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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
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らぶらぶ・タクティクス・オペレーション(5)

 「楽しかったですねぇ♪」

「ああ、南方の見た事も無い魔獣も見ることが出来て、良い勉強になった」

「ブー・・・オルスさん、デート中ですよ」

「おっと・・すまんすまん」

「フフフ♪」

「ハハハハハ」


 バージアで有数のデートスポットであるバージア水族館での時間を楽しんだ二人。

中で少し気まずくなる瞬間もあったが、物珍しい生き物を見ることで二人の会話は弾み、水族館から出てくるころには緊張もほぐれて、本当のカップルの様な空気感が出来上がっていた。




 (_____ンホォ♪)


そんな二人のムードを感じる中年女性の姿をしたベルジィからは、血の匂いが漂っていた・・・・・鼻血だ。

興奮して鼻血ブーしていた。




 (コロスコロスコロスコロス・・・)


そしてヴァリネスからは殺気が漂っていた。


「「・・・・・」」


サンダーラッツのメンバーは、ついに全員が宥めるのを諦めて、ヴァリネスを放置していた。




 _____と、オーマ達は、ここまで順調にベルジィを引き寄せる事に成功してはいる。


(今のところ良い感じだと思うのだが、どうだろう?)


だがオーマにはベルジィの存在が確認できていないため、その手ごたえが分からず、少し不安にもなっていた。

“現状、まだ例のオーラが発動していないという事は、まだ盛り上がりが足りないという事だろうか?”___と


(でも、これ以上はなぁ・・・)


二人の空気感が良くなっていることからも分かる通り、水族館では良いムードになった。

頑張ればもっと良い雰囲気に出来そうだったのだが、肝心の場面でオーマは勇気が出ず踏み込めなかった。


(もっと俺自身が自分を客観視せずに、盛り上がらないとダメなのか?)


 オーマはここまで、この状況を色々な意味で俯瞰して見てしまっている。

“これは作戦なんだ”と自分に言い聞かせて、“ロジとイチャイチャしなければならない”と俯瞰して見ているし、“これは作戦なんだ”と自分に言い聞かせて、“ロジとイチャイチャしなければならないと、ロジとイチャつく言い訳をしていないか?”と俯瞰して見てもいて、自分のことを客観視していながらオーマの今の気持ちは、あやふやだった。

自分を客観視しているのか、客観視している体なのか、それが分からなくなっていて、ロジとの仲に踏み込めなかったことに、安心した気持ちにも残念な気持ちにもなっていた。


 だが、まだ成果が無いなら、更に踏み込まなければならないだろう____。


(こ、これもベルジィを見つけ出すためだ、仕方が無い・・・)


____と、また、“これは作戦なんだ”と自分に言い聞かせて、“イチャつきたい”のか“イチャつかなければならない”のかよく分からない気持ちで、ロジを次の場所に誘うのだった_____。


 「なあ、ロジ。あそこのデパートに行かないか?」

「いいですよ。買い物ですか?」

「いや、あそこのデパートがバージアで一番大きな建物らしくてな・・・。しかも屋上を開放しているらしい。なら良い景色が見れそうだと思ってさ」

「それは良いですね!是非行きましょう♪」

「・・・・・」

「・・・・?・・オルスさん?」

「ああ・・行くぞ____」

「_____」


そう言ってオーマは自分からロジの手を取った____。


「あ・・・」

「ダメか?」

「い、いえ・・・大丈夫です」


咄嗟に手を引かれたロジは、これが作戦だと理解しつつも顔を紅色に染めていた・・・。


「・・・・・」


オーマも今度は照れて手を離すことは無く、手をつないだままデパートの屋上へと足を向けた_____。




 デートで会話を重ね距離を縮めて手を取り合う・・・色気には少々かけるものの、純愛の物語としてなら申し分ない展開だろう。

もう、この時点でベルジィから腐のオーラが発動しても良さそうなものである。

実際、ユイラからは毒々しいまでの腐のオーラが解き放たれていて完全に不審者になっていたため、バージア警備団の兵に捕まって事情聴取を受ける羽目になっていた。

 そしてヴァリネスは_____


「________」

「ちょ!?ど、どうしたのですか!?副長!?」

「ま・・・真っ白」


ヴァリネスは嫉妬の炎を燃やし尽くして灰になっていた・・・。



 ユイラとヴァリネスが壊れる中で、ベルジィはオーマとロジの手を繋いでいる姿に反応していなかった。

いや・・・反応はしているのだが____


____チクリ


 (!?・・・な、なんですか?この気持ち・・・)


ベルジィは盛り上がるどころか、気持ちが冷めていた。

そして、針が刺さったような胸の痛みに戸惑っていた。


(どうして?な、なんで私が二人の仲睦まじい姿に不快感を抱いているの?)


恋愛経験が無いベルジィには、その痛みの正体が“嫉妬”だという事に今の段階では気付けなかった____。





 この街を一望できるデパートへとオーマとロジはやって来た。

気分を盛り上げるためという理由だったのだが、水族館を出てからここまでずっと手を繋いでいたため、二人の気分は既に盛り上がり始めていて、自分達でも作戦のためにデートしているのか、本当に二人でデートしたくてデートしているのか分からなくなっていた。

そんなあやふやな気持ちも、“どうせ作戦で盛り上がらなきゃいけないんだし・・・”と、また、作戦を言い訳にして二人は屋上へと上がって来た____。


「おー・・・」

「ああ・・なんか良いですね、この景色・・・」

「そうだな・・・」


 屋上から見える景色は、一言で言ってしまえば、何処までも続く砂漠だった。

正直、帝都の夜景やアマズルの森の紅葉の景色に比べれば彩は無く、味気ないと感じるだろう。

だが、地平線まで伸びる砂漠は、その砂漠と砂漠を照らす西日と二つに分かれた景色で、ベルヘラの海の景色と同じく広大で美しかった。

砂漠の景色を見慣れていない二人にとっては、只々壮大で新鮮。そして、日暮れを知らせる肌寒い温度の風が、手を繋いで熱くなっている二人の体に心地よかった。

そんな雰囲気の中でオーマとロジの二人は、地平線まで伸びる砂漠をただただ眺める____。


 _____静かだ。


 砂漠の景色を見慣れている一般人にはあまり興味が無いのか、屋上には人が少ない。

デパートの下も、日暮れが近づいている事もあって、人々は帰宅を始めているのだろう、屋上までは音も声も届いてこない。

二人も、口を開くことも無く、ただ手を繋いで寄り添っている。

 そうして手を繋いでいると、それが当たり前になって行き、先程まで盛り上がっていた胸の鼓動は穏やかに落ち着きを取り戻していく。

その代わり、胸には嬉しいような、切ないような甘酸っぱい微熱を宿していた・・・。

 西日の赤い光に照らされて手を繋ぐオーマとロジの佇まいは、まるで恋愛小説のワンシーンの様で、恋愛成就する前のカップルの様だった。




 「あ・・・あう、あう・・・あ・・れ・・・ら・・ぶらぶ・・・・お、オペ・・・ション・・・・ぶぅあ」


二人の姿を目の当たりにしたヴァリネスの自我は完全に崩壊していた・・・。


「あー、はいはい。皆まで言わなくても大丈夫ですよぉ。副長」

「あわー・・・あー・・・・」

「まるで介護だな」

「副長やばい」

「何だかもう見てらんねーわ」

「いや、それは最初から」

「・・・だな。副長の所為ですっかり感覚がおかしくなっちまった」

「けどヴァリ姉様には悪いですが、この方が助かります」

「そうだな。副長には申し訳ないですが、ベルジィさんが見つかるまで大人しくしてもらいましょう」


ヴァリネスが静かになった事で気が楽になったのか、勇者候補の四人も会話に交じって来た。


「だが、ヴァリがこれだけ堪えているんだ、もしベルジィが近くに居るなら・・そろそろじゃないか?」

「はい。ユイラさんは既に不審者になって退場していますから、もう何時反応が有ってもおかしくないと思います。それに、その・・・私から見てもお二人は良い雰囲気ですし・・・・」

「何だサレン、やっぱりBLに興味があったのか?」

「違いますよぉ!ミクネ!変な事言わないでください!」

「いや・・別にいいじゃないか、好きで」

「言わないでください!」

「はぁ、分かった。すまん」

「まあ、それはさておき、確かに我々から見てもオーマ団長とレンデル隊長の仲は深まっているように見えます」

「同じく。団長達もそれを理解して、作戦の仕上げのために、ここに来たのだと思います」

「なら、やっぱり・・そろそろか?」


「「____うん」」


オーマとロジの二人の雰囲気に、サンダーラッツのメンバーたちも作戦の手応えを感じて、集中して周囲に気を配り始めた。




(いや・・離れて・・・・)


だが、そんなメンバーの期待とは裏腹に、ベルジィの気持ちは沈んでいた_____。

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