魔都への帰還(1)
ダマハラダ砂漠での戦いを終えたオーマ達サンダーラッツ。
そのまましばらくの間はココチア連邦を牽制するため、野営地に駐屯するよう命令されていた。
その後、ココチア連邦がドネレイム帝国との和平会談に応じると、ドネレイム帝国とココチア連邦の戦いの場はテーブルへと移行し、サンダーラッツにも帰還命令が下り、オーマ達はサンダーラッツ並びにラヴィーネ・リッターオルデンを連れて帝都へと帰還する
そうしてオーマ達がドネレイム帝国の首都へと帰還する頃には、月日は1か月以上流れおり、暦は6月手前にまで進んでいた______。
FD921年、5月下旬、帝都ドネステレイア______。
「_____へっくし!」
「なになに?ミューラー君風邪ひいたの?大丈夫?そう、ダメなのね。任せて!今夜はお姉さんが一肌で_____」
「ぬぅぁああ!!うっとおしぃい!」
ヴァリネスの畳み掛ける様なアプローチに対して、ミューラーは心底うっとおしいという態度をとる。
因みにヴァリネスには、まったく堪えていない。
「でも真面目に大丈夫ですか?ミューラー?」
「ロジ・・・」
「帝都に戻って来て、気候が大分変わりましたから。ボクたちは遠征軍で慣れていますが、短い期間で気候の違う地域を移動するのは大変ですよ?」
「・・・確かに真夏から春に戻って来たような感覚で、体は戸惑っているみたいだが、でも、まあ、大丈夫。少し肌寒いくらいだ」
「それ、風邪の引き始めじゃないですか?」
「?____おい」
そう言ってロジは、ミューラーのおでこに自分のおでこをくっつけた。
「ホモォオオオオオオオオオオオ!!」
そしてユイラから“腐のオーラ”が放たれた______。
「うおっ!?ユイラ、うるせーぞ!」
「だってミクネ、だってミクネ!ロジ×ミュラですよ!?美少年のツーショットですよ!?萌えませんか!?」
「・・・だってよ。どうなんだ?サレン?」
「だから私に聞かないでください!」
「サレン、照れなくてもいいのですよ?」
「素直になれよ」
「照れているわけでも、素直になれないわけでもありません!」
サレンは顔を赤らめながら、手をパタパタと振って拒否していた・・・。
「ふぅ・・・まったく、道中でも賑やかでしたが、帰って来てもうるさいですわね。帰国したのですから少しは寛げばいいのに・・・落ち着きませんわ」
「コレルがそんなこと言うって珍しいね(笑)」
「からかわないでくださいませ、アデリナ様。アデリナ様は不快に感じないのですか?」
「ああ、私はこういう賑やかなのは嫌いじゃないね」
「うぅ・・・その社交性が羨ましいですわ」
「そういう事ならお任せだよ!コレルちゃん♪」
「キャァアアアア!!」
_____ドンドンドン!
「うぉおおおおお!?コレルちゃん!さすがに街中で魔法はダメだよ!?」
「うっさいですわ!!この変態!なら近寄らないでくださいまし!!」
「そんな・・・よー、サスゴット、どうして俺はコレルちゃんに嫌われているんだ?」
「・・・・自覚無かったのか?」
「え・・・・」
やはり、自分達の居場所に帰って来るとはしゃぎたくなるのか、こんな調子で、他所ではフランやコレル達も羽目を外し始めていた______。
「むぅ・・・どうすればサレンとこの感動を共有できるのでしょうねぇ・・・ねえ?ベルジィ?・・・・・あれ?ベルジィ?」
「そういえば、居ませんね」
「どうりであのクソオーラが出ていないわけだ」
「クソオーラは心外ですよ!?ミクネ!」
いつもなら、こういうときに真っ先に腐のオーラを放つはずのベルジィからの反応がなく、ユイラたちは少し戸惑う。
そうして周囲を探してみれば、ベルジィはいつの間にかオーマの隣に立っていた。
「あ・・・・」
「____っと」
オーマの隣を歩いていたベルジィは、急にフラついて体をぐらつかせたかと思えば____トスっとオーマの懐に収まった。
「「____む!?」」
瞬間殺気が放たれる_____。
その事に嫌な予感を覚えるオーマだが、努めて無視してベルジィの方に意識を向けた。
「だ、大丈夫か?ベルジィ?」
「すいません。オーマ団長。今までスラルバンを出たことが無かったものですから、少し体調を崩してしまいました」
「そ、そうか・・・それは無理も無いな」
「・・・団長?すみませんが、もう少しこのままでもいいですか?」
「え?あ、ああ、ま、まあ、それくらいなら_____」
「「____よくない!」」
と、ジェネリーとレインの二人が、ベルジィの手を片方ずつとって引っ張り、オーマから引っぺがした。
「____あん」
「お、おいおい二人共、ベルジィは体調を崩しているんだぞ?」
「兄様、そんな訳ねーです」
「は?」
「オーマ団長、よく考えてみてください。これは、“あの”幻惑の勇者ベルジィですよ?薬学に精通していて薬物魔法まで扱える魔導士が、こんな事で体調を崩すなんてないですよ」
「兄様もソノア・エリクシールで、その品揃えは見ているでしょう?」
「あ・・・そういえば」
「_____チッ」
言われて思い返してみれば、ソノア・エリクシールには様々な薬品が置いてあった。
化粧品から農薬まで種類が豊富で、医療薬に関しても、腹痛、頭痛、二日酔い、解熱から、不眠症、精神安定剤と、医者いらずなほどの商品が並べられていた。
それらを使えば、多少の体調不良など問題にはならないだろう。
「ずいぶん手の込んだマネしますね、ベルジィ」
「・・・何の事ですか?」
「ふん、とぼけても無駄だ。オーマ団長は気付いていらっしゃらないが、我々には貴方の“本当の気持ち”など、もうとっくにモロバレだ」
「フレイス加入を切っ掛けに、隠さなくなりましたよね!」
「そうでしょうか?」
「「そうだよ!」」
ジェネリーとレインの指摘は正しい。
フレイスの「全員“オーマの女”でいいだろう」という開放的過ぎる発言が出て以降、ベルジィは事あるごとにオーマに近づいていた。
最初はフレイスがオーマとイチャついている時に、フレイスから「一緒にどうだ?」と誘われて、“じゃあ、せっかくだから・・・”というスタンスで加わって、オーマとスキンシップをとるだけだったのだが、帝都に戻る道中でベルジィはどんどん積極的になり、気が付けば一人でオーマとイチャつくようになっていた。
「最初は“腐女子”なんて呼ばれて、恋愛に興味なさげだったというのに・・・」
「さすが策士ですね。どうしてくれましょう?」
「策士とは人聞きが悪いですね」
「いーや、策士です。兄様に異性を意識させずに距離を詰めるという芸当含めて、相当な手練れです」
「まさしくだ。どうしてくれようか?」
「お、おいおい、お前達・・・」
ジェネリーとレインの“いつもの”不穏な空気を感じ取り、オーマは慌て始める。
と、そこに何とも覇気のある気配が近づいて来る。
そして_____
「____どうしてくれようも何もない。一緒にイチャつけばいいだろう?」
_____ドンッ!
「「____あう」」
「_____と」
後ろからフレイスに押されて、ジェネリーとレインはオーマの胸にダイブした。
「ちょ!?何をするのですか!?フレイス!?」
「そうです!ありがたいじゃないですか!」
「ありがたいなら、いいじゃないか・・・とにかくケンカするな。みなでイチャつけば良かろう?」
「うぅ・・・で、でも・・・」
「そう簡単にはいかないだろう。貴方と違ってそんなに直ぐには割り切れないんだ。こっちは・・・」
「ふむ、そうか。だが、だからってオーマも、そんな毎回目の前で自分の女がケンカする様は見たくないはずだ。なあ?オーマ?」
「お、俺に聞くんじゃねーよ」
「・・・他に誰に聞けというんだ?」
「それでも俺に聞くんじゃねー」
これからこの帝都で自分達の身に何が起こるのかを知らないオーマ達は、新たな仲間とのスキンシップと、故郷への帰還を楽しむのだった______。




