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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
32/357

海賊の都合、こちらの都合

 エルス海を巡回中のブルーライフィード号____。


 他の船員が周囲を見張っている中、少し時間に空きができたレインは、時間を無駄にすまいと船長室でダグラスから海上戦術の講義を受けていた。

 船戦についての教えを聞く機会は、レインにとって貴重な時間だった。

忙しいプロトスからは中々講義を受ける機会が無いし、誰にでも聞けるものではないからだ。

その数少ない機会は、こうして船で海に出た時に、船長たち海軍将校から聞くくらいしか無かった。

 その貴重な時間が激しいノックと共に終わりを告げるのだった。


「入れ」

「失礼します!ベルヘラより着信!港に海賊が出現!民間の船が複数襲われているとのこと!」

「手薄になった港を狙った?」

「どうやら、そのようですな。レイン様、講義はここまでといたしましょう。各艦へ通達!船の針路をベルヘラ港へ!最大船速で帰還する!」

「ハッ!了解です!」


指示を受けた海兵は短い返事の後、キビキビとした動きで退室して行った。


「・・・ダグラス船長、何故港を襲ったのでしょう?いくら港が手薄といっても、船で逃げれば戻って来た我々に叩かれるだけだと理解していないのでしょうか?それとも、我々が戻る前に逃げ切れると考えているのでしょうか?」

「それは無いでしょう。奴らはこちらの船速を理解しています。奪った商船や、港に潜入する際に使用したであろう小舟では、逃げ切れないと分かっているはずです。ですので、これは陽動の可能性が有ります」

「では、港を出た全ての船を警戒しなければならないですね」

「その通りです、レイン様。レイン様にも協力していただく事になります」

「もちろんです!ダグラス船長!」


レインは力強く返事した。レインの瞳にはやる気と闘志がみなぎっている。

 レインにとって海賊討伐は善悪がはっきりしているため、何が真実で何が正義か分からない国家間の戦争より戦い易い。

稀に、戦後などの不況で食うに困って賊となる者も居るが、そうだとしても罪のない人から略奪するのを許すわけにはいかない。

子供の頃に海賊の手によって両親を失っているレインは、そういった事に並々ならぬ思いがある。

 いや、当時の事を思い出すと、やる気や闘志という言葉では済まない感情も湧いてくる。

怒り、憎しみと言った感情だ。

そういった感情が心の中で渦巻き、レインは殺気を纏いだす。


「レイン様!」

「ハッ!?はい!?」

「・・・冷静に」

「はい・・・」


ダグラスに優しく声を掛けられ、殺気を纏っていたレインは我に返る。


(いけない・・・)


暴走しがちな自分の魔法・・・だからこそ心は冷静でなくてはならない。

自分を窘め気持ちを切り替えると、ダグラスと共に船長室を後にした___。






 オーマ、ヴァリネス、ロジの三人が乗り込んだゴットンの船は、港から約一キロメートル離れた海上にいた。


「まったく海賊共め!本当に迷惑な連中だ!!」


距離ができて安心してきたのか、ゴットンが不満をまき散らす。


「海賊って、結構多いのか?」

「まあな、このベルヘラとワンウォールでエルス海を挟むジース海峡は一番船の往来が激しい海路だからな。陸と一緒だ。栄えている場所ほど人が集まり、そういう連中も集まる」

「積荷は大丈夫ですか?全部積んだようですが、確認はまだしてないですよね?」

「おお!そうだった。おい誰か!積荷の確認をしてくれ!」


「「へいっ!」」


ゴットンの一言で、何人かの船員たちが積荷のある下の階の倉庫へと向かった。


「ふう・・・まあ、何はともあれ、ここまでくれば大丈夫だろう」

「まだ、安心しない方がいいわよ。ゴットンさん」


望遠鏡で港の様子を見ていたヴァリネスが、安心しているゴットンに釘を刺す。

ポカンとしているゴットンの代わりにオーマが質問した。


「港の状況が変ったのか?」

「軍が動いたわ。それで海賊たちが散り散りになってる。海賊たちの乗った小舟が何隻か港から脱出しているわ」

「そいつらが、ここまで来る可能性は?」

「多分無いわ。直に海軍の船に捕まると思う。ただ、海軍の多くの船が海上警備に出ているし、港にも船を残しておく必要があるでしょうから追跡の船は多くはなさそう。だから、可能性はゼロじゃないかな。でも何もできないでしょ。今頃、巡回中の船も引き返しているでしょうし」

「そうか・・・」


ヴァリネスの報告を聞いて、オーマは警戒心を強める。もし、先の海賊の強襲が陽動なら、そろそろ本命が動くはずだ。


「なあ、海賊の動きがあまりに単調過ぎないか?あんな襲い方は無謀だろ?」

「フン!その程度ってことだ!所詮は海賊、頭は回らんのだよ!」

「そうでもないぜ?」


そう答えた男の声は、ゴットンの聞き覚えのある声では無かった。オーマ達でも無い。

 振り向くとそこには、ゴットンの船の船員とは違う船乗りの格好をした男が居た。

体は太めだが、だらしないわけではなく、太い筋肉を脂肪が覆っていて丸太のような腕をしている。さらに、日焼けで黒光りしており、威圧感ある。

大抵の船乗りは体格が良く、日焼けしていて迫力があるが、現れた男はそれとは似て非なる凶暴な雰囲気を醸し出している。

日焼けと無精髭のせいで顔がより黒く感じ、その瞳は鋭く光っていて肉食動物のような獰猛さがある。

更に体中に付いた無数の傷が、その男が船の仕事では無く、暴力を生業にしている者である事を物語っていた。

 そして、その男と似た雰囲気の男達が数十人も甲板に現れ、その事態にゴットンは悲鳴を上げた。


「・・・か、海賊だと!?・・な、なんで!?どうしてこの船に乗っている!?」

「やはり・・・港で騒いでいた奴らは囮か・・・積荷の中に居たんだな?」

「フフン、そういうこった。これでも知恵は働くんだ。悪知恵だけはな♪」


文字にするならゲヘヘッとでもなりそうな海賊達の笑い声が甲板に響く。

その余裕かつ野蛮な姿に、ゴットンと船員達は顔を青白くしていく。

 その一方で、オーマ達はいつも通り、至って冷静な態度だった。


「数は?」

「20、22・・・27人。魔力反応は有りません」

「あっそう。あー・・やっぱ大したことないわね」


相手が魔導士ではないと判明し、ヴァリネスがあからさまに気の抜けた態度をとる。


「油断するなよ」

「しないわよ・・・てか、しても負けないでしょ」


言われてオーマは少し困ってしまう。自分の言い分は正しいが、それでも明らかに差がある相手だからだ。


 一般人にとっては脅威となる海賊だが、魔法も使えない、加えて戦闘訓練も積んでいないだろう。

戦闘経験は多少ありそうだが、遠征軍のオーマ達程とは思えない・・・というより包囲の仕方、武器を持った姿がオーマ達以上の戦闘経験は無い事を物語っている。

その経験も、海賊達は殆どが民間人という弱い人間相手のはず、だがオーマ達は目の前の海賊達以上の実力の相手を、目の前の人数以上を相手にしたことが何度も有る。

唯一、船の上での戦闘のみオーマ達は未経験だが、ゴットンの船は大きく、天候も良いためオーマ達に船の揺れの影響は殆ど無い。

はっきり言って、負けるどころか苦戦する要素すらない。


 だが、それでも油断はすべきではない、とオーマは自分に言い聞かせる。


「一応な、一応・・・・一応油断するな」

「はいはい・・・」

「分かりました」


まるで雑談をしているようなテンションで会話をしながら、三人はゴットンを隠すように海賊達の前に出た。

 その三人に対して、先程最初に甲板に現れた、リーダーらしき海賊がカトラスを突き出して口を開く。


「おおっと、妙な真似はするなよ。大人しくしていれば、命までは取らないぜ?」

「ウソつきなさい。漕ぎ手はともかく、他の船員は殺した方が楽でしょ?」

「ヒッ」


ヴァリネスはただ現実的な指摘をしただけなのだが、ゴットン達は恐怖で小さい悲鳴を上げる。


「いや、多分奴らの言っていることは本当だろう」

「え?」


そのヴァリネスの指摘を否定したのはオーマだった。


「人質交換するためだ。囮として港で暴れて捕まった仲間を助けるためな」

「そういう事だ。それに商人達を殺しちまったら、この海を渡る船が減るだろ?そしたら、俺達も獲物が減って困る。持ちつ持たれつ、つってな。お互い上手く共存しようぜ」

「何が共存よ。一方的に奪うだけのくせに」

「共存を謳うなら、人としてルールは守りましょう」

「説教は要らねぇ。これが俺達のやり方だ、ヘヘヘヘヘ」


リーダー格の男と同意だとでも言いたげに、周りの海賊達もゲヘヘッと笑った。


「なら、こっちも俺達のやり方で行こう」

「ぶちのめす方が手っ取り早いわよね」

「はい、行きましょう!」


未だ余裕の態度の三人に、海賊のリーダーは目を細め睨みつける。

 そして、先程とは違う、真剣な口調で警告する。


「おい、いい加減にしろよ。マジでやんのか?見たところ鍛えてはいるようだが、この人数相手に武器も持たずによぉ・・・おい!!いいのか、そこの商人!こいつらが戦うってんなら、お前らも多少は痛い目にあってもらうぜ!そうじゃねーと示しがつかないからなぁ!」

「うっ!ちょ、ちょっと待ってくれ!!おい三人とも!」


後ろで様子を見ていたゴットンは、海賊に脅され、困った表情で三人に声を掛ける。

 オーマ達が傭兵をしていて、海賊相手に余裕の態度をとっている事から、戦闘の腕に自信があるのは分かる。

だが相手の方が人数も多いし、海賊が言うように三人は武器を持っていない。

正直、ゴットンには勝負の行方が分からないのだ。だから自分達が巻き込まれないのであれば、三人に好きにさせても良かった。

勝てば万々歳、負けても自分達に被害無し、と瞬時に計算していた。

その考えも、三人が戦端を開くことによって自分達にも害が及ぶのなら、話しが変わってくる。

 そのゴットンの困惑を他所に、ヴァリネスは魔法術式を展開する。


「大丈夫よ、ゴットンさん。貴方達には手出しさせないわ。まあ、見てなさい、クリエイト・ウェポン!」


ヴァリネスが信仰魔法を発動する。白い光が上下左右に線を描くと武器が現れ、それぞれオーマには鋼のハルバード、ヴァリネスとロジには鋼の剣が握られていた。



 ヴァリネスの使った信仰魔法はRANK2、基本属性の炎か土から派生する金属性だ。

ヴァリネスは土から派生した金属性の魔法が使える魔導士で、4種類程の金属を武器や防具など様々な形に錬成できる。

STAGE6(付与)ではないので一時的なものではあるが、魔法の効果範囲内でヴァリネスの魔力が続く限り使用できる。


「それじゃー始めましょ♪」

「ロ・・ジデルはゴットンさん達の護衛だ。頼むぞ」

「了解しました」


そう言って、オーマとヴァリネスは一歩前に出て、武器を構える。ロジはゴットン達を守るため、防護魔法の術式を展開する。


「おい・・・今の魔法か?」

「そうなんじゃねーの?・・・」

「見たことないぞ!?あんなの!!」


ヴァリネスの魔法に、ゴットン達も海賊達もどよめき、困惑する。

それは無理もない話しだった。

 近年、魔法は戦場でこそよく見られるものになったが、民間にはまだ広く浸透していない。

更に、派生属性の魔法は戦場でも滅多に見られるものではない。

ヴァリネスの使用したRANK2の魔法など、軍人や貴族はともかく、一般人、それも帝国以外の国の人間では見たことも無いという人の方が多いだろう。

 そんな魔法を使ったヴァリネスに対して、海賊達は一気に警戒レベルを引き上げる。


「魔法持ちだ!油断するな!!」


見たことが無いとはいえ、魔導士との戦闘経験は有ったのだろう、その一言で海賊達はすぐに身構える。

 海賊のリーダーはオーマの方をうかがう、恐らくオーマも魔導士か知りたいのだろう。

その海賊と目が合ったオーマは、相手の意図を察してニヤッと笑って魔力を込めた。

すると、オーマの体が薄らと輝き、バチッバチバチと電気が走る。

 その姿を見て、海賊のリーダーはチッ!と舌を打ち、険しい顔をさらに歪めた。


「おい!後ろの商人!本当にいいのか!?こいつらがやるってんなら、お前らも同罪だ!」

「え?あ、あの・・・」


 海賊はターゲットを変えて、ゴットンに脅しをかける。

脅されたゴットンは、慌てながらヴァリネスに訴えるような視線を送った。

その視線の意味を理解し、ヴァリネスは“しょうがないなぁ”といった感じの苦笑いを見せる。


「もー・・だから大丈夫だってぇー」

「ほ、本当か?本当に本当か!?お前さん達だけじゃなくてだぞ?」

「大丈夫よ、ゴットンさん達もかすり傷一つ受けやしないわ、ね?ジデルちゃん♪」

「はい!アクアウォール・ニードルピラー!!」


 術式を展開していたロジが魔法を発動する。

ゴットン達と海賊を遮断する水の壁が出現し、その水の壁の中を棘状の水の柱が往来している。水属性の上級防護魔法だ。

元は護衛部隊の隊長であるロジは、攻撃魔法より防護魔法や回復魔法の方が得意で、これに関してはサンダーラッツで一番の腕前である。

 再びゴットン達と海賊達がどよめく。

水属性の魔法は見たことが有るが、ロジの魔法の規模と威力は見たことが無かったのだろう。

三人の魔導士____それも、自分達の知らない魔法や、強力な魔法を使う者達を前に、海賊達の戦意が見る見るうちに無くなっていく。

 海賊のリーダーは、その雰囲気を敏感に感じ取って、新たな交渉を持ち掛けた。


「クッ・・・ちょっと待て。分かった、もういい。この船は諦めよう、他の船も襲っているしな・・お前達と戦ったら、確かにこっちにも被害が出る。このまま港に戻ってくれればいい・・・どうだ、船長?」

「え?う、うん、そうだな・・・それが本当なら、別に無理せんでも・・・」


ゴットンとしては戦わないで無事に帰れるのなら、それでもいいと考えている。

ロジの魔法で恐らく自分達は安全と分かっているが、戦わないで済むならそれに越したことは無い。


「えー・・・」


ヴァリネスは拗ねた表情で不満を見せるが、別に戦闘狂ではないのでゴットンと海賊との間で話がまとまるのなら、口出しする気はなかった。

 だが、オーマは違った。


「いや、ダメだな。お前達は信用できない。港に戻ったって海軍が待ち構えているはずだ。この船で自分達のアジトに戻る以外の選択肢は無いはずだ」

「・・・お前らに迷惑は掛けねーよ・・・」

「信用できないって言ってるだろ。ここで捕らえるのが確実だ」


 船長のゴットンを無視して、オーマは勝手に交渉を決裂させる。

ゴットンは用心棒をして貰っている手前言い出しにくいのか、複雑な表情のまま静観している。

ヴァリネスも複雑な表情を見せている。その表情は、オーマに“そこまでする必要あるの?”というものだ。

 そんなヴァリネスに、オーマは海賊に向けた言葉で、自分の意図を伝えた。


「ここで傭兵として名を上げたいと思っているんだ。お前らを捕まえれば良い宣伝になる。特に、“ベルヘラのお偉方には早く顔を覚えてもらいたい”のさ」

「あー・・そういう・・・」


オーマが海軍、つまりレインと接触できる可能性を言っているのだと理解し、ヴァリネスもロジも納得した。


「て、てめえぇ!俺達を踏み台にするってのかよ!?」

「そういう事だ。まあ、持ちつ持たれつだろ?」

「お互い上手く共存しましょ♪」

「ふ、ふざけやがって!何が共存だ!てめえら!殺っちまえ!!」


海賊のリーダーの怒号を合図に、海賊達が雄叫びを上げながら突進してくる。

 オーマ達はそれを余裕の態度で迎え撃つのだった____。

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