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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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ヴァリネスの社交性は

 港の様子を見に来たオーマ達は、坂の上から軍港の様子を見ていた。


「うーん・・前に来た時より軍船が少ない?」

「そうだな。前に見に来た時の半分位だ」

「何かの軍事作戦でしょうか?」

「・・・・ちょっと探るか」

「なら、センテージに潜入している帝国の工作員と接触しますか?」

「・・・いや、それはやめておこう、こっちとは別な任務なワケだし。情報のやり取りは慎重でなくてはならない作戦だ。他では手に入らない情報ならいざ知らず、聞けば分かりそうな事まで潜入している奴らから情報を得るべきではない。ミスティもいいな?」

「はい。分かりました」


ジェネリーを納得させるための詭弁だったのだが、ジェネリーは素直に受け入れてくれたようだ。


 本当の所は、只々オーマが嫌だったからである。

ただ、街の様子の変化を聞くという些細な事ではあるが、それでも嫌だった。

帝国の工作員と会えば、必ずその内容は第一貴族の耳にも入る。

オーマの中で第一貴族(特に宰相クラース)は、得体の知れない化け物という認識で、どんな情報からこちらの思惑を察知するか分からない相手だ。

そのため、極力第一貴族の息が掛かった人間とは関わりたくない。

そんな心情を、まだ反乱計画を話していないジェネリーには言えないのだ。

 実はベルヘラに着て・・いや、正確にはセンテージに入国してからずっと、オーマは帝国の工作員との接触を避けていた。

サンダーラッツの隊長達は相手が工作員かどうかを看破できるから、接触しないように指示を出し、看破できないジェネリーには、単独行動をさせないようにして、これまでずっと工作員との接触を躱して来たのだ。

隊長達はオーマがそうしてきたことも、そうしたい気持ちも察していた。

 当然、ヴァリネスも分かっていた。

加えて、オーマがジェネリーに対して隠し事やウソをついている事に、罪悪感を持っていることも分かっている。

そんなヴァリネスは、オーマを元気づけるよう、努めて明るく振る舞うのだった。


「んじゃー、ここは私に任せなさい!酒場で知り合った飲み友に、海運業をしている商人がいるから、聞きに行きましょう!付いて来なさい!」

「そうか?じゃー、よろしく頼む」

「の、飲み友ですか?こっちに着いて僅か数日で商人と友好関係を築いたのですか?」

「ちょっと言い方が固いわねぇ・・・けどまあ、そういうことかしら」

「すごいですね・・・ネリス副長」

「ネリスはウチで一番社交性が有るからな」

「社交性・・・・兵士にもやはり必要ですよね」


ジェネリーの声のトーンが落ちた。


「?・・まあ、一人で戦えるワケじゃないからな。ミスティはそういうのは苦手か?」

「正直、得意ではありません。帝・・故郷では一人も友人ができませんでしたから・・・」

「いや、あれは君の立場が特殊なだけだろ?実際、ミスティとの初対面は印象良かったし」


オーマに褒められたにも拘らず、ジェネリーはその言葉を聞いて項垂れてしまう。


「・・・こっちに来てから、上手く聞き込みが出来ないのです。堅苦しいと言われたり、フランクに話そうとする不自然な態度になったり・・・ワムガ隊長にフォローされてばかりです・・・」

「初めてなんだし、そんなに気にするな。仮に、そういう事にミスティが向いてなかったとしてもネリスに任せておけばいい」

「・・・・・」


オーマに慰められたはずのジェネリーは、オーマを上目遣いで睨んでいる。

二度目の予想と反するジェネリーのリアクションに、オーマの頭に?が浮かぶ。


「ど、どうした?ミスティ?」

「・・・・オルス団長って、ネリス副長のこと頼りにしていますよね?」


今度は唇を尖らせ、拗ねたような表情を見せる。

オーマにはワケが分からなかった。


「は?ああ、まあ、副長だしな、信頼しているが___」

「好きなんですか?」

「ブッ!?ハァ!?な、なんでぇ!?」

「・・・・・」


ジェネリーの不機嫌はまさかの嫉妬だった。

予想外過ぎる反応に、オーマはパニックを起こしながらも、弁明する。


「いやいやいや!そういうのじゃないって!本当!えーと、その信頼しているが、その、つまりは仲間ってことで、その、な?分かるだろ?アイツのキャラというか・・こういうことに向いているって感じ?それを言っているんだ。アイツは本々あけすけにものを言う奴だったし、酒が入ったら余計にだ。知らない人にでもガンガン声を掛けられる。酒が入ったアイツの社交性はある意味無敵だ!鬼に金棒、副長に酒!ってな!ハハハ・・・」

「・・・・・ネリス副長の話をしているとき、オルス団長って表情が生き生きしますよね」

「ヴェ!?そ、そうかな・・・そんなことは・・・・・」


 何と言えばいいのか分からず、思わずヴァリネスにフォローしてほしくて、前を歩くヴァリネスを呼びそうになる。

火に油を注ぐ事になると判断して思い止まるが、何もいい言葉が浮かばず、気まずい空気が流れる。


「おっ?見つけた!何してんの、二人ともー!知り合い見つけたから声かけるわよー!」

「どうしたんですかー!?」


 天の助けか、精霊の恵みか、前を行くヴァリネスとロジの方から声が掛かる。

空気の限界を感じていたオーマは瞬時に飛びついた。


「おおっ!?いたか、そうかー!じゃー会って話を聞かないとな!な!?よし、行こう!ミスティ!」

「・・・・・」


わざとらしい態度でそう言うと、睨んでいるジェネリーを努めて無視して、オーマは足早にヴァリネスとロジに近づいていくのだった。


「・・・私だって負けませんよ、副長」


 そう呟くと、ジェネリーも気持ちを切り替えて、ヴァリネス達と合流した____。





 ジェネリーが合流してみると、ヴァリネスは見知らぬ男と挨拶している。

恐らくヴァリネスの言っていた、飲み友の商人だろう。

 全体的にまるく太っており、二重アゴのせいで首が見えない。顔立ちは童顔で、そのため大人っぽく見られたいのかカーネル髭をたくわえている。指には、脂肪を締め上げるように指輪を付け、その指輪には大きめの宝石が嵌まっている。服も白色の良い素材で仕立てられていた。

 明らかに儲けていると分かる商人だが、貴族のジェネリーには少し卑しさも感じる。

がめつい商売をしてそうだなと、思ってしまった。

 後にヴァリネスから聞いた話だと、一流の商人は酒場で羽目を外さないし利用するのも難しいから、あえて強欲そうな商人に声を掛けていたと言う。


「へー、大量の注文が入ったんだー。だからご機嫌なのね、ゴットンさん」

「ああ。ここの所、商売が上手く行き過ぎて怖いくらいさ。前に起きた西方連合の戦いでも、大量の物資の注文が入ったし、このままドネレイム帝国が西方に侵攻するなら、こちらも商売の手を広げようと思っている。まったく帝国様様だ、はっはっはっはっは!」


 ゴットンと呼ばれた商人の笑い声を聞いたオーマは、心の中で暗く冷たい感情を抱いた。

人のことを言えるほど善人ではないが、人々が死んでいく中で利益を上げ、歓迎までするのは人格を疑う。

だがもちろん、そんな気持ちは態度には出さない。

こういう輩はどこにでも居るし、世の中の商人が皆こうではない。

強欲な商人との会話には慣れきっている。

___だがジェネリーはどうだろう?

 オーマが横目でジェネリーの様子をうかがうと、案の定不快な表情を見せていたので、肘で軽く突いてたしなめる。

ジェネリーはハッとして、表情を改めた。

一瞬気まずそうにジェネリーはゴットンの顔を覗くが、ゴットンはヴァリネスとの会話に夢中だった。


「へ~、じゃーまた飲みに行きましょうよ♪」

「おお!構わないとも。お前さんと飲むのは楽しいからな。こんな気軽に話せる女には出会ったことが無かった。なんならおごるぞ?」

「本当に!?私、おごりなら前の倍は飲むわよ?」

「ハハハハハ!あの時の倍か!?すごい酒豪だな、お前さんは!?おもしろい!どんだけ飲めるか見てみたい。おごってやるから酔いつぶれてみろ!」

「へー・・本当に調子良いのねー。取引相手は大口?本当に大丈夫?騙されないでよ」

「それは大丈夫だ。なんたって相手は、この都市の領主様だからな」


“領主”というキーワードに四人全員が反応した。


「プロトス卿?・・・また戦でもするのかしら?」

「恐らく違うな。注文の内容はどちらかと言えば宴でも開くような内容だ。どっかから客人でも来るのだろう」


オーマとヴァリネスはお互い目を見合わせる。そして、二人とも同じ予想だと理解した。


「へ~・・何処からだろ?」

「さあな。今の時期じゃ心当たりが多すぎる。対帝国のために同盟強化、あるいは帝国相手の外交の可能性だって有る」

「軍の動きも関係あるのかしら?今日はいつもより軍船の数が少ないけど」

「多分な」

「ふーん」

「・・・おい、ネリス。あまり政治には首をツッコまない方が良いぞ?私も深入りする気はない」

「え?ああ、うん。そのつもりは無いわ。ただの好奇心よ。でもゴットンさんも関わりたくないんだ?絡んだ方が儲けられそうだけど?」

「まあ、そうだが、それなりの“力”が要る。政治に絡んで商売するには、金もコネもまだ足りん」

「そっかー。ゴットンさんでも厳しいのね~」


 ベルヘラの動きが帝国の使節団との外交のためだと確信し、ヴァリネスが引き際を考えながら会話を終わらせようとしている。

オーマも、この商人から聞く事はもう無いと判断し、周りに目を向けた。

 すると、遠くの商船の甲板の上で、何やらキラキラと光っているモノが見えた。


「・・・あれは?」


思わず呟いたオーマの言葉に全員が反応し、オーマの視線の先を追う。

キラキラと光るそれは先程より多くなっている。


「・・・何かしら?」

「何だ?お前さん達何か見えるのか?」


全員でその船の様子を見ていると、ついにその船から人が投げ出された。


「あれは戦闘だ!船が襲われている!?」

「海賊か!?」


 何が起こったか判明すると、全員に緊張が走った。

海賊の強襲ならば距離が数百メートル在るとはいえ、巻き込まれる可能性が有ることを、戦を知るオーマも、海賊を知るゴットンも分かっていた。


「船荷の積み込みは済んでいるはず!一旦港から離れよう!おいっ!出港だ!急げ!!お前さん達も連れてってやる!船に乗れ!」


 ゴットンが慌てながら声を荒げて、皆に指示を出す。

そして、その切迫した心情を煽るように、警報の鐘が鳴り響く。

他の商船も事態を把握して、騒がしく次々と港から海へ出て行こうとする。


「どうする?ゴットンさんが乗せてくれるみたいだけど?」


 周囲の様相とは裏腹に、落ち着いているヴァリネスはオーマに判断を仰ぐ。

オーマもまた落ち着いて、だが訝しげな表情で海賊たちの強襲を見ていた。


「・・・何であんな強襲の仕方なんだ?」


 海賊のやり口に詳しいワケではないが、オーマから見た海賊たちの手口には違和感が有った。

軍船が減って、いくら港が手薄になったからといって、こんなハデに暴れては最終的には捕まってしまうだろう。

あそこで襲って積み荷を手に入れても、船の大量の積み荷など船でしか持ち出せない。だが、船で逃げようとすれば、巡回中の軍船が戻ってきて、包囲されてお終いだ。

警報の鐘は鳴ったのだ。恐らく何某かの方法で海上警備中の船に連絡が入ったに違いない。

港で強襲するなら、警報が鳴らないように襲い船を奪取して逃げるべきだ。


(____あえてハデにしてるとか?)


 その可能性が頭に過り、オーマの中で行動が決まる。


「お言葉に甘えて、乗せてもらおう。ひょっとしたら陽動かもしれん」

「陽動ですか?」

「本命がいるってこと?」

「ああ、いくら港が手薄になったとはいえ、この暴れ方はハデ過ぎる。けど、そのおかげで殆どの船が積み荷を確認せずに出港している。護衛だって、このゴットンの船のようにまだ雇っていない船が多い。それでもし、積み荷に海賊が潜んでいたらどうなる?」

「船を占領して、そのままとんずらできるわね」

「そうだ。だから護衛として船に乗ろう。強欲な商人とはいえ友好的ではあったし、俺達の事を保護しようとしてくれている。海賊相手の護衛くらいはしてやろう・・・それに・・・」


海賊と出くわせば、海軍のレインとも接触できるかもしれないとオーマは考えていた。


「了解しました」

「まあ、今度ご馳走してくれるって話しだし、いっか。」


相談が終わると、オーマは他の隊長達との連絡役としてジェネリーを一人残し、ヴァリネスとロジを連れゴットンの船に乗り込んだ____。

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