ダマハラダ砂漠の戦い(14)
「ハーハッハッハーーーーーー!!」
「うわぁあああああ!?」
_____ザンッ!!
「ガフッ!」
____ゴォオオオオ!!
「あぐっ!?」
「ハハハハハ!!どうした?罠を突破してしまえばこんなものか!?」
ロルグは怒涛の勢いで工兵隊の陣形を切り裂いて行く____。
その表情は、バージアデパートの時の様に冷静さと落ち着きを持った年相応の姿ではない・・いや、最早フレイスと同様に“人”と呼べるかどうかも怪しいほどの獰猛な表情を浮かべていた。
普段、特にアーグレイやアデリナが居ないときには、自分が一番目上で経歴が長い者になるので自身の欲望を抑えているロルグだが、一人の武人として戦場に立ったとき、ロルグはその戦闘狂ぶりを隠さなくなる。
両手には諸刃の剣____。ロルグは金属性魔法で錬成した剣に炎を纏わせ、一撃の破壊力を上げたり、斬撃との合間に炎魔法を入れてスキの無い連続攻撃を繰り出したりして戦う。まるでフレイスの様に____。
ロルグの戦い方はフレイスに似ている____というより、フレイスの師であるロルグのこちらが本家だ。
フレイスに二刀流と信仰魔法を組み合わせた戦法を仕込んだのはロルグだ。
本人の実力差の所為でフレイスの方が破壊力・速度ともに強力だが、ロルグの方がこの戦法のキャリアが長い。
そのため、ロルグは狂ったように暴れているが、その攻撃は洗練されており隙が無い。
今でも武芸のみの勝負ならロルグはフレイスにも引けを取らない男だ。
サンダーラッツの戦闘が専門ではない工兵隊では、トラップを突破された時点で成す術が無いだろう。
そして、これは聖炎刃隊の他の兵士達にも当てはまってしまう。
彼らも隊長のロルグと全く同じ戦い方をする者達が多い。
そのクオリティはフレイスやロルグには全く及んでいないが、それでも十分に強者と呼べる。
サンダーラッツ工兵隊に後れを取るという事は無いだろう。
ミクネが言う様に、ウェイフィー達工兵隊は大ピンチだった。
だが、それでもウェイフィー達は、何とか陣形を壊すことなく戦線を維持できていた。
その理由は_____
「ああ!?に、2番隊が突破される!シ、シマズさん!!」
「分かった!ナナリー!ユイラ!私が牽制を入れる!アタックは任せる!」
「「了解!」」
工兵隊の一小隊長からの救援要請をキャッチして、シマズ、ナナリー、ユイラの三人が援護に動く。
そう、この三人がいる事が、工兵隊が陣形を維持できている理由だった。
今回の戦いで、サンダーラッツの通信網をミクネ一人に任せた事で、サンダーラッツの精鋭中の精鋭である通信兵の三人を戦力として使えるようになった。
そこでオーマは、この三人をそのまま少数精鋭の小隊にして、激戦が待ち受けるだろうウェイフィーの工兵隊に組み込んでいた。
ラヴィーネ・リッターオルデンは強い____。
フレイスと幹部達は言うまでもなく、末端の兵士一人一人も強い。
だが、だからと言ってサンダーラッツがそこまで劣るかと言われればそんなことは無い。
サンダーラッツは、このファーディー大陸において最強と言われるドネレイム帝国の軍団、その強豪が揃う北方遠征軍の兵士だ。
その中で、通信兵というエリートと呼べる魔導士であるシマズ達が、ラヴィーネ・リッターオルデンの兵士達相手に後れを取るという事は無かった_____。
「ハイ・ウィンド!!」
______ゴォオオオオ!!
「ぬっ!?」
「おっ!?」
シマズの風魔法による牽制____。
その効果は“牽制”などという域には治まらない。
工兵隊の数々のトラップと砲撃からその身を護っていた聖炎刃隊の炎の鎧を簡単に掻き消してしまう。
「今!」
「「サイクロン!!」」
シマズの合図で、ナナリー、ユイラが魔法を叩き込む____
______ズゴォオオオオ!!
「あぐ!」
「ぐわぁ!!」
如何にロルグに鍛えられた聖炎刃隊の兵士達でも、無防備になったところにこの二人の魔法を食らっては一溜りも無かった。
三人は連携も上手く、手早く敵の一小隊を壊滅させ、工兵隊の陣形を守り通した。
だが、そうしてしまった事で、三人はロルグに捕捉される_____。
「む!?あれは・・・そうだ、サンダーラッツの通信兵だ。見覚えが有る」
通信兵は部隊連携の要として敵に狙われやすいため、その顔を覚えられてしまう事が多い。
「なるほど・・・勇者候補のあの娘が通信網を一手に引き受けているから、手の空いた通信兵たちで工兵隊を補強したというわけだな。妥当な判断だ、オーマ・ロブレム。面白味には欠けるが・・・いや、だがこの場合は感謝だな。戦い甲斐の有る相手が増えた_____ハハッ!行くぞ!!」
速攻で自分の一小隊を壊滅させた通信兵三人に闘争心を刺激されたロルグは、三人に標準を合わせる。
そして、地を蹴って三人との距離を詰めようとした_____
_____ズゴゴゴゴッゴゴ!!
「ッ!?」
_______が、その次の瞬間、地面から植物のツタが伸びて来てロルグの足を絡め捕った。
「____シッ!」
ロルグは炎を纏った二本の剣を振り回し、ツタが自分の自由を奪う前に焼き切る事に成功する。
______ドウッ!ドドウッ!!ドウッ!!ドウッ!!
「!?続きが有るか!?」
地面の植物のトラップを回避したのも束の間、直ぐに側面から拳大の石の散弾が飛んで来た。
タイミングはベスト。ロルグが剣を振ったその瞬間を狙っている。
「フンッ!」
______ズガガガガガガンッ!!
だがロルグは、剣を振った勢いをそのままに体を回転させ、コマの様に回って石の散弾を薙ぎ払った_____。
「・・・良いタイミングだった。だが、このロルグの剣技に隙は無いよ。工兵隊長殿」
「______」
「出て来ないのか?まあ、“その土ごと”抉ってもよいのだが?」
「____チッ」
言われて土中に隠れて攻撃していたウェイフィーは、“めんどくさい!”と言った様子でノソノソと土中から姿を現した。
そして、周囲の乱戦の騒がしさとは裏腹に、両者は静かに向かい合った_____。
「サンダーラッツとは何度か戦ったが、君と戦うのは初めてだな、工兵隊長殿」
「そうね。それにしても余裕ある」
「余裕?」
「私の隠れている場所が分かっていたなら、攻撃すれば良かったのに」
「そうかもな」
「工兵隊の工作を見破ったら、もう勝ったつもり?・・・舐めている。いい気にならない方が良い」
「そうだな。気を付けよう」
「え?」
「ん?」
「・・・・・」
「・・・・?」
ウェイフィーもロルグも、お互いの顔は何度も見ているし、どんな人物かも知ってもいるが、会話をするのは今回が初めてだ。
だからなのかは分からないが、会話が噛み合っていない様で、二人の頭に?マークが浮かんでいる。
「いい気にならない事だ。後悔する」
気を取り直したウェイフィーが再びロルグに凄んだ。
「・・・だろうな。だからいい気にならない様に気を付けると言っている」
「え?」
「ん?」
「・・・・・・」
「・・・・・?」
____またも噛み合わない。どうやらウェイフィーの思惑が外れているらしい・・・。
「・・・何故いい気にならない?」
「あん?」
「この状況、そちらが圧倒的に有利。私の言葉なんて負け惜しみだ。鼻で笑いたくなるだろう?」
「ああ・・・そう言う事か」
ロルグはここでようやくウェイフィーの意図を悟る。
どうやらウェイフィーとしては、“もう勝つ見込みが無いのに、負け惜しみを言って来る指揮官”を演じて、ロルグを油断させるつもりだった_____っぽい。
だが、ロルグの方はそれこそを鼻で笑った。
「ふん、最初から油断するつもりも勝ち誇るつもりもない、工兵隊長殿。アデリナやミューラーから聞いているぞ。“敵の団長と副団長を除けば一番手強い相手だった”とか、“油断しなくても死を覚悟しなければならない相手”だとかな・・・。あの二人がそこまで言うのだ、油断するつもりなど無い」
「・・・見た目小娘だぞ?」
「それがどうした?その若さで派生属性を備えているのだろう?素晴らしい才能だ。コレルの様だな。実力も確かだ。先程の一手は中々に楽しめた。見た目が小娘だろうが、戦況が有利だろうが侮ったりはしない」
「チッ、侮ってほしかった・・・」
「ぷ・・・そうか、それは残念だったな。もういいか?そろそろ始めよう」
「ダメ」
「は?」
____ボシュ!
ウェイフィーは、“ダメ”と即答してロルグが戸惑っている間に、信号弾を打ち上げた____。
「フィットプット隊長からの合図だ。ナナリー、行ってくれ」
「分かりました。後のことはお任せします」
「ああ・・・ユイラ、アタックが一人なる。攻撃の際は周囲に気を配って、油断しない様に」
「はい。大丈夫ですよ、シマズさん」
ウェイフィーからの救援要請を受けて、ナナリーがウェイフィーの加勢をしに小隊から離れる。
そして、潜在魔法で強化した足を使って、数秒ほどでウェイフィーと合流した_____。
「フィットプット隊長。お待たせしました」
「ありがとう、ナナリー。こいつ強敵だからよろしく」
「畏まりました」
「よし、待たせた。殺ろう、おっさん。卑怯とは言わせない」
「言わないよ。これだけの規模の戦場なのだ。一対一になる方がレアケースだ。むしろ・・・フフ♪面白い相手だ_____いざ!!」
ウェイフィーとナナリーを強敵と認めた上で、ロルグは嬉々として二対一の戦いに応じた_____。




