ダマハラダ砂漠の戦い(36)
「全員突撃陣形!副長は後ろについて、“疲れを癒して”もらう!」
「「了解!!」」
オーマの号令に、サンダーラッツ兵士達が強い覇気を見せて、答えた。
古参の戦士たち故、今の状況をちゃんと理解しているのだ。
その上で、自分達のやる気を示してオーマを安心させようとしている。
部下達からのそんな気遣いに、オーマは心の中で感謝した。
「うげ・・・・・」
ただ一人、特別な指示を受けたヴァリネスだけが浮かない顔をしていたが、誰も気に留めなかった。
「突撃ぃいいいい!!」
「「うぉおおおおおおおお!!」」
「あーもう!しょうがないわねぇ!」
そしてそのままオーマを先頭に、サンダーラッツ兵士達は突撃を開始した______。
「攻撃に転じて来た・・・正面3小隊で受けろ!!視暗弓隊は散開して包囲!!逃がすんじゃないぞ!!」
「「おお!!」」
アーグレイの指示に氷演武隊も視暗弓隊も即応する。
その動きは予め示し合わせていたかのようにスムーズだ。
相手に臆さず、自分達の実力に自信が有る事を示している。
だが、そんな兵士達の自信を他所に、指示を出したアーグレイには緊張が走っていた。
(先程や以前戦ったときとは配置が違う。オーマ・ロブレムが先頭に居て、最後尾にヴァリネスが居る・・・足にケガをして動きの鈍いヴァリネスも突撃に加えているという事は乱戦狙いか?確かに私もオーマの立場でも、この状況なら乱戦に持ち込みたいとは思うが______)
相手の動きに慎重なアーグレイは、凡そではあるがオーマの意図を察している_____
(____だが、それは悪手ではないか?もう人数もだいぶ削られている。乱戦になったら単純に人数差で潰せる数だぞ?それとも_____)
更に、オーマに高い評価をつけているアーグレイは、オーマがその事に気が付いていないわけが無いとも考え、何かしらこの人数差を埋める策を用意していると判断する_____
(____奴らの扱える魔法属性は、炎と土。オーマはこれに雷が加わるわけだが、どれで来る?サンダーラッツ本隊は前世が炎属性で統一されたフレイムベアーズの突撃隊だ。なら、炎属性の集団魔法か?或いは再び土属性で火薬を使うか?_____いや、オーマが先頭なら、正面に味方はいないから電撃魔法の可能性も有る。土属性はオーマがあまり得意としていないし、我らとの相性もあまり良くない・・・やはり、オーマの攻撃は炎属性か雷属性の可能性が高いだろう。少し賭けになるが、用意して置くか_____)
オーマが何をして来るのかまでは分からないが、自分なりにこの状況でのオーマの対応に考えを巡らせて、その対策の準備のために魔法術式を展開する。
アーグレイが準備する魔法は二つ。
どちらも水属性の性質変化魔法で、片方は対炎属性用の油。もう片方は対雷属性用の純水だ。
オーマが雷で切れ込んでくるなら純水で味方をガード____。炎で来るなら油でカウンター_____というわけだ。
そうしてアーグレイが魔法の準備に入った頃、サンダーラッツ側の先頭に居るオーマが、氷演武隊の先頭に居る兵士へと斬りかかった_____。
「おうっ!!」
「フッ!」
_____ガキィイイイイン!!
甲高い金属音が鳴り響く_____。
オーマの一撃は、間合い、タイミング、速度、膂力、全てが申し分ない一撃だったが、戦闘の氷演武隊の兵士は、これをなんとか受けきって見せる。
「まだまだぁあ!!」
だがオーマは気落ちしない_____。
相手が氷演武隊の兵士なら、こうなる可能性も想定していたし、こうなっても作戦には支障がない。
「おらぁあああ!!」
_____ズガガガガガガン!!
オーマはそのまま連続攻撃へと繋げて、相手兵士を強引に押し込んでいく。
それから____
「____行くぞ!」
_____魔法術式を展開。
突撃で敵と接触するまでに溜めていた魔力で、一気に術式を完成させる。
その属性は雷_____。
「____想定内だ!!」
オーマの魔法術式を見たアーグレイが、“思っていた通りだ!”と言わんばかりに叫んだ。
オーマの行動は自身の想定内のもの____ならば迷う必要は無い。
アーグレイは純水の方の魔法術式に意識を集中して、術式を完成させた。
「「行けぇええ!!」」
オーマとアーグレイ、両者ともに同じタイミングで叫んだ。
これならば、オーマの攻撃を想定していたアーグレイのシナリオ通りの展開になるはず。
「な!?」
だがアーグレイは、想定外の展開に困惑した。
オーマの合図で発動した魔法は、オーマの電撃魔法ではなく、後ろからついて来ているサンダーラッツ兵達の炎属性の集団魔法による“フレイム・アーマー”だった。
そしてサンダーラッツ兵達は、オーマを追い越して敵陣へと切り込ん行く____
_____ボジュウウウウ!!
電撃魔法を無力化するために撃ち放ったアーグレイの水魔法には、攻撃性も耐久性も無い。
そのため、サンダーラッツ兵の炎の鎧によって簡単に蒸発してしまった。
「____チッ、だが、どういう事だ?」
アーグレイは自身の思惑が外れた事に舌を鳴らしつつ、オーマのこの一手に疑問を抱いていた。
(だから、それでは数で潰されるだろう?結局普通の突撃なのだから・・・お前が先頭に居た意味は何だったのだ?手前の兵士に止められたから諦めた?兵を切り伏せて突破できると思って、想定していなかった?)
色々と疑問に対する答えを出すが、どれもしっくりこない。
アーグレイの中のオーマ・ロブレムは、そんな間抜けではない。買い被っているとも思っていない。
実際のところはどうなのだろうか_____?
(____いや、やはり有り得ない。奴はまだ電撃魔法を残したままだ。この動きも作戦だ。だが、どうするのだ?サンダーラッツ兵が前に出て来て、今、奴は部隊中央だ。電撃魔法では味方を巻き込む・・・・はっ!)
瞬間、アーグレイの中で、その事と相手の目的が乱戦である事、そして最後尾に居るのがヴァリネスである事という点と点が線で結ばれる_____。
だが、答えを出すのが一瞬遅かった。
オーマの作戦に気が付いたアーグレイが部下に指示を出すより、オーマが魔法を撃つ方が速かった____
「____サンダーボルト!!」
_____バリバリバリバリィイイイイイ!!
オーマが電撃魔法を撃ち放ち、サンダーラッツ兵ごと戦闘中の兵士達を感電させた。
だが_____
「「うぉおおおおおおおお!!」」
_____サンダーラッツ兵達は感電しておらず、そのまま感電している氷演武隊の兵達に襲い掛かった。
「やはり!ヴァリネスか!そこまで魔法の腕を上げていたか!!」
自身の予想通りの光景を見てアーグレイは悔しさを吐き捨てる。
サンダーラッツ兵達は、アーグレイが予想していた通り、全員がヴァリネスの対電撃魔法用の金属性魔法ヌティール・アーマーを装備していた。
(オーマ以外の全員にあの鎧を・・・人数が少なくなったことを逆手に取ったな?オーマ・ロブレムめ!)
いくらヴァリネスでもヌティール合金の鎧を装備させられる人数は限られる。
オーマは、数の減った今の人数が、ヴァリネスが味方に鎧を装備させてあげられるギリギリの人数だと把握できていた。
ヴァリネスの魔導士としての力量と、オーマの指揮官としての力量のなせる業だった。
「ナイスだ!副長!次も頼む!」
「か、簡単に言わないでよぉ!!」
「簡単に言っているつもりは無い!!だが、ここが正念場なんだ!頼む!!」
「あーーー!もう!しょうがないわねぇ!!」
複数のヌティール・アーマーを錬成した事で大量の魔力を消費しているヴァリネスだが、それでもこの状況を好転させるには足りない。
愚痴りつつも、その事を頭では理解しているヴァリネスは、この状況を逆転させるため、更に魔力を振り絞るのだった_____。




