ダマハラダ砂漠の戦い(21)
(こ、ここで決めなくちゃ・・・)
ロルグが幻影魔法を扱うウェイフィーを改めて強敵と認識して緊張を高める一方で、ウェイフィーの方もロルグに有効打を入れたが、緊張感を強めていた。
初めて有効打を入れられはしたが、自分は瀕死、ナナリーも重傷で動けない。ピンチなのは変わっていない。
それにロルグは高い潜在魔法を持っているため、傷の回復も出来る。
まさかジェネリー並に直ぐに全快という事は無いだろうが、RANK5まで扱えるのならば、応急処置くらいの回復は直ぐに出来てしまうかもしれない。
何より、速攻の初級・中級魔法で攻め立てていたとはいえ、あそこまで連発して来ために、ウェイフィーとナナリー二人共に魔力の底が見え始めてもいる・・・。
(次がラストチャンス)
状況を整理して、ウェイフィーは次の攻撃が勝負の決着になると判断する。
(_____で?どうする?)
的確に状況判断は出来たものの、肝心の策が浮かばない。
(必ず勝てるはず・・・)
先程のまでの諦めないという気持ちで言っているのではない。
今度は幻影属性を得た事で、実際に勝つ可能性が生まれたのだ。
だから、ウェイフィーは冷静に策を考える_____
_____ヒュゥウウウウ・・・・
一陣の風が吹き、ウェイフィーの顔をなぞる・・・・ウェイフィーの中で策が決まった。
ウェイフィーは口から血が出るのもお構いないしに、胸の激痛に耐えながら声を張り上げた。
「ナ、ナナリー!“頼って”!」
「!」
そして魔法術式を展開_____。
残りの魔力を全て注ぎ込んで、しっかりとタメを作る_____。
「く、来るか!?」
もちろんロルグは直ぐに反応する。だが_____
(____ぐ!?)
ウェイフィーの攻撃を潰しに行こうとした瞬間、背中に激痛が走る・・・体を動かせない。
(傷が骨にまで達している・・・間に合わん。かといって____)
先程の様に炎や剣を飛ばすのも良い選択とは言えない。
こちらも間に合わないかもしれない。それだけでなく、今のウェイフィーには幻影属性が有るため、先程の様に幻影属性と樹属性を組み合わされたら、ウェイフィーの本体を感知して攻撃するのは、近距離でないとロルグでも難しく、この距離では失敗する可能性が有る。
失敗すればスキが出来る・・・そして、この状況でスキを作ってしまうのは敗北を意味する。
(相手を翻弄する事に長ける幻影属性魔導士を相手に、後手には回りたくは無いが・・・仕方が無い)
ロルグは魔力を練り上げて、潜在魔法を強化。強化した肉体での回避・防御____つまり“待ち”を選択して、ウェイフィーの攻撃を迎え撃つ_____。
「デシーブ・フォレスト」
ウェイフィーが魔法を発動。
ウェイフィーの姿をした存在が5体出現する。
「先程と同じか!?」
ロルグが言う様にウェイフィーの魔法は先程と同じで、樹属性で木の人形を作り、幻影属性でその木に自身の姿を映し出したものだった。
(舐めているのか?いや、それは無い・・・瀕死でこれしか出来ないのか?それとも、別の攻撃か?いずれにせよ_____)
ロルグの中で幾つかの疑問が浮かぶも、直ぐに頭の外へと追いやる。
ロルグがやる事は変わらないからだ。
「己を信じるのみ!」
ロルグはウェイフィーの攻撃の対処を自身の能力に委ねる。
魔力を上げて、自身の潜在魔法で強化し得る限界まで肉体を強化。
その中で、ウェイフィーの幻影を見破るため、特に神経を強化して感覚を鋭く研ぎ澄ませる。
(気配____在る。やはり木の人形を使っている・・・。匂い____在る。5体全てにだ。衣服の切れ端でも混ぜ込んだか?抜け目のない・・・。だが、呼吸はどうだ?人形では誤魔化せまい?)
聴覚を強化して、集中、ウェイフィーの呼吸音を聞き取る_____
(_____在るだと!?5体とも呼吸をしている!?)
5体のウェイフィー全てから呼吸音が聞こえ、ロルグは困惑する。だが困惑したのは一瞬____
(____ハッ!)
ロルグは直ぐに、先程のウェイフィーの“頼って”という叫びを思い出す。
(なるほど。あの通信兵か?風魔法で人形に呼吸をしているように見せかけているな?大したものだ)
それが出来る技術にも、あの一言でそれを察して実行する連携にもロルグは感心し、尊敬の念を顕わにする。
だが同時に、自身の勝利も確信した______。
(このロルグを舐めてもらっては困る。ただ人形の口元に風を起こせば欺けると?娘の呼吸はもう既に掴んでいる。人形に呼吸している様に見せかけているのは通信兵。通信兵がフェイントに加勢したならば、私に止めを刺しに来るのは娘本人!5体の中に必ず娘が居る!)
武芸の達人であるロルグは、相手の呼吸や間を計る事に長けている。
これまでの戦いでウェイフィーの呼吸のリズム、吐く息の量、その音程と、すべて把握している。
魔法で口元から息をしている様に風を送っただけでは、ロルグは欺けない。
(_____いた!一番左!!)
そして潜在魔法で強化した聴覚で、迫る5体のウェイフィーの呼吸を聞き取り、本物と同じ呼吸をしている1体を見付け出す。
「はぁああああああ!!」
______ザザザザン!
向かって来たウェイフィーの姿をした木工人形4体を軽く切り捨てる。
ロルグの予測通り、4体全て木材_____人の手応えではない。
そして一番左、本物のウェイフィーに渾身の一撃を振り下ろした_____
______ザンッ!!
「仕留め____ッ!?」
斬った瞬間に分かる違和感、“人”ではない手応え・・・
(これも人形!?バカな!?ならば娘は何処だ!?何処から攻撃してくる!?)
5体の人形を全て切り捨てて、改めて周囲に気を配る。
そして分かるウェイフィーの存在____
(____動いていない!?)
本物のウェイフィーはその場から動いておらず、幻影魔法で保護色を生み出して景色に同化していた。
(瀕死で動けなかった?だが何故、攻撃準備をしていない?攻撃役ではないのか!?ならば誰が私に___)
_______ズバンッ!!
“誰が私に攻撃するのだ?”と疑問を抱き終える寸前、ロルグの背中に再び激痛が走った____
「があ!?」
そして倒れ込むその刹那、後ろを振り返る。それだけで疑問は氷解した。
(な!?・・・通信兵か?バカな・・・)
____だが、やはりおかしい・・・
(では人形の呼吸をやっていたのは誰だ?通信兵がやっていたのなら、この攻撃は出来ないはず・・・おかしい・・・まさか娘自身?いや、彼女は風属性を持っていないはず・・・魔道具を使う様子も無かった・・・誰が?)
この乱戦の中で、自分とウェイフィー、ナナリーの戦いの状況を把握し、ウェイフィーの作戦の意図を理解していた者。
しかも、ウェイフィーの作った人形の5体中4体を、わざと “呼吸している様に見せた風魔法”にして、残りの1体を本物のウェイフィーと同じ呼吸にみせかける魔術の技能を持つ者。
(そんな存在・・・私はあの娘の呼吸を完全に把握していたのだぞ・・・リズム、肺活量、そして音程まで・・・・音程!?音だと!?)
激痛の中で考え、ロルグは自力で答えに辿り着く。
一見、難しい疑問だと思えたが、そんなことは無かった。
一人だけ居たのだ____いや、たった一人しかいなかったのだ。だから答えは簡単だった。
(振動使いの勇者候補か!?)
_____そう。こんな状況で、こんな芸当が出来るのはヤトリ・ミクネただ一人だけだった。
「ふぅ・・・オーマの頼みとはいえ、どうやって援護したものか迷っていたが、上手く行ったな」
それは少し前、突然ウェイフィーに吹いた一陣の風だった______。
「____ウェイ」
「!?・・ミクネ?」
「そうだ。苦戦しているな」
「うん、大ピンチ。助けて」
「ああ、オーマからも二人の援護を頼まれた」
「そう・・・団長が」
「でも結界を維持しながらだし、ちょくちょく敵の砲撃隊が狙って来るから、乱戦しているお前達に簡単に援護できるわけじゃない。どうしたものかと思ってな」
「そう・・・それだったら_____」
ウェイフィーに吹いた一陣の風。それはミクネからの通信だった。
そうしてウェイフィーは、自身の策にヤトリの援護も加え、見事にロルグを欺いて、ナナリーに決定打を入れさせたのだった______。




