加わる強者達(1)
ダマハラダ砂漠の戦い。
オーマ達サンダーラッツは、フレイス率いるラヴィーネ・リッターオルデンとの戦いを制した。
そうして、フレイスを打倒したとの信号弾が上がると、ドネレイム帝国とスラルバン王国の連合と、ココチア連邦とボンジア公国の連合との戦いも大きく変動した。
ココチア連邦はフレイス達ラヴィーネ・リッターオルデンに決定打を期待していた上、自分達の方が兵数で上回って有利だったにもかかわらず、相手を押し切れなかった事もあり、ラヴィーネ・リッターオルデンが瓦解した報を聞くと即座に方針変換、自領を守る余力を残すために撤退を始めた。
結果として、この動きがボンジア公国を見捨てる形になり、ボンジア公国は孤立、ドネレイム帝国側に包囲され、ボンジア軍は投降を余儀なくされた。
そうして、形勢は大きく変わり、深夜になって日付が変わる頃には、ダマハラダ砂漠の戦いはドネレイム帝国・スラルバン王国側の勝利となり、この戦いは終結した______。
ドネレイム帝国、サンダーラッツの野営地_____。
「「かんぱ~~~~い!!」」
早朝から深夜にかけて戦いが行われていたというのに、サンダーラッツの天幕が並ぶ野営地の一画では、兵士達によるバカ騒ぎが起こっていた。
皆、戦いで疲れている・・それはそうだ。戦う相手、戦う環境、全てが厳しい戦いだった。
サンダーラッツがこれまでしてきた戦争(魔族戦も含む)の中で1・2を争う激戦だっただろう。
だが、勝利した達成感と、戦いでの高揚、そして死闘を生き延びた喜びが、脳ではいまだにアドレナリンを大量放出しており、体を火照らせている。
多くの者が酒も加えて叫ばなければ、消化できずに眠れない状態だった。
火照った身体と深夜の砂漠の寒さ、それにノドを熱く潤す酒がよくマッチして、皆は心地良く酔えていた。
「かぁ~~~っ♪砂漠での酒も、いいもんだなぁ!」
「ああ、氷点下で飲むスコッチとはまた別の趣がある」
それを楽しむ者の中には、ラヴィーネ・リッターオルデンの兵士達の姿もあった。
彼らはサンダーラッツの兵士達と一緒になってバカ騒ぎ、酒を酌み交わしている。
そこには先刻の、激しい殺し合いの雰囲気など全く無い。笑い、肩を組み、互いの強さを認め合っていた。
何故そんなことが出来るのか?・・・特別な理由は無い。
別に両軍とも相手を憎んで戦っていたわけではない。
そして、サンダーラッツもラヴィーネ・リッターオルデンも職業軍人だ。理由があれば誰とでも戦うが、理由がなくなれば誰とも・・・となる者達だ。
特に、敗者側のラヴィーネ・リッターオルデンは、勝敗よりも内容が楽しかったかどうかというのを重視する戦闘狂集団なので、終わってみれば幹部は勿論、末端の兵士達までさっぱりしていた。
サンダーラッツ側にしても、ここにドネレイム帝国貴族(特に第二貴族)でも居れば、ややこしくなっていただろうが、平民で構成されているサンダーラッツにそこまでの愛国心は無いため、ラヴィーネ・リッターオルデンの兵士達に対して、これ以上どうこうしようという気持ちは全くなかった。
両軍ともそういう理由があるわけで、結果、“お前らやっぱ強いな!”、“いやいや、そっちこそ!”と言った感じの流れが生まれるのに、さほど時間は掛からなかったのだ。
そしてそれは、サンダーラッツとラヴィーネ・リッターオルデンの両幹部達にも言えた_____。
「では改めて、このオーマ・ロブレムの嫁として反乱軍にも加わるフレイスだ。よろしく!」
「「おお・・・」」
「「・・・・・」」
宴の場で高らかに反乱軍への加入宣言をしたフレイス。
“あの”フレイスからの加入宣言を受けて、サンダーラッツ幹部達からは感心とも驚愕とも取れる声が上がる。
その表情はまだ少し硬いが、やはり嬉しさと頼もしさが滲んでいた。
因みにだが、この席にフェンダーはいない。
“第一貴族の者達に誘われたので____”と言って参加を断わっていた。
自分が居ては羽目を外しづらいだろうというフェンダーの気づかいだった。
それはさておき、勇者候補達のからはシブい表情が滲んでいた・・・・・。
「ん?どうした?お前達?」
「“どうした?”、ではありませんよフレイス。いきなり何なんですか?その“オーマの嫁”って」
「仲間になる事は歓迎するがなぁ・・・」
「そ、そういった発言は慎んでください!」
「サレンの言う通りだ。空気読めよ。ぶっ飛ばすぞ?」
「そうです!そうです!ちょっと他の者より強いからって、兄様の嫁とは図々しいです!」
「・・・ふむ。戦闘序盤でお前を一撃で落とした私の強さは“ちょっと”では無いと思うが?」
「あーーーーー!!今イジリましたね!?人が気にしている事をイジリましてねぇ!?兄様!この女は性悪ですよ!!嫁にすべきではありません!!」
「は・・・はぁ・・・」
戦の前、会議室として使っていた大天幕。
人数が多いのでこの天幕を宴の会場にしたわけだが、広い天幕のはずなのにオーマの肩身は狭かった。
「こうなったら、兄様を賭けてもう一度勝負です!」
「_____ほう♪」
勢い余るレインの喧嘩上等に、フレイスは好奇の色を見せる。
「バ、バカ!止めておけ!さすがに無謀だぞ!」
だが、それはさすがにと、周囲が止めに入った。
「だってご主人様ぁ!この女は“だって”じゃないですか!」
「何が言いたいのだ・・・まあ、何となく分かるが・・・でも、止めておけ。後、ご主人様も止めておけ」
「~~~~~~!!」
さすがにケンカを売る相手ではない事は理解しているのか、レインは涙を浮かべながら頬を膨らませるだけだった。
「なんだ?やらんのか?私はいつでも歓迎なのだが・・・」
「戦闘狂め・・・」
「いずれブチ倒して兄様を取り戻して見せますからねっ!」
「おうおう、楽しみだ♪それはそれとして、安心しろ。オーマの嫁だと宣言はしたが、お前達にオーマを諦めろと言うつもりは無い」
「は?」
「どういう意味です?」
勇者候補達の頭の上の?マークに向かって、フレイスは堂々と言い放った。
「そのままの意味だ。全員“オーマの女”でいいだろう?」
「「はぃいいいいい??」」
「な、なんと・・・」
「マジかよ・・・。団長、超絶羨ましいな。代われ」
「は・・はは・・・・は」
広い天幕だというのにオーマの肩身は狭まい・・・普通の男性なら歓迎すべき発言なのだろうが、素人童貞のヘタレには動揺することしか出来ない発言だった。
「クシナ・・・」
「哀れみを向けないでください。ウェイフィー」
「なんだぁ?随分なリアクションだな?」
動揺して騒ぐ勇者候補達とサンダーラッツ幹部達に、フレイスは“なんか問題あるのか?”と言わんばかりの怪訝な表情を作っていた。
「そりゃそうよ。いいの?フレイス?」
「なんだ?ヴァリネスまで・・・別に普通だろ?」
「「は?」」
フレイスの発言にサンダーラッツ+勇者候補達から、“なんだそれ?”というリアクションが起きる。
「うん?」
それを見たフレイスからも、“なんだそれ?”というリアクションが起きる・・・割って入ったのは、ラヴィーネ・リッターオルデンの常識人(むしろ堅物)のサスゴットだった。
「フ、フレイス様・・・それはバークランドの話しで、他国では普通ではありません」
「特に貴族ではない平民は一対一のカップルが普通で常識です」
「なんと!?そうだったのか!?」
フレイスは心底驚いている様子だった。
「・・・どういう事だよ。おっさん」
「おっさん・・・ふぅ。どういう事もこういう事も無いぞ、ヴァリネス。複数の嫁を持つことは、他国なら貴族くらいだろうが、完全実力主義のバークランドでは平民でも普通だ。家族を養える力が有るなら、複数人の伴侶を持つことを許されている」
「一夫多妻制ということですか?」
「別に男に限った話ではない。実力が有るなら女でも夫、妻を好きなだけ伴侶に出来る」
「「うそぉ!?じゃあ、ハーレム作り放題!?」」
ヴァリネスとフランの声がハモった______。
周りのサンダーラッツ、勇者候補達、ラヴィーネ・リッターオルデンすらも揃って呆れていた。
「ふぅ・・・ああ、そうだ。実際にアデリナは夫を三人持っていた」
「バークランドが亡くなったときに離婚することになったけどね。三人とも国を亡くしてまで戦いに身を投じたくないって言ってさ」
「なっ!?んだと・・・」
今度はサンダーラッツ達(特にヴァリネス)がカルチャーショックを受けていた。
サンダーラッツとラヴィーネ・リッターオルデンの宴は続く_____。




