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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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ダマハラダ砂漠の戦い(1)

 帝国と連邦の両軍が、ダマハラダ砂漠で睨み合っている。

帝国軍と連邦軍によるサウトリック地方の覇権を掛けた戦いが、今まさに始まろうとしていた。


 帝国軍の配置は偃月の陣。

北方遠征軍を後列に置いて後詰とし、南方遠征軍が前衛に立っている。

オーマ達サンダーラッツは、その中央右翼辺りで遊撃として展開している。

 これは、所謂“背水の陣”というヤツなのだが、別に追い詰められてこの陣形を選んだわけではない。

今回の戦いでは、一応、南方遠征軍の軍団長が総大将なのだが、北方遠征軍の軍団長も同じく第一貴族であるため、実質総大将は二人と言っていい。そのため、一人が後方でカバーすれば指揮系統に乱れが出ることもないので、もう一人が精鋭部隊を連れて前に出て戦う事ができるため、この陣形を選択した。

今回の戦いは数で押される形になるだろうから、兵の指揮を下げない様に第一貴族自らが前線に立って兵を鼓舞しつつ、その力でもって敵数を減らそうというワケだ。

 対して連邦軍は鋒矢の陣を引いている。

開けた場所で帝国軍が前方にしかいないと分かっているので、攻撃重視の陣形を選んで正面火力を上げて来たのだろう。

帝国軍の前衛を最初から数で押し込んで、相手陣形を切り崩すつもりでいると判断できる。


 だがオーマは、この陣形の意味はそれだけでは無いと感じていた。


「ミクネ____」

「お?何だ?オーマ?」

「そこから見える景色はどうだ?」

「おー、これだけの人数の戦場は初めて見たから圧巻だな・・・。ところでオーマ。オーマの言っていた様に、フレイス達の姿は見えていないぞ?どうする?」


 戦闘開始を前に、オーマは何気なくミクネにそう話しかけた。

だが、これは異常な事で、ミクネは今、展開している帝国軍から後方に少し離れた岩場の上に居るのだ。

オーマとは数百メートル離れていて、普通では会話できない。

加えて、オーマもミクネも通信魔道具を付けていない。にもかかわらず、二人の会話は成立していた。

これは、今回の戦いで仕掛けたミクネの風魔法による結界の効果だった。



 今回の戦いで、オーマはミクネにその広範囲での風魔法を駆使しての通信役を任せる決断をした。

 こういった大軍での戦闘において、情報伝達は重要なポイントの一つだ。

これだけの規模での戦闘では部隊同士の連携____つまり、通信魔法がどれだけ高いクオリティのネットワークを構築できるかも重要なポイントになってくる。

実際、通信兵を一人倒すという事は敵の連携の分断につながるので、通信兵は良く狙われる。

どの国の通信兵も一般の兵よりは高い能力を持つ魔導士だが、それでも集団で狙われれば一溜りも無い。

 この点を踏まえて、ヤトリ・ミクネは通信オペレーターに打って付けだろう。

通信魔法の精度、範囲、そして狙われた時に対処する戦闘力。どれも大陸最高クラスだ。

この大軍勢の中での戦闘において、情報という命綱を任せるのにミクネ以上の適役はいないだろう。

 ミクネは振動を起こして人に音を伝えたり、人の発する言葉の振動を察知して盗聴したりできる。

この振動察知と振動伝達ができる風魔法で、ミクネはサンダーラッツがスッポリ入る結界を造った。

こうする事で、オーマが普通にしゃべった言葉を遠くからでも聞き取れると共に、それを即座に誰かへと伝えることができる。

ミクネは今回の戦いで、電波塔ならぬ振動塔となって、たった一人でサンダーラッツの全ての部隊の情報伝達を一瞬で行い、サンダーラッツの部隊連携を一手に引き受ける役目を任されたというわけだ。



 岩場から戦場を俯瞰して見ているミクネが言うには、敵の陣営にフレイス達ラヴィーネ・リッターオルデンの姿が無いという話だった。

いくら数万もの兵の集団とは言え、これだけ開けた場所で約千五百もの兵団を見落とす事など有り得ない。

まして、ミクネなら尚更だ。ミクネは本々エルフとして目が良い上、潜在魔法で視力を強化できる。

見落としは無いはずだ。

間違いなく、この戦場にラヴィーネ・リッターオルデンは“映っていない”のだ。


「フッ・・・予想通りだな。フレイスの奴、やっぱり遊撃を選んだな」


 だがこの事態は、オーマの予想していた通りだった。

以前にラヴィーネ・リッターオルデンと戦った経験のあるオーマはよく分かっていたのだ。

 ラヴィーネ・リッターオルデンは、フレイスとフレイスを敬愛する幹部達の戦闘狂な性格が軍団指揮にもろに影響していて、ロルグやアデリナといった個人の能力も指揮能力も高い人物を使った強襲や、サスゴットやミューラーの隠密や遊撃の能力を活かした奇襲を得意としている。

このラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達による強襲・奇襲も十分に強力なのだが、これにフレイスの能力が加わると、さらに戦闘力と戦術幅が向上する。

 中でも、フレイスの水魔法と、サスゴットの疾風槍隊の集団風魔法、更にミューラーの隠蔽魔法を組み合わせた“ミラージュ・アングリフ”という奇襲戦法は、ラヴィーネ・リッターオルデンの宝刀だ。

“ミラージュ・アングリフ”という戦法は、風魔法と水魔法を使い、光を反射させて相手から姿を見えなくするという、透明化の技だ。これに隠蔽魔法で魔力も隠して、敵を奇襲する。

集団魔法を使用しているとはいえ、通常ならば部隊単位でしか姿を隠せないはずなのだが、フレイスが加わる事によってラヴィーネ・リッターオルデン全部隊を透明化させることが可能になる。

約千五百もの人間の姿が戦場で見えなくなるというのは、本当に脅威なのだが・・・


「本当に・・昔は悩まされた技だ。けどな_____」


 バークランド帝国との大戦時では、ただでさえ吹雪で視界の悪い雪原でこの技をやられるため、オーマ達サンダーラッツだけではなく、北方遠征軍全体が手を焼いたものだったが、今のオーマ達にとっては対策が出来ていている戦法で、最早そこまで脅威というものでは無くなっている。

以前にラヴィーネ・リッターオルデンと戦ったときの経験と、今回の戦況を考えれば、オーマにとってラヴィーネ・リッターオルデンのこの動きは予測できるものでもあった。

 ココチア連邦からすれば、亡命して来たフレイス達を受け入れた形なので、恩を着せてフレイス達を自分達が好きに使い潰せると踏んでいたかもしれなが、オーマは絶対にそんな事にはならないと分かっていた。

フレイスの性格を考えれば、保護してもらった立場に甘んじてココチア連邦の言う事を聞く____なんて有り得ない。戦場でなら尚更で、必ず自分の要望を通すと思っていた。

つまり、フレイスはこの戦いで、オーマ達サンダーラッツを狙えるポジションを取って来るだろうとオーマは予測していた。

こんな大軍での戦闘で、敵の一部隊を狙えるポジションなど“遊撃”しかない。

オーマはそこまで読むと、そこから更に、フレイスが遊撃の立場でオーマ達サンダーラッツを狙うのなら、この奇襲戦法を使って来るだろと読み切った_____というわけだ。


 そして、昔はともかく今は、予測できれば対応するだけの力がサンダーラッツには有る_____。


「ミクネ、ジェネリーに戦いが始まったら“予定通りに頼む”と伝えてくれ」

「分かった____」


予測も対策も出来ているオーマの指示はそれだけだった_____。




 オーマがミクネに指示を出してから数分後、自軍の前衛からも敵軍の前衛からも怒号が上がる_____両軍が進軍を開始し、戦いが始まった。

サンダーラッツも、オーマが号令を出して前衛の味方の動きに合わせて前進していく。

その姿は前衛の前進で舞う砂ぼこりで、透明化の技など使わなくても、相手からは見えづらくなっているだろう。

実際オーマから見て、連邦軍は前衛の姿しか、はっきりと視認できない。

ただでさえ視界の悪いこの状況で、透明化して魔力も隠しているラヴィーネ・リッターオルデンを探し出すのは非常に困難なはずだ・・・・・普通では無理だろう。


 だが、それから数十秒後____


「_____オーマ、分かった。フレイス達は大きな岩場を迂回して来るってさ。サンダーラッツから見て8時の方向だ」


ジェネリーは見事にラヴィーネ・リッターオルデンを探し出して見せた_____。

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