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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
33/357

海賊討伐(前半)

 港に戻る途中のブルーライフィード号____。

 港から脱出した海賊を捕らえるため、レイン達海軍の艦隊は大きく広がり、網を張って港に向かっていた。

その途中、ブルーライフィード号の見張りからレインとダグラスに報告が入った。


「前方に船を二隻発見!!」


 報告を聞いて、二人はそれぞれの望遠鏡で確認する。

見えたのは、一隻の船がもう一隻の船の後ろにピタリと張り付いて走っている光景だった。


「追われている!?ダグラス船長!逃げた商船を海賊達が追いかけているようです!助けないと!」


海賊に襲われそうになっている民間の船を見て、レインの怒りのボルテージが上がる。

 それに対して、ダグラスは冷静だった。


「いえ、お待ちくださいレイン様。あれはどちらも海賊船かと思われます」

「えっ!?」

「奴らは商船を乗っ取るため、囮役を港で暴れさせたのです。そして、商船がそこから逃げるため出港した後でその船を乗っ取り、そのまま商船を装って逃げる手筈だったはずです。ならば、乗っ取った商船で他の商船を襲うのはおかしい」

「あ、なるほど・・・では、あれは一体・・・」


 ダグラスの納得のいく指摘に、レインは冷静さを取り戻す。

普段は温厚で気さくなレインだが、海賊に対してやプロトスの事になると頭に血が昇りやすい。

自身で弱点としている部分だった。


「恐らく、こちらの動きが予想以上に速かったので、再び囮を用意したのでしょう」

「囮?」

「後方の船が海賊役になって海軍を引き付け、前方の商船に偽装した仲間を逃がす。後は仲間を解放するため、捕虜にした民間人を使って人質交換を要求・・・いや、民間人を傷つけずに船を制圧しているのなら、罪は軽いから捕まっても構わないと思っているかもしれません」

「では、どうしましょう?商船のフリをしているといっても、人質の民間人を使っているのなら規則上、攻撃する前に確認しないといけませんよね?無視しますか?」

「いえ、勝手に海賊船と判断して攻撃はできません。軍律は絶対です。そうでなければ命を懸ける軍の統率などできませんし、民間人を守れません。奴らもそれを知っているからこそ、この手を使ったのでしょう」

「クッ!・・卑怯な!」


レインの中で再び怒りのボルテージが上がる。だが今度はすぐに自分で怒りを抑えることができた。


「ダグラス船長、どうしましょう?他の船は呼んでも間に合いませんよね?かといって、我々の人数では二隻同時制圧は・・・」

「はい、ですのでレイン様のお力をお借りしたい」

「?」

「逃げている方の船を我々が押さえます。レイン様はお一人で後方の海賊船に飛び移り、海賊達を無力化してください」

「了解しました!」


ダグラスの単純かつ理不尽な作戦に、レインは迷う事無く了解する。

それだけ覚悟している・・・という訳ではない。

もちろん覚悟もしているが、それ以上にレインの能力的に単独戦闘の方が向いているからだ。


 レインの魔法属性は風から派生した雷である。

広範囲でかつ強力な威力を出せる属性ではあるが、如何せん味方を巻き込みやすいという弱点が有り、乱戦で味方を巻き込まずに戦うのは難しい。

船の上など、狭い場所での戦いには向いていない。

 それでも、例えばオーマであれば味方を巻き込まずに戦えたり、帝国軍人なので二種の基本属性を扱えるので別の属性の魔法で戦えたりできる。

 だが、レインは魔力こそオーマを遥かに凌駕しているが、知識も経験も足りないため上手く雷撃魔法を制御できない。

さらに帝国軍人ではないので基本属性は風しか持っておらず、それも帝国軍人のようにしっかり鍛えてはいないため実戦使用は難しい。

 結論として、現状、レインは単騎で戦わせた方が都合が良いのだ。

ダグラス船長もレインも、これを承知した上でのやり取りだった。






 ブルーライフィード号と二隻の海賊船の距離が近くなり、遠目でも船の様子が把握できるようになる。

手前の一隻は普通の船乗りが船を動かしており、後方の一隻には武装した集団が乗っている。


「ダグラス船長の読み通りか・・・」


レインはブルーライフィード号のメインマストの上で、二隻の甲板の様子を見ている。

標的の船を注視しながら、手をグッパッグッパッと握ったり開いたりして、体の状態を確認する。


____やはり緊張していた。


 一人で戦うことが決まり気楽になったとはいえ、船での戦いは子供の頃のトラウマもあってレインにはプレッシャーが掛かる。

味方を巻き込む心配が無くなったとはいえ、船の倉庫などには人質も居るだろう。

もし暴走したら、その人達の救出に失敗するかもしれない。

 それにレインは泳げない。

子供の頃、海賊に襲われて海に落とされて以来トラウマになり、未だに克服できていない。

魔法の制御を誤って海に落ちたら、死ぬ可能性だって有る。

精神的にもレインは海戦が向いていないのだ。

 だが、ベルヘラの領主の娘という責任感と、罪の無い人達に自分と同じ思いをさせたくないという正義感がレインを奮い立たせる。

レインはプレッシャーを押し出すように長く深い息を吐き、気を落ち着かせ、集中力を上げる。

 もう船同士の距離は近い。

下を見れば、味方が手前の船に旗信号で停船の合図を送っている。

 相手は、こちらが海賊船ではなく偽装した方の船を止めたことで、自分達の作戦が見抜かれたと判断したのだろう。

偽装船は大人しく停船したが、海賊船は手動で船を漕ぎだし、こちらと距離を空けながら横を通り抜けようとしている。


(全力を出すのは一瞬だけだ!集中!!)


 レインは術式を展開しながら、海賊船の動きにタイミングを合せ、魔法を発動した。

カッとレインの体が光ると、ブルーライフィード号のマストから海賊船の甲板まで、一筋の閃光が走る。

そして閃光が消えると、海賊船の甲板には両手をついてしゃがんでいるレインの姿があった。


 突然、目の前に女の子が現れたことに、海賊達の理解は追いつかず思考が停止する。そして___


_____ズガガァーーーーーン!!


レインが登場した効果音のように雷鳴が鳴り響き、それを合図に海賊達の思考が動き出した。


「な・・なぁ、なぁあ!あんだてめーは!?」

「フッ!!」


 わざわざ質問に答えて、混乱している敵を落ち着かせてやる必要はない。

レインはしゃがんだ体勢から左手を突き出すと術式を展開、タメの必要がない低レベルの魔法を速攻で叩き込む。だが本々の魔力が強力なため、レインの放った雷は、物体を貫通するかのように目の前の海賊を貫き、その後方の海賊達も感電させて倒していった。


「か、雷ぃ!?てめぇレイン・ライフィードだな!!」


 リーダーらしき男の言葉も無視し、レインは立ち上がると突き出していた左手引き戻し、それと連動して右手を前に突き出す。正拳突きの形だ。

右手から先程より線の太い雷光が船内に入る入口まで走り、入り口のドアに直撃する。

海賊を人質の所に行かせないための牽制だ。

なので、派手な光と音のわりに威力は無く、ドアは何事も無かったようにそのままだった。

だが狙い通り、近くの海賊達が怯えてドアから離れた。

 ドアに雷が直撃しても、奥から反応が無い____。

そのことで、ドアを開けてすぐの所には人が居ないと分かると、レインは術式を展開、再び閃光となって肉眼では瞬間移動に感じるほどの速度でドアの手前に移動した。


「よしっ!!」


ドアの前を陣取り、後は海賊を倒すだけとなり、レインは少しだけ気が楽になる。


「クソッ!!お前ら!殺っちまえ!!」


「「ウォーーー!!」」


 海賊達が恐ろしい形相で向かって来るがレインは落ち着いている。

一対多数の方が得意だし、個の力量も海賊を上回っている。

レインは勝利を確信した。

そう少し気が緩むが、すぐに気合を入れ直し海賊達を迎え撃った____。






 ドサッと、一人の海賊が力無く倒れる____。

ヴァリネスは、それが当然というような冷静な表情で、相手の意識の有無を確認する。

意識が無いと分かって魔法を解除すると、持っていた鋼の剣が光となって消える。

 オーマの方はというと、既にゴットンの船員たちに海賊を縄で縛るよう指示を出していた。

ロジもそれを手伝っているので、戦闘は完全に終了したようだ。

ヴァリネスは二人の魔法も解除する。

 手に持っていたハルバードが消え、ヴァリネスに気付いたオーマが声を掛けた。


「お疲れ。どうだった?」

「どうもこうも無いわよ。楽勝」

「そうか。まあ、そうだろうな」

「わっはっはっはっは!すごい!!すごいじゃないか!お前さん達!」


戦いを見ていたゴットンが、上機嫌で二人の会話に混ざって来た。


「いや~、まさかお前さん達がこんなに強いとは思わなかったよ!私が知る戦士の中で文句なしの一番だ!」

「ありがとう、ゴットンさん。でも、こんな奴ら倒して褒められてもね~」

「はっはっは、そうか?いや、そうかもな。こんだけ強いんだ。今まで何処にいたんだ?これだけ強いなら、相当名も売れていたはずだろ?何て傭兵団だ?」

「ハハハ・・え、えっと・・・それは~」


 言われて、ヴァリネスは傭兵団の名前などの細かい設定を決め忘れていた事を思い出す。

どうしたものかと、愛想笑いでごまかしながらオーマに“考えてる?”という視線を送る。

その視線をオーマは“もちろん”という表情で受けた。


「雷鳴の戦慄団だ」

「ブッ!え?ちょ、ちょっと!?」

「雷鳴の戦慄団・・・ふむ、聞いたことが無いな」

「だろうな。この辺りじゃない。北方のリジェース地方で活動していたんだ。ドネレイム帝国とバークランド帝国の戦争とかな」

「おお!聞いたことあるぞ!大陸に覇を唱える二つの大国同士の戦争!凄まじいものだったと聞く」

「ああ、両国とも強者が多くてな。あまり活躍する機会が無かった」

「ほー、お前さん達でも活躍の場が無い程の戦場か・・・想像もできんな。それで、この地方に来たわけだな?」

「そういう事だ。そんな訳でゴットンさん。俺としては今後の活動のために、この海賊共を海軍に引き渡して、名を売りたいのだが・・」

「おお、そうだな。私も港に戻りたいし、早速引き返そう。報酬は海賊を引き渡した後、酒の席を設けるからその時で構わんか?」


 ゴットンから報酬の話しが出て、がめつい商人と思っていたオーマは少し意外だなと思った。

はっきり言って、報酬は全く期待していなかったのだ。


「良いのか?契約はしていないだろ」

「構わんとも。助けてくれたわけだし。それに、これから名を上げそうな者には、気前の良い商人と思われたいからな」

「ハハハハハ、そうですか。なら、遠慮なく受け取るよ、ありがとう」

「礼を言うのはこっちだ、感謝する。・・・おい!港に戻るぞ!途中で警備中の海軍と接触できるかもしれん!見張りを怠るな!」


指示を出しながらゴットンは二人から離れ、船員達の方へと歩いていく。

 ヴァリネスは、ゴットンが離れたのを確認してからオーマに詰め寄った。


「ねぇ!ちょっと!どういうつもり!?」

「どうした?」

「よかったの?あれで?」

「?・・・ああ、傭兵の話しか?特にマズイ事は言ってないだろ?」

「言ったわよ・・・」

「な、何?どこがだ?」

「名前よ・・ダサいわよ・・・“雷鳴の戦慄団”って・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・うるさい」


真顔でダメ出しされて、オーマは落ち込んだ____。


(・・・・少しカッコイイって自信あったんだけどな・・・)

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