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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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レインとのファーストコンタクト

 「_____そうですか、リジェース地方から来られたのですね。このベルヘラには色々な地方から人が集まりますが、リジェース地方から来る方は珍しいです。機会があれば是非、お話しを聞いてみたいです」

「レイン様がそうお望みでしたら喜んで。軍の方に顔と名前を覚えていただけるなら、願っても無い事です」


 海賊討伐の後始末が終わり、事情聴取も終えると、レインとの雑談が自然と始まりオーマはそれに付き合っていた。

港に着くまでの暇つぶしか何かだろうが、レインに近づきたいオーマにとっては断る理由が無かった。

 オーマのスタンスは、あくまで傭兵として自分達を売り込むという距離感でレインとの雑談に応じている。


「それにしても、ベルヘラにはリジェース地方から来る者は少ないのですね。リジェース地方は少し前まで戦が絶えなかったので、戦に追われた者が多くこの都市に流れていると思っていました」

「確かに、そういった者が多くラルス地方に流れたという話は聞きました。けれど、その多くはポーラ王国に流れたそうです」

「ポーラ王国に、ですか?確かに肥沃な土地ですが、軍事力は心許ないはず・・・」

「だからではないでしょうか?流れた者の多くはバークランドやシルバーシュといった軍事国家出身です。そういう国だからこそ、戦いにうんざりした時はポーラのような国を選ぶのでは?」

「なるほどぉ・・・」

「・・・納得はできませんか?」


少し溜めての聞き方・・・恐らく、オーマを試している部分もあるのだろう。

だが、そうと分かっていても、こういうときのオーマはぶれない。

帝国に利用され、腐ってはいても自分の意見自体は変わっていない。


「・・・少しだけ。その心情を理解はしてあげられますが、実際ポーラはドネレイムに落とされました」

「力は必要だと?」

「あくまで傭兵としての意見です。レイン様はどう思われますか?」

「いえ、私も領主の娘ですから。力が無くても治安や平和が維持できるのなら、それに越したことはないですが、そうでないのであれば・・ですね。実際日ごろから力を付ける鍛錬をしていますし」

「そうですね、先の海賊との戦いで見せた一撃は凄まじいものでした。大変驚きました」

「と、とんでもない!それを言うのはこちらの方です!」


レインは突然立ち上がり、大きな声を上げる。

その様子に驚いたオーマを見てハッとして、また恥ずかしそうに着席した。


「し、失礼しました・・・」

「い、いえ、お気になさらずに。レイン様ほどの腕前を持つお方に興味を持っていただけて光栄です」

「いえ、私など本当に大したことはありません。ただ力任せに戦っているにすぎません・・・」


 レインの態度は謙遜ではなく、本当に卑下しているようにオーマは感じた。

オーマはゴットンの言っていたレインが起こした事故があるというのを思い出し、頭の片隅にそれを置きながらレインの話を聞く。


「オルスさんの魔術には老練さがある。先の戦いはオルスさんこそ、お見事でした」

「そうですか?ただ仲間に水を撒いてもらってから感電させただけです。しかも、威力抑えたとはいえ人質ごとです」

「確かにそれは考えものですが、人質ごと無傷で感電させるということは、後遺症や外傷が残らぬように加減しなければなりません。魔法は上位属性になるほど、制御が難しくなると聞きました。中でも雷属性は周囲を巻き込みやすいため、魔法の制御が難しいはずです。見るべき人が見れば、私の力任せの技よりオルスさんの老練な技を評価するでしょう」

「いや、そんなことは___」


____無い!と言いかけてオーマは止める。

実際はそんなことは無く、見るべき人が見ればレインの技にこそ評価をするだろう。

そう伝えようと思ったが、今後の関係を築いていく上で、まだ言わない方がいいと判断する。

 代わり、少しレインの懐に踏み込んでみようと考えた。


「レイン様はご自分に自信が無いのですか?少しご自身を過小評価なさっているように思えますが・・・」


言われて、それまで柔らかな笑顔を浮かべていたレインが、下を向いて沈んだ表情を見せた。


(初対面で踏み込み過ぎたか!?)


そう、オーマが後悔しかけてフォローすべきか迷っていると、レインはすぐに真剣な表情で顔を上げて、オーマの目を真っ直ぐ見てきた。


「その通りです。私は数年前、魔力の制御を誤り、味方を巻き込む事故を起こしました。幸い死者は出ませんでしたが・・・。その日以降、魔力のコントロールの修練を続けていますが、上達が見られません。情けない限りです」

「いえ、そのようなことは・・その若さであれだけの魔力を行使すること自体が厳しい、制御は尚更です。それに、誰にだって伸び悩む時期は有ります」


 このオーマの励ましの言葉に、世辞と同情は無い。

 レインの魔力量はジェネリーと同様に、はっきり言って桁が違う。

仮に、オーマにレイン並みの魔力があったとしたら、オーマも魔力は上手く制御できず、海賊相手にやったあの作戦は失敗していただろう・・・それ以前に、制御できなければ実行していない。

 レインの素質を開花させ、さらに魔力の制御を完璧にするなど、レインの若さと環境では不可能だろう。

これは、帝国という環境でも難しい。

 今のレインの未熟さを責められる者など一人もいないのだが、本人は許せないらしい。


「もう、そんな事は言っていられないのです!リジェース地方から来た傭兵のあなたならご存じのはず、ドネレイム帝国がポーラ王国を落として、状勢は大きく変わっています!センテージもどうなるか分からない!今こそ父には力が必要なのです!私は父の力になりたい!力は、必要な時に正しく扱えなければ意味が無い!」


 バンッ!と机を叩いて、また立ち上がる。

これまでも、オーマが言った事と似たような事を言われてきて、抑えてきたのだろう。

だがついに抑えていた蓋が開いたのか、レインは止まることなく悲痛な表情で訴える


「今回だってそうです・・・力任せではなく、色々な戦術に対応できる魔法技術を持っていれば、我々だけで対処できたはず!・・・もう、時間が無いのです・・私には・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


ふり絞るように語ったレインをオーマは真っ直ぐな瞳で見ながら、それでも頭の中では冷静に考えていた。


(やけに簡単に胸襟を開くな・・・ウソではなさそうだし、話しも筋が通っている。だが、立場のある人間が、こんな簡単に自身の胸の内を初対面の人間に明かすなんてなぁ・・・未熟なだけか?まあ、それなら後の展開は予想がつく)


レインの人物像と、この後の展開を大体掴んだオーマは、レインが話し易くなるよう言葉を選ぶ。


「・・・なるほど、私の言葉は少し軽率でしたね。確かに今の状勢であれば、レイン様が焦るのも無理はない。私で何かお力になれる事があればいいのですが・・・」

「本当ですか!?それでしたら・・・私に魔法と魔力の制御の仕方をご教授しては頂けないだろうか?」


 オーマは表情を変えずに、心の中だけで“やっぱりな____”と思った。


(前にクラースが言っていた、“口説き役は勇者候補の才能を引き出せる経験のある者が良い”というのは、あながち詭弁というわけでもなかったんだな)


予想通り____。というより、ウソでなければ話しの流れ的に、これしかないだろう。

 もちろん答えは“YES”なのだが、オーマはここで少し考える。


(せっかく恩を売れるチャンス・・・少しはもったいぶった方が良いか?後、話しの落とし所だ。ジェネリーのときと似た展開だが、状況はまるで違う。ここは外国だし、父親のプロトスとも関係を築かなくてはならない。怪しまれるような引き受け方は避けたい。今ここで、レインの志に感動したと言ったらどうだ?レインは喜んでくれそうだが、プロトスはいきなり無償で娘に協力する傭兵など怪しむんじゃないか?・・・やはり、社会性を重視した距離の詰め方の方が良いだろう)


 オーマの中で考えがまとまり、プロトスを見据えた話しのつけ方にすると決めた。


「我流で磨いた技術ですし、教師の類の仕事はしていないのですが・・・」

「そこを何とかお願いできないだろうか!?もちろん報酬は払います!」


オーマは少しもったいぶって、腕を組んで目をつむって考えるフリをしてから、姿勢を正して答えた。


「レイン様のお気持ちは分かりました。そこまでおっしゃるなら、何とかやってみましょう」

「本当ですか!?」

「ええ、私も魔法技術を人に教えた経験は少ないですが、報酬を頂く以上最善を尽くします。よろしくお願いします」

「はい!よろしくお願いします!オルス先生!」

「い、いや、あの・・レイン様、その“先生”はよしてください。ガラじゃないです。オルスで結構です」

「そうですか?じゃー、オルスさんも“様”は結構です。レインって呼んでください!」

「いえ、それは遠慮させて下さい。ベルヘラ領主のお嬢様に敬称無しはさすがに・・・」

「なら、誰も居ないときなら良いってことですね!周りに人がいないときはレインでお願いします♪」

「は、はあ・・・(この子、結構人懐っこいのかな?)」


先程の真剣さがウソのように、レインは花咲く笑顔をオーマに見せてくれる。

その表情にまんざらでもない気持ちになるオーマだった____。




 港に着いた後、オーマ達は海軍の軍港を後にする。

レインの魔法の講師については、海賊への取り調べが忙しくなるので、授業の報酬や日程は後日とのこと。

そしてオーマ達は、そのままゴットンの用意した宴の席に出席し、今回の報酬と食事と酒をご馳走になった。

ヴァリネスは宣言通りの飲みっぷりで、ゴットンをドン引きさせるのだった____。

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