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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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海賊討伐(後半)

 海賊討伐を終えたオーマ、ヴァリネス、ロジの三人は、縛り上げた海賊達を船の船庫で見張っていた。

ゴットンから報酬を貰える事になり、それならばと、オーマ達三人は傭兵らしく捕らえた海賊達の見張りを買って出たのだ。

 船の倉庫でしばらく波に揺らされていると、ドアがノックされ、船員が顔を出してきた。


「あの、すいません、皆さん。上の甲板に来ていただけますか?」

「どうした?」

「はい。今、港に向かう途中で海軍船を発見したので、引き渡しのため合流しようとしたのですが、様子がおかしくて・・・それで皆様を呼んで来るよう言われました」

「様子が変?」

「分かった、じゃーこいつらの見張りを頼む」

「はい、了解です」


 見張りを代わってもらって、三人は甲板に出た____。


「おーい!」


三人に気付いたゴットンから声が掛かる。

声の方へ振り向くと、船の後ろにある舵の近くに操舵手と一緒にゴットンは居たので、そちらに向かう。


「ゴットンさん、呼ばれて来たけど、見つけた海軍の様子が変なんだって?」

「ああ、そうなんだ。ちょっとコイツで見てくれ」


 ゴットンに望遠鏡を渡され、オーマはゴットンが指差す方を望遠鏡で覗き込んだ。

そこには一隻の海軍船と、二隻の船が海上で停止している。

 望遠鏡から辛うじて甲板の様子が見える。

海軍船の甲板には海兵が、その海軍船と隣接している船の甲板には海兵と海賊と民間人、そしてもう一隻の船の甲板には海賊と海兵らしき女の子と、海賊に羽交い絞めにされている民間人がいる。


「・・・人質か?」


どうやら、海軍が海賊を捕まえようとしたが、人質を取られて動けず、膠着状態のようだ。


 ヴァリネスやロジにも確認してもらい、ゴットンも交えて四人で状況を推理する。

 まず、海軍船以外の二隻に、ゴットンは見覚えがあるそうで、どちらも商船だと言う。

ならば恐らく、港での騒ぎで慌てて船を出して、潜んでいた海賊に乗っ取られたのだろう。

その二隻に海軍が乗り込んで、海賊を制圧して民間人を救出しようとして、人質を取られてしまったのだろう。

 そこまで状況を把握できたが、オーマには理解できないことが一つ有った。


「・・・・何で、片方は女の子一人なんだ?・・・(それにあの子見覚えが・・・)」


二隻同時に乗り込んで制圧する作戦で、片方が一人というのは常識的にあり得ない。

 誰かからの返事を期待して呟いたのでは無かったが、意外にもゴットンがオーマの疑問に答えてくれた。


「それは多分、あの子がレイン・ライフィードだからだよ」


「「!?」」


ゴットンの口にした人物名に、三人は大きく反応した。


「どうした?」


あまりに大きな反応だったのか、ゴットンが少し驚いた様子を見せた。


「い、いえ!今、“ライフィード”って言ったでしょ!?それってまさか~、ってさ・・・」

「ああ・・・そうだよ。レイン・ライフィード、このベルヘラの領主プロトス・ライフィードの一人娘だ」

「そうか・・・あの子が・・・(どおりで見覚えがある気がしたんだ)」


 傭兵を名乗り、軍などと関われればいつか出会える。そう思っていたが、こうも早くチャンスに巡り合えるとは思っていなかった。

オーマは改めて、今回のメインターゲットの女の子を確認する。そして、ここで必ず接触できるよう事件に関わることを決め、彼女の周囲も注意深く観察する。

手分けするように、ヴァリネスとロジがゴットンからレインの情報を聞き出す。


「なんでレインって分かるの?」

「あの子も、オルス団長と同じで電撃魔法を使う子なんだよ。ただ昔、その力で味方を巻き込む事故を起こしたことがあるらしい。魔法の事は詳しくないが、上手く制御できなかったのだろう。だからあの子を単騎で戦わせたんじゃないか?街で、海賊や強盗団なんかを一人で相手にしている所なら、見たことが有る」

「ふーん、確かに雷属性は味方を巻き込みやすいもんね」

「二隻同時に制圧するには人手が足りない。だから片方をレインさん一人にして戦い易くした。という事ですか・・・でも」

「ええ、両方に人質が居るんじゃあまり良い手ではないわ、実際失敗してるし・・・」


とはいえ、緊急の状況では他に方法は無かったのかもしれない・・・・それに正直に言ってしまえば、オーマ達にとっては都合がいい。


「それで、お前さん達どうする?別に、私は無理に関わらなくてもいいのだが」


「「いや、助太刀する」」


「そうか・・・まあ、名を売るならそうだろうな。それで?策は有るのか?」


そう言われて、状況を確認したオーマが不敵な笑みを見せる。


「ああ、有るよ。手を借りても?」

「構わんよ。お前さん達とも海軍とも懇意にしたいからな」

「ありがとう。じゃあ____」


オーマは三人に作戦の内容を説明した_____。






 レインは眉間にシワを作り、憤怒の表情を見せている。

レインの怒りの矛先は二つ、一つは目の前にいる人質を取って笑みを浮かべている海賊に、もう一つは自分に対してだった。


(何で私はいつも肝心な所で失敗するのだ!!)


 決して油断していたわけじゃない。船庫に押し込められた人質の見張りは、数人は居ると思っていた。

だがそいつらは、甲板に居る海賊達を全員倒してしまえば大丈夫だったはずだ。

ダグラス船長達は、もう片方の船の海賊達を既に制圧しているのだ。

ならば後は、自分がこの船の甲板上の海賊を倒せば、残った数人の見張りは投降するしかなく、作戦は成功するはずだった。

 だが失敗した。

思っていた以上に甲板上の海賊達の掃討に時間が掛かってしまった。

 原因は分かっている。レイン自身の未熟さだ。

海賊達への憎悪、自身の能力へのコンプレックス、父からの期待、人質を早く助けたいという焦り。様々な思いがプレッシャーとなってしまい、隙の多い雑な攻撃を生んでしまった。

 結果、甲板の海賊達を複数人残したまま、人質を使われる羽目になってしまった。


「オラァ!!下がれよ!!それと、あっちの捕まえた仲間を解放しろ!でなきゃコイツがどうなるか分かっているよな!?」

「くっ・・・・」


レインは無言のまま、数歩後ろに下がる。

 レインが下がったのを確認して、その海賊は、今度はもう一隻の船にいる海軍へと声を張り上げる。


「オイッ!!そっちの船!聞こえていただろ!?俺達の仲間を解放しろ!!」

「・・・・・」

「聞いてんのか!?こっちには他にも人質が居るんだぞ!!」

「・・・分かった!!なら今から民間人を我々の船に移す!それまで待ってくれ!」

「ふざけんな!!そいつらもお前らも人質だ!いいから早く仲間の縄を解け!!」

「それはできない!!我々が人質になるのは構わん!!だが民間人はダメだ!その要求は絶対に呑めない!」

「チッ・・・・なら早くしろ!!」

「分かった!少し待ってくれ!」


 ダグラスが部下に指示を出すと、海軍船に板が下ろされ、民間人を海軍船に移す作業が始まる。

当然、時間を稼ぐため、安全性を重視するという名目で、作業はゆっくり行われる。

 その間も、レインは油断せず身構えながら現状を打破すべく頭を働かせるが、良い案は思い浮かばない。


(クソッ!どうする!?)


 相手のスキを突こうにも、向こうも長期戦になると考えたのか、人質の見張りを交代している。さらに、レインが倒した海賊達も少しずつ回復し始めている。

状況はますます不利になっていく。

ダグラス船長の方を見れば、ダグラスも眉間にシワを寄せて額から汗を流している。

状況を変えられず、動けない。

 そんなレイン達に、さらに眉間のシワが深くなる事態が起こった。


「11時の方向から船が接近中!!」

「何の船だ!?」


 海軍も海賊も全員が警戒しつつ、注意をそちらに向ける。

レインはその船を見て、さらに険しい表情になる・・・・・軍船ではない。

この場に近づいて来る船で、軍船でないのなら、味方の可能性は低い。

 そして、そのレインの予想通りの報告が、敵と味方両方から入った。


「ダグラス船長!!船に海賊!!民間人を人質に取っています!」

「ザックの兄貴!ありゃー味方だぜ!こっちに接舷の許可を求めてる!」

「ヘヘヘ・・・よーし、分かった!接舷準備!!」


ザックと呼ばれた敵のリーダーの指示で、数人の海賊達が動き出し、すぐに船は接舷された。

 ザックが味方を迎えに行くと、その味方にザックは少し違和感を抱いた。

民間人を人質にしている海賊達に見覚えが無い。

それ以外の者達も、海賊帽を深く被っていたり、口元にバンダナで隠していたりして顔が良く分からない。


「ん?妙だな?どこの班だ?」


 ザックの所属する海賊組織は大きい。

構成員の人数も多いし、出入りも激しい。自分の班の者ならともかく、他の班の下っ端の顔と名前までは覚えていない。

 しかし、それでも見知らぬ者が多いと感じる。


「お前ら!どこの班だ!?」

「おーい!ザック!俺だぁ!」


向こうの船の人ごみから、ザックの見知った人物が姿を見せた。


「ん?ああ、バリーじゃねぇか。そっちは上手くいったみたいだな!」

「・・ま、まあな!そっちは、てこずっているようだな!」

「フン!ブルーライフィード相手じゃ仕方ないだろ!だが、それももう片付く!」

「ほう!さすがだな!なら、ちょっと相談が有るんだが・・・今いいか?」


 ザックは一度ブルーライフィード号を見て、まだ民間人を移す作業が終わっていないことを確認する。

それから、作業が終わっていないことにイラつき一度舌打ちして、バリーの相談を聞くことにした。


「何だぁ?相談って?」

「ちょっと見てほしい奴が居るんだ・・・おい!」


 バリーに呼ばれ、一人の海賊が人を肩に担いでザックの居る船に乗り移ってきた。

肩に担いでいるため、ザックからは下半身しか見えないが、服装から女だと分かる。

その海賊がザックの前までやって来ると、担いでいた人物を下ろし、ザックの方を向かせた。


「この女は・・・?」


 ザックの見覚えの無い女だった・・・人質ではあるのだろう両手足は縛られている。

小柄で、服は白を貴重とした高級感のあるドレスで、裕福層の人間だと思われる。

だが、目を引くのはその女の容姿だった。

水色のサラサラな髪を肩まで伸ばし、やや童顔だが妙に色気がある。

こんな状況なのに、一瞬だがザックの欲心に火が点くほどだった。

 バリーに誰なのか尋ねようとしたが、その前に逆に質問された。


「その女、知っているか?」

「いや・・・知らん」

「そうか・・・いや、その女の身元を知りたくてな」

「お前はゴットンの船を担当していたよな?奴の愛人かなんかじゃないのか?奴は何て言っていた?」

「そうじゃないらしい。ゴットンが言うには、金二千枚を払うから素性を聞かず乗せてくれと頼まれて、乗せたそうだ」

「金二千・・・・・船に乗るだけでか?船ごと買えるぞ?」

「ああ、だから調べたくてな。大手の商人や、ベルヘラの高官達の人間関係は調べてあるが、この女の素性は分からなくてな。どのくらいの位置の人質として扱うか、判断が付かないんだ」

「うーん・・・」


 ザック達の所属する海賊団は、この街では一番の犯罪組織だ。

単純な強盗だけじゃなく、権力者や資産家との癒着もある。

ゆえに、この女がただの愛人等であれば慰み者にでもできるが、もし裕福層、特に自分達の“お得意様”と関係の有る人物なら扱いは慎重でなくてはならない。

今する話ではないとザックは思いつつも、バリーの気持ちも分からないでもなかった。


「・・・俺の方でも分からん。一先ず身元が分かるまで、客人待遇にするしかないんじゃないか?」

「そうか、お前も知らんか・・・部下も全員知らないか?」

「ふむ・・・おい!起きている奴で、この女のこと知っている奴は!?」


 そう言って部下の方を向いてザックが隙を見せた瞬間、人質の女が縛られた両手を前に出して魔法を発動した。


「アクアウェイブ!」


女の使った魔法に海賊達は一瞬ハッとする。

だが、使用した水属性の魔法は範囲こそ広く、船の甲板一帯に水の波が広がったが、破壊力は皆無で数人の海賊達と床を濡らしただけだった。


「魔法持ちか!?てめぇ!マジで何モンだ!?」


魔法を使用した相手に、ザックの表情は怒りと警戒の色を見せる。だが、


「今だ!!飛べ!ロジ!」


 それまでずっと女の後ろで立っていた、女を連れてきた海賊がそう叫んだ。

それを合図に人質の女は跳躍する。両手足の縄は元々結ばれていなかったのかスルリと落ちた。

他の海賊達が呆気に取られている中、警戒していたザックは女の跳躍に反応することができた。

そして、すぐに迎撃体勢を取ったが、それが判断ミスだと気付いたのは、女に指示を出した海賊が視界に入った時だった。

海賊の方を見てみると、その海賊の両手からも魔法の術式が光っていた。

しかも、その光はバチバチと電気を帯びている。

 ザックがそれを視界で捉えた時、女が水属性の魔法を使用した意味を理解し、警戒すべきはこっちの海賊の方だったと後悔した。

そして、その後悔は、当然遅すぎた___。


「サンダー!」


 海賊に扮したオーマが床に手をついて、魔法を発動する。

発生した電気は、先のロジの魔法で濡れた床を駆け巡り、そこに居る者達を全員感電させた。

民間人の人質が居るので威力は抑えてあり、体が一瞬痺れて動けなくなる程度だ。

 だが、その一瞬でロジは易々と人質との距離を詰めて、海賊から人質を救出すると、そのまま人質を抱えて海に飛び込んだ____。


「救護班!急いで二人を救助して!」

「はい!」


バリーの後ろでナイフを突き付けていたヴァリネスが、海賊に変装していたゴットン商会の船員達に指示を出す。


「あー・・後、あなたの役目も終わりよ、ご苦労様!」


バリーに別れを告げて、ヴァリネスは当て身でバリーを眠らせた。

 そして、残りの海賊達を一掃するべく、追撃に移ろうとしているオーマに加勢しようと船を渡ろうとした、次の瞬間____


_____ズガガガガーーーン!!


「「!?」」


 周囲が眩しいほど輝いた後、落雷が落ちたような大きな音が鳴り響く____。

それに、海賊達を追撃をしようとしていたオーマとヴァリネスの動きと思考が止まった。

その後に二人の視界に飛び込んできたのは、先程まで立っていた海賊達が全員倒れ伏している姿だった。


「・・・・こ、これは?」

「な、何?今の・・・・」


 オーマもヴァリネスも、上手く言葉が出てこない。

二人共、今のが雷撃魔法だと分かっているし、その魔法を使用した人物も実は見ていた。

二人とも追撃に入る前にその女の子を見た時、その女の子が光と共に消え、音と共に現れたのをしっかりと見ていたが、頭の中では全く理解が追いついていなかった。

 そんな二人を他所に、残った海賊達を一瞬で仕留めたその女の子は、立ち上がって真っ直ぐオーマの前まで歩いて来て頭を下げた。


「ご協力感謝します!私の名はレイン・ライフィード。プロトス提督の代理として、この艦隊の指揮を執っています。よろしければ貴方のお名前を聞かせてもらえないだろうか?」

「うぇ!?あ、ああ・・・失礼。私の名はオルス・ロイゲル。雷鳴の戦慄団という傭兵団の団長をしております」

「雷鳴の戦慄団ですか・・・申し訳ありません。初耳です」

「お気になさらずに。この地域には最近来たばかりです。今回のゴットン商会の護衛がベルヘラでの初仕事ですから」

「そうでしたか。あの・・・それで、お手数ですが今回の事件で詳しい聴取を取りたいのですが、ご協力いただけますか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます」


 レインはもう一度頭を下げてから、ダグラス船長と共に海兵達に後始末の指示を出し、オーマ達を自分達の船へと案内した____。

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