らぶらぶ・タクティクス・オペレーション(2)
「お待たせしました。珈琲です。それと、いちごパフェになります」
「どうも」
「ありがとうございます」
ロジとオーマの二人がカフェで待ち合わせて暫くすると、二人の注文した品がテーブルに置かれた。
「ロ・・・ジデル、パフェも頼んだのか?」
「はい。この方が良い“演出”になるかと思ったのですが・・・ダメですか?」
「い、いや、そういう事なら別に気にする事は無い」
「フフフ♪」
「?」
「嘘ですよ」
「嘘?」
「本当は、ただボクが食べてみたかったからです。作戦は言い訳です」
「お、おう・・・」
「フフ♪」
ロジはそう言ってニコッと笑った。
(う・・・か、可愛い・・・って!落ち着け、落ち着け。これは作戦だ)
ロジの茶目っ気のある笑顔は、今日のためにしっかりと整えて来ているというのもあって、いつもより可愛く映り、オーマはロジが男であることも、これが作戦であることも理解していたが、照れて顔を赤らめてしまった。
「オルスさん、一緒に食べませんか?」
「え?で、でも俺は・・・」
「いいじゃないですか。“見せつける”のが作戦なのですから♪」
「い、いや、ちょっと待ってくれ、ジデル」
「待ちません♪はい、あーん♪」
「う・・・あ、あーん・・・」
意外と作戦にノリノリのロジに押される形で、オーマはパフェを口に運んでもらう。
オーマは照れくさい思いをしながらも、“これは作戦なんだ”と言い聞かせてパフェを頬張った_____。
「はぁあ~~~~ん!!あれは、らぶらぶ・タクティクス・オペレーションNo56466ぅうう!!」
「いや、だからダセぇよ副長。その作戦名」
「副長、お願いですから静かにしてください」
「ていうか五桁も有るのか・・・メチャメチャ有るんだな、らぶらぶ・タクティクス・オペレーション・・・」
「恐るべし・・・」
「イワ、ウェイフィー・・・。副長がこんなになっているのですから、悪ノリしないで手伝ってください・・・」
「すまん・・・」
「ごめん・・・」
「五桁“しか”よ!!これでも厳選したのよ!!」
「ああ、そうなんですか・・・・・どうでもいいです」
「た、沢山イチャイチャしたいんだな・・・・・どうでもいいが」
「あ、愛されているな・・・ロジ」
「恐怖」
「幸いなのはロジが無自覚という事ですね。副長にとってアレですが・・・ねえ?ミクネ、サレン?」
「「・・・・・」」
「ミクネ?サレン?」
「よせ、クシナ!話し掛けるな!術に集中したい」
「わ、私も・・そ、その、いつ静寂の力を使うタイミングが訪れるか分かりませんから・・・」
「あ、貴方達・・・」
「ふん・・・」
「はは・・・」
ミクネとサレンは作戦に集中している体で、隊長達にヴァリネスの相手を任せるつもりらしい・・・。
どうやら今回の作戦では、このスタンスで荒ぶるヴァリネスをやり過ごすつもりのようだ。
「ねぇ・・・なんで?何で私はロジくんとデートできないのに、あのクソ団長はロジくんとデートして、“あ~ん♪”までしてもらってんの?・・・何?殺す?殺せばいいの?」
ブツブツと呟くヴァリネスの周囲に、より一層どす黒いものが纏わりついて行く・・・。
「こ、これは・・・なんという・・・禍々しい・・・副長でなければ斬りかかっていますよ」
「ヴァ、ヴァリ姉様・・・そんなに殺気立たないでください。さすがに怖いです・・・てかキツイです」
ヴァリネスの禍々しい殺気は、勇者候補であるジェネリーとレインの二人もドン引きしてしまうものだった。
だが二人も決して止めようとはせず、ヴァリネスとは距離を置いていた・・・・・この二人もヴァリネスのことは隊長達に任せるつもりらしい・・・。
「副長・・・会議のときに決まったじゃないですか」
「私は納得していない!!」
「でも代案は出せなかったじゃないか・・・」
「ぁあああん!?」
「___ヒッ!?」
ヴァリネスの殺気にやられてフランが説得役から離脱した_____。
「副長、堪えてください。こうしなければベルジィの正体を暴けないのです」
「んなもん!サレンにちゃっちゃと、やってもらえばいいじゃない!!」
「い、いや、ベルジィの方も私達をマークしているのですから、正面から魔法使ったら逃げられますよ・・・」
「逃げてくれるならマシ。攻撃と勘違いして敵対されたら作戦失敗」
「あくまで、例のオーラを発動させて自己防衛のために魔法を使用したという言い訳が出来ないと、後々不味いのです」
「___チッ!」
前の会議でもヴァリネスはここで反論と代案が出せなかったわけだが、今もただ怒りに任せて文句を言っているだけなので、今回も反論は出ない、出せない・・・。
「お願いします、副長」
「まったく・・・けど、本当にこの作戦は上手く行っているの?ユイラの話じゃ同行は断られたんでしょ?」
「でも、食い付いていたとも言っていました」
「もし今回、食い付いて来ないなら、今回のデートの内容をユイラからノワールに伝えてもらって挑発すれば良いのです」
「釣れるまでやる」
「____チッ!だからって、何であんな最悪な光景を目の当たりにしなくちゃならないのよぉ!」
(_____最高よぉおオオオオ!!)
ヴァリネスがオマ×ロジに怒気を露にしているとき、中年オバサン・・・もといベルジィの方は、心の中で全力で歓喜していた。
(大人しいロジさんがデートでは積極的になっていて・・・オーマさんは顔を赤らめながら戸惑いつつも、満更でもない感じ・・・・ゴクッ、も、もう・・・よだれが出そうです・・・)
※もう、よだれは出ています_____。
「どうでした?美味しかったですか?」
「あ、ああ・・・」
「どうしました?オルスさん?」
「い、いや・・・ジデルはノリノリだなと思ってな・・・」
「フフフ♪そうですね。楽しくて思いの他はしゃいでいます。・・・あ、よ、良くなかったですか?」
フッと我に返って、子犬の様な瞳でロジが不安を訴えて来る・・・。
ロジにそんな瞳で訴えられては、今のオーマ・・・というよりオーマには否定できるわけもない。
「い、いや・・良く無いなんて事は無い。楽しんでいるなら、こっちも嬉しい」
「本当ですか!?良かった♪フフフ・・・」
「おう・・・」
パッと花咲くロジの笑顔は本当に可愛くて、オーマは言葉を出せなくなる。
「そ、そろそろ行くか?」
___と、はぐらかすので精一杯だった。
「はい♪」
「じゃー、ここは俺が____」
「え?待って下さい。誘ったのはボク(という設定)ですし、注文だってボクの方が多いのですから、ボクが払います」
「いや、パフェだって二人で食べたんだし気にするな。こういうのは男の俺が____あれ?男?え、えっと・・ま、まあ、とにかく俺が出す」
「いえ、そういうわけには____」
二人は、お互いが自分が支払うと言って、伝票の黒板に手を伸ばした_____
「「あっ・・・」」
伸ばした二人の手がスッと重なった_____。
オーマの指先にロジのしなやかでひんやりした指が触れ、ロジにはオーマのゴツゴツした固く温かい指先が触れ、お互いに相手から感じる指先の熱に顔を赤くした。
「あーーーーーーーー!!あれは、らぶらぶ・タクティクス・オペレーションNо15888ィイイイイイ!!」
「ま、またか・・・」
「しんどいなぁ・・・」
「というか、あれも作戦であるのですね」
「勿論よ!!ふとした時にお互いの指先が触れて熱を伝え合う!らぶいでしょーが!!」
「ら、“らぶい”って?」
「もー、訳が分からねぇ・・・」
「「・・・・・」」
イワナミとクシナ、フラン、ウェイフィーの隊長組が苦戦する中、勇者候補の四人は沈黙を決め込んでいた・・・。
「と、とにかく、副長、お願いです」
「きしゃーーーーー!!!」
「な、何の奇声?」
「め、めんどい・・・」
「今回の作戦で副長に期待できることは無いようだな・・・」
「「ああ・・・」」
そして、今日一日ずっとこの調子でヴァリネスを宥めるのかと思うと、うんざりしてしまうサンダーラッツの隊長達だった_____。




