ダマハラダ砂漠の戦い(43)
「はぁあああああああ!!」
「うぉおおおおおおお!!」
______ズガガガガガギギギギギギン!!______ボジュウウウウ!!
炎の防壁に突入した先で、氷の鎧を纏った小柄な少女と炎の鎧を纏った大柄な男による、指揮官同士の激しい攻防が始まった_____。
炎の刃と氷の刃が交わる度に、爆発した様な音と共に素蒸気が発生し、二人を濃い霧が包んで行く・・・。
瞬き一つ、息一つ付けぬ攻防。更に視界まで悪くなっていく中での攻防だったが、コレルもイワナミも音を上げることはなく、両者は互角の戦いを繰り広げていた。
だがその攻防は、直ぐに暗雲が立ち込める_____。
(ぬう・・・・・)
戦いは拮抗しているものの、イワナミの心の中には、焦りが芽生え始めていた。
理由を語る上で大事なポイントは、お互いの戦闘スタイルである。
先ず、コレルの装備はフレイスと同じで、氷結魔法で錬成した氷の鎧、武器にも氷結魔法で錬成した短剣、手斧を使う。
そしてその戦い方は、潜在魔法で強化した肉体での二刀流で、手数で勝負するスタイルだ。
二刀流な上に、小柄な体格を逆手に取ったコンパクトな攻撃で、その手数はイワナミより圧倒的に多い。
そのため、手数で上を行かれるイワナミとしては、一撃の重さで差を付けたいところだった。
だが、コレルの潜在魔法はイワナミの想像以上に成長しており、力で押し切れないでいた。
ならば、自分の一番の自慢であるタフネスを活かして、多少のダメージは許容して、相打ち覚悟でカウンターを狙うという手もイワナミは考えたが、それも難しい・・・。
コレルの戦い方がフレイスと同じなのは装備だけではない。
その連続攻撃の合間に、信仰魔法を使うというところも同じだった。
使う信仰魔法も、フレイスと同じ水属性と氷属性を駆使した、相手の身体機能を低下させるバフ効果を与える信仰魔法の連続攻撃なのだ。
デバフ効果を受けて身体能力を下げられたら、たとえイワナミのタフネスでも耐える事は不可能で、コレルの連打に呑まれてしまう可能性が有る。そのため、その決断が出来ない。
結論として、砲撃手であるはずのコレルの接近戦の強さは、イワナミさえ頭を悩ませるほどに強かった。
だが、よくよくコレルの性格を考えれば、これは何も不思議な事ではない______。
コレルはフレイスを崇拝している。
もし、フレイスが自らを「神だ」と名乗れば、「やっぱりそうでしたのね!」と答える程だ。
そこまでフレイスに憧れて、フレイスと共に戦いたくてラヴィーネ・リッターオルデンに入団したコレルが、ただ大人しく砲撃手だけをしているわけがないのだ。
フレイスに憧れて、フレイスの様になりたくて、その戦いを目に焼き付けて、それを真似る・・・これがコレルのライフワークだった。
コレルの砲撃手としての技量は、フレイスに砲撃隊を任されたから身に着けたもので、コレルが成りたかった騎士の姿ではない。コレルが成りたかった騎士の姿はフレイスで、身に付けたかった戦闘スタイルはフレイスと同じ、近接戦のスタイルだった。
砲撃や射撃で、中距離、場合によっては近距離で使える散弾式を最も得意としているのがその証拠だ。
(みてらっしゃい!)
そして、フレイスの戦い方を真似る日々の中で、コレルはそのモノマネから始まった戦闘スタイルを完全に自分のモノにしており、そこから更に自身の個性まで出せる様になっていた。
好戦的な性格のコレルは、急を要するこの状況で、それを出し惜しむつもりなど無く、イワナミとの攻防の中でその魔法術式を組み立てていた______。
(来る・・・何だ?一点集中?それとも範囲攻撃でデバフを狙う?どちらにせよ_____)
______ズゴォオオオオオオ!!
どちらにせよ、氷結魔法で来るならばと、イワナミは魔力を練り上げてフレイム・アーマーの火力を上げる。
コレルも、それに合わせるかのように氷結魔法を発動した_____
「シュネー・デッカ!」
______________________________________________________________。
「・・・・・?」
コレルが魔法を発動すると、周囲が光に包まれたが、イワナミにダメージは無かった。
フレイム・アーマーも維持できており、デバフを与えられた様子も無い。
変った事と言えば、水蒸気が無くなって視界がクリアになった事くらい・・・・。
「な・・なん・・・」
「はぁあああああ!!」
「来るか!?____なッ!?」
イワナミが“なんだったんだ?”と頭の疑問を口にする間も無く、コレルが切り込んで来た。
イワナミはそれに反応して、“とにかく対処しなければ_____”と、態勢を整えようとした瞬間、イワナミは自分の足が何かに捕らわれていた事に気が付いた______。
「_____雪!?」
ここでようやくイワナミは、先程のコレルの魔法の正体に気が付いた。
コレルの用意した氷結魔法はイワナミを攻撃するための攻撃魔法ではなかった。
コレルが使用した魔法は、氷属性の性質変化魔法“シュネー・デッカ(雪化粧)”と言って、雪を錬成する魔法だ。
コレルはシュネー・デッカで雪を錬成し、自分とイワナミの周囲10メートルほどの範囲に雪を積もらせていた。
「しまっ____」
雪はイワナミの脛辺りまで積もっており、イワナミの足を捕らえている_____
(_____固い!)
更に足下の雪は、普通の雪より水量があり、一晩降り積もった雪が昼間になって少し融け始めた頃の様な、氷と雪の中間くらいの状態で固くなっていた。
恐らく、周囲に発生していた水蒸気も利用したのだろう。
イワナミにとって、非常に動きづらい足場になっていた。
ズボッズボッと雪を鳴らしながら、イワナミは何とか態勢を整えようとするが、その動きは鈍い。
一方のコレルは_____
_____シャァアアアアア
コレルは氷の鎧のブーツを上手く使い、雪の上に立っていた。軽量のコレルは雪に埋もれていない。
正確に言えば、自分だけが埋もれない程度に、周りの水蒸気を使って雪に水分を含ませて凍らせたのだ。
そこからスケートの要領で軽やかに滑り、イワナミとの距離を詰めていた。
そして、イワナミと交差する瞬間に、手に持った短剣と手斧でバツ印を描く_____
_____ガキィイイイイイン!!
「ぬっ!?」
「フフ・・・」
イワナミはバトルアックスを盾代わりにして、その攻撃を受ける。
その衝撃をコレルは軽やかな身のこなしで吸収したが、イワナミの方は足場が悪いため、態勢を崩しそうになる。
_____ドンッ!ドドンッ!ドンッ!
そこへ、コレルが間髪入れずに水弾を飛ばす_____
_____ボジュウウウウ
「ぬう!」
態勢を維持するのがやっとだったイワナミは被弾_____。
だが、フレイム・アーマーの火力を上げていたおかげで、無傷で済む。
コレルは雪の上を滑りながら旋回し、再びイワナミとの距離を詰めて来た_____
「はあ!」
「おう!」
_____ガキィイイン!!
「それ!」
_____ドドドドドン!!_____ボジュウウウウ!
コレルは一撃を入れて離脱、そして離れる寸前にまたも水弾を撃ち込んだ。
イワナミは先程と同じ様に、被弾。
フレイム・アーマーで防御したが、フレイム・アーマーの火力は弱くなっている。
「_____そういう事か!」
イワナミも、いよいよコレルの作戦に気が付いた。
イワナミに接近戦を仕掛け、一撃入れて離脱する____足場の悪さの所為で、イワナミは態勢を維持しづらく、スキが生まれてしまう_____そこへ、離脱ざまに水弾を撃ち込む____イワナミは躱せずに被弾。フレイム・アーマーで防御は出来ていても、魔力が大きく削られてしまう・・・。
(持久戦になれば不利だ!何とかしなければ!)
イワナミは自分よりコレルの方が、魔力量がある事を理解している。
だからこそ肉弾戦で圧倒しようとしていたのだ。
だがそれは、コレルの接近戦の戦闘力が想像以上で思う様に行かなかった。
そして更に、足場を雪で埋められて、現状は不利にさえなっている。
イワナミは作戦を変更する必要に迫られた____。
だが、イワナミの取れる選択は、そう多くない。
(信仰魔法の大技・・・属性は_____)
水属性と氷属性を扱える、自分より魔力量のある魔導士相手に炎属性は上手くない。
イワナミは、フレイム・アーマーを維持できるだけの魔力を残して、残りの全ての魔力を使って風属性の攻撃魔法の術式を展開した______。




