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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間:陰謀の向かう先
339/376

ドネレイム帝国の最高意思決定機関

 ダマハラダ砂漠での戦いが終わった数日後_____。


 ドネレイム帝国の首都ドネステレイヤ。その本城、ドミネクレイム城にあるクラースの政務室。

 部屋を入って右手の扉を開けると、窓も無い、人が数人入るのがやっとな小部屋がある。

その部屋には、盗聴や透視を阻害する強力な魔法が、室内の床、壁、天井に施されており、クラースの様な支配階級の者達が密談するには、うってつけの場所となっている。

部屋の中央には高級木材で作られた丸テーブルが置かれ、それを中心に、上から見ると正三角形を描く様に全く同じ装飾の椅子が三つ配置されている。

更に床には段差がなく、綺麗な絨毯が三つの椅子に均等な面積で惹かれている。

主従関係を現す装飾や段差が一切無い部屋なのだ。

そのため、この部屋は招かれた者が、この部屋の主人であるクラースと対等であることを示している。

 事実上、帝国の実権を握っている帝国宰相、クラース・スキーマ・エネル。

この男と対等の立場になれる人物は限られる。

普段、部屋に呼ばれるのは、クラースと共に『三大貴族』と呼ばれている二人の第一貴族の男達。

軍の総督にして外交の最高責任者であるトウジン家の現当主、トウジン・ミタツ・マサノリ。

それと、ガロンド家の現当主を務め、皇帝を護る近衛騎士師団、ゴールド・ゲニウス・ナイツの団長であるフェンダー・ブロス・ガロンドだ。

皇帝ルーリーはまだ若く、国政に対して実務をこなす機会は少ないため、この部屋に呼ばれるのは、いつもこの二人だった。

 だが今日は、いつもフェンダーが座る席に、ドネレイム帝国の魔法研究機関『ウーグス』の所長であるカスミ・ゲツレイが着いていた。

三大貴族では無いものの、彼女もまたクラースと対等に位置する存在だ。

 _____いや、このマサノリとカスミの二人こそが、“本来”クラースが対等と見ている二人だった。

そのため、クラース、マサノリ、カスミの三人がこの部屋で行う会議は、事実上、ドネレイム帝国の最高意思決定機関の会議と呼べるだろう_______。




 「凄まじい戦闘力だな、フレイスは。あのフェンダーすら圧倒するとは」

「大苦戦だったそうですが、これで勇者候補を全員揃えることが出来ましたね」

「ああ、後はココチア連邦と休戦協定を結べば、一先ずこの大陸で我々と敵対する勢力は無くなる。マサノリ、そっちの準備はどうだ?」

「順調だよ。ココチアに潜伏している密偵達と連携して話を進めていたが、ダマハラダ砂漠での勝敗とその内容も良かった。ココチは拒否しないだろう」

「それが済めば、仮に、今いる勇者候補の中から本物の勇者が誕生しなかったとしても、勇者に敵対される心配は無くなる」

「勇者候補の中から、万が一、本物の勇者が出なかった場合を想定した、この大陸から対立勢力を失くすという手筈も整ったのですね。なら______」

「ああ、これで、いよいよ計画を次の段階に移せる。オーマとフェンダーの処分だ」


ドネレイム帝国の最高意思決定機関の会議の場で、クラースは不敵な笑みでそう宣言した。


 「はぁ・・・クラース、やはりフェンダーは処分なさるのですか?」


カスミが少し拗ねた様なトーンと表情でクラースにごねた。

 クラースはそんなカスミに、好意も嫌悪も示さずに整然とした態度(クラースがすると冷徹に見える)で答えた。


「奴はこちらを裏切るつもりなのだ。当然だろう?」

「それなのですが、本当ですか?マサノリ?」

「私の慧眼を疑うのか?」

「いえ、そうは言いませんが・・・はあ、もったいない」


カスミはまるで、“お気に入りの玩具を親に募集された子供”の様だった。

帝国の支柱である三大貴族の一角、ガロンド家の当主を切るという話のはずだが、クラースとマサノリの二人は勿論、カスミの態度もこんなものだった。


「それでなくとも、奴は目障りだったのだ。もう少し融通が利く奴ならば共存も有り得ただろうが、皇帝に対する忠誠心が強過ぎた」

「あれでは皇帝を傀儡にするのに邪魔になるからな」

「では、どちらにしろ処分するつもりだったのではないですか、何故言ってくれなかったのです?」

「いや、戦力的には役に立つから、操れるのであれば生かしておく余地もあったのだ。だが、こちらを裏切るというのなら殺るしかあるまい。ちょうど奴は今、帝都を離れている。タイミングもいい。カスミ、手伝ってもらうぞ」

「私がですか?」

「フェンダーを殺るなら、それなりの人物がいる。数ではどうにもならんからな。だが、マサノリにはココチア連邦と決着をつけてもらわなければならん」

「私と貴方だけで殺れますか?彼だけならともかく、ゴールド・ゲニウス・ナイツなら彼に付く可能性も有るでしょう?他の彼と親しい貴族だっていますし」

「いや、奴は帰還したら、ゴールド・ゲニウス・ナイツとも他の貴族とも離れて一人、あるいは二人になって、殺るチャンスが絶対にある」

「そう言い切れるのは何故です?」

「奴はオーマ・ロブレムを味方に付けるはずだからな」

「まあ、今の帝国を打倒するなら、勇者候補6人揃っている反乱軍しかないからな」

「そして、我々側の立場である奴は、オーマから信頼を得るために必ずオーマと二人きりになるはずだ。その動きも予想がつく」

「フェンダーが、どうやってオーマから信頼を得るのかまで分かっているですか?」

「もちろんだ。生真面目で騎士道精神旺盛な奴の行動パターンは単純だ」

「彼は何をするのです?」

「“誠意”だ。奴は奴なりの最大限の“誠意”をオーマに見せようとするはずだ」

「ふむ、フェンダーがオーマに見せられる最大限の誠意か・・・なら一つしかないな」

「ああ、そこに罠を張る_____」

「お二人共、私、その“誠意”が何なのか分かっていないのですが?手を貸せと言うのなら、ちゃんと説明してくださいませ」

「ああ、つまり奴は_____」


 こうして、ドネレイム帝国最高意思決定機関で、オーマとフェンダーの処分が決まり、クラースは帰還してくるサンダーラッツに罠を用意して歓迎するのだった______。






 “長く、身が凍るような冬が終わって、春が訪れる

春の訪れを祝い、皆の心に光が差せば、ワインが落ちる

こぼれたワインが広がること無く、地にしみ込んでいけば、それは疫病の始まりだ

疫病は地獄の業火でも燃え尽きず、神の罰を受けても裁かれない

陽の光とは対立し、時に夢を見て、時に立ち止まる

そうして自殺の五芒星を描き、六つの星が欠ける夜を迎え、世に平穏をもたらす王が誕生する”


 カスミが“神の予言”の力を使って得た、魔王の存在を指し示す文章。

今だ、カスミでもひも解くことが出来ていない予言だ。


 「あっは――――――♪」


 心底嬉しく、高揚を抑えられない様子で、何かを確信したという自信に満ちた声が響く。

暗く、異質な空間で、その場と雰囲気にそぐわない女性の高笑い。

だが、その声の主はその場にそぐう、人のモノではない邪悪な気配を漂わせている。

最上級魔族にして、前魔王軍最後の生き残りであるリデル・シュグネイアだった。


 「クックックックッ♪まさか魔王様が、そんなところに居たなんて・・・・・クッ♪」


 リデルはこの魔王の予言を、ついに解いた。

そして、その自身の答えが絶対に正しいという確信もあった。


「どうりで相性がいいと思っていたのよ。フフッ♪」


自分の新たな主人、その存在に確信を持ったリデルは歓喜と狂喜を混ぜ合わせ、文字通り嬉々としていた。

そして、もう、その気持ちを抑えられないといった態度で、高らかに宣言する。


「今!今迎えに参ります!魔王様!!いざ・・・______帝都へ!」


闇の中へと溶け込むようにその場を後にしたリデルは、魔族の希望を胸に、新たな主人の下へと馳せ参じるため、ドネレイム帝国の首都を目指すのだった_____。

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