ダマハラダ砂漠の戦い(28)
ジェネリーは、手に重傷を負いながらも、ミューラーの暗殺からイワナミを護った。
その重傷も、ジェネリーの再生能力ならば十秒ほどで全快するモノだったが、そのすぐ後ろにフレイスが現れる。
フレイスは既に攻撃態勢で、術式も完成していた。
実はジェネリーは、ミューラーの微かな匂いを嗅ぎ取ったあたりからスキだらけだった。
本人にとってはそのつもりは無かったのだろうが、フレイスから見れば、幾らでも切り込むチャンスが有ったのだ。
だがフレイスは、ミューラーならば必ずこれ以上のチャンスと作ってくれるだろうと信じて、敢えてそのスキを突かずに魔力を溜めてジェネリーを泳がせていた。
そうしてフレイスは絶好のチャンスを得る。それも、ジェネリーだけではなく、近くに居るイワナミとロジもろとも屠るチャンスだ______。
「この機は逃さん!!」
フレイスが、この瞬間のために、溜めに溜めた魔力で氷結魔法を発動する_____
「ッ!_____フレイム・ウォール!!」
「ロジィイ!!」
「イワナミさん!?」
______パキィイイイイン!!________________________________________________________________________________
「あ・・あ?・・・ああ!」
局地的に出来上がった白い氷結の大地の中で、うめき声を上げる者がいる・・・うめき声を上げることが出来た者がいた。
「む?レンデルは無事だったか・・・」
「イワナミさん!?ジェネリーさん!?」
ジェネリーがイワナミとロジの前に立って壁になり、イワナミがロジの前に立って壁になった事で、ロジは二重の壁によって守られて無事だった。
特にジェネリーが壁になってくれたことが大きいだろう。
だが、それでもフレイスの渾身の一撃は、ジェネリーと共にイワナミも氷漬けにしてしまう威力だった。
氷漬けのイワナミ、そして氷漬けにされただけでなく斧の一撃も受けているジェネリー・・・二人共瀕死だ。
特にジェネリーは再生が始まらない。フレイスの氷結魔法がジェネリーの再生能力を上回ったのだろう。
知っている者ならば直ぐに危険だと分かる。
「いけない!」
ロジは直ぐに二人に駆け寄り、氷を解かす水魔法を二人に掛けながら、同時に回復魔法もかけて応急処置に入る。
フレイスを前に完全に無防備な姿をさらすロジだが、気にもしなかった。
“どうせ、一人で立ち向かっても殺されるだけだ____”
____と、フレイスとの戦力差が、ロジを半ば自棄にしていた。
それ位この状況は、ロジと二人にとって絶望的だった。
だが本当の状況は、ある意味でこれ以上の絶望だった______。
「_______」
フレイスは魔力を練り上げて魔法術式を展開している。術式は二つ_____氷属性と時空属性だった。
(____!?時を止める!?何故!?この状況で!?)
高魔力での二つの魔法_____明らかにロジと瀕死のジェネリーとイワナミに対してはオーバーキルになる攻撃。
確実に止めを刺すため?____違う。
フレイスは、どれくらいで相手に止めを刺せるかをちゃんと量れる戦士だ。魔力の無駄遣いはしない。
そんなフレイスが、この後の展開も考える必要があるこの状況で、こんな攻撃を三人にする事は無い。
そう、フレイスはもう三人の相手をする気が無い。
この二つの魔法は別のターゲットの為のモノだ。
新たに標的にされている人物いる______この人物がフレイスに狙われているという状況こそ、三人にとって・・・サンダーラッツにとって、今以上の絶望を呼ぶものだった。
(フレイスさんの魔力量・・・この場に居る人じゃない?あの魔力量をこの付近で使えば、自分の仲間も・・・これだけの魔力を使っても味方を巻き込まない?______ッ!!)
ロジの中で答えが出た____。
(_____ミクネさん!?)
そう予感し、フレイスの顔を覗いてみれば、フレイスの表情と目線がそれを答えだと示していた。
「ミ、ミクネさん!次のフレイスさんの標的はあなたです!」
ロジが叫ぶ_____。ミクネはかなり離れた場所に居るが、その声を聞き取っていた。
「____クソ!だからってどうすればいい!?」
聞いたミクネは焦りを抑えられない。
流石のミクネでも通信結界を維持しながらではフレイスの砲撃を防ぐなんて出来ない。コレル達の砲撃とはワケが違う。
結界を維持しながらどころか、万全であっても防げるか分からないモノのはずだ。
何より、フレイスは時空魔法を準備している。
(時を止められたら_____)
_____そう、時を止められて攻撃されれば、防御どころの騒ぎではない。防御そのものが不可能だ。
(マズイ!ミクネさんが落とされたら・・・!)
そしてミクネが戦闘不能になれば、サンダーラッツの通信網そのものが無くなる。
そうなったら、形勢逆転どころではない。その時点でサンダーラッツの敗北が確定するだろう。
「に、逃げ____」
「_____遅い!!」
ミクネは咄嗟に隠れるために逃げようとしたが、フレイスはその前に時空属性の魔法を発動した_____。
「ツァイト・ディカイン・ツァイト(時間ではない時間)」
_________________________________________________________________世界が止まった。
フレイスは停止した世界の中でただ一人、氷結魔法の術式を完成させて、標準をヤトリ・ミクネに合わせる。
「通信網が無くなれば、連携はズタズタだ。そうなれば、残りの勇者候補達でも形勢は変えられないだろう・・・我々の勝ちで、残すはオーマとの決着のみになる・・・。先ずはこの戦いの決着をつけ______!__?」
フレイスが砲撃を開始しようとしたその刹那、フレイスに向かって“黄金”の光が伸びて来た____。
(雷!?だが何故!?誰だ!?)
一瞬でフレイスの頭の中に幾つもの疑問が過る____。
だがフレイスは直ぐにそれらの疑問を振り払い、水属性魔法を特殊STAGEで発動、対雷用の鎧を身に纏い防御する・・・だが______
______ガンッ!!
「あぐっ!?」
_____フレイスは被弾。黄金の光の正体は電撃魔法ではなかったため、フレイスは対処を間違えてダメージを負った。
「よ・・鎧?黄金の鎧・・・誰だ!?」
「・・・初めまして、フレイス。ドネレイム帝国軍、フェンダー・ブロス・ガロンドと申します」
「_____!?」
男の名を聞いて、フレイスは“信じられない!”と言った様子で目を見開いた。
そうして出来上がった表情は驚きだけでなく、焦りと、少しだけ歓喜も含まれていて、かなり猟奇的に見えるものだった。
「フェンダー・・・ブロス・ガロンドだと?まさか、ドネレイム帝国のガロンド家か?」
「その通りだ。知ってもらえているとは光栄だな」
「知っている・・・知っているとも!ハハッ♪フェンダー・ブロス・ガロンド!ドネレイム帝国三大貴族のガロンド家現当主!そして、そして・・・皇帝の護衛を務めている、ドネレイム帝国最強の騎士だ!!」
フレイスは叫ぶ____興奮と、喜びで・・・この人物が自身の攻撃を防いだことで、自分の想像している通りの人物である事と、この後の展開を想像して・・・・。
「クッ♪・・・ククククク♪そうか、フェンダー・ブロス・ガロンドか・・・それで?フェンダー殿、何故ここに?」
「無論、今、この時のためにだよ。フレイス殿」
「ほう♪」
獰猛さを隠しもせずに、フレイスは猟奇的な笑みを更に歪めて笑う。
「ここで貴方を止める。フレイス殿」
「面白い!!ドネレイム帝国最強の騎士との決闘!受けて立つ!!」
「____ああ・・すまないが、“決闘”ではないのだ、フレイス殿。あくまで“戦争”だよ」
「?」
フレイスがフェンダーの言葉に疑問符を浮かべていると、ダークエルフの少女が停止した世界でこちらに向かって歩いて来ていた_____。




