帝のルーリーの中だけには、帝国の大義が・・帝国の正義が残っていたのだとオーマは感じていた。
(陛下の下でなら戦える!陛下と共にクラース達を討つッ!!)
オーマの中で固い決意が生まれていた・・・・この固さは“純度”だ。
今、オーマには純度の高い決意が生まれている。それはつまり、“迷いという不純物が無い”という事だ。
これまでの戦い____。オーマが軍人となって、デネファーのフレイム・ベア・ウォリアーズに入って戦場に出てから今日まで、オーマはここまで迷いの無い戦う決意をできた事は無かった。
帝国の理念に共感し、犠牲をいとわないと戦いに身を投じたとはいえ、オーマは別に人殺しがしたかったわけでも、相手を恨んでいたり、殺していい奴と判断していたりしたわけでもない。
ただ割り切って戦い、仕方なく非情な選択をして来ただけで、そこに迷いと葛藤がなかったわけではない。
特にろうらく作戦などは迷い後悔の連続だった_____。
罪もない若い女性を惑わす事、自分が生き残るために周囲の人間を巻き込んできた事、やらずに生きていけるのなら、そうしていた。
だが今のオーマには、そんな迷いが殆ど無い。
もし内戦が起こって皇帝ルーリーと共に戦う事になれば、敵は憎き第一貴族、そしてそれに付き従う者達、つまりは第一貴族のやり方を良しとする者達だ。
オルド師団長のように、オーマが慕う者達はきっと皇帝側に付いてくれるだろう。
つまり、皇帝ルーリーと共にクラース達第一貴族と戦う事は、敵と味方の“立場”が、そっくりそのままオーマの“心の中”での敵と味方に分かれるのだ。
こんな事は、今までの戦いで一度たりとも経験した事がなかった。
そんな連中と戦う事はオーマにとって、これまでのどの戦いよりも気が楽だった。
厳密には違うのだろうが、この戦いはオーマにとって、まさに若き日に描いていた“正義の戦い”の様に感じられて、今は戦う事に高揚感さえ抱いていた。
ドネレイム家五代目当主、ルーリー・イル・ラッシュ・ドネレイム____。
若き皇族ながら覇気を纏ってオーマたちに命を下す姿はまさに、オーマにとって真の皇帝だった。
皇帝ルーリーの名の下、オーマにとって最高のシナリオが始まろうとしている。
その事とルーリーに対する忠誠心で、オーマの心の中には固い決意と闘志が宿っていた。
(必ず勝つ!いや、勝てるはずだ!フェンダーや勇者候補たち、そして反乱軍の勢力を陛下の軍勢に加えたなら、第一貴族とその精鋭相手でも十分勝算が立つ!!)
ならば後は、どう反乱軍をルーリーと連携させるかという問題になって来る。
オーマの中では、新たな決意と共に、もう次の展開について頭を働かせていた______
(プロトスやデティット、アラドも、陛下と会って話をすれば、心を通じ合えるとは思うが、それでも陛下は他国や反乱軍にとって、やっぱり“あの”帝国の皇帝だ。引き合わせるのは慎重にやらなくては・・・)
______と、そうしてオーマは、ルーリーに反乱軍の事を告白するか?それとも反乱軍の存在はルーリーに言わず、ルーリーが各国に協力を要請する中で、自然に皇帝軍に反乱軍勢力を加えるか?などと思案するのだった_____。




