ダマハラダ砂漠の戦い(最終戦2)
ラヴィーネ・リッターオルデンと戦う前に聞いたオーマの言葉が脳裏を過る中、フェンダーの頭の中には別の心配も過っていた。
チラッと横目でサレンの様子を窺う_____
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
(_____やはり)
フェンダーは、自分の心配が的中した事を理解した。
サレンはフェンダーの予想通り疲弊していた・・・・・フレイスより、フェンダーよりも、だ。
戦わずに援護に徹していたサレンが、何故フレイスやフェンダーよりも疲弊しているのか?
この理由は大きく二つある。
一つは、サレンの性格が関係する。
人が良く、心優しい性格のサレンは、その性格のせいか、極端に同士討ちを恐れる傾向がある。
本来、サレンは絶対の自信がないと、強く援護に出られない性格だ。
だが、フレイスとフェンダーの二人の戦いには、“絶対”なんて存在しない。
普段、アラドやデティットにしている援護とは、わけが・・・いや、次元が違うのだ。
フレイスとフェンダーの戦いに援護を入れる事は、タイミングがコンマ遅れるだけで、フェンダーに誤射してしまう可能性が有り、それを恐れるサレンの心の負担は非情に大きい。
そしてサレン自身、自分のこの性格を理解しているものの、“フェンダーさんに当ててしまったら、取り返しがつかない・・・”という気持ちが出て、援護を躊躇してしまうのを奮い立たせるのが精一杯で、自分恐怖心を克服している余裕も無い。
サレンが疲弊しているもう一つの理由は、経験不足だ。
サレンは生まれながらに卓越した魔力を持っていて、狩りや軍の訓練にも幼少の頃から参加していたが、オンデールという国の特性上、実戦経験はそう多く積んで来られたわけではない。
人並ではあるが、フレイスやフェンダーの経験値とは比べ物にならない。
中でも味方との連携だ。
“仲間”や“友人”がいなかったサレンは、互いの命を背負い合って誰かと連携して戦った経験が殆ど無い。
命懸けの戦いとなれば、初めての経験はオンデールとゴレストだけで行ったタルトゥニドゥ探索での、ベヒーモス戦。その経験を多くする様になったのは、サンダーラッツ一同と出会って共に行動するようになってからだ。
だがそれも、戦った相手は全てサレンより格下の相手だった。
ギリギリ対等と言えなくもない相手に、准魔王のディディアルとシーヴァイスが居たが、ディディアルとは直接対決しておらず、シーヴァイスとは一対一だった。
自分と同格、或いはそれ以上の存在との戦闘、連携の経験はサレンにはない・・・・というより、同格以上の存在と出会った経験すら、これまでのサレンにはなかった。
そういうわけで、サレンは同士討ちを恐れるそのお人好しなその性格と、同格以上の存在との戦闘経験、連携経験の不足がたたり、フレイスやフェンダーより激しく神経を使う事になってしまい、体力と魔力にはまだ余力があるものの、集中力と精神力の方は限界に近かった。
(このまま行けばいずれ、こちらが先にミスを犯すことになってしまう・・・)
それは恐らく、ほんの些細なミスでしかないだろう。相手が並の相手ならば、気にする必要すらない。
だが、フレイスにはその些細なミス一つが致命傷になる_____。
(こちらから先に仕掛けるしかない!タイミングもそう悪いモノではないはずだ!)
ジェネリーが想像以上に奮闘してくれたおかげで、フレイスは気力と集中力こそ保てているが、魔力の方は大分消費している。
フェンダーは自身の奥の手を使って勝負に出る決断をする______。
「はあっ!」
「_____フッ!」
______ガキィイイイイイイン!!
フレイスの手斧での上段斬りを、フェンダーは剣の腹で受けた_____。
そして次の瞬間、魔力を込めて剣の形状を変える。
「ぬっ!?」
その形状は刀の形・・・刀では無く刀の形だった。つまり刀の鞘だ。
そして_____
「______ハッ!!」
鞘から刀を抜いて一回転。抜刀術を放つ______
「_____フンッ!」
______ガキィイイン!!
_____が、これはフレイスが残った方の短剣で防ぐ。ダメージは無い。
だが、これでいい。
(____フェンダーさんからの合図だ)
金属性魔法で刀を錬成しての抜刀術は、フレイスに対するカウンターであるのと同時に、サレンに対する合図でもある。
“奥の手の召喚魔法を使います。援護を______”
「・・・・・」
サレンは魔法術式を展開する。その数は3つ、土属性が二つと炎属性が一つだ。
フェンダーの奥の手は召喚魔法だ。そのため、術式の完成には多少時間が掛かる。
サレンはその時間を稼がなければならない。
「ぅぉおおおおおお!!」
「はぁああああ!!」
_____ズガガガガガガンッ!!
「・・・・・」
フレイスとフェンダーが繰り広げる攻防を見ながら、サレンは援護のタイミングを見定める____
「・・・・・!!」
「ッ!?・・・ッ!!」
_____ガガガギギギギギンッ!!
(フレイスさん・・・・)
二人の攻防の最中でフレイスの気配が変わった_____警戒している、サレンを。
フレイスの戦闘勘が、サレンから不穏な気配を感じ取っていた。
(思った通り警戒された・・・・でも、構わない)
だが、その事にサレンは気落ちしない。分かっていた事だ。
フレイスは、こちらから仕掛けようと少しでもその気配を見せれば、必ずそれを気取って警戒するのだ。
だから今更だ。サレンもそれを想定して、警戒されても時間を稼げる魔法の準備をしている_____。
「ぅおおおおおお!!」
「はぁあああああ!!」
_____ズガガガガガガンッ!!
「_____はぁあ!」
_____ズドドンッ!!
サレンがフレイスとフェンダーの攻防にダイアモンド・ショットで援護を入れる_____
「____フンッ!」
_____ギギン!!
_____フレイスはそれ打ち落とす。
その終わりを狙って、フェンダーは追撃に出る_____
「おおッ!!」
「っ!・・・はぁあ!!」
_____ズガガガガガガンッ!!
再び二人の攻防______
「____ハッ!」
_____ズドドンッ!!
再びサレンの援護_____
「くそ!」
_____ギギン!!
_____またもフレイスに防がれる。
だがそこで、またもフェンダーが追撃______
「もらった!」
「____チィ!」
_____ガキン!!____ズガガガガガギギギギギン!!
フレイスは、かろうじで追撃を防いだ・・・・
「_____ハッ!」
_____ズドドン!!
サレンはめげずに援護_____
「ぬう!?」
_____ガギンッ!!
フレイスはこれも乗り切ってしまった・・・・が
「うぉおおおおおおお!!」
_____バギャンッ!!
「ぐっ!?」
フェンダーが執拗に追撃を繰り出す・・・フレイスはなんと、これも防ぎ切ってしまった。
(よし!)
_____だが、作戦成功。
時間は掛かったが、サレンはダイアモンド・ショットの援護三回で、ようやくフレイスの態勢を僅かにズラすことが出来た。
そこまでやって出来たのは、本当にほんの僅かなズレでしかなかったが、フェンダーはその僅かなズレで出来たフレイスの防御の隙間に攻撃を入れる。
「ぅぉおおおおおおお!!」
_____ズガガガガガガンッ!!
「ぅぬう!?」
それでもフレイスは崩れない。だがそれでも、形勢は僅かにフェンダーに偏り、フレイスは防戦となる____。
(_____決める!)
それを見たサレンは、そのチャンスを活かして、残りの二つの術式を一気に完成させる。
(____何だ!?大技!?)
フレイスはサレンの術式から漂う“ヤバさ”を感じ取る____が、フェンダーに釘づけにされて抑えに行けない・・・。
「行けぇえ!!」
______カッ!
サレンはこのチャンスを活かし、残り二つの魔法も発動した______。




