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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第六章:凍結の勇者ろうらく作戦
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舞台と覚悟が整っていく(2)

 オーマは、オルドとは長い付き合いだ。

昔から尊敬していて、オルドはオーマにとって、“こうなりたい理想の上司”と呼べる人物だった。

だからオルドのことはよく知っている。

 オルドは第一貴族に対して服従してはいるが、内心では快く思っていない。

オーマの抹殺計画の時だって、デネファーと一緒に危険を承知でオーマを助けてくれた。

反乱軍に誘えば、加わってくれる可能性は有るのではないだろうか?


(誘ってみるか?・・・いや、誘いたい。個人的にも戦力的にも)


 もし、オルドが加わってくれるなら、これほど頼もしいことはないだろう。

個の力が揃いつつある今の反乱軍にとって、今最も欲しい人材は指揮官だ。

反乱軍にはまだ、軍勢を率いる実力とキャリアを持っている人物は少ない。

オーマとヴァリネスを除けば、ちゃんと実績が有るのはプロトスとデティットとアラドの三人くらいだ。

これに、将来フレイスが加わることを計算に入れてもやはり少ない。

 オルドは老いて個人の能力が衰えているとはいえ、ドネレイム帝国の強豪で知られる北方遠征軍の師団長だ。

今上げた反乱軍の指揮官達以上の大軍を指揮して勝利してきたキャリアが有る。

 それに、仮にオルドの勧誘に失敗したとしても、オルドならオーマの反乱について第一貴族に告げ口したりはしないだろう。

オルドを勧誘する事はノーリスクハイリターンに思えた。


 「・・・あの、オルド師団長、少しよろしいですか?」

「どうした?急に改まって」

「はい・・・実は_____」

「____オーマ」

「ッ!?」


オルドに話を切り出そうとしたところで、オーマに声を掛けて来る人物がいた。


「フェンダー様・・・」

「ここに居たのだな。私の方は彼らと話が終わった」

「ガロンド様」

「おお、ホーネット殿。ご無沙汰しております。北方から西方、そして南方への遠征、ご苦労様です」

「いえいえ、これくらい。私の様な凡軍人は戦場を駆け回るくらいしか出来る事は有りませんからな」

「またその様な事を・・・ホーネット殿の武勇は私のところにまで届いております」

「若く才ある者達に助けられているだけにございます」

「ご謙遜を・・・ああ、そういえば、ホーネット殿はオーマの上官でしたな。なら、お邪魔でしたかな?」

「いえいえ、久しぶりの再会で世間話をしていただけですよ。なあ?オーマよ」

「・・・はい」

「では、フェンダー様も迎えに来たご様子ですし、私も仕事に戻るといたします」


オーマがフェンダーといる事に大きな疑問を持ったオルドだったが、第一貴族のフェンダー相手に探れるわけもなく、退散を選択した。


「作戦前ですしね。では、また今度ゆっくり話しましょう」

「その時は是非、私も同席させて頂きたい」

「フェンダー様にそう言って頂けて光栄ですな。楽しみにしております。では____」


オルドは心の中でオーマの無事を祈りながら、その場を立ち去った。


(惜しいな・・・・でも、よくよく考えると戦いに疲れたオルド師団長を巻き込むのもな・・・)


 陰謀だの切り捨てだのに疲れている人物に、“国を裏切れ”というのは、例えその苦しみから解放するためだとしても、酷な話だろう。

何より、オーマは帝国と敵対する道を選んだが、皇帝ルーリーとの出会いで帝国を滅ぼす気持ちは無くなっている。標的はあくまでクラースを中心とした第一貴族達だ。

ならば、オルドが反乱軍に参加しないからといって、敵対するとも限らないし、道が交じり合う可能性が無くなった訳ではない。

オーマはそう考えを改め直し、少しだけ名残惜しい気持ちを抱くも、オルドの無事を願って見送った。


 そうして考えを改めると、気持ちも切り替わる____。


(それより今はフェンダーの事だ。ちょうどいいタイミングで現れて・・・監視されていた?疑われている?たまたまか?怪しまれていなければいいが・・・いや、それは今更か・・・)


 オーマは警戒心すら悟られないように警戒しながら、自分の邪魔をして来たフェンダーの方を見た。


「・・・どうした?やはり積もる話があったのか?」

「いえ・・私に代わって指揮官の皆さまと交渉してくださっただけでなく、アフターケアまでして頂いて、感謝いたします」

「例は不要だ。それも込みでの“増援”だ」

「ありがとうございます・・・」


第一貴族との定型文での会話をワンターンこなす中で、オーマは注意深くフェンダーの表情を観察していた。

フェンダーの表情は、特に“歪んで”はいなかった・・・・。


(考え過ぎたか?クラースやマサノリほどの腹芸が有るとは思えないし・・・いや、第一貴族相手に考え過ぎって事は・・・いや、でも、フェンダーなら・・・)


 オーマはフェンダーの事を、“第一貴族達にして三大貴族”という理由で恐れて警戒はしているものの、皇帝のルーリー同様に信頼してもいい人物な気もしているので、今のフェンダーの行動に特別な理由が有るようには感じなかった。

フェンダーと再会して以降、オーマは今の様に、フェンダーに対して期待と警戒が交差していた。


 一方で、オルドの事を名残惜しく見送っていたのは、フェンダーも同じだった。


(北方遠征軍第三師団、師団長オルド・カイン・ホーネット。オーマの上官で、オーマが“救国の英雄”となったとき、罪をでっちあげてオーマを“助けた”男・・・。あの一件でオーマのために動いたのなら、オーマの反乱計画に乗る可能性も有るか?)


 オーマはあの事件でのオルド達の救出劇を、第一貴族達にその真意を知られることなく行ったと思っているが、そんなことは無かった。オーマに罪が無かった事など、第一貴族はバグスを使って調査済みだ。

あの事件の真相は、オルドの真意を知った上で、第一貴族達がオーマを“許した”のだ。


(生半可な第二貴族ではクラースに利用されるだけだろうが・・・・あの事件も結局、彼の他の協力者は炙り出せなかったし、ホーネット殿の今の態度、恐らくこちらがマークしているのを分かっている・・・)


 そして、あの事件をきっかけに、第一貴族はオルドをマークするようになっていた。

特に、バグスにでさえデネファーという他の協力者の存在を隠し通したことが大きい理由だ。

 オルドは、自分が第一貴族にマークされている事を自覚している。

オーマには、その事を教えればオーマは自分を責めると思って、教えていなかった。


(あのクラースにさえ、協力者を隠し通した手腕と軍団の指揮の力を考えれば、是非オーマの反乱軍に加わってほしかったが・・・)


 特別任務を任されているオーマとは違い、マークしているオルドが妙な動きをすれば、クラースは直ぐにオルドを処分してしまうだろう。

これ以上クラースの手によって犠牲者が出て欲しくない事も含めて、フェンダーもオルドを見送るしかなかった。




「・・・・では、行こうか。ヴァリネスが軍を編成してくれているとはいえ、最終確認は必要だろう?日が傾く前にした方が良い」

「はい、仰る通りですね。行きましょう・・・」


 今の段階では、フェンダーの底は見られないだろう。

もし見られるとしたら、フレイスとの戦いの最中か、その後だろう。

一応、今回の作戦でフェンダーのサポートをする事になるサレンと、フェンダーの能力に対抗できそうなジェネリーの二人には、警戒しておくよう呼び掛けてある。

別にここで第一貴族が何か強硬な手段を取るとは思っていないが、それが有ったとしても、この二人ならフェンダーの初動を抑えてくれるだろう。

 フェンダーの事は一先ず置いておくとして、オーマはオルドとの再会で、改めて第一貴族達に対して敵愾心を燃やしていた。


(そうだ・・・フレイスとの決戦で頭が一杯になっていたが、この戦いで終わりじゃない。むしろフレイスとの決着をつけて、彼女を仲間に加えてからが本番なんだ)


オーマは、自分が何故今ここでこうしているのか・・・自分の本来の目的と当初の気持ちを思い出して、その決意を胸にフレイスの居る戦場へと向かうのだった_____。

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