加わる強者達(3)
「フレイス、どうしてそんな事がバークランドに伝わっているんだ?」
「バークランドが帝国になる前のバトリシアと呼ばれる小国だった頃、そこから勇者が誕生して、その勇者が語った言葉として残っている」
「________」
_____ただの憶測じゃない。
勇者本人の発言なら、簡単には否定できない。
もちろん、その勇者がハッタリやカッコつけで行った可能性も大いにあるが・・・・・。
「じゃあ、でも、それだったら、そのフレイスさんに敗北した方も勇者ではない?」
「少なくとも私はそう思っている。ジェネリー、レイン、ミクネ、サレン、フェンダー。皆、私に敗れているから違うと思う。この中で唯一、勇者の可能性が残っているのはベルジィだけだな」
「てか、それだったらアンタ何で勇者候補だって分かったときに喜んでいたのよ?」
「あん?」
「だって、あんたバークランド大戦で敗北しているじゃない?魔王意外に勇者は負けないんだったら、その時点で自分は勇者じゃないって分かっていたでしょ?」
「それは_____」
「それは?」
「_____だってカッコイイじゃないか、勇者なんて・・・」
「「はあ?」」
再びのフレイスの意外な発言に、サンダーラッツ一同の時が止まった。
「・・・ひ、ひょっとして、フレイス、勇者に憧れていたの?」
「当り前だろう!?だって勇者だぞ!?この大陸最強の存在で世界を救う英雄だ!自分が勇者と妄想した事だって一度や二度じゃない!!」
「「お、おお・・・」」
フレイスの圧と妄想までしていたという事実に、一同は引き気味だった・・・。
「だから誰が中二病ですか!ミューラー!!」
「言ってません。コレル」
「魔法を扱える騎士ならば、一度は勇者を夢見て勇者ごっこするでしょうがぁ!!“キモイ”とは何事です!!」
「だから言ってねーーーよ!!」
「・・・実はフレイスの事を一番バカにしているのって、コレルちゃんじゃね?」
「いや、あれは多分、天然だろう」
「フッ・・・感謝だコレル。いつもそうして私の性格を前向きにとらえてくれる」
「はい♪フレイス様♪」
「フ、フレイスも天然ですね・・・」
「何か、思ってたのと違う・・・」
「そうか?ある意味予想通りだろ?」
「確かに、バージアデパートの一件で、これは予想できた」
バークランド大戦時には気付けなかったが、バージアデパートでのオーマへの告白以降、サンダーラッツの一同は、“フレイスって違う意味でもヤバイんじゃね?”と思い始めていた。
そしてそれが今日、この宴で確信へと変わるのだった。
「フレイス、ぶっちゃけてもらって何だが、その・・バトリシア?出身の勇者の発言だけで、そうと決めつけるのは早計だと思うぞ?」
「ではオーマは、まだ私にも勇者の可能性が残っているというのか?」
「もちろんだ。むしろ、それだけの天賦の才と努力の才を持っているんだ。この中では一番可能性が高いと思うし、俺の中ではフレイスはもう勇者だよ」
「オーマ・・・・・ぽっ♪」
「・・・あれ?」
フレイスの表情がニヤけ、惚けた様な表情になる。
オーマは自分の発言した内容を振り返って、嫌な予感を覚えた。
「あ、い、いや、フレイス、今の発言はただの可能性の話しであって、別にお前を_____」
「嬉しいじゃないか、我が運命。そんな風に慰められたら、たまらんなぁ?」
「い、いや、だがら、慰めるとかじゃなくて、本当に純粋に____」
「いやぁ、たまらんなぁ・・・そうだな。もう日付も変わって大分経ったし、頃合いか?」
そう言って、ガタンッ!と勢いよくフレイスが席を立つ。
オーマは増々嫌な予感を覚えた。
「ど、どうしたフレイス?・・・頃合いってなんだ?」
「何だぁ?これだけ女を侍らせておきながら・・・鈍い奴だなぁ。深夜に恋人の男女がする事なんて一つだろ?」
「「_____ピキッ」」
勇者候補一同の額に青筋が浮かび上がる・・・。
「あう・・・・」
オーマは自分の予感が的中したのを理解した。
「さあ!オーマ!私の運命の人!初夜ろうじゃないかっっ!!」
「「ブーーーーー!!?」」
天幕の中に虹が掛かる____。皆が一斉に飲んでいた酒を拭いたからだ。
「な、なな、ななななな!何を言っとるかぁ!貴様ぁ!?」
「少しは慎みを持ってください!!」
「無論持っているぞ、私を何だと思っているんだサレン。こんな事はオーマ以外には言わないぞ?」
「そういう事じぇねーーーー!!」
「バークランドの女って、皆こんなかぁ!?」
「失礼な事言わないでくださいます!?こんなアホなこと言う変人はフレイス様だけです!!」
「コレル・・・・」
「と、とにかく!フレイスさんは、やっぱり普通じゃありません!!」
「いや、ダークエルフの“普通”を私に求められてもなぁ?」
「変わりませんよ!!普通は普通です!」
「何と言おうが、兄様との初夜なんて求めませんからっ!!」
「いや待て。それはズルいだろう?」
「ズルいってなんだ!?何がズルいんだ!?」
「だって、もうお前達は“して”いるのだろう?」
「「ブーーーーーーー!?」」
再び天幕の中に虹が掛かる____。皆がまたも一斉に飲んでいた酒を拭いたからだ。
「・・・・違うのか?勇者ろうらく作戦とはつまり、そういうものだろう?」
「な、ななななななな!?」
「何を言っているのですかぁあああ!?」
「なんだ?お前達、オーマとまだ“そういう関係”じゃなかったのか?」
「なっ!!!?」
「い、いや・・・」
「それは・・私含めて、全員まだのようですよ?フレイス」
「なんだベルジィもか?そうか、それで怒っていたのか。自分を差し置いて割り込まれたと」
「あ、いや、別にそういうわけじゃないのですが・・・」
「それで?順番はどうなっている?私の番はいつだ?」
「「ブーーーーーーーー!?」」
天幕の中に虹が掛かる____。皆が一斉に飲んでいた酒を拭いたからだ。
「い、いや、だから順番とかではなくてだな」
「うん?では複数人でか?」
「「ブーーーーーーーー!?」」
天幕の中に虹が掛かる____。皆が再び一斉に飲んでいた酒を拭いたからだ。
「まあ、オーマも色々と忙しい身ではあるからな。だが正直、私は経験が無いから複数人での情事に付いて行けるか分からんのだが・・・どうなんだ?オーマ?」
「俺に聞くんじゃね―――――!!」
「いや、オーマの情事をオーマ以外の誰に聞けと?」
「そもそもそれを聞くんじゃねーーーーーー!!」
「一旦落ち着いてください!フレイスさん!」
「私は落ち着いているのだが・・・」
「うるせぇ!順番とか人数とか決まっていないんだよ!」
「何ィ?なら、今日私がオーマと初夜ってもいいじゃないか」
「「ブーーーーーーーー!?」」
天幕の中に虹が掛かる____。
「そういうわけだ!オーマ!抱け!!」
「そんなんで抱けるかっ!!」
「な、何故に戦闘態勢で言っているんだろう・・・?」
「私が知るわけないです」
「ラヴィーネの皆さんからも何か言ってください!」
「「無理」」
ラヴィーネ・リッターオルデンの一同は、フレイスがこうなったら止まらない事を知っていた。
「何だぁ?そういう行為が嫌いなのか?」
「別にそういうわけじゃない」
「・・・オーマ、童貞か?」
「ブーーーー!?」
「フレイス、団長は素人童貞」
「言わんでいい!ウェイフィー!」
「なら、いいじゃないか。何が不満なんだ?」
「一般の女性を口説いたことが無いから、やり方が分からないんだと思う」
「だから言わんでいい!!ウェイフィーーーー!!」
「なるほどな。つまりは“抱きたい”のではなく“抱かれたい”のか?男児は、初めては“綺麗で優しくて経験豊富なエロイお姐さん”に手ほどきされるのが憧れだというし」
「だ、誰から聞いた?そんなもん・・・」
「ロルグだ」
「あの野郎ォオオオオ!!」
「だが、まあ、気持ちは分かった。いいぞ。私が抱いてやろう。私は経験が無いしオーマより若いから、“経験豊富なエロイお姐さん”とはいかないが、やってみようじゃないか!」
「「ブーーーーーーーー!?」」
天幕の中に虹が・・・天幕の中がやや湿気り始めた______。
結局、この後は昂って“戦闘態勢?”に入ったフレイスを諫めるのに一同は精魂使い果たし、この宴は終了となった。
勇者候補達の中でも筆頭と呼べる随一の騎士フレイス。
仲間になれば頼りになると強く感じていたオーマは、この日の夜、やはり頼りにできると感じつつも、一抹の不安も抱えてしまうのだった______。
_____凍結の勇者ろうらく完了。




