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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
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宿敵との再会

 バージアデパートの屋上で、商人服を着た女性が、オーマ・ロブレムの名を叫んだ。

名を呼ばれたオーマは、叫んだ女性の姿を見て固まっていた。


(あ・・・ああ・・・・・・)


別に誰だか分からずに固まっていた訳じゃない。

むしろ、その女性が視界に入ったときに、直ぐに誰だか分かった。


 数年ぶりの再会____


 服装は当時の物とはかけ離れたもの。顔立ちも成長して、ずいぶん大人びている。

だが分かった、分からないわけがなかった。彼女を忘れるはずがない・・・。

オーマとサンダーラッツの一同にとって、彼女はそれほどセンセーショナルな存在だ。

 何故ここに居るのかも、クラースからの伝言、各国の動きが活発になるこの時期、彼女自身の性格等を鑑みれば、この街に斥候に来たというのは商人の姿から見ても想像は難しくない。

直ぐに理解はできたが、オーマは動かない・・・動けない・・・言葉も出ない。

誰だかも分かる。何故ここに居るのかも想像はつく。それでも再び出会った彼女の姿は、オーマ達にとって物理的に胸を打たれた錯覚に落ちるほどの衝撃だった・・・・。


「フ・・・フレイス」


「「____!?」」


 オーマが再開した宿敵の名を呟けば、勇者候補達も反応した。

以前から、サンダーラッツのメンバーによくよく聞かされていた名前であり、直ぐに反応できた。


「か、彼女がフレイス・・・サレンに比肩する、本物の勇者の可能性が高いという勇者候補・・・」

「兄様達にとってトラウマの存在・・・」

「ふん・・・別に大したことは・・・・いや、有るな。あれは・・・」

「何故ここに・・・あ、いや、そういう事か・・・」


その噂通りの気配を漂わせるフレイスに、勇者候補の者達にも緊張が走る____。


 叫んだフレイスの方はと言うと、ミューラー、コレル、ロルグと共に、全員で眉間にシワを寄せてオーマを見据えている。だが口元は笑っていて、どこか嬉しそうでもある。

殺気立った瞳に闘争心剥き出しの気配を放っていたが、頭の中は冷静らしく周囲にも気を配っていた。


「やはり、オーマ・ロブレムか」

「驚きだな・・・まさか、この街に来た初日に彼の宿敵と再会できるとはな」

「でも何故ここに?・・・なんて、考えるのは愚かですかね。大陸に覇を唱えているドネレイムの軍人は、もうどこに居てもおかしくは無いし、北方遠征軍はリジェース地方の攻略を終えて戦力を持て余してそうですし・・・」

「クフフフフ・・・幸先が良いですわ。まさか、ここでサンダーラッツと戦えるとは・・・あの連中を八つ裂きにする日を待ちに待っておりましたわ」

「焦るな、コレルよ。奴と一緒に居るのは、サンダーラッツの突撃隊隊長ロジ・レンデルだろう?」

「ひ、人違いじゃないですか?」

「カハハハハ!相変わらず優男に見えて肝が据わっているな!このロルグ、強者の顔は忘れんよ」

「ボクは二度と会う事なく貴方のことを忘れたかったですよ。貴方と戦うのには、うんざりしていましたから」

「ふん。つれないな。あれほど心躍る戦をした仲だというのに・・・」

「ロルグ殿!何を世間話に花を咲かせておりますの!?団長だけでなく、あの男女も居るなら、他にも居るだろうという話でしょ!?____ミューラー!」

「もう、やっていますよ!」


そう呟いたミューラーは既に魔法術式を展開していた。


「サーチ・ウィンド」


そして、すぐさま風属性の索敵魔法を発動した____。


「____反応が無い!?」

「・・・何をやっていますの?そんなわけないでしょう?」

「本当ですって!何の反応もないのです」

「・・・ふむ。なら答えは一つ。奴らの中にミューラーの索敵魔法を防げる魔導士が居るのだろう」

「う・・・ショックです。私の索敵を阻害できるなんて・・・」

「ミューラーの愚図」

「くすん・・・」

「奴らも昔のままではないという事だな・・・フレイス様?」

「ああ、問題無い。そういう事なら力尽くだ」


 言って今度はフレイスが魔法術式を展開した。


「「____ッ!!」」


フレイスの展開した魔法術式がオーマ達の肌を泡立てた_____。


_____すごい!!_____速い!!_____まずい!?


そう防衛本能が危険信号を出し、ほぼ全員が条件反射で防護魔法の術式を展開する_____が、フレイスの術式の完成はそれより速い。


「エクストリーム・ブリザード!」


 フレイスが上級氷結魔法を発動する。

速攻の上級魔法であるにも関わらず、そのフレイスの魔法にはオーマ達の最上級魔法と比べて遜色ない魔力が込められていた____


_____ヒリアイネン・バロ!


「!?」


だが、寸でのところでフレイスの魔法は不発に終わった。


「フレイス様!?」


何が起きたかは分からなかったものの、咄嗟に危険を感じたロルグがフレイスの前に立ち、盾となる。


「分からん・・・防がれた?・・・いや、発動自体を出来なくされた・・・?」

「バカな!?フレイス様の攻撃が防がれるなんて事が有り得ますの!?」

「ですが出所は分かりました!コレル!2時の方向!」


サレンが静寂の力を使った事で、一同はフレイスの魔法を防ぐことは出来た。

だが、魔法を使用したことでミューラーの索敵に引っ掛かる。

 出所が分かると、コレルが直ぐにその方角へと魔法を放った。


「___ッ!ハイアクア・ニードル・ウェイブ!」

「ハイフレイム・ウォール!」


_____ボジュウウウウ!!


コレルの放った魔法は速く、威力も申し分なかったが、フレイスが放った魔法ほどでは無いため、防護魔法を準備していたメンバーに防がれた。

それでもミクネの隠蔽魔法は消え失せ、隠れていたサンダーラッツの一同が姿を現した_____。


「・・・フン、久しぶりのご対面ですわね。幹部全員がお揃いのようで」

「懐かしい・・・・親友との再会に等しいな」

「ですが、知らない者も居りますね」

「ああ・・・嬉しいぞ、雷鼠戦士団。よく誰一人として欠けることなく健在でいてくれた。感謝する。国を亡くしてなお、生き恥を晒した甲斐が有るというものだ。お前達との再開と、ドネレイムの打倒をずっと夢見ていた」


 フレイスは心底嬉しそうにニッコリと笑った。

フレイスの笑顔は、元々の美麗な顔立ちに無邪気さが加わって大変愛くるしい姿だったが、同時に尋常ではないほどの殺気と闘気を放っており、最上級魔族すら温いと感じるほどの獰猛な気配を漂わせていたため、フレイスの姿を魅力的とは感じても浮かれる者は一人もいなかった_____。




 両者がそんな危険な空気を漂わせている一方で、ベルジィは中年女性の姿のままサンダーラッツとラヴィーネ・リッターオルデンの様子をただ茫然と眺めていた。


(一体何なの?何故ヴァリネス達が?何故隠れていたの?あの人達は一体?・・・フレイス・・・。オーマさん達に術を掛けた時に話していた人・・・確かバークランド帝国の・・何故このバージアに?どこかの勢力下に入ってスラルバン王国を狙っている?・・ココチア連邦?・・・ライオン・ケイブを護らなきゃ・・・・護れる?このフレイスという人・・・スゴイ)


両陣営を見ながら、ベルジィはグルグルと頭を働かせる。

だが、今の出来事のインパクトが強すぎて、中々に情報の処理が追い付かない・・・。


(と、とにかく、このフレイスという人は斥候としてバージアにやって来たって事よね?そ、それで、ヴァリネスさん達は?・・・まさか_____)


両者が睨み合ってくれていたおかげで、ようやくベルジィの中で情報の処理が追い付いてくる・・・。


(・・・作戦?・・・・そうか・・。何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう・・・)


そしてようやく、これまでのオーマ達の行動が自分を探し出すための作戦だったのだと気が付いた。


(____良かった)


 今日一日のことが作戦だったのだと分かったとき、ベルジィの胸に去来した感情は、自分をハメようとしたことに対する怒りでも、作戦を立案した反乱軍の指導者への評価でもなく、オーマとロジとの仲が偽りだと分かって安堵する気持ちだった_____。

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