ダマハラダ砂漠の戦い(11)
サンダーラッツの遊撃隊とラヴィーネ・リッターオルデンの疾風槍隊が衝突した事で始まったフランとサスゴットの隊長同士の死闘。
今のところ、サスゴットが前回の経験を活かして、フランのトリッキーな戦い方に惑わされることなく戦いを優位に進めている。
部隊同士の戦いの均衡はいまだ破られていないため、この指揮官同士の戦いの結果次第で、一気に流れが変わる可能性が有る。
戦歴の長いサスゴットとフランの二人はそれを肌で感じており、どちらもこの一騎打ちに対して“負けられない”と感じていた_____。
「シッ!」
____ブン!
「うおっ!?」
サスゴットがジャベリンを使い鋭く細かい突きでフランを牽制_____ペースを掴んでいても油断は見せない。
「チッ!」
____ブンッ!ズズッ!ブンッ!_____グォッ!!
更に細かい連打で戦いを組み立ながらフランとの距離を測る・・・そして一気に間合いを詰めてハチェットの一撃____
____ガンッ!!
「ぬお!?」
フランはその攻撃をショートソードで受けるも、パワー負けしてしまい、大きくのけぞりスキを作ってしまう。
「フッ」
「うっ!?く、くそ!」
だがサスゴットは、フランにスキが出来ても“決め”に行くことは無く、小技をつなげてペースト維持する。
「はん!どうした!?来ないのか!?真面目野郎じゃなくて臆病者かぁ!?」
「・・・・・・」
フランからの挑発____サスゴットはこれにも乗らない。徹底して自分のペースを守ろうとしている。
(フン・・・そんな挑発に乗るものか。それだけ嫌がっているという事だろう?)
サスゴットは、この戦い方が自分の中で一番得意な戦い方であるというだけでなく、フランに対しても最も効果的な戦い方でもあると確信していた。
「____チッ!」
その事に気が付いたフランは舌を鳴らしてしまう。
じわじわと追い詰められて、焦りが隠せなくなって来ていた______。
サスゴットが慎重に事を進めているおかげで、これといった山場の無かった二人の攻防。
だが今、大きな山場を迎えつつある・・・フランの限界という山場だ。
この二人の攻防は、フランの方がサスゴットより消耗が激しかったのだ。
フランが自分のペースで戦えていないというのも大きな理由だが、それ以上の理由として、サスゴットの攻撃を防ぐのに潜在魔法RANK4を使用しているからというのが有った。
要所要所での攻防で使う魔力の消費量は、潜在魔法RANK4を使用していたフランの方が圧倒的に大きかったのだ。
それを証明するのが、先程の様な肉弾戦でフランがパワー負けしていた事実だ。
本来、フランとサスゴットが肉弾戦をすれば、フランがパワー負けすることは無い。
フランは潜在魔法RANK4を持っており、サスゴットは潜在魔法RANK3までしか持っていない。
肉体の力はサスゴットの方が上でも、潜在魔法を使用すればRANKが上なフランの方が有利になるはずなのだ。
だが、潜在魔法RANK4はフランにとって____常人にとって消費が激しいため、フランはこの力を自分の身を護る時や相手のスキを突くとき以外では使用していない。
フランにはジェネリーたち勇者候補の様に、潜在魔法RANK4を持続させるだけの魔力量が無いのだ。
そのため、通常の攻防では、潜在魔法を抑えて使用しているので、サスゴットにパワー負けする場合が出て来てしまうのだ。
サスゴットは、これまでの攻防でフランの消耗に気が付いていた。
そして確信した、“持久戦なら自分が勝つ!”_____と。
(・・・通信兵からの報告では、アーグレイ副長も前衛に上がり、サンダーラッツの中央も動いたという・・・両軍の中央も加われば、前衛の膠着はもうしばらく続くだろう。ならば、焦らず確実にこの男を仕留めて、サンダーラッツ右翼を崩壊させた方が良いはずだ・・・この戦いは、“負けられない”のだ)
全体の戦況も踏まえた上で、サスゴットはこのまま流れを維持しつつ、フランが完全に消耗するまで持久戦の構えだった____。
「____せあっ!」
「フン!」
____ガキィイイン!!
サスゴットが持久戦を選択し、フランに焦りが出始めてから更に数回の攻防_____状況は変わっていない。フランは状況を変えられていない。
「クソッたれ!てめーは俺専用の対策でもしてきたってのか!?」
「その通りだ。お前みたいなペテン師に二度と引っ掛からないようにな」
「はん!男にモテても嬉しくねーよ!」
「それは挑発か?もう、それ位しかすることが無いか?ペテン師らしいな」
「____チッ!・・うるせーよ!!」
_____ガキィイン!!
あれからフランは、武器のフェイント、魔法のフェイント、果ては猫だましなんかも使ってサスゴットのスキを作ろうとしている。
だが、全てサスゴットを崩すには至らない。
(くそっ!くそっ!何だってんだ!)
いよいよ消耗して来て、潜在魔法RANK4を使った攻防は、後数回が限界というところまでフランは追い詰められる。
(一回!一回だけでいいんだ!一回でもスキを作れれば____!)
フランはまだ勝負こそ捨ててはいない様だが、それでも一向に良くならない事態に焦りを止められない。
そして、それは遂に隠せなくなり、表情にも出始めていた。
「ふん・・・いよいよ限界の様だな。まあ、ペテンにしては粘った方だ」
「やかましい!まだ勝負は着いていないだろ!!」
「ほう?粘るな。お前みたいなチャラい男は、女性を口説く時くらいしか粘らないかと思っていたよ。なら、せいぜい頑張るんだな」
「~~~ッ!!」
今度はサスゴットからの挑発_____フランは悔しさで奥歯を噛み締めた。
焦りが出始めているフランに対しては、挑発は効果的だった様だ。
だが、これでフランの覚悟が決まった_____。
(ペテン、ペテンってうるせーよ!確かに俺はチャラいよ、女も口説く!けどな・・・それだけの男じゃねーぞ!!)
サスゴットはフランをペテンと決めつけている。そして、これは事実だ。
フランは戦い方にも人付き合いにも人を食ったところが有る。
女性に対しても、“食う”という表現が当てはまる程に軽々に手を出す。
だが、フランが言う様にそれだけの男でもないのも事実だ。
フランが戦い抜いた戦場は、本当にただのペテン師に生き残れる様な戦場ではない。
フランが出会った仲間達は、本当にただのペテン師に仲間意識を持ってくれる様な者達ではない。
何より____
(確かに昔は、“自分だけよければ、それでいい”って思っていたよ!でもな!今はちゃんと、“仲間だけよければそれでいい”って思ってんだよ!!“負けられない”んだ!この戦いは!!)
何より、フランが本当にただのペテン師だったならば、オーマの反乱に手を貸そうなどとは思わない。
直ぐに上に告げ口して、報酬かなんかをせびっていただろう。
フランにはフランなりの矜持があるのだ・・・・・一応。
「フッ!____」
「ぬッ!?」
フランはフェイントを織り交ぜた連続攻撃から一転、距離を取って魔法術式を展開する。
速攻ではない・・・それなりに大きな術式で、サスゴットも警戒した。
(・・・大技?確かに私の旋風を打ち破るにはそれなりの威力が必要だが・・・今のこの状況でそんな大技が通用するとでも?焦って勝負に出た?いや____)
サスゴットは常に冷静にフランを見ていた。
フランが焦りを抱いているとは判断しているが、勝負を捨てているとは判断していない。
(また奇をてらった別のフェイントだな_____)
サスゴットはこのフランのアクションを、大技と見せかけた小賢しいフェイントだろうと判断する。
事実、フランはそんな大技は出さなかった。
フランが出した魔法は_____
「フリーリーブロウ!」
「ぬっ!?」
フランが出した勝負手は、サスゴットが最も得意としている魔法だった_____。




