ソノアからの依頼(後半)
「____魔法看破薬?」
「はい。一言で言うなら、そういう物です。魔法を可視化できるようにする薬、魔法の探知能力を高める薬など、効能に指定は有りませんが、とにかく魔導士や魔道具の隠術能力を看破できる薬の開発をバージア警備団から依頼されたのです」
「バージア警備団から?」
「はい。先の・・・オルスさんが巻き込まれた事件なのですが、犯人は幻影属性の効果を発動する魔道具を使って姿を変えていたとかで、今後そういった事件に対処できるよう、対抗手段を求めているそうです・・・」
「「ッ!?」」
“幻影属性”と、“そういった事件に対処できる手段”と聞いて、四人は一気にソノアの話に興味を惹かれた。
四人全員の頭に、“ベルジィを探し出すのに役立つのでは?”が過ったのだ_____。
「あ、付け加えますと、警備団の方の話では、その姿がオルスさんに似ていたそうです」
「それで、団長は誤認逮捕されたのですね」
「その様です」
「・・・・・」
とばっちりにも程がある・・・ヴァリネスに堪えるよう言ったオーマだったが、自身も頭に血を昇らせた。
だが、今はそれ以上に大事な話をしている最中なので、本当に一瞬で怒りを鎮める。
それほどこの話は、自分達にとって青天霹靂となる話だとオーマは感じたのだ・・・。
「犯人が使用したその魔道具は、大手のキャラバンから入手したものだそうで、この国では商人達の商品の購入ルートを取り締まるのは難しいのだそうです」
「まあ、それによって栄えている国だからね」
「持ち込める品物を限定する行為などは、商人達との間に軋轢を生むでしょうね」
「はい。そうらしいです。なので、そういった魔道具の入手自体を防ぐのは現場では難しいので、その代わりにその様な魔法による犯罪を取り締まるため、魔法を看破できる力が欲しいのだそうです」
「それで、ソノアを頼ったと・・・・で、ソノアはそんな薬作れるの?」
「完璧に看破できる薬___とまでは行きませんが、ある程度の効果を発揮する薬なら、今すぐにでも」
「凄いわね」
「でも、犯罪を取り締まれるような高い効果を持つ薬となると、ネリスさん達のお力がどうしても必要です」
「私達の?」
「どういうことですか?」
「以前にネリスさんから頂いたオンデンラルの森で採れた素材が必要だからです」
「ああ・・」
「オルスさんが濡れ衣を着せられそうになった事もそうですが、私はこういった犯罪が無くなるよう、この街の一市民として警備団の方々に協力したい気持ちがあります。ですので、この依頼を引き受けたいところですが、ネリスさんの協力を頂かないと、有効な薬の開発と生産自体ができません。お願いできないでしょうか?」
そんな薬が誕生すれば、例えばミクネやサレンなどがその薬を併用すれば、静寂の力を用いずともベルジィの幻惑を看破できるようになる可能性が有る。
静寂の力以外の方法でベルジィを探し出す手段が手に入れば、今の状況を変えられるかもしれない。
「_____」
「_____」
ヴァリネスの決断は直ぐだった。
一度オーマとアイコンタクトをして確認_____これだけだ。全員の答えが相談せずとも一致していた。
「いいわ、ソノア。その新薬開発への出資、ゴットン商会の私達が全て請け負うわ。何でも言って」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「お礼なんていいわよ。貴方がこれまで私達にしてくれたことを考えれば、これくらい何でも無いわ」
「そんな・・・本当に助かります」
そうして喜ぶソノアと、それから何ターンかのお礼の言い合いを繰り返した後、ヴァリネスはオーマを連れて、ソノアと共に依頼を引き受ける返事をしに警備団の事務所へと向かう。
(これで事態が好転するかもしれない・・・頼むぞ)
オーマはそんな願うような気持で、この新薬開発事業を全力でサポ―トをすると決意した_____。
オーマ達と共にバージア警備団の事務所に行って、依頼を引き受けて来たベルジィは、今日のところはそのまま二人と解散し、自宅(ソノア・エリクシールの二階)に戻って来た。
「___ふぅ。上手く行ったわね」
ベルジィは椅子に座ると背もたれに寄りかかり天井を見上げ、ぐったりとした様子を見せる。
オーマとユイラに幻惑の力を使う事に成功したベルジィだが、それでもサンダーラッツの者達と会う時は、自分の正体を知られないかと緊張してしまう。相手は帝国の精鋭なのだ。気は抜けない・・・。
そう言った意味で、最早ベルジィにとってオーマ達と会うのはリスク以外の何ものでもないのだが、
「・・・でも、決めたんだ」
だが、ベルジィはこの面倒を強い意志で行う決意を固めていた。
幻惑の力でオーマから話を聞いて以降、ベルジィは悩みに悩んでいた。
一番の原因はオーマだが、他にも気になる事はある。
帝国の大陸制覇もそうだが、何より魔王の問題だ。
確かにこれは全人類が抱える問題で、ベルジィも無視できない。無視してはいけないものだと思った。
自分が勇者の可能性が有るなら尚更だ。
ベルジィは趣味のBL以外の事にはあまり関心を寄せる人間ではないが、だからといってファーディー大陸が魔王の手に落ちてもいいと思っているわけじゃないし、自分に関係無いとも思わない。一人の人間として、人類が魔族に立ち向かうなら協力したい気持ちはちゃんと有る。特に、もし自分が勇者ならば、その役目を負って魔王と戦うつもりだ。
ベルジィは当たり前にそう考えていた・・・・勇者の気質だ。
そして、その事態を想定した場合、確かにオーマの言う様にずっとバージアに潜入したままでは、魔王が誕生した時に一人で魔王軍と戦う羽目になるだろう。
これは非常に危険で、現実的ではない。魔王に敗北するわけにはいかない。
だから共に戦う仲間が必要になるわけだが、ベルジィは帝国の傘下に入るのも、ココチア連邦の傘下に入るのもごめんだった。
「でも、だからって_____」
では、オーマ達反乱軍に付くか?と聞かれれば、素直に首を縦に振れる気分でもなかった。
牢屋の一件で他の勢力よりはマシだと感じてはいるが、命を懸けて共に戦えるほど信用できるわけではない。
だが、もしこれから十数年以内に魔王が誕生するというのなら、勇者と共に魔王軍と戦えるのは、ドネレイム帝国、ココチア連邦、そしてオーマ達反乱軍の三勢力くらいだろう。
ベルジィは、この中から共に戦う仲間を選ばなければならない。
ひょんなことから、ベルジィは自身と大陸の運命を大きく左右する選択を迫られることになってしまった。
「まさか、こんな事になるなんて・・・・・」
ベルジィ個人の気持ちは、ずっとバージアに潜んでライオン・ケイブを守り抜いて行ければ良いと思っていた。
そうして自分は、立派な貴腐人として趣味を謳歌して生きていく・・・・それで良かった。
はっきりとベルジィの本音を言ってしまえば、この件は面倒だが無視もできない非常に質が悪いものだった。
「____でも」
だからといって、やらないワケにはいかないだろう。
自分、人類、世界、ライオン・ケイブ、そしてBL____。後BL____。何よりBL_____。
これらのためにもベルジィは、この選択をするためオーマを見極めなくてはならない。
これがあって、ベルジィは新薬開発計画をオーマ達に持ち掛けたのだ。
自分を探し出そうとしているオーマ達なら、“幻影属性を見破れる薬”に必ず興味を持つだろうと踏んだのだ。
「オーマさん・・・いい男とまでは言いませんが、せめて共に戦場に立てるくらいの人物ではあってくださいね」
ベルジィは最後にそんな言葉を呟くと椅子から立ち上がる。
そして、これからに備えて今日はもうベッドで休むことにした_____。




