フレイスの実力(3)
フレイスは、同じ勇者候補である不死身の勇者ジェネリー・イヴ・ミシテイスに続いて、閃光の勇者レイン・ライフィードも、一対一で圧倒してしまった。
「な、なんて奴だ・・・・・」
オーマはフレイスの怖さを十分に知っているつもりだったが、以前とは比べ物にならないほど強くなっているフレイスに言葉を失っていた。
(ど、どうする?このままじゃ・・・・・)
失っていたのは言葉だけでなく、この状況を打破する策も失っていた・・・。
(どうする?サレンの力でフレイスを封じるか?けど、それだと奴の能力が分からず仕舞いだ。このまま逃げても再戦で敗北必至だ。だが、そんな色気を出してここで全滅したら、それこそ元の木阿弥・・・やはり、サレンにフレイスを封じてもらって、逃げるか?でも逃げる前に奴の新たな能力だけでも暴きたい・・・・・可能性が有るとすれば____)
そう思ってオーマが“その可能性”に視線を動かせば、“その可能性”は持ち場にいなかった。
「すまん!オーマ!だが、こいつの相手は私がするべきだ!!」
「ミクネ!!」
味方の援護役だったはずのミクネは、自分の判断で既に動いていたらしく、フレイスとの距離を詰めていた。
(____良いぞ!!)
オーマは勝手に動いたミクネを咎めはしなかった。むしろ、ナイス判断だと心の中で賞賛した。
ジェネリーとレインが倒されて、サレンを切り札として温存するなら、フレイスの能力を暴く可能性を持っているのはミクネだけになる。
「頼んだぞ!ミクネ!!」
「おう!!」
「今度は戦巫女か・・・腕が鳴るな!」
「おう!よろしく!連戦で悪いが相手してもらうぞ!」
「ふん♪一向に構わん!!」
フレイスは、ジェネリーやレインとの戦いの疲れを見せる様子も無く、嬉々としてミクネを迎え撃つ。
「エアロナイフ!」
「ぬっ!?」
_____ズビュビュビュビュウ!!
ミクネはフレイスの間合いに入る手前で低級風魔法のエアロナイフを散弾の様に複数飛ばして、フレイスに牽制を入れた。
(何でか知らんが、この女は既にこちらの能力を知っている。いきなり大技を出すのは危険だ)
ジェネリーとレインとの戦いを見て、自身の能力も把握されていると見たミクネは、隙が出来ない様に小技から丁寧に戦いを組み立てていく選択肢を取った。
(よし。良いぞミクネ!)
そしてそれは、フレイスの能力を暴いてほしいオーマにとっても最良の選択だった。
「はぁあーーーーーー!!」
_____ドガガガガガン!!ビュビュビュン!ガガン!!ビュゥォオオオオ!!ガキィイイイイイン!!
鋭くコンパクトな連続攻撃から速攻の風魔法。それからまたも連撃。再び風魔法____と、ミクネは肉弾戦の中に繋ぎで速攻の風魔法を加え、間断なくフレイスを攻め立てて行く。
「・・・ブリザード!」
だが、他から見ればスキの無いミクネの戦法だったが、フレイスはその格闘攻撃と魔法攻撃の間に僅かな隙間を見付け、速攻の氷結魔法を撃ち放つ_____
_____ビュォオオオオオ!!
「ぬっ!?」
「しゃーー!!」
フレイスの絶対零度の吹雪がミクネを襲ったが、ミクネは旋風を起こして吹雪を吹き飛ばしつつ、その旋風をそのままフレイスに叩き込んだ_____
_____ドンッ!!
「くっ!」
「よっしゃ!!」
それからミクネは、フレイスが僅かに体勢を崩したのを見逃さず、沈み込んでからフレイスの脇腹にアッパー気味のボディーブローを放つ____
「フンッ!」
_____ギィイイイン!
「____チッ!」
____が、これはノーダメージ。
フレイスはミクネに打ち込まれる瞬間、レインの電撃を防ぐために覆っていた水を凍らせてガードしていた。
「まだまだぁ!!」
悔しさで舌打ちしたミクネだったが、直ぐに気を取り直して、再び連打を繰り出して、戦いを組み立て直して行く_____。
(____やる!先の二人よりも、武術と魔術の練度が高い!潜在魔法と信仰魔法を上手く使いこなせている・・・属性の相性も良くない)
ミクネは見た目こそ少女だが、ジェネリーとレインより経験値が高く、総合的な攻撃力なら振動の力を使わずともサンダーラッツの勇者候補の中で一番だろう。
だが、それでも地力はフレイスの方が上だ。
それでは何故、両者の戦いが拮抗しているのかと言えば、それはフレイスの思う様に属性の相性が理由となる。
風属性は魔法戦において、攻撃がそのまま防御にもなる。
吹雪などを吹き飛ばしつつ、相手に攻撃もできる攻防一体の技が出しやすい属性だ。
土属性、金属性、樹属性などならこの限りではないが、特に水属性、炎属性、氷属性などは風属性の技との相性は良くない。
このおかげで、自力ではフレイスに一歩及ばないミクネも、戦いを拮抗させる事ができている。
この調子でいけば、フレイスからスキを作り、大技を叩き込むことも可能だろう。
ミクネの大技____即ち、超振動。
防御不能の絶対破壊攻撃であり、決まればフレイスにも勝利できる。
(____行ける!!)
この戦いに勝機を見出したミクネは、大技を繰り出すため、慎重に、且つ容赦なく攻撃を浴びせ続ける。
(これは・・・“アレ”をやるしかないな・・・)
ミクネの猛攻を受けながら両者の戦力と相性の分析を終えたフレイスも、自身の奥の手にして最高の技を使う決断をした_____。
「サイクロン!」
____ゴゥッ!!_____パキィイイン!!
両者が心の内で自身の奥の手を使う決断をしている中、目に見える戦いの方はミクネが押しに押していた。
フレイスが防御に徹しているとも言える。
ミクネがフレイスに対して攻防一体の技が出せる以上、フレイスから攻撃してもカウンターを食らって隙ができてしまうだけだからだ。
ミクネが攻撃、フレイスが防御の図式で、二人の戦いが拮抗する。
暫くこの図式が続くかと思われたが、この図式をフレイスが破った_____。
「アイス・ブレイド!」
____ズババババ!!
「ッ!?」
フレイスは、防戦の中で溜め込んでいた魔力を使って一息で魔法術式を完成させ、ミクネの足下から氷の刃を繰り出した。
STAGE5(発生)の技____この魔法技術ならば、ミクネの攻防一体の風魔法を切り崩せると判断したのかもしれない・・・。
「舐めるな!!」
だが、そんなことは無かった。
「風車演武!!」
ミクネは風車の様に体を縦に回転させながら風の鎧をその身に纏う。そこから更に風魔法で回転を上げる。
そうして、高速で回転したミクネは、下から伸びて来る氷の刃をガリガリと削り、身を守る。
そして____
_____グゥオ!!
____そのままフレイスに体当たり。
「ぐっ!」
大方の予想通り、攻防一体のミクネの魔法戦法によって、フレイスはカウンターの餌食となり吹き飛ばされて、完全に体勢を崩してしまった。
「もらった!!」
勝機と見たミクネは、大技を決めるため、一気に魔力を練り上げつつ跳躍____。
そして、収納魔道具である左腕に着けた腕輪から大木槌を取り出しつつ超振動の魔法術式を展開する。
「ッ!?」
そこでミクネに悪寒が走った____。
フレイスを見下ろすと、フレイスも魔法術式を展開している・・・それも、例の紺碧の魔法術式だ。
(ま、まさか____)
____そう。フレイスが攻撃できる態勢ではなくなったことで、ミクネは勝負に出たわけだが、そもそもフレイスの奥の手は体勢が不十分でも問題無いのだ。
「フッ」
(誘われた!)
吹き飛ぶフレイスが出している魔法術式とフレイスの表情で、ミクネはそう確信した。
「ッ!」
それを見たサレンも、思わず準備していた魔法を発動するタイミングを計った。
(南無三!)
もう攻撃を止める事ができないミクネは、祈る様な気持で決め技を繰り出した____
「超振動・滅!!」
「ツァイト・ディカイン・ツァイト(時間ではない時間)」
「ヒリアイネン・バロ!」
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「ぐぅわぁあああああ!!」
ミクネ達が魔法を発動したその直後、ミクネが大きく吹き飛んだ。
「ミクネ!?」
「なっ!?」
「何!?どうしたの!?」
「いきなり吹っ飛んだ!!」
オーマ達は、フレイスの能力が見れると刮目していたが、全く理解ができずに激しく動揺した。
「だ、誰か!誰か奴の能力を見た者は居ないか!!?」
「・・・わ、分かりました」
「「!!」」
そう答えたのは、吹雪の中で凍える様に震えているサレンだった。
どうやら寸でのところで静寂の力を発動し、フレイスの魔法の影響を受けなかったようだ。
「何だ!?サレン!奴は何をした!?」
「答えなさい!サレン!!」
オーマもヴァリネスもサレンが怯えているのは分かっていたが、気にする余裕が無くなっていて、攻め立てる様な聞き方になってしまう。
それでもサレンは振り絞る様に声を出してくれた。
「凍らせたのです・・・世界を」
「・・・はあ?」
「何?どういう事?」
「サレン!お願い!分かるように言って!!」
「凍らせたのです!世界の動きを!時空の流れを!!」
「「・・・・・・」」
「・・・・は?」
「えっと・・・・・」
「そ、それって_____」
「つ、つまり・・・“時を止めた”って事?」
「ッ!ッ!」
ミクネはガタガタと震えながら首をコクコクと縦に振った______
「「・・・・・・」」
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「「なんじゃそりゃーーーーーーーーーー!!?」」
サンダーラッツ全員の絶叫が砂漠を照らす夕陽へと昇って行った_____。




