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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第七章:勇者と魔王の誕生
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第一貴族の強さの秘密(2)

 驚愕の事実にオーマは跳ね上がった心臓を、更にバクンッ!バクンッ!と強く跳ね上げる。


 つまりは、このリッツァーノを模して作られた石像は、リッツァーノの“英霊の勇者”の力と同じ様な能力を持ち、その力を使って魔法を扱えるモノならば誰にでも精霊と契約させて力を与えられるという魔道具なのだろう。


(し、信じられん・・・・そ、そんな事って_______)


 目の前で見せられたものの、オーマには信じがたい事実だった。

この魔道具はオーマの常識・・・いや、現代の大陸での魔法の常識からも完全に逸脱している魔道具だ。

何故なら、この魔道具は一言で言ってしまえば、“STAGE7魔導士の製造機”なのだから・・・。

だが同時に、だからこそ“あの”第一貴族の強さの説得力を生んでいるわけでもある。

実際のところ、これくらいのモノが無いと、第一貴族達の強さは説明がつかないのだ。

それでもこの衝撃の事実に対して、オーマは動揺と困惑が隠せない。

 だが実は、オーマのその動揺に反して頭の中の方は非情に冷静になっていた。それは

帝国の第一貴族の強さの秘密を知れたという事実。

それが自分達にも利用できるという事実。

そして、この魔道具を独占できれば、反乱軍の手によって帝国の打倒すら可能だろうという事実。

これらの事実が、オーマの心の動揺とは裏腹に、オーマの頭の中を感情的ではなく打算的にさせていた。


(これを教えたという事は、フェンダーはやはり本気で仲間になるつもりなのか?もし、これを独占できれば、もうその時点で帝国を打倒できるのでは?これは持ち出せるのか?もう勇者候補たちを呼ぶか?いや、まだ事実確認が・・・どうする?フェンダーの意志確認も兼ねて、今ここで俺に使用してもらうよう要求すると言うのはどうだろう?でも、先代の勇者リッツァーノ様の力を模したからといって、何故姿まで?・・・・)


 頭の中で冷静にこの状況と、これからの事について様々な計算する中で、同時にオーマの頭には数々の疑問が生まれて来ていた。

それは当然、今後のためにもフェンダーに応えてもらわねばならない疑問だ。


(フェンダーが本気で仲間になるつもりなら、答えてくれるはずだ・・・・)


 オーマはそう判断している。そして、オーマのこの判断は当然正解である。

 オーマはまだ完全にはフェンダーを信じきれていないが、フェンダーは本気で仲間になるつもりだし、どんな事が有ってもクラースから皇帝ルーリーを護りたいと思っている。己を犠牲にしてもだ。

だからオーマが質問すれば、何を聞かれてもフェンダーは答えるつもりでいる_____そのはずだった。


 だが運が悪かった


数ある質問の中で、オーマが最初に選んだ質問は、二人にとって最悪の結果を呼ぶ質問だった_____。


 「でも、どうやってこんな魔道具を作ったのですか?」

「ん・・・・・・・・・」


この質問に、フェンダーの震えがピタリと止まった。

オーマはフェンダーが質問に答えるために冷静になったのだと判断していたが、そうではなかった。


「だってこれは、要は英霊の勇者リッツァーノ・トレステバイン様の力を再現したという魔道具ですよね?」

「ん・・・・・・」

「いや、まあ、恐らく、カスミが作っただろうという事は察しが付くのですが、こんな、勇者の力を再現する様な非常識な魔道具が作れるなんて、どういうことかと・・・」

「・・・・・・」


 フェンダーは目を細めて下向く・・・気配も沈んでいる事から演技ではない。

何か言いづらい・・・口が重くなる理由があるのだろう。

オーマもフェンダーの気持ちが沈んだ事に気が付き、それを察したが、それ以上に疑問の答えを欲していたため、口を止められなかった。


「こんなことが出来るのなら、大陸制覇なんてもっと簡単に出来ていたじゃないですか」

「・・・・・・・」

「あ、それとも、誰にでも使える代わりに、人数に制限があるとか?」

「・・・・ない」


フェンダーは沈んだ表情、気配、声でぼそりとそれだけ答えた。


「・・・そ、そうですか。でも、それだったら、尚更これほどの魔道具を作れる技術を、何故ほかで利用しないのかと_______」

「_____ない」


フェンダーは沈んだ表情、気配、声だが、今度は低く強く答えた。


「は?」


 そして遂にフェンダーの口から、事実と憤りがこぼれ落ちた______。


「そんな魔法技術は無い。大陸の最先端の魔法技術を持つとはいえ、この世で究極の力を持つ存在である勇者の力を再現する様な技術なんて、帝国どころか大陸にもない」

「え?・・・あ・・じゃ、じゃあ、これはどうやって作ったのですか?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・?」

「・・・作っていない」

「はい?あ、あの、一体どういう・・・?」

「作ったんじゃない。“変えた”のだ」

「・・・・・変えた?」

「変えたって何をですか?何か貴重な品を素材のベースにしているという事ですか?」

「・・・・・・」

「・・・あ、あの・・・」

「・・・リッツァーノ様だ」

「・・・・は?」

「リッツァーノ様・・・ご自身を変えて作られたのだ・・・これは」

「___________」


オーマにはフェンダーの言っている意味が分からない・・・・いや、オーマ自身が理解する事を避けているのかもしれない・・・・。

 オーマはこの時点で、薄々答えに辿り着いているのだ。

ただ、その答えにはモヤが掛かっており、オーマはそのモヤを晴らせない・・・晴らす気になれていない。

 だがそれとは逆に、フェンダーの方はそこまで言ってしまった為か、開き直る様な様子ではっきり言いきったのだった。


「これはリッツァーノ様を模して作った魔道具なのではない。リッツァーノ様ご本人を魔道具に変えたのだ」

「________あ?」


オーマの視界がグラリと揺れた・・・・。


何故_____?


どうやって______?


_____と、そんな、“理由”や“方法”を問う疑問ももちろん頭の中を過った・・・だが、それ以上に


やっていいのか_______?


許されるのか______?


_____と、オーマは“理由”や“方法”以上に、“倫理”と“正義”を問いていた。


 別にオーマは善人ではない。

特に軍人に成ってからは、目的のために非道な手段だってとった事がある。

“勇者ろうらく作戦”がいい例だ。


(だが・・・だが、それでも______)


それでもオーマなりの道徳と正義はある。

例え、矛盾しているだの偽善者だの言われようとも、オーマなりの“一線”はあり、それを護って来たつもりだ。


(こんなのは・・・こんなことは・・・・)


だが、この第一貴族の所業はその一線を簡単に超えていた。

その一番の理由は_____


(______勇者だぞ!?)


 この世界を崩壊、または支配しようという魔王という存在から世をも守り、人々を助ける存在。

それがこのファーディー大陸における勇者という存在だ。

もし、これまでの魔王大戦で一度でも勇者が誕生しなかったら、世界は魔王の手に落ちていただろう。

つまりは勇者とは・・・この世界の勇者とは、この大陸に生きる全ての人々の命の恩人なのだ。

オーマは自分の恩人・・・オルドやデネファー、そしてヴァリネス達サンダーラッツの隊長達だけには非道な行いなどできない。

もし、彼らにこんな事をするくらいなら、オーマは真面目に死んだ方がマシだと考えるだろう。

 だからこそ思う。


(自分達を救った恩人に対して、どうしてこんなマネができる・・・・?)


その疑問が強く頭に響き、腹の底ではグラグラと怒りが煮え始めている・・・・。


「ど、どうやったら・・・・」


“どうやったら、こんな非道な行いができるんだ!?”_____そう言いたかったが、怒りと恐怖で声が上手く出なかった。

それをフェンダーは別の意図の質問と解釈して、その質問に答えた。


「情だよ・・・・」

「______!?」

「先代の勇者リッツァーノ様は、エルフの血を引いていたためか、心底カスミに惚れていたのだ」

「・・・・・」

「カスミはその情につけ込んで、当時の第一貴族の者達と協力し、リッツァーノ様に心を操る精神魔法を掛ける事に成功した。そして先ず、一人の第一貴族が一体の大精霊と契約し、体が劣化しない様に生きた石像にして、リッツァーノ様を精霊と契約するための魔道具に変えたのだ」

「・・・・・あ゛?」


続けて明かされた事実に、オーマの怒りのボルテージは更に上昇するのだった_____。

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