ダマハラダ砂漠の戦い(39)
アーグレイが次の攻撃でレイピアを、ヴァリネスの急所に滑り込ませれば決着が付いてしまう_____
「_____っせっかよ!!」
だが、ここでオーマが意地で援護に入る______
_____バリバリバリバリィイイイイイ!!
オーマはなんと、雷属性の攻撃魔法を発動した。
(な、仲間ごと!?しまっ_____)
ヴァリネスがヌティール・アーマーを装備していない以上、電撃魔法は撃ってこないと踏んでいたアーグレイは完全に裏をかかれてしまった______。
「「_____ッ!?」」
アーグレイはヴァリネスもろ共にオーマの電撃魔法を受けてしまい、感電して体が動かなくなる。
アーグレイを感電させたオーマは、地を蹴って一気にアーグレイとの距離を縮めて接近戦に持ち込もうとした。
だが、アーグレイはオーマに襲われる前に、何とか麻痺から復活し、そのオーマを迎え撃つ態勢に入ってしまう。
しかしこれは、オーマにとって想定内の事だった。
やはり速攻での電撃魔法では、そこまで高圧な電流は流せない。
先の一撃はヴァリネスの止めを阻止するためであって、反撃するまでアーグレイを拘束できるとはオーマも思っていなかった。
そして、それでもオーマは構わず飛び込んだ_____。
_____ズガガガガガガンッ!!
二人の激しい攻防。
「ぬう!」
アーグレイがオーマのハルバードの剛撃を盾でいなそうとする______
「____フンッ!」
オーマはアーグレイの盾の動作に逆らわず、そのまま回転して遠心力を乗せた横薙ぎの一撃を放つ_____
_____ガキィイイイイン!!
「ぬぐっ!?」
逆に盾を逸らされたアーグレイは、瞬間的に樹属性魔法を速攻で発動してオーマの横薙ぎを防御するも、抑えきれずに錬成した樹木ごとハルバードの餌食となる。
(ぐっ!ま、まずい____!!)
ダメージは決して深刻なものではない。戦闘には差し支えない傷だ。
だがアーグレイは、今の一撃を受けて緊張し始めていた。
ヴァリネスと同じだ。アーグレイも将棋の棋士の様に、二手三手先を読み、この後の展開が自分にとって良くない展開になるのを理解できてしまったのだ。
「おうっ!」
「ぬう!?」
オーマがハルバードを両手に持って、アーグレイの盾に押し当てて来る。
このままでは押し切られる_____。
アーグレイは盾を動かし、オーマのハルバードをいなす_____しかない。
そして、それによって態勢がズレたオーマにレイピアの一撃を放つ____しかない。
「_____はあ!」
______ズゴゴゴゴゴッ!!
オーマはこのレイピアを土属性魔法で岩を錬成して防ぐ_____アーグレイには分かっていた。
オーマは先程のフレイム・アーマーをその身に纏っていない。信仰魔法を使うのは明らかだった。
だからアーグレイは、信仰魔法ではなくレイピアを使った。それがオーマの狙いと知りながら・・・。
アーグレイは自分がオーマのシナリオ通りに動かされている事に薄々気付いていた。
だが、オーマがそのシナリオから外れる事を許してくれない。
(戦闘の駆け引きでも奴が上か!?)
オーマは、詰将棋の様に一手一手、確実にアーグレイを追い込んでいた。
「はぁああああああ!!」
______ブゥオ!!
体勢を立て直したオーマが、再びハルバードを振るう_____。
レイピアの打ち終わりを狙われた。アーグレイはこれもオーマのシナリオだと理解していた。
だが、再び信仰魔法を使う・・・使うしかなかった。使わされてしまった_____
______バキャァアアアアン!!
オーマのハルバードを受けた樹属性魔法の樹木が木っ端となる。仕方が無い。
アーグレイを襲ったのは、オーマの潜在魔法を最大にした渾身の一撃だ。
あのタイミングでアーグレイがこれを防ぐには、水属性魔法ではなく、樹属性魔法を使うしかなかった。
(なんたる!)
つまりオーマの思惑通りだ______
「ファイヤーボール!!」
木片が舞う中で、隙が出来たアーグレイ。
この瞬間を待っていましたと、“アーグレイの予想通り”、ヴァリネスが炎魔法を叩き込んだ_____。
______ズゴォオオオオオオ!!
「ぐぅうううう!!」
ハルバードで砕かれた木片がヴァリネスの炎を更に燃え上がらせて、アーグレイの体を炎で包み込んだ。
(やはりこうなったか!_____だが!!)
オーマとの攻防で薄々感じていたシナリオ通りの展開。
でも、だからこそ、アーグレイは次のターンでの逆転シナリオが描けている。
(今度はこちらのシナリオ通りに動いてもらうぞ!!)
アーグレイは炎のダメージを負いながら、新しい魔法術式を展開し発動。
水属性魔法の性質変化で、この後のオーマの追撃を考慮して、対電撃用の純水の鎧で炎を消化する_____。
「_____そう来ると思っていたわよ!!」
「なっ!?」
だがアーグレイが水属性魔法を発動した次の瞬間、ヴァリネスが足の痛みに耐えながら距離を詰めて、アーグレイに接近戦を仕掛けて来た_____。
(ヴァリネスにも上を行かれるか!?)
ヴァリネスのダメージを見て、接近戦は無いと踏んでいたアーグレイは完全に裏をかかれてしまった。
「ハッッハーーーーー!!どうよ♪」
そのアーグレイの驚きの表情に、ヴァリネスは最高にテンションが上がる。
ヴァリネスとしては裏をかいたと言うより、毎回やられっぱなしで意地になっていたという方が正しいが・・・。
「うぉりゃーーーーーー!!」
______ズガガガガガガンッ!!
ヴァリネスが、金属性魔法で武器を作る時間も惜しんで、潜在魔法での体術でアーグレイに連打を浴びせる。
______ガンッ!ガガン!!ガンッ!!
そして_____
______ゴリッ!
「!?」
その連打の一つがアーグレイの顎に滑り込んだ_____。
ヴァリネスは接近戦のその殆どの場面で、金属性魔法を使って武器を錬成するので、アーグレイ達のデータの中にヴァリネスの体術は入っていなかった。
金属性魔法で武器を作る時間も惜しんだのが功を奏した。
アーグレイはヴァリネスの初見の拳の連打を捌き切れず、脳を揺らされてしまった。
(しまっ____)
アーグレイは、脳を揺らされて視界が歪んだ瞬間に“死”を覚悟した_____
「______決める!!」
そして、そのアーグレイの覚悟した通り、ヴァリネスは金属性魔法で鋼の槍を錬成し、アーグレイの体に向かって鋭く突き立てた____
_______ドスッ!!ドスッ!!
槍撃は二発_____。アーグレイの両肩を捉えた。
「く・・・」
______ガランガラン
両肩を抉られたアーグレイは、腕に力を込める事も出来ずに、流れる血と共にレイピアと盾を地面に落としてしまった__________________________________________________________。
「____どういう事だ!!」
両腕を使えなくなったアーグレイは、ほぼ戦闘不能の状態。
だが、そんなアーグレイの胸に湧き上がって来たものは“怒り”だった。
「私に情けを掛けたのか!?今のタイミング!お前なら仕留められていたはずだッ!!」
「まあ・・・そうね」
「____ッ!!」
______屈辱。
例え二対一という不利な状況でも、手加減され、情けを掛けられる事などアーグレイにとっては屈辱でしかない。
あっさりと答えたヴァリネスを、アーグレイは呪い殺せそうなほど睨みつける。
そんなアーグレイの表情とは対照的に、ヴァリネスは“何てこと無い”といった表情で言葉を続けた。
「貴方も知っているでしょう?私達の目的」
「・・・・・・反乱のことか」
「____そう。だから貴方に止めは刺さない。刺せないわよ」
「フレイス様に勝った後、フレイス様を仲間にして、我々も取り込むつもりだと?」
「その通り」
「__________」
ヴァリネスの言い分はアーグレイにも理解できる。
彼らはドネレイム帝国に反旗を翻しているのだ。
大陸最強の国家と戦うために、一人でも多くの強者を仲間に引き入れたいと思うのは当然だろう。
そして彼らは、フレイスを仲間に出来れば、他のラヴィーネ・リッターオルデンのメンバーも付いて来ると思っている。
それ自体はいい。実際にそうだ。
フレイスさえその気になれば、ラヴィーネ・リッターオルデンのメンバーは幹部から末端の兵士まで、サンダーラッツと肩を並べて戦うだろう。
アーグレイが許せないのは_____
「今ここでそう言われて、私が大人しく従うと思っているのか?この私を、こんな程度で抑えられると?」
言葉は静か_____だが、腹の中でグツグツと怒りが煮えているのが分かる。
そんな表情でヴァリネス達を睨んだまま、アーグレイは魔法術式を展開した_____。




