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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(19)

 (来た____)


ウェイフィーは、ロルグの手から離れて自分に向かって飛んでくる剣を眺めていた。

“来た”というのは分かっている・・・反応は出来ているのだ。

だが肝心の体の反応が鈍い・・・ナナリーを助けるためにした無茶で思うように動かない・・・。


(_____)


 ウェイフィーは一応回避を試みる。

だが、自分の判断ミスでナナリーがロルグの追撃に対応できなくなった時点で、結末の察しは付いていた。

“どちらかしか生き残れない”____と。


(なら当然、死ぬのは私の方だよね・・・私のミスだし、上官だし・・・)


 何よりウェイフィーは仲間の死ぬ姿を見たくなかった・・・。

そんなモノを見るくらいなら、ウェイフィーは自分が死んだ方がマシだと思っている。

ウェイフィーはマイペースな人間性からは想像しづらいが、そんな考えをする人物だ。


(ごめん、団長・・・最後まで面倒見てあげられない・・・)


 ウェイフィーは最後にそんな事を思う。

昔は暗い性格だったので、よくこんな事を言っていて、その度に当時まだ“熱い男”だったオーマに鬱陶しく励まされたものだった。

 そんな事を思い出していたら頭の中に昔のオーマが現れて、“諦めるな!!”と言って来た。


(分かっている。別に死にたいわけじゃない。全力は尽くす・・・)


ウェイフィーはいつもの様に鬱陶しく感じながらも、精一杯体を動かして回避行動をとった。


_____ザザザンッ!!


だが無情にもロルグの剣は、3本ともウェイフィーの体を貫いた______


「_____カフッ!」


 右肩、胸部、左膝_____3本の剣が三連星の様に綺麗に並んでウェイフィーの体に突き刺さっている。

大量の出血・・・胸部の剣は急所こそ外れて即死は免れたが、内臓を損傷しており、口からも血を吐き出させている・・・そして激痛____更には急激に意識が薄れて行く・・・死の眠気が直ぐにやって来た____。


「フィットプット隊長――――!?」


周囲の騒音も聞こえなくなっていく最中で、ナナリーの叫びだけはハッキリ聞こえた。


(・・・バカ。もう勝負は付いた、逃げて・・・・)


撤退命令を出したいが、声を出そうとしても口から出るのはゴフッゴフッという血を吐く音だけだった。


(ダメだ・・・声が出せない・・・おっさんが私に止めを刺している間に逃げてくれればいいけど・・・ナナリー?逆上しておっさんに襲い掛かっちゃダメだよ?貴方も意外と______)


 ロルグの方はというと、ゆっくりとウェイフィーに歩み寄って距離を詰めていた。

余裕が有るわけでも、勝ち誇りたいからでもない。


(手負いの獣が一番危険だ・・・この二人はそれ以上だろう・・・)


 ウェイフィーを強敵と見ているからの行動だった。

新たに錬成した剣を両手に持ち、スキなく自然体で構え、ナナリーとウェイフィーの二人に反撃能力が残っているのか?二人の動く気配____指先一つの動きも見逃さぬように気を張って、慎重にウェイフィーとの距離を詰めている。

99%勝負が付いているこの状況でも、1%の可能性が残っているのならロルグに油断は無い。


(本当に最後まで油断しないんだ、このおっさん・・・・嫌な奴)


ロルグの希望の欠片も残さぬ立ち回りに、いよいよウェイフィーは諦め始める。


(ここまでか・・・まさか軍人として死ぬことになるなんてね・・・・意外_____)


死の際で自分の人生を振り返り、ウェイフィーはこの予想外の結末に薄く笑った。

ウェイフィーは自分がここまで軍人として生き、仲間のために死ぬ生き方をするとは思っていなかったのだ_____。




 ウェイフィーが軍人に成ろうと思った切っ掛けは、魔導職人になれる可能性が有ると知ったからだった。


 子供の頃から内気で人見知りだったウェイフィー、そんな彼女は殆どの時間を家で過ごしていて、友達と外で遊んだことなど一度も無い・・・というより、子供の頃は友達がいなかった。

内気で出不精、社交性の無いマイペースな性格・・・軍人になる様なタイプではないだろう。

ウェイフィー本人も、子供の頃は周囲の同年代の子が軍人や貴族に憧れている中で、全くそれらに興味が持てていなかった。

 ウェイフィーが家で過ごす時間で一番楽しかった時間は、一人で物作りをしている時だった。

刺繍や編み物、組み木といった工作。いわゆる世の“女の子らしさ”や“男の子らしさ”にこだわらず、色々な物を作り、色々な物を分解してその仕組みを知ったりするのが好きだった。

出不精だったが、トンネルや秘密基地なんかを造りたいと思った時は、精力的に外に出て森を散策していた。

 将来は、その物作りの中で一番作っていて楽しい物を作る職人か、色々な物を作る小物屋さんをやりたいと思っていた。

 恋愛や結婚に対する考え方もこの事が基準となっていて、自分が口下手なので社交性のある男性と結婚して接客をしてくれる人が良いとか・・・自分は男性のビジュアルに対してそこまでのこだわりは無いが、イケメンの男が小物を売っていたら女子ウケして店が繁盛するかな?とか・・・そんな風な考えをしていた。

 そんな幼少期に抱いたウェイフィーの夢、その将来の目標が変わったのは、些細な好奇心からだった。

 ドネレイム帝国で一番花形の製造業は、やっぱり魔導職人だった。

一番人気の職業で、周囲の人間からも尊敬され、一番儲かり安定している仕事だ。

成る事ができれば、確実に“勝ち組”と言うやつだろう。

 ウェイフィーは、“何を考えているのか分からない”とか、“欲が無さそう”などと言われる事が多いが、人見知りで社交性が無いだけで、人に好かれたくないわけでもないし、裕福な暮らしだって望んでいた。

だから、魔導職人という仕事が有ると知ったときには素直に憧れたし、成りたいとも思った。

そして、自分に魔法の才が有るのかを知りたくなったのだ。

 結果は・・・今のウェイフィーを見ればわかるだろう。

ウェイフィーは勇者候補ほどでは無いが、それでも世で“天才”と呼ばれるに相応しい才能を持っていた。


 そうしてウェイフィーは、魔導職人になる事を決め、魔法の才を磨くために軍人に成ったのだ_____。


 (____それが、最終的に反乱軍のメンバーとして戦死だもんね・・・人生って分からない)


ウェイフィー自身も意外な人生だと感じていた。

 本来ならば、RANK2の樹属性をSATAGE5まで上げられた時点で退役し、魔導職人としての技術(SATAGE6(付与))の修得に集中した鍛錬を行って魔導職人になるつもりだった。

周囲には若いと言われる二十代前半のウェイフィーだが、自身の人生プランではとっくに退役している予定だったのだ。


(それが団長や皆に巻き込まれてこんな事に・・・・・全部団長のせいだ____)


____などと、ウェイフィーは吐き捨てる・・・・・・だが、本当にそうだろうか?


 ウェイフィーはマイペースな人間だ。

そして、自分の将来の目標も、それを叶えるための人生プランもしっかりある。

そういう人生プランもあるマイペースな人間が、簡単に他人に流されるだろうか?


(・・・・・・・・)


そんなわけは無い。ウェイフィーは何となくで人に流されるお人好しじゃない。


(・・・・・・・・)


ウェイフィーは自分の意志で皆と共に歩んで来たはずなのだ。


(・・・・・・・・)


自分の人生プランを変えてでも?______それは何故か?


(楽しかったなぁ・・・・・・)


______皆が好きだったからだ。

自分のありのままを受け入れてくれた皆が好きだし、皆のありのままを受け入れられた自分が好きだった。

そんな皆のために死ねるのは、ウェイフィーにとって本望な事だろう・・・。


(でも・・・・・・・)


______でも?


(でも・・・・)


______でも?本当は嘘?


(違う!死ぬ覚悟だって出来ている。軍人だし・・・)


______本当?


(本当だってば。ただ_____)


______ただ?


(皆と別れるのが寂しいだけ・・・・)


__________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________ということは?


(・・・・・・たくない)


______________________


(・・・・死にたくない)


仲間のために戦う覚悟も死ぬ覚悟も出来ている。でも死にたくない・・・。


 これは矛盾だろうか?いや、だが、そうだったとしても______


(____やっぱり死にたくない!死にたくないものは死にたくない!!当たり前じゃん!!)


死にたくないなんて当たり前だ。

ではやはり、“仲間のために死ぬ覚悟”とは嘘だろうか?


 嘘じゃない____。


 本当の覚悟だ。覚悟だから嘘じゃないし、覚悟が有るからと言って死んでもいいというわけでもない。

楽しい時間を過ごして来たのなら、尚更____


(____振り絞れ!私!!死ぬにはまだ早すぎる!!)


 もう既に瀕死のウェイフィー。

だが、それでもこの戦いを捨てない。

今、皆と過ごせる幸せを捨てる気は無かった_____。

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