ダマハラダ砂漠の戦い(13)
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
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騒がしい周囲から逸脱して、キスをした二人にだけ静寂した時が流れていた______。
「な・・・何のつもりだ?」
サスゴットはこの状況の意味が分からな過ぎて、フランに問う事しかできない・・・。
「____クッ♪」
「・・・・・・」
「ククク・・・・クフフフフフ♪」
「?」
「ア―――ハッハッハッハーーーーー!!」
キスした方のフランは、気持ちを堪え切れなかったようで、爆発した_____
「?????」
当然、サスゴットには理解不能で、訳が分からず眉をひそめるだけだった。
「YEAH――――――!!サスゴットのファーストキスGETだZE♪」
「______は?」
「フフン♪知っているぞ、この真面目やろう。お前、女との恋愛経験無いんだろう?ウチの団長みたいに素人童貞でもねぇ、真正の童貞だ!」
「・・・・・・・」
因みに、何故フランがこんな事を知っているのかと言えば、バークランド大戦時に、このラヴィーネ・リッターオルデンが強すぎて、帝国の北方遠征軍が何か弱点は無いかと、バグスまで動員して彼らラヴィーネ・リッターオルデン幹部の情報を集めたからだ。
そこで、サスゴットには異性とのお付き合いした過去が無いと判明していたわけだが_____
「_____それが何だというのだ?」
言われたサスゴットは、益々意味が分からなくなっていた。
確かにサスゴットに異性との恋愛経験は無いが、その理由はただ本当に恋愛に興味が無く、武芸一筋で生きて来てからだった。モテなかったわけでもない。
なので、ファーストキスを奪われても、サスゴット的にはどうという事は無いのだが・・・・・
「フフン♪悔しかろう?俺に大事なファーストキスを奪われてしまったんだ。因みに俺は、キスした経験は人数も回数も三桁は行くね。羨ましかろう?」
「いや、別に・・・・」
「ふん♪強がるな強がるな・・・いや、一生に一度の大切な思い出を汚されたんだ、強がるしかないか?すまんなぁ♪可哀想にぃ♪」
プクククク♪と、フランは口元を抑えて笑った。
「・・・・・何なのだ?ここまでして・・・こんな事をしたかったのか?・・・くだらない・・・」
サスゴットは別に本当に気にしてはおらず、未だに何故こんな状況でその身を犠牲にしてまでこんな事をしたのか理解できず、呆れ果てる・・・・。
「プッ♪負け惜しみ♪」
「_____(イラッ!)」
だが、フランが一方的に勝ち誇るので、その姿に段々とイラついて来る。
こっちは気にしていないに一方的に気にしていると決めつけられて、同情されたり勝ち誇られたりすると、ムカついて来るというアレである・・・。
「だから気にしていないと言っているだろうが!何べん言えば分かるのだ!理解する頭を持っていないのか!?」
「童貞がファーストキス奪われて気にしないわけねーだろうが♪強がるんじゃねーよ♪」
_____ブチッ!
そしてサスゴットは遂にキレた____
「馬鹿!バカ!ばーーーか!!何、人の事決めつけてんだ!ばーーーか!!」
サスゴットはキレると、ただひたすら罵詈雑言を並べるタイプだった・・・・。
「プッ♪幼稚なヤツ♪」
「貴様が言うなぁあああ!!幼稚って言う奴が幼稚なのだ!!」
「子供の理屈だな♪」
「_____ブチッ!だから貴様がッ______!!」
半ば挑発と理解していながらも、フランの幼稚で舐めた態度に耐えられず、サスゴットはフランに釣られてしまった・・・。
フランは時間稼ぎのために、見事?にサスゴットを引き付ける事に成功したのだった。
もし人に見られていたら、二人共呆れられていただろう・・・・
「あ・・・アホだ、あいつ等・・・」
・・・だから、二人のやり取りを把握していたミクネは呆れ果てていた____。
「ミクネ!右翼のフランの状況は!?どうなっている!?
「あー・・・」
「どうした?ミクネ?」
「・・・いや、何と言うかだな・・・」
「ミクネ!こっちはこっちで忙しくなっている!報告は手短に分かり易く頼む!」
「あ、スマン・・・えっと、フランがサスゴットの弱点?を突いて挑発に成功した。これで右翼の膠着は続くだろう。作戦成功だ」
「おおっ!本当か!?フランの奴、上手くやったな!どうやったんだ?」
「・・・すまん。言いたくない。さすがに仲間意識が有っても軽蔑を止められん・・・」
「お・・・そ、そうか・・・なら、いい・・・」
オーマは、ミクネの口ぶりからフランはろくな事をしなかったのだろうと理解し、ミクネの口から聞くのは控えることにして話題を変えた。
「それで?左翼の方はどうなっている?」
「・・・知りたいか?」
左翼側の話を切り出すと、直ぐにミクネの声のトーンが深刻なものに変わった。
「・・・ピンチか?」
「大ピンチだ」
「____チィッ」
予想はしていた事だったが、ミクネにはっきりとそう報告されると、オーマは胸焼けした様なストレスに晒された。
「よう、オーマ・・・聖炎刃隊はオタクなのか?」
「あん?どういう意味だ?」
「奴らの戦いぶりだよ。ロジの突撃隊並に狂っているぞ・・・」
「ああ・・・いや、あいつらはオタクじゃない。だが、狂っているという表現は正しい。聖炎刃隊はラヴィーネ・リッターオルデンの中で一番の戦闘狂いの集団だ」
そもそも、ラヴィーネ・リッターオルデンの2番隊を務める聖炎刃隊が対魔族部隊になった理由が、“魔族とも戦いたい!”という理由だからだ。
魔族だろうが大陸最強の帝国軍だろうが殺し合い上等!!_____というモチベーションの戦闘狂が集められた部隊が聖炎刃隊だった。
「あのおっさんも、様子がおかしい・・・バージアデパートで見た時は、もっと落ち着きが有って冷静な男だったのに・・・」
「そっちがロルグの本当の顔だよ」
「ま、負けるぞ?このままじゃ・・・」
「____くそ。“あいつら”が居てもダメか・・・ミクネ、何とか援護できないか?」
「やってはみるが・・・期待はしないでくれよ」
振動結界を維持しつつ、時折来るコレル達の砲撃から身を守りながら、味方を巻き込まない様に範囲を調整して聖炎刃隊を攻撃____なんていうのは、流石の勇者候補でも無茶な注文というものだ。
「無いよりはマシだ。助かる」
だが、ロジの部隊を中央前衛に送ってしまった事で、現状、ウェイフィー達に回せる戦力は無い・・・。
「頼むぞ・・・」
そんな状況を作ってしまった自分の指揮官としての無能を嘆きつつ、オーマはウェイフィー達の無事を祈るのだった_____。
場面かわって、その左翼____。
ラヴィーネ・リッターオルデンの突撃隊である聖炎刃隊と、サンダーラッツ工兵隊のその攻防。
数も個の強さも不利な工兵隊は、突撃してくる聖炎刃隊を防御陣形で迎え撃つだけでなく、その手前にトラップも作って、聖炎刃隊の突撃を止めに掛かっていた。
速攻では有るものの、集団魔法で発動されたトラップ魔法は強力だった。
人がスッポリ入る落とし穴、硬石で作られたトラバサミなど・・・。更にその中に、ウェイフィーが樹属性魔法で棘の付いた草や、踏むと粘着性のある樹液を出す木枝なんかも絡める事で、スキなく足の踏み場も無い程のトラップ地帯を造り出して聖炎刃隊を迎え撃っていたのだが_____
結果は、無惨にも聖炎刃隊に全てのトラップを突破されてしまった。
決してトラップの効果が無かったわけではない。それなりに効果もあったのだ。
だが、フレイスに負けず劣らずの戦闘狂であるロルグが率いる聖炎刃隊は、ラヴィーネ・リッターオルデンの全部隊中、最も闘争心の旺盛な戦闘集団であり、ミクネが言ったようにロジの突撃隊の様な荒ぶり方で、トラップを全て食い破って切り込んできたのだ。
特にその先頭に立つロルグの活躍は目覚ましい。
軽やかな身のこなしで数々の落とし穴を飛び越え、工兵隊が飛ばしてくる石弾なんかも全て打ち落とし、工兵隊の陣に切り込で来ていた_____。




