フレイスの実力(1)
オーマ達がバージアに来た目的を知るべく、フレイスは強硬手段に出るため魔法術式を展開した。
すると、その魔法術式を見たサンダーラッツの一同が困惑の表情を浮かべる。
フレイスの展開した魔法術式は、オーマ達がこれまで見た事の無い紺碧色をした魔法術式だったのだ。
(何だ!?何の属性!?フレイスの奴、新しい派生属性を手に入れている!?_____どうする!?)
その魔法術式が戦闘開始の合図になったわけだが、オーマ達は動くことを一瞬躊躇した。
危険だ____。
未知の魔法である事に加えて、それを使用する人物がフレイスであるという事に、サンダーラッツ一同の恐怖と警戒があっという間に臨界点に到達していた。
だがサンダーラッツの一同は、無言のままアイコンタクトで、“どうする?”と、一瞬でこの状況に対応するための作戦会議を行い、作戦を決めた。
一瞬のアイコンタクトで行われた作戦会議の中身は、大体次のような内容だ____
____逃げるか?
“けど、フレイスの魔法の射程距離が分からない”
“未知数の射程の攻撃から距離を取るのは危険です”
“それにフレイスならば、ミクネ並みの長距離攻撃も可能かもしれない”
____なら、防御する?
“どうやって?”
“どれ程の威力か分からない上に、属性も分からない”
“防ぎ方も分からない”
“あれだけの魔力の攻撃に対して、防御法が分からずに防護魔法を使うのは賭けになります”
____全員で防御すれば?
“薬物属性の様な付属効果が有ったら全滅するかもしれませんよ”
“それに、ロルグ、コレル、ミューラーが居る”
“あの三人も自由にさせてはいけない”
“うん。絶対に牽制は必要”
____サレンが封じる?
“それだと、フレイスの手の内が分からないじゃない”
“それに、すいません、フレイスさんの術式速度が速すぎて、静寂の魔法は間に合いません”
____では他の勇者候補に任せようか?
““_______””
これが一番だろう。勇者候補には勇者候補を、だ。
だが、フレイスの相手をするのは、勇者候補であっても危険だ。
あの膨大な魔力から放たれる未知の魔法では、どうなるか分からない。
それに、仮にフレイスの魔法をどうにかできたとしても、フレイスは武芸の腕も半端ではない。
短剣と片手斧を持って油断なく構えるフレイスに切り込むのは、術式展開中であっても危険なのだ。
かつて、大技を出そうとしたフレイスを潰すために部隊を切り込ませたとき、フレイスは即座に速攻の氷結魔法を唱えて近接戦闘に切り替えて攻撃してきた。その結果、その部隊は全滅した。
オーマの苦い思い出の一つだ。
そして、オーマの見立てでは、勇者候補の中でフレイスの近接戦闘に敵う者は居ないと判断している。
だが、こんなときにうってつけの人物がいる_____。
圧倒的な強さを持つフレイスの未知の攻撃に切り込むには、かなりの危険が伴う。
死を覚悟しなければならない。
ならば、“死なない人物”こそ適任だろう____
____ダンッ!
上記のような内容を目線のやり取りだけで行い、最後に、“___行けるか?”という全員の視線が集中したのを見て、不死身の勇者ジェネリー・イヴ・ミシテイスは迷うことなく地面を蹴って、フレイスに向かって切り込んだ_____。
そのジェネリーの英断を無駄にしないために、他のメンバーは各々の役目を全うするべく魔法術式を展開する。
クシナは、ロルグ、ミューラー、コレルの三人に攻撃魔法の照準を合わせて牽制。フランも風属性の魔法術式を展開しつつ背負っていた弓を引いて、それに加わる。
オーマ、ロジ、レインの三人は、隙ができた時にいつでも切り込めるよう、近接型の攻撃魔法を準備。
ヴァリネス、ミクネ、イワナミは、味方を守るために防護魔法の術式を展開する。
サレンは万が一に備えて、この局面での切り札になるであろう静寂の力を使う準備を始めた____。
「フレイス殿!いざ尋常に勝負!!」
ジェネリーは、フレイスの意識をできるだけ自分に集中させるために、騎士としてではなく、戦術の駆け引きでフレイスに一騎打ちを申し入れた。
「ほう?新人だな?気概も魔力も申し分ない。良かろう_____受けて立つ!!」
フレイスは、ジェネリーの意図を凡そ察してはいたが、それでも嬉しそうに一騎打ちを受けて立った。
もちろん、初めて見るジェネリーの手の内を知っておきたいという理由もあるが、半分以上は闘争意欲に動かされての決断だ。
「・・・・」
ジェネリーは意識を集中して、体の内側に魔力を込める。
信仰魔法は使わない。
ジェネリーは先程のフレイスの一撃を見て、自分では信仰魔法の応酬で勝負は出来ないと思っていた。
信仰魔法の攻撃は防がれるだろうし、防護魔法は突破されてしまうと分かっている。
そのため、フレイスとの距離を潰す僅かな時間は、全て潜在魔法で肉体を強化する事に当てる。
(どんな魔法を撃ってくるかは分からないが、必ず生き残ってカウンターを入れる!!無理だとしても、必ずあの力の秘密を暴く!!)
ジェネリーは被弾覚悟で勢いよくフレイスの懐に飛びこみ、渾身の一撃を放った。
____ガギィイイイン!!
潜在魔法で強化したジェネリーの一撃で、周囲に爆音の様な凄まじい金属音が鳴り響く・・・。
それは、ジェネリーにとって困惑してしまうものだった。
(剣で防御!?魔法を使わない!?何故!?それにどうして!?)
見ればフレイスはジェネリーの一撃を短剣と手斧で受け止めていた。
魔法を使って来なかった事も意外だが、フレイスが潜在魔法で強化した自分の一撃を難なく受け止めている事にも驚愕していた。
(潜在魔法の扱いも私以上!?バカな!そんなはずは____!?)
___と、頭の中で混乱していると、余裕の笑みを浮かべるフレイスと目が合った。
「あ・・・」
「どうした新人?続けないのか?今の一撃は悪くなかったぞ?」
「な!?・・・・ぉおおおおおお!!」
フレイスに完全に格下扱いされてジェネリーは咆哮した。
怒り狂ってではない。冷静に覚悟を決めた上での気合の咆哮だ。
(この者は強い!考えるのは止めだ!!勝とうと思うな!自分の仕事に集中しろ!!)
ジェネリーは勝利という欲は捨てて、相手の手の内を暴くという自分の役目に集中する事にして、無心でフレイスに剣を振るった。
____ガギィイン!!ガガ!ガガガガガギンッ!!ギギンッ!ギンッ!!
(!?こいつ・・・)
ジェネリーと剣を合わせて数合、フレイスは異変に気が付く。
(____どんどん強くなっている!)
ジェネリーは斬撃を繰り出しながら、どんどん潜在魔法で肉体を強化して攻撃力を上げていく。
それ自体にフレイスが驚くべきことはなかったが、気が付けば肉体の力、速度、反射神経と、全ての肉体の性能がフレイスを凌駕し始めており、フレイスを驚かせていた。
(ぐ!?・・・くっ!)
(イケる!技量の差で最初こそ受けられたが、やはり潜在魔法の能力は私の方が上だ!!)
自分に対抗する術が有ると分かったジェネリーは、勢いに乗って更に潜在魔法を強化して猛攻を仕掛けた。
(・・・・・)
だがフレイスは、押されていても冷静だ。フレイスは経験値も並ではない。
今はともかく、子供の頃は自分より膂力のある者、速度のある者、技量のある者と戦っていた。
訓練では、それら全てが自分を上回っていたロルグに容赦なくしごかれていた。
圧倒的強者のフレイスではあるが、自分以上の力を持つ者との戦い方を知らないわけではない。
(やるじゃないか!楽しいぞ!!だが何故、信仰魔法で追撃してこない?・・・・・そうか____)
そのため、フレイスがこの状況を打破する方法を見つけるのに、さほど時間は掛からなかった。
(肉体の強さは私を超えるようだが、技量に差が有るな。武術においても・・・魔術においてもな!!)
攻略法を見つけたフレイスは、足元に紺碧の魔法術式を残したまま、新たに氷属性の魔法術式を展開した。
「ッ!?」
「遅い!アイス・ウィンド!」
フレイスが速攻で低級の氷結魔法を放ち、ジェネリーを一瞬だけ凍らせて、一瞬だけジェネリーの身体機能を低下させる。
フレイスが次の攻撃に繋げるには、それだけで十分だ。
「ウォーター・マグナム!」
____ドン!!ドドン!ドンッ!
間髪入れずに水弾をジェネリーに撃ち込む。
「あう!?」
ジェネリーはこれに反応出来ていたが、氷結魔法で身体能力が低下させられた上、信仰魔法で防ぐ事もできずに被弾。
(やはり!この攻防の中では潜在魔法で肉体を強化するのに手一杯で、信仰魔法も合わせて使う余裕は無いと見える!)
ジェネリーが信仰魔法を使わないのではなく、使えないのだと看破したフレイスは更に追い打ちを仕掛ける。
「アイス・ウィンド!」
水弾を撃ち込まれた直後で濡れた体を凍らせて、先程以上に身体機能を奪い取る。
この、水属性と氷属性を使って相手の身体機能を奪いながら攻撃するのは、水属性と氷属性を扱える上級魔導士の常套手段だ。
「ぐっ!」
「もらった!!」
隙だらけになったジェネリーに、フレイスは容赦なく短剣と手斧でバツ印を胸に刻み込んだ____
____ズバンッ!!
「あぐぅあ!!」
ジェネリーが大ダメージを受けて、大きくのけぞる_____そして
「レーベン・シュトローム!」
「「!?」」
フレイスはジェネリーに向けて、紺碧の魔法術式から魔法を撃ち放った_____。




