サンダーラッツ意識調査(1)
オーマは、ソノアが警備団からの新薬開発依頼を引き受けたのに対して、この新薬がベルジィ捜索の助けになると見て、この事業を全面的にサポートすることに決めた。
これにより、これまでのチームの連携シフトも、ソノアのサポートを中心にしたものへと変更する。
先ず、いつでもソノアの要請に応えられるように商人役を一人、護衛役を一人、常に事務所に待機させて置く。
それに、ソノアが薬の開発に集中できるようにソノアの代わりにソノア・エリクシールの店番も引き受け、食事の配達なども買って出たりなどして、生活面でのサポートも行った。(ただし、部屋の掃除と私室へ入ることだけはソノアに拒否された)
そしてソノアの護衛だ。
新薬の開発でソノア・ゼルユースとゴットン商会の動きが活発になれば、特に商人たちの間で噂になるだろう。
そうなれば産業スパイ・・場合によっては、もっと直接的な手段でこの事業に係ろうとする者が出て来るかもしれない。賊の類にも注意が必要だ。
こういった事に関してソノアから相談を受けたオルスことオーマは、改めて雷鳴の戦慄団の団長としてソノアの身辺警護を引き受けた。支払いは当然ゴットン商会だ。
この様にして、オーマ達サンダーラッツの一同は、ベルジィを探し出す手段を手に入れるため、新たな展開に奮闘していた_____。
「すいません、ワムガさん。荷物持ちまでさせてしまって・・・」
今日のソノアの護衛役であるワムガ(イワナミ)を連れて買い物に出ていたソノアは、自宅に戻って来ると荷物持ちもしてくれたワムガに感謝を伝える。
「いえ、構いません。我々雷鳴の戦慄団もゴットン商会も、ソノアさんの事業を全面的に協力すると約束しておりますから、私にできる事でしたら何でも仰ってください」
「助かります。今、お茶を入れますから休んで行ってください」
「あ、いえ、その必要は・・・これからソノアさんは新薬の研究をなさるのでしょう?」
「どうせ私も一休みしてからですし、一人分も二人分も変わりません。ですから一息入れてください。確かに私が開発しますが、協力頂いている以上は同じチームです。あまり特別扱いされるのも気が引けます」
「そ、そうですか?では、せっかくなので頂きます____」
「はい。座って待っていてください・・・」
生真面目なイワナミは、ソノアの研究を邪魔してはいけないと穏便に断ろうとしたが、ソノアに押し切られる形で一息入れてから帰ることにした。
そうしてソノアはワムガにお茶を入れる・・・・当然、幻惑の力を使うため、毒も入れる・・・。
結果、イワナミもオーマやユイラ同様に、幻惑の術中へと落とされるのだった_____。
オーマを見極めるため、新たな展開を用意したベルジィ。
その中でベルジィが最初にやろうと思った事は、サンダーラッツ幹部達の意識調査だった。
オーマを見極めるために、オーマが周囲の身近な人間にどう思われているかを知ろうというわけだ。
因みに、勇者候補のメンバーは、魔法耐性を下げる毒を盛っても幻惑が通用しない可能性が有るため除外した。
術を掛けなくても、ろうらく作戦が上手く行っているならオーマに好意を寄せていると想像できし、彼女たちは隊長達よりオーマと付き合いが浅いので、隊長達からのオーマの人物評の方が信用できるだろう。
そのため、幻惑を仕掛けるターゲットは隊長達とヴァリネスに限定して、新薬開発事業を行う中で適当な理由を作ってターゲットと二人きりになり、一人一人幻惑の術を仕掛けてオーマの事をどう思っているかを聞き出そうというわけだ。
ベルジィはイワナミに幻惑を仕掛けることに成功すると、早速適当な話からオーマの話題に繋げてイワナミがオーマをどう思っているかを聞き出した_____
「____と言う訳で、他のメンバーには言えませんが、正直に言うと、今の団長より昔の団長の方が良かったですね」
「そうですか。イワナミさんは昔の・・帝国のために戦っていた頃のオーマ団長の方が好きだったのですか」
「だからと言って、帝国の第一貴族に利用され、殺されてもいいと言うわけでは決してありません。ただ人柄で言えば、昔の覇気のある団長の方が尊敬できるという話です。高潔で勝利に邁進する姿にはカリスマ性がありましたし、何より強かった」
「オーマ団長には、かなりの武勇が有ると聞きました」
「はい。自分はフレイムベアーズの頃から団長を知っていますが、ヴァリネス副長とコンビを組んで突撃隊長をしていた頃、初めてその戦いぶりを見た時は鬼神かと思いましたよ。今でこそ勇者候補の方達が目立っていますが、それでも当時を思い返すと団長の戦う姿に身震いします。周りの兵士達も、平民で唯一、第一貴族に迫る強さだと噂していましたし、実際第一貴族のハツヒナには一対一で勝利しています」
「フレイムベアーズ?」
「正式には炎熊戦士団です。まだサンダーラッツが結成される前に、オーマ団長とヴァリネス副長がいた戦士団です。自分もそこでお二人と同じく突撃隊に所属していました」
「へぇー、では隊長達の中ではイワナミさんが一番オーマ団長との付き合いが長いのですね?」
「副長を除けば、そう言えるかもしれません。クシナも自分と同期で、同じタイミングでフレイムベアーズに配属されましたが、クシナはその頃から砲撃隊ですから・・。その後に雷鼠戦士団が結成されて、二人共団長に付いて行くことにしました」
「自ら志願したのですか?」
「はい。正直、その頃からすでにデネファーさんより尊敬していました」
「クシナさんも?」
「クシナは・・・もっと“特別”な感情でしょう。本人から直接聞いたわけではありませんが・・・」
「へぇ・・・」
「そしてサンダーラッツ結成と同時にウェイフィーが加入して、その翌年にフランが。更にその翌年・・ちょうどバークランドと開戦した頃にロジが加入しました。サンダーラッツの最盛期が来たのはこの頃ですね・・・」
「北方での大国同士の戦争・・・相当な激戦だったと聞きました」
「はい。今思い出しても寒気がするくらいです。自分達の団長があの人じゃなかったら、自分は生きていなかったでしょう。団長が皇帝陛下のお言葉を賜り、貴族になる話が出た時も、自分は特別驚きませんでした」
「当然の結果だと?」
「自分はそう思っていました」
「それほどですか・・・今のオーマ団長は、その頃ほどではないと?」
「まあ・・・そうですね」
「昔と比べると、今は付いて行くに足る人物ではない?」
「どうでしょうね・・・今の私の意見は、あくまで今と昔を比べて___です。今でも十分に付いて行くに足る人物だと言えるでしょう・・実際、他のメンバーの中には今の団長の方が良いという者も居るでしょうから・・・。ただ、今はマシになりましたが、第一貴族に抹殺されそうになった後の、本当に“ドブネズミ”だった頃は酷かったです。やる気も覇気も無かった・・・仕方が無い事ではあると思いますが・・・。でももし、初めて会う時期がその頃だったなら、仲間意識は持てていなかったでしょう」
「そうですか」
「まあ、結論を言えば、今の団長の姿は、私の中で昔の団長より劣るものですが、それでも尊敬の念は消えていませんし、魔王の問題も帝国・・第一貴族のやり方も放ってはおけません。ですから、これからも付いて行くつもりです」
「そうですか・・・ありがとうございます、イワナミさん。大変有意義な話が聞けました。相談に乗ってくださってありがとうございます」
「いえ、こんな事でしたら幾らでも・・・でも、まさか、ソノアさんがオーマ団長に気が有るとは思いませんでした」
「そうですか?因みに内緒でお願いしますよ?絶対に誰にも言わないでくださいね?今話したことは、“全て雑談”です」
「分かっていますよ。女性の恋の悩みをベラベラ話す気はありません」
「ありがとうございます____」
ベルジィは話が終わると、最後にイワナミに催眠術で口封じをして会話を切り上げた____。




