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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(9)

 アデリナの砂壁盾隊とイワナミの重歩兵隊、それにロジの突撃隊とが乱戦に入った事で、ラヴィーネ・リッターオルデン側は、アデリナの合図で次の行動に移り、両翼のロルグの聖炎刃隊とサスゴットの疾風槍隊が突撃を開始した。

それから、それだけでは足りないと判断したアーグレイが続いて、自身が指揮する氷演武隊を連れて前進。

それに合わせてミューラーの視暗弓隊も動き出すと、サンダーラッツ側もこれに対応するべく動き出した。

 そうして事態が動き出した後、アデリナとロジ・イワナミに続いて次に衝突したのは右翼側、サスゴットの疾風槍隊とフランの遊撃隊だった______。




 双方が突撃しており、お互いの距離が20メートルを切っている。

準備していた集団魔法を使うなら最良の距離だ。

サスゴットの方もフランの方もそれを十分に承知しており、お互いに示し合わせたかのように、ほぼ同時に自分の隊に集団魔法の号令を出した____。


「フリーリーブロウ!」


「「了解!」」


「ハイウィンド・アーマー展開!!」


「「おう!!」」


 ほぼ同じタイミングで集団魔法を発動した両隊は、どちらも得意な風属性の集団魔法で、どちらも自分達の周囲に旋風を巻き超す魔法だった。

だが、どちらも同じ属性、同じ様な魔法でありながら、その効果は対照的だ。

 サスゴットの疾風槍隊が使用した魔法“フリーリーブロウ”は、今はまだ自分達の周囲に旋風を起こしているだけだが、その旋風をある程度自分の意志で操れるもので、防御にも攻撃にも応用できる魔法だ。

ただ、自由度が高い分、旋風自体の威力は他の中級魔法より劣るのが弱点だ。

サスゴット達はこれを、先ずは集団魔法で強化し、更に自分達が装備しているハチェットとジャベリンを組み合わせて戦う事で攻撃力と防御力を底上げして、近・中距離においてバリエーションの利いた無類の強さを発揮するのだ。

 それとは違い、フランの遊撃隊が纏った旋風の方はそう言った操作性は無く、とにかく自身の周りに強風を吹かせて周囲のモノを弾いて身を護る完全な防御魔法だ。

サスゴットの疾風槍隊の戦法を知っているからこその選択だった。


「はん!また、馬鹿の一つ覚えにあの技かよ!飽き飽きしてんだよ!」


 これまでのラヴィーネ・リッターオルデンの戦い方(ミラージュ・アングリフ、流砂突撃など)もそうだが、このサスゴットの疾風槍隊によるフリーリーブロウを使った突撃も、“お決まり”というレッテルが付いている戦法で、フランにとってもよく知ったもので、これまで何度も見て来た。

このワンパターンともいえる戦い方にフランは心底うんざりしており、“他に戦い方はないのか?”と言った様子を見せる。

だが、このフランの“うんざり”というのは、ネガティブな意味だ・・・


(くそー・・・また、あの突撃かよ。勘弁してくれよ・・・)


 フランは内心でビビっていた_____。

さっきの一言はハッキリ言って、ただの強がりだ。

 ワンパターンと言えば聞こえが悪いが、集団戦における戦い方に、そこまで幾つものパターンが必要という事は無いのではないだろうか?

たった一つ、“これだ!”という戦法が有れば、その部隊は例外無く強く、ラヴィーネ・リッターオルデンが正にこれに当てはまる。

ラヴィーネ・リッターオルデンのワンパターンというのは、必勝パターンと言い換えられるものでもあるという事だ。

ラヴィーネ・リッターオルデンのバリエーションとは、サンダーラッツの様に幾つもの戦い方を備えるというものではなく、たった一つの必勝パターンをどんな戦場にも応用させる工夫を指す言葉だ。

そのため、これまでの戦い方を見ても分かるが、必勝パターンで戦ってくるラヴィーネ・リッターオルデンに隙は無い。

もちろん、このサスゴットの疾風槍隊の戦法も、風を自在に操って攻撃してくるのでこれといった弱点は無く、攻略するのが非常に難しい。

少なくとも、サンダーラッツにとっては勇者候補を使う以外で、確実にサスゴットの疾風槍隊を迎撃する手段は無い。


(クソッたれが!見てろよ!石頭のワンパターン男が!)


 フランはビビってはいるものの、勝負自体は捨てていない。

それはそうだ、バークランド大戦時に戦った時に、サスゴットの弱点は判明している。

そして、そのサスゴットの弱点を突くのは、サンダーラッツの中で恐らくフランが最も上手いはずなのだ。

だからこそ、フランはサスゴットの疾風槍隊の相手をするようにオーマに命令されたのだ。

フランもそれを承知していたため、誰からもサポート受けられない、遊撃隊のみでサスゴットの疾風槍隊を相手にする事に反対しなかった_____。




 「行け!“シュランゲ”!」


サスゴットの疾風槍隊とフランの遊撃隊とのお互いに距離がさらに縮まったところで、サスゴットが部下に攻撃命令を出す。


______ッドドドドウッ!!ドドウッ!!ドウッ!


命令を受けた疾風槍隊の兵士達が一斉にハチェットを投げると、シュルシュルと弧を描いてフランの遊撃隊に向かって飛んで行く______。

 集団魔法でのフリーリーブロウを使って加速したハチェットは、殺傷力が非常に高く、大陸でもトップクラスの性能を誇る帝国軍のレザーアーマーも簡単に切り裂いてしまう。

 だが、何よりも“シュランゲ”という攻撃方法で厄介なのが、その軌道だ。

元々、疾風槍隊が投げたハチェットは、縦に横にと弧を描いて飛んでいるが、これにフリーリーブロウの旋風で更に軌道を不規則なものに変えて敵に襲い掛かる。

サスゴットの疾風槍隊の得意戦法・・・必勝パターンの一つだ。

 サスゴットの疾風槍隊には、このフリーリーブロウからの得意な攻撃手段が2パターン有る。

ハチェットを使い、不規則な軌道で避けづらい攻撃を繰り出す“シュランゲ(蛇)”。

もう一つが、フリーリーブロウを渦の様に巻き起こし、ジャベリンにスピンをかけて、真っ直ぐ最速最短で飛ばして貫通力を高める“シュティーア(雄牛)”だ。

この2パターンを、サスゴットが冷静に距離と範囲を測って、ベストなタイミングで繰り出すため、すこぶる避けづらく、且つ強力な攻撃だ。

これを防ぐには、常人を超えた反射神経かタフネスを持つか、今の遊撃隊がやっている様に一糸乱れぬ集団防護魔法で全身を防御するしかないだろう・・・。




 「あんっ!?」


個々が縦横斜めと不規則に動くハチェットを見て、フランは瞬間的に閃き、眉を八の字にした。


(何でシュランゲ!?シュティーアじゃねーのか!?こっちの魔法の効果は分かっているだろう!?)


 フランの遊撃隊は今、集団魔法で強化された風の鎧をその身に纏っている。

全身を護っている以上、どんな軌道で来てもあまり意味は無く、肝心なのはこの風の鎧を突破できる威力があるかどうかのはずだ。

それならば、貫通力の高いシュティーアの方が適しているわけで、フランはこちらが来ると思っていた。

実際、シュランゲの方では、多少のダメージを与えられても、陣形を崩せるだけの被害を与えるには至らないだろう。


(シュランゲの方でも俺達の防御を突破できると踏んだ!?舐めてんのか!?・・・・いや、この超が頭に付く真面目野郎に限ってそれは無い。こいつは石橋を叩いて渡る慎重な奴だ・・・なら____)


サスゴットの性格からしても、この攻撃に対して疑問が出るフランは、自身が持つ最高能力である潜在魔法RANK4を使い、全神経を強化して周囲に気を配った_____


「____ッ!伏せろぉ!!」


全神経を強化するのとほぼ同時に、フランは予想通りに危険を察知し、悲鳴と怒号が合わさったような号令を飛ばしながら手を上げて、後ろからついて来ている遊撃兵達に合図を出した。

その合図を受け、全員がヘッドスライディングの様に地面に突っ伏した瞬間_____


______ズゥオッ!!


うつ伏せになっている兵士達の頭上を、一陣の強風が通り抜けた______。


「サスゴットの野郎・・・集団魔法と見せかけて、一人だけ別の魔法を使っていやがった」


 フランの推察通り、サスゴットは集団魔法には参加せず、一人だけ上級魔法の風の刃を先頭を走る遊撃兵達の膝上あたりを狙って走らせていた。

当たっていれば、集団魔法で防御していても、膝を削られて、その前進と勢いは殺されていたはずだ。

そうなれば動けなくなって、今度こそ疾風槍隊のシュティーアの餌食になっていただろう。

だが、フランの能力のおかげで、遊撃隊はこの危険を回避、無傷で疾風槍隊を迎え撃つ事が出来る。


 「立てぇ!!立って防御陣形!!迎え撃つぞ!!」


そしてフランは、すぐ目の前まで迫って来ている疾風槍隊を迎え撃つべく、号令を出した____。

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