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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(8)

 時間を少し戻して、アーグレイとミューラーが行動に移る少し前のサンダーラッツ______


 「オーマ!ジェネリーがやったぞ!!ドーピングも良い感じだ!」

「・・・ミクネ、頼む。報告はもう少しわかり易く・・・」


ミクネの声が興奮混じりなので、朗報だという事は直ぐに分かったが、流石に内容がさっぱり分からなかった。


「ああ、すまんすまん。嬉しくてつい・・・ジェネリーがイワナミの援護に成功。そこで砂壁盾隊の指揮官に重傷を与えた。あの傷は潜在魔法じゃージェネリーでもないと回復しない。戦線復帰は無いだろう。それで、その後にジェネリーはフレイスと接敵。ダメージを受けたが、ベルのドーピング効果のおかげで再生能力が機能していたから無事だ。食い下がっているぞ」

「おお!?」


 思っていた通りミクネからの報告は朗報だったが、予想以上の報告にオーマの方も興奮して声が出た。

初手で勇者候補を一人戦線から離脱させてしまっただけあって、喜びもひとしおだった。

特に、ベルジィのドーピングでジェネリーの再生能力がフレイスに対して機能したという報告は、この戦いの大きな希望になった。

この分なら、もう一人のジェネリーと同じ様に特別なドーピングを受けている人物にも期待が持てる。


「これで大きなヤマは二つ超えた。残りは三つ・・・行けるか?」


 オーマは、このサンダーラッツ対ラヴィーネ・リッターオルデンの戦いは、越えなければならない山場が五つはあると考えている。

正直に言えば、ラヴィーネ・リッターオルデンを相手にするのは、全てが山場と言えるのだが、その中でもフレイスを相手にする事と、勇者候補の力を使えずに相手しなければならない主力部隊との戦いは、苦戦する事が予想されていた。

 その山の一つが、ベルジィのドーピング効果がフレイスに対して有効であるかどうか?という事だ。

勝利条件であるフレイス撃破を考えれば、このベルジィのドーピングが役立つかどうかは、そのまま勝率に直結する。

 そしてもう一つが、先陣のアデリナの撃破だ。

本来なら、ミラージュ・アングリフを見破った後のレインのカウンターで仕留めたかったが、これが失敗した以上、アデリナと砂壁盾隊をどう抑え込むかは、大きな課題になってしまった。

結果として、ロジ、イワナミ、ジェネリー達に、アデリナとフレイスの突撃を止めてもらえたわけだが、これは大きな賭けだった。

 特に、ドーピングを受けているジェネリーと違い、ロジ達とイワナミ達はドーピングをまだ受けていない。

というのも、今回の戦いでジェネリーとフェンダー用に特別なドーピングを用意することが優先されたため、ベルジィは他の者達の分まで薬を用意することが、この短期間では出来なかったのだ。

そういうわけで、ジェネリーとフェンダー以外の者達には、ベルジィが直接バフ効果のある魔法を使う予定なのだが、フレイスに余裕があるうちは、バフ効果を生み出してもベルジィの居場所を教えて狙い撃ちされるだけなので、ジェネリーがフレイスをある程度消耗させるまで部隊単位でのバフ効果は使えない状態だ。

ロジの突撃隊とイワナミの重歩兵隊は、素の状態でアデリナの砂壁盾隊を止めて見せてくれたのだ。

 そして、オーマの考えでは、ベルジィがサンダーラッツにドーピング出来る様になるまでに戦う事になる強敵があと二人(二部隊)居る。

 その一つがロルグの聖炎刃隊だ。

アデリナの砂壁盾隊同様に、能力の高いロルグとその兵士達・・・当初の作戦では、ロジの突撃隊にウェイフィーの工兵隊が援護に入って抑える予定だった。

だがレインのカウンターが失敗した事で、ロジの突撃隊はアデリナの砂壁盾隊を止めるのに使う事になってしまったので、ウェイフィーの工兵隊だけでロルグの聖炎刃隊を相手にする事になってしまった。

これは、間違いなく大苦戦するだろう。

 それともう一つの方が、敵陣中央に居るアーグレイと氷演武隊だ。

もし彼らが動いたときには、オーマとヴァリネスの二人が指揮するサンダーラッツ本隊で戦う事になるわけだが、氷演武隊の兵士達は、フレイスに見込まれた精鋭中の精鋭で構成されているラヴィーネ・リッターオルデンの最強部隊だ。

そして、それを指揮するのはラヴィーネ・リッターオルデン幹部の中で、一番の戦闘キャリアを持つ副団長のアーグレイだ。

アーグレイが指揮する氷演武隊は、“あの”フレイスが指揮するときほどでは無いが、それでもサンダーラッツ・・・いや、どの帝国軍の部隊にとっても脅威となる相手だ。

出来る事なら、氷演武隊が動く前には、ベルジィがドーピングを使っても問題ないように、ジェネリーにフレイスを消耗させて置いてもらいたい_____というのが、オーマの望みだった。


 だが______


「っ!中央と後ろも動いた!オーマ!氷演武隊が前進!最後尾の視暗弓隊が小隊ごとに散開した!」

「____チィッ!」


だが、自分が今一番起きてほしくない事態を考えていた矢先に、ミクネからその事態が起きたという報告を受ける羽目になって、オーマは思わず舌を鳴らした。


「アデリナの合図でロルグとサスゴットが動いたから、アーグレイはもうしばらく静観してくれると思っていたのに・・・。アーグレイの奴、40には成っているはずなのに勘が冴えてやがる・・・」


愚痴を言っても始まらないのだが、なかなかに予定通りに事が運ばないこの状況に、オーマは愚痴をこぼすのを止められない。

だが、最初のレインのときとは違い、今度はオーマも動揺することなく、この事態に即応する。


「ミクネ、俺達本隊も前線に上がる。各隊長に伝えてくれ。もちろん、ベルジィとサレンとフェンダーの三人にもだ」

「分かった!____」


 ミクネにそれだけ伝えると、オーマは後ろを振り返り、副長のヴァリネスと向き合う。


「副長、アーグレイが思っていたより早く氷演武隊を動かした。俺達も前に出るぞ。ベルジィのドーピングは諦めてくれ」

「うげっ!?・・・嫌よ・・・」

「プッ・・」


オーマの一言に対して、ヴァリネスはこんな状況でもマイペースに、“嫌だ!”と正直なリアクションを見せて来た。正直すぎてオーマは思わず笑ってしまった。

 だが、ヴァリネスのこの不謹慎はいつもの事だ。

ヴァリネスは戦いたくない相手と戦う前は必ず一度は嫌がるのだ。でも、何だかんだと言って奮戦してくれるのがヴァリネスだ。

強敵を前に、ちょっとごねてオーマ達に甘えているだけだ。オーマも古参の兵士達も皆分かっている。

何だったらオーマ達の方も、そのヴァリネスを慰めたり、今みたいにその態度を笑ったりする事で、戦う前にリラックスしているくらいだ。

サンダーラッツ本隊の強敵と戦う前の儀式みたいなものだった。


 「そんなに嫌がるなよ」

「だってあいつ等強いじゃない」

「まあな。ラヴィーネ・リッターオルデンの最強部隊____その言われるに相応しい猛者揃いだ」

「あのアーグレイのおっさんも地味に強いし・・・」

「・・・・・」


 地味にも何も、アーグレイは信仰魔法RANK2(樹属性)を持っている魔導士で、しっかり強敵だ。

アーグレイの長い戦闘キャリアからくる老獪な戦法と、樹属性魔法との相性がすこぶる良く、気を抜けばオーマとヴァリネス二人諸共撃破される可能性だって有るほどだ。


 捕捉を付け加えると、ラヴィーネ・リッターオルデンのメンバーの中で、フレイス以外でRANK2以上の派生属性を持っている人物は三人いる。

氷属性を持つコレルと、樹属性を持っているアーグレイと、金属性を持っているロルグの三人だ。


 「副長、すまんが、今回は駄々を聞いている時間も無いんだ」

「そうですね。時間を掛けていたら、前衛の働きが無駄になります」

「はい!レンデル隊長も捨て身であの砂壁盾隊に突撃してくれました。我々も行きましょう!」


オーマに続いて、本隊の各小隊長達もヴァリネスの説得に参加する。


「はいはい、分かったわよ。やってやるわよ。まったく・・・今回は愚痴る暇もないのね」

「・・・その代わり、怪我したらロジに治してもらっても良いぞ」

「ッ!!?」


ヴァリネスの目がガンギマリした_____。


「だが、今動かないと、ロジがヴァリネスを治す余裕すら無くなるだろうな」

「しゃーーーー!!てめーらぁ行くぞぉ!!あのおっさんに目にもの見せてやらぁ!!」

「まったく・・・」

「ははは・・・相変わらず現金ですね」

「副長らしい・・・」

「扱い易くて助かるよ。よし、サンダーラッツ本隊!前進するぞ!進めぇえ!!!」


「「うおーーーーーーー!!」」


ヴァリネスが超絶やる気を出したところでオーマは号令を出し、サンダーラッツ本隊もアーグレイの氷演武隊を迎え撃つべく前進を開始した______。

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