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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(25)

 アーグレイはRANK2までの信仰魔法の全の属性に対して有効な対抗策を揃えている魔導士だ。

そのためアーグレイを打倒するのは非常に困難で、そのしぶとさはラヴィーネ・リッターオルデンでもアデリナを抜いてトップだろう。

今の老獪な姿からは想像しづらいが、アーグレイは若い頃、バークランド軍の重装歩兵隊を率いてタンク役をこなしていた。

40歳という、戦士としては高齢でありながら、今なお戦場の最前線に立てている理由と、その戦場で生き残れている理由がこれだ。

 その代わりというわけで無いが、アーグレイ自身は決定力が薄い。

無論、弱くは無いが、他の幹部達の様な必勝パターンという攻撃を持っていない。

だがラヴィーネ・リッターオルデンにおいてこの事はさして問題にならない、攻撃など他に任せればいいからだ。

フレイスを筆頭に、ラヴィーネ・リッターオルデンには相手を倒す事に長ける者達は幾らでも居る。

 アーグレイのラヴィーネ・リッターオルデンでの役割とは、それ以外のところで、その戦闘キャリアで築き上げた各属性に対して有効な対抗策を造り上げた知識や、自分達の長所をどんな戦場でも活かす戦術・戦略の知識、これらを使った助言や援護でこそ、その真価を発揮する。

他にも、今の様に敵を引き付けて置くといった時間稼ぎもお手の物だ。

他のラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達が躍動するための土台づくりを担っているのがアーグレイというわけだ。

ヴァリネスが言う、“あのおっさんは地味に強い”というのは、アーグレイのこういう面を指していた。


 つまり_____


(嫌な奴に出会っちまった・・・)


この乱戦で、ミューラーの暗殺を阻止するために動いているオーマとヴァリネスが、一番会いたくなかった人物というわけだ。


 (・・・団長、どうする?)


 この事態に対して、ヴァリネスがどうすべきかと、苛立ち混じりの眼差しでアイコンタクトを送って来る。


(こうなったら仕方が無い。二人でいた方が安全だったが、二手に分かれよう。副長、俺がアーグレイを引き付けるから、副長はミューラーを探しに行ってくれ。ミューラーを倒すにしても、味方を護るにしても、副長の方が適任だ)


 ミューラーは風属性と水属性を持つ魔導士で、武器は弩と短剣、ときに投げナイフを使う事もある。

オーマの方は炎・土・雷と三つの属性を持ってはいるが、この内、得意とする炎属性と雷属性はあまり防御には向いていないし、風属性と水属性とはあまり相性が良くない。役立てられるのは土属性くらいだろう。

特に、水属性は、ミューラーもフレイスやアーグレイと同様に、雷属性の対策が出来ている可能性が有る。

それで行くと、ヴァリネスの金属性は護衛に向いているし、土属性の扱いもオーマよりヴァリネスの方が長けているため、ヴァリネスの方が適任だと言えた。


(俺がスキを作るから、チャンスと見たら行ってくれ!)

(分かったわ!)


 二人の作戦が決まる。アーグレイの方はその間、それをただ黙って見ているだけだった。


「作戦は決まったか?」

「ああ・・待たせたか?」

「いや、こちらも時間が欲しかったから、丁度いい・・・包囲せよ!」


 アーグレイが声を張り上げると、その場に駆けつけて来た氷演武隊の兵士達が、オーマ達を逃がさない様に取り囲んだ。


「ずいぶん大人しくしてくれていると思っていたら、あっちはあっちで味方を呼んでいたのね・・・嫌な奴。____団長?」

「作戦に変更は無い。どうせ簡単には通してくれないと分かっていた」

「分かったわ」

「お前達もいいな!?行くぞ!!」


「「了解!!」」


「突撃ぃいいいい!!」


「「うぉおおおおおおお!!」」


オーマの号令でサンダーラッツ兵達がオーマに続いて突撃する。

その突撃先は包囲の一番手薄な部分_____ではなく、その逆。アーグレイが居る一番濃い部分だった。


(薄い所を狙っても、アーグレイに捌かれるだけだ。なら_____)


早々にアーグレイを乱戦に引きずり込んで指揮を乱した方が、ヴァリネスが包囲を突破し易くなるだろうとオーマは考える。


「術式展開!ファイヤーボール!」


「「おう!」」


 そして当然の様に集団魔法を準備。属性は炎____。

サンダーラッツ本隊は土属性で統一されている部隊だが、デネファーのフレイムベア時代からのメンバーもいて、元々が炎属性で統一されていた部隊というのもあって、サブの属性が炎の者達が多い。

オーマとヴァリネスの近衛の兵士達は皆がそうだ。


 「来る!アクア・ウォール準備!」


「「了解!」」


このオーマ達の動きに、アーグレイもすぐに反応。

氷演武隊の兵士達はアーグレイの様に性質変化で油を錬成できないので、集団魔法で備える。


 「やはりな!行けえ!!」


 これはオーマも想定済みだった。

ついでに言えばこの後の展開も、水と炎の衝突なら、必ず水蒸気が発生して周囲の視界が悪くなるので、当たり負けしたとしてもヴァリネスが包囲を突破し易くなることも想定している。


______ボジュゥウウウ!!


サンダーラッツから走った火炎球と、氷演武隊が作った水の壁が衝突する____結果は引き分け。

火炎球と水の壁のどちらも水蒸気を作って消えて行った。


 「よし!いいぞ!次だ!“いつものやつ”で行く!」


「「了解」」


当たり負けも想定していたオーマにとって、この結果は上々。

直ぐに部下達に次の指示を出して土属性魔法の準備をさせ、自分は炎属性の術式を展開する。


 (_____“いつものやつ”?)


その言葉を聞いたアーグレイは、これまでのサンダーラッツとの戦闘データを引っ張り出しながら、目の前の状況に対処するべく魔法を発動する。


「ドレイン・バルブ!」


アーグレイが、視界を良くするために樹属性魔法で球根を作って水蒸気を吸収する_____オーマはこれを予想した。用意していた炎魔法はこの為のものだ。


_____ズゴォオオウ!!


オーマの炎を宿したハルバードがアーグレイの錬成した球根を焼き払う。


「もらった!」


そして、駆け引きに勝ったと見たオーマは、そのままアーグレイの頭にハルバードを振り下ろす_____だが、まだ駆け引きは続いていた。


「____それを待っていたぞ!」


アーグレイが水属性魔法を発動する。

先程の樹属性魔法は出力を抑えていたのか、速攻で簡単に発動して見せた。

 アーグレイが水属性魔法で錬成したのは油。

それを自分の頭上から降りて来るハルバードに向かって勢いよく噴射させた_____


_____ズゴォオオオオオ!!


油に引火した炎が噴射の勢いに乗ってオーマに襲い掛かる_____。


「ぐぅお!?」


炎のカウンターを受けたオーマは堪らず後ろに転げながらアーグレイとの距離を取った。

それだけならば良かったが、アーグレイのカウンターの炎は、そのまま燃え広がって、先程発生した水蒸気を蒸発させてしまった。


「これ位は・・・なあ?」


ここまでの展開はアーグレイの想定内だったらしく、アーグレイは得意気な表情でそう呟いた_____だが、駆け引きは尚も続く。

 オーマが叫ぶ_____。


「今だ!やれ!」


「「おう!」」


オーマの合図を聞いたサンダーラッツ兵士達は、集団魔法で魔法を発動する。


「____ッ!?あれは・・・何故、黒い?」


サンダーラッツの兵士達が錬成したのは黒い砂・・・いや、黒い“粉”だった。


(何だ?)


それが性質変化で錬成した物だという事は当然理解できるが、どんな性質のモノなのかまではアーグレイでも色だけでは判断できない。

そして、その一瞬の疑問が隙になり、オーマの作戦は成功する____


「____もらった」


 オーマは魔力を込め、ハルバードに宿している炎の火力を上げる。

そうして撒き上がった炎が黒い粉に触れた、その瞬間______


______ドゴォオオオオン!!


突如として凄まじい爆発が、アーグレイとその周囲に居た氷演武隊兵達を襲った_______。

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