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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(33)

 (できれば、この戦い方はしたくなかった・・・)


 ミューラーがロジの戦い方について考察している時、ロジはミューラーに攻撃を加える中で、この戦法を使った事に対して何とも言えない後味の悪さを覚えていた。


 ミューラーの考察通り、ロジがこの戦いをしたのは今回が初めてではない。

軍人に成る前は、ロジはケンカでしょっちゅうこの戦法を使っていた。

通称はそのまま“ドレイン・チェーン・デスマッチ”。

ロジがドネレイム帝国の首都ドネステレイヤの路地裏でチンピラをしていた時に使っていた戦法で、ロジの当時の必勝法だった。

オーマに負けるまで、この決闘でロジがケンカで負けたことは無かった。

 だがオーマに敗北して、オーマと行動を共にする様になってから、この戦法を封印する心変わりが起きたのだ。

ロジはオーマと行動するようになって少しずつオーマへの憧れを強くしていった。

そうして正規の帝国軍人に成ったときに、帝国軍人に相応しい(ロジの気持ち的にはオーマの部下に相応しい)兵士であろうと、この戦法を・・いや、ケンカ殺法自体を野蛮だと思い封印したのだ。

だが今回、このミューラーを止めるために、その封印を解いて、この戦法でミューラーに挑んだのだ。

 数年ぶりだというのに、体は覚えていた。

それがまた何とも言えないやるせなさをロジに抱かせていた。

チンピラ時代の事はロジにとって、その全てが反省と後悔の黒歴史だ。

この戦法を再び使うという事は、その自分の嫌な思い出を自ら引っ張り出す行為だと言える。

そのためロジには、言い表しようのない不快感が伴っていた______。


 (_____でも!)


“やむを得ない!_____”と、ロジは自分に言い聞かせる。


(ミューラーとの直接戦闘は初めてだけど、向こうはボクの“軍人”としての手の内は全て知っているはず・・・)


 お互いの情報量に差が有るというミューラーが考えていた事は、そっくりそのままロジも考えていた。

ロジは突撃隊長になってから、自分達の力が分析されやすい立場である事など、当の昔に身に染みて分かっていたということだ。

ロジが得意技の“アクア・ランス・ウェイブ”を多用し、戦い方にバリエーションが少ないのは、元支援部隊だったからという理由だけではない。

 突撃隊は、いの一番に敵陣に突っ込み、戦いの主導権を取るのが主な仕事だ。

その後の戦闘に大きく影響を及ぼすがために、全力で戦い事が多い。故に、敵に手の内を知られる事も多い。

それを経験して来たロジは、同じ敵との再戦時には、自分達の手の内は全て明かされているつもりで戦う必要が有るのだと、学習していた。

 そう学習したロジは、それからは手の内を知られたら通用しなくなるような戦法は選ばず、相手が自分の手の内を知っていても、戦闘に大きく影響はしない戦い方や魔法に磨きを掛けて来た。


 (ボクの軍人としての手の内は知られている。けど、こちらはミューラーに対して、隠密能力がある程度分かっているだけで、個人の戦闘力についてはあまり把握できていない・・・なら、相手の方が有利。相手が知らない戦法じゃないと互角に戦えない____!)


とは言っても、それも付け焼刃ではミューラーには通用しなかっただろう。

だからこそ、ロジは不快な気分になると知りつつも、チンピラ時代のケンカ殺法を持ち出したのだった。

 しかし、ケンカ殺法など、いつまでも通用するほど戦場は・・・とくにラヴィーネ・リッターオルデンは甘くない。


(一度でいいんだ!奥の手を使うために、一度だけミューラーのスキを作れれば_____!)


だが、それはロジも分かっていた_____。




 (な、なめるなよ!!こんなケンカ殺法で____!)


ミューラーはロジからの攻撃を受け続けがながらも、立ち直りつつあった。

 急所をガードしながら、潜在魔法で肉体の防御力を強化。

そこから更に、ロジの左アッパーで揺らされた意識がはっきりしてくると、信仰魔法で風の鎧を身に纏いダメージを軽減させていた。

そうして立ち直ったミューラーは今、反撃の機会を窺っていた_____。


(直ぐにでも反撃に出たいところだが・・・)


 ミューラーは実のところ、今すぐにでも反撃に出られる。ダメージがあまり無い。

 なぜなら、ロジの攻撃は本気ではないからだ。

派手に拳を撃ち込んでいる様に見えるが、潜在魔法は必要最低限、信仰魔法に至っては使用すらしておらず、拳も実は手打ちで、腰を使って体重を乗せていない。


(恐らく、ドレイン・チェーンで魔力を吸い上げられるからだろう)


水の鎖から常に魔力を吸い上がられている状態では、上級の魔法を使う事は魔力枯渇のリスクとなる。


(奴の一番の目的は、私の暗殺を阻止することのはずだからな・・・)


ならば、焦ってリスクを背負って大技を出すより、必要最低限の攻撃でミューラーの魔力を削った方が時間稼ぎにもなって有効だと判断したのだろう。


(こちらを焦らせて大技を引き出して魔力の消費を狙う____。という焦らし作戦にもなる・・・ならば、こちらも魔力を抑えて建設的に反撃に出るべきか?それとも、その思惑ごと大技で一気に蹴散らすか・・・?)


 ミューラーが思い付いた選択肢は二つ_____。

冷静で、勘よりも計算を重視するミューラーが答えを出すのは直ぐだった。


(ロジは私が大したダメージを負っていないことは分かっているはず。なら、私が反撃で大技を出すのは想定しているだろう。それに、こちらもこの状況を切り抜けてからが本番だ・・・)


_____そう。ミューラーが本当にしたい事は、この戦場でサンダーラッツ側の通信網を担っているヤトリ・ミクネの暗殺だ。

ここでロジを倒す事は戦場にそれなりの影響を及ぼすだろうが、ミクネを仕留めた方が報酬は大きい。

敵の中にドネレイム帝国最強騎士という想定外の戦力が居たと分かった以上、そちらを狙うべきだろう。

ここでロジを仕留めるのに魔力を使い過ぎては、ミクネを暗殺できなくなる。相手は勇者候補なのだ。

バージアデパートでフレイスと戦ったミクネの姿は衝撃的で、ミューラーの目にも焼き付いている・・・。


(手持ちの武器・・・弩は使えない?矢を装填している暇が・・短剣は2本。投げナイフの数は_____)


頭の中で自分の装備を確認しつつ、作戦を決める。


 そして_____


_____ダンッ!


ミューラーは後ろに飛んだ_____と同時に両手に投げナイフを三本ずつ用意する。


「はあ!」

「ッ!?」


一瞬の間_____。その間で出来た時間と作った距離でミューラーはロジにナイフを放つ_____


「_____フッ!」


_____バシャシャシャシャアアアン!!


ナイフはロジまで届かなかった。

ミューラーが予想していた通り、ロジは反撃が来ると分かっていたのか、直ぐに水の壁を作ってガードした。


「____よし!」


だが、ミューラーが予想していた通りという事は、このロジの反応はミューラーの想定内ということでもある。

 そのためミューラーは、ロジが水の壁でナイフをガードするや否や、速攻で風魔法を発動した_____


(追撃が来る!)


しかし、ロジの方も、あのナイフ攻撃だけで終わるとは思っておらず、追撃が来ることは想定していた。

だが____


______バシャアアアン!


(_____追撃じゃない!?)


ミューラーは追撃をするのかと思いきや、発動した風魔法でドレイン・チェーンを破壊した。

 そして直ぐに、ロジに背中を見せて走り出した_____


(逃げた!?ボクに魔法を使わせれば、水の鎖の拘束力が弱まると踏んだ!?そんなわけ_____!!)


 ロジはすぐさま水の鎖に魔力を込める_____。

すると鎖は、先程壊れた時以上の速さであっという間に元に戻った。


「_____フンッ!」


鎖が元に戻ると、ロジはそこから更に魔力を込めて鎖を引き、先程と同じ要領で鎖を巻き上げてミューラーを引っ張ろうとした。


「_____」


 だが、ミューラーの狙いはそれだった_____


_____バシァアアアアン!


ロジが鎖を引っ張った刹那、ミューラーは再び風魔法で水の鎖を断ち切った。


「ッ!?」


鎖を勢い良く引っ張っていたロジは、後ろに大きく仰け反ってスキを見せてしまった_____。

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