舞台と覚悟が整っていく(4)
「良いとこのお嬢様が何と言う声を・・・」
「人外の奇声でしたね」
「コレルは、オーマ・ロブレムがフレイス様の夫になるのが、そんなに嫌か?」
連邦軍との会議が終わり、アーグレイがフレイスの要望を通して帰って来た。
要望が通ったのならば、特に作戦を変更する必要もないからなのか、コレルの発言(奇声)を切っ掛けに、アーグレイは話題を、 “オーマ・ロブレムがフレイスの伴侶となる事について、どう思う?”に移した。
アーグレイは、この事が戦いのモチベーションに影響するだろうと考えて、ここでメンバーの気持ちを整理しておくべきと考えたのだ。
これにラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達は興味を示す。
やはり、ここまで付いて行った自分の主の伴侶とあって、多少なりとも気になっていのだろう・・・。
因みに、トリップ中のフレイスは、そのまま放置されていた_____。
「当り前ですわ!皆さんは嫌ではありませんの!?」
「私は先程も申した通り、フレイス様がお決めになった事ですから」
「サスゴットに同感だ。フレイス様が納得しているなら誰でもいいし、そうでないのなら誰でも許さん」
「武人らしい忠誠心に溢れた意見だな、ロルグ」
「副団殿は違うのですかな?」
「まあ、殆ど同じだが、二人のようにフレイス様が認めた人物なら無条件で___とは思えないのが正直な本音だ。私は公私ともにフレイス様のサポートする機会が多いからな」
「アーグレイ様はお役目上、一番そばでフレイス様に仕えていますからね。夫となる人物とも、この中で一番お付き合いすることになるでしょう」
「じゃー、副団長殿はオーマ・ロブレムがフレイス様の夫になる事は反対なんだね?」
「そーですわよね!やっぱりあの男では役不足ですわよね!?」
「いや、個人的に見てもオーマ・ロブレムは良いと思っている」
「ええ・・・何故ですの・・・」
「フレイス様とは比べられんが、オーマ・ロブレムは軍人として、戦闘力も指揮能力も高い。魔導士としても一流だ。それは皆も認めているだろう?」
「そうだね。正直、フレイス様以外の者では一対一で勝つのは難しいだろうね。私でも無理だ」
「アデリナ姉さんが?そこまでですか?」
「ミューラーは勝つ自信が有るのかい?」
「いえ・・自分では勝てないと思っています。でも、アデリナ姉さんなら勝てると思っていました」
「いや、無理だね。他のサンダーラッツのメンバーならともかく、オーマ・ロブレムには個人戦でも集団戦でも厳しいね。フレイス様以外でオーマ・ロブレムに勝てるとしたら、ロルグぐらいじゃない?」
「ロルグ様はどうです?」
「どうだろうな・・・・考えない様にしている」
「え?・・・何故ですか?」
「・・・・試したくなるからだ。だが、あの男はフレイス様の獲物だ。我慢しなくてはな」
そう言うロルグだったが、その表情はどう考えても我慢できそうにないほど獰猛な顔を見せており、オーマと勝負したくて仕方が無い、といった様子だ。
ロルグもフレイスに負けず劣らずの戦闘狂だ。
相手が強ければ強いほど燃える男で、そんなロルグが“試したい”というのは、言い換えれば“自分でも勝つのか負けるのか分からない”と言っているのと同じだった。
なので、ロルグのオーマの戦闘力に対する評価は、最高と言っていいだろう。
「ロルグ様もそこまで評価しているとは・・・」
「皆も考えている様に、一武人としては申し分ない実力者だろう。だが、それだけでは無い。私が一番オーマ・ロブレムを評価しているところは、その人格だ」
「人格?」
「フレイス様の話しでは、帝国に対して反乱を起こそうとしているらしいが、その中で、サンダーラッツの幹部達全員が彼に付いて行っている。人格が備わっていなければ、ここまでの求心力は有り得ない。彼と共に大陸最大最強の国を敵に回そうというのだからな」
「まあ、確かに・・味方の立場なら信用できそうな人物ではあります」
「そう言うミューラーは?」
「すいません。正直、全然分からないです。他人の恋愛どころか、自分の恋愛でもどんな人が自分に合うのか分かっていませんから」
「若いねぇ」
「アデリナ姉さんはどうですか?」
「あたしも良いんじゃないかと思うよ。軍人としては優秀だし、男としてもカワイイ所あるしね」
「か、カワイイ?」
「そうだよ。何て言うか、奥手というか・・母性を刺激されるというか、面倒見たくなる感じが有る。ヴァリネスの気持ちが良く分かるよ」
「そ、そういうものですか・・・女性がああいう男を“カワイイ”って思う感じよく分からないです。コレルは分かりますか?」
「分かるわけないでしょう!?気持ち悪い!!!」
「はっきり言うな・・・」
「ですが、コレル。フレイス様が伴侶と認めた方に“気持ち悪い”はさすがに不敬です」
「あ、あう・・・そ、それは撤回しますわ・・・でも、“カワイイ”は分かりませんし、やっぱりフレイス様に相応しいとは思えませんわ・・・歳だって離れているし・・・」
「離れているか?オーマ・ロブレムっていくつだ?」
「確かロルグと同じ位だったはずだ」
「私の2つ下くらいだったはず・・・」
「10才近く離れているのか・・・結構だな」
「でも、フレイス様はそんなの気にしないんじゃない?」
「アデリナの言う通りだ。フレイス様は・・・何だったら“人”から離れていても気にしない方だ」
「「はあ?」」
昔のボルディンとフレイスの会話を知らない一同は、ロルグが相手でも“何言ってんの?”という感情をはっきりと表情に出した。
「あ、いや・・・すまん。何でもない」
「と、とにかく!私は納得いきませんの!!」
他のメンバーが納得している中、コレルだけはやはり納得できないままだった。
「そんな事言ってもねぇ・・」
「どうすればいいのか・・・」
「別に、全員が納得する必要は無いのでは?」
「うむ、まあ・・そうなのだが、やはりこのメンバーには受け入れてもらいたいものだな・・・個人的に気苦労が増える」
「フレイス様から言ってもらうしかないんじゃないかい?」
「なるほど。____フレイス様?」
「クフフフフ♪」
「フレイス様?」
「クフフフフ♪・・・オーマと運命・・・クフフフフ♪殺し合い・・アハハハハハ♪」
フレイスはまだ“イって”いた・・・。
「フレイス様・・・」
「あう・・・嬉しそうですわ」
「あの・・フレイス様、そろそろ戻って来てください」
「フフフ♪・・・ウフフフフフ♪」
「フレイス様!」
「______ハッ!何だ!?アーグレイどうした!?」
「あ、いえ・・・あの、フレイス様、コレルなのですが、オーマがフレイス様の伴侶となる事に納得していない様のです」
「あう・・・」
「フレイス様から言ってあげてはくださいませんか?」
「うん?いいんじゃないか?納得していなくても?」
「「はい?」」
「私だってそうだ。まだ、オーマを完全に伴侶と認めたわけじゃない。そのために決着をつけに行くんだ。納得はその後でいいだろう」
「そうですわ!フレイス様の仰る通り!ここできっちり奴をぶちのめせれば良いのですわ!!」
「おお、コレルが復活しました」
「復活したって言いますかね?殺気立っていますけど・・・」
「やる気満々だね」
「ふふん♪」
「何だ?お前達は違うのか?“あの”サンダーラッツとの再戦だぞ?」
「それは・・・」
「まあ・・」
「久しぶりに腕が鳴りますね」
「あたしは最初からやる気満々だよ♪」
フレイス様にそう言われて、ラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達の瞳に闘志が宿り始める。
なんだかんだと、ラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達も戦闘狂である。
多少オーマに対して思う事はあっても、やはり強敵との戦いは心躍る。フレイスに言われれば尚更だ。
「そうだ。それでいい。それでこそ我がラヴィーネ・リッターオルデンだよ。私の伴侶がどうとか、今はいい。そんな事をうだうだ考えるから納得できなかったり、尾を引いたりするんだ。そんなことより強者との再戦を楽しもうじゃないか。やりたい事をやれるだけやったら、どんな結果だろうと納得できるさ」
「「ハッ!!」」
バージアから帰還して以降、オーマを伴侶とするフレイスの発言で、やや困惑気味だったラヴィーネ・リッターオルデンの幹部達だったが、それもフレイスの発言によって吹っ切れて、サンダーラッツとの戦いの意識が出来上がる。
こうして、各国が着々と戦いの準備を進める中で、ラヴィーネ・リッターオルデンのメンバーも戦いへのモチベーションを上げていくのだった_____。




