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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
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ベルジィの企て6

 今回潜入してきたスパイが、勇者候補も含めた帝国の精鋭とあって緊張していたベルジィだったが、問題無く自身の作戦の最終段階を迎える事ができた。

それもそのはずだろう。ベルジィ自身は、自分の能力の短所に目が行きがちだが、幻惑の力の長所はそれを差し引いても有り余る能力だ。

 幻惑の力で攻撃する手段は、仮に攻撃対象に術が効かなかったとしても、術が効いた者を利用して対象を攻撃するという手段もある。

ベルジィはその気になれば、サンダーラッツを除く、このバージアの住人全てを幻惑の力で操れる。

この“数の暴力”を持てるという点が、他の勇者候補の能力と一線を画する点だろう。

このため、実際の戦闘ならまだしも、情報戦、工作戦、政戦においては、幻惑の力は他の勇者候補の力を抜いて無類の力を持っている。

 この場で筆者の考えを述べる無粋を許して頂けるなら、“他人を利用できる力”というのは、個人の力量を見て“誰を利用できるか?”より、“どれだけ利用できるか?”という人数の方が大事で、人数が多ければ多いほど脅威になると考えております。

戦う相手が、魔王や魔族ではなく人や国家の場合、これこそが幻惑の力の真骨頂だろう。

以上の点で、やはりこの戦いは圧倒的にベルジィの方が有利だったと言えるだろう____。




 作戦の仕上げのため、警備団の事務所へとやって来たベルジィ。

担当者にオーマとの面会を希望すると、まだオーマからの聴取の途中であったが、“当然”面会が許された。

こうしてベルジィは、警備団の事務所の牢屋でオーマと二人きりになれた____。


「___オルスさん」

「ッ!?____ソノアさん!?」


一人牢屋でどうしたものかと座り込んで悩んでいたオーマは、聞こえて来た女性の声に弾ける様な反応をする。

そして、相手がソノアだと分かると、喜びの感情と悲痛な感情の両方を表に出して起き上がった。


「ソノアさん聞いてくれ!無実の罪で捕まってしまったんだ!」


___ガシャンと大きな音を立てて鉄格子を掴みながら、オーマは縋る様な表情で訴える。


「はい。ジデルさんから大体の話を聞きました。大丈夫です。私が弁護人になって必ず助けますから。だから先ずは落ち着いてください」

「あ、ああ・・・」

「では、落ち着くために私の簡単な質問に答えてください。昨日はよく眠れましたか?」

「あ・・いえ、昨日商談が成立した祝いで、遅くまで飲んでいました」

「記憶ははっきり思い出せますか?昨日は何を食べましたか?メニューを覚えていますか?」

「えっと・・・ハーブチキンをメインディッシュにしたコース料理を・・・」

「今朝は?」

「セリナが作ってくれたトマトスープとパンです」

「結構です。意外と落ち着けていますね。さすがです」


 朝食でスープを食べているなら間違いなく毒入りの水を口にしているだろう。

ベルジィは幻惑の力を使うための最終確認を終える。


「では、最後に深呼吸して、それからこの件ついて話しましょう。“目をつぶって”大きく五回深呼吸しましょう」

「は、はい・・・スゥ_____」


 この状況でソノアに魔法を使われるとは微塵も思っていないオーマは、ソノアに言われるまま目を閉じて大きく深呼吸を始める。

飲んだ毒の効果のよって、魔法の感知能力が弱っている状態でこれでは、もう魔法術式に気が付けない。

ベルジィはオーマの目の前で、堂々と薬物属性と幻影属性の魔法術式を展開し、オーマが深呼吸している間に術を発動した_____。






 「____団長」

「・・・ん」

「団長!」

「あ?」

「“あ?”じゃないわよ。団長」

「ああ・・副長・・・・・あれ?副長?」


目を開いたオーマは、目の前のヴァリネスの存在に困惑した。


「あ、あれ?どうして副長が?俺捕まって・・・てか、副長も・・・」

「ん?団長、何言ってんの?大丈夫?」

「いや、どうして副長が俺の牢屋に居るんだ?」

「・・・マジで何言ってんの?牢屋って何?どうしても何も、そりゃー、仕事が無いんだから事務所で寛ぎもするでしょう?」

「え?事務所?・・・あれ?」


言われてオーマが周囲を見渡すと、そこは牢屋ではなくゴットン商会の事務所だった。


「あ、あれ?俺、牢屋に居なかったっけ?」

「はぁ?ちょっと・・・だから、牢屋って何よ?本気で大丈夫?」

「え、だって俺達は殺人容疑で・・・」

「何物騒な事言ってんのよ、あんたは事務所で寝ていただけでしょーが」

「え?・・・そ、そうだったっけ?」


寝ていたつもりは無いオーマだったが、“ヴァリネス”にそう言われるとそんな気に・・・いや、そんな“感覚”になって来る・・・・ベルジィの幻惑術による催眠効果だ。


「はぁ、昨日の深酒が祟って悪い夢でも見たんでしょ。今日が休みとは言っても、少しは目を覚ましたら?」

「あ、ああ・・・そうだな。すまん・・・」


 そして、いよいよ納得してしまった。

ついでに言えば、今事務所に居るのならロジとクシナも居ないと辻褄が合わないはずだが、オーマにはその“感覚”もなかった。


「そうか・・寝てて変な夢を見ていたか・・・」

「仕方ないんじゃない?偽装工作の商売は上手く行っているけど、作戦は全く進展していないし・・・」

「むぅ・・・そうだな」


ヴァリネスに作戦の話題を提供され、目が覚めた(と思っている)オーマは、自身もその思考に切り替え、作戦を遂行する指揮官のそれになる。


「本当に・・・どうしたもんかな・・・」

「____ねぇ、この際、違う手を考えるってのは?」

「あん?だから、そのベルジィを探し出す違う手ってのが思い浮かばないんじゃないか」

「そうじゃないわよ。この作戦の事じゃなくて、もっと根本的なところを変えないか?って話よ」

「・・・どういう意味だ?」

「私達の本来の目的は、帝国から身を守る事でしょ?なら今の戦力でもできると思わない?」

「・・・かもしれないが、でも、もしベルジィが本物の勇者だった場合____」

「____それもよ」

「ん?」

「それもさ、もしベルジィが本物の勇者だったとしても、問題にならないと思うのよ。ベルジィはスラルバンから野に下って、一人で戦争を止め続けている・・・。なら彼女自身に野心は無いはずだし、バグスが探しても見付け出せないならベルジィを探しだせる唯一の可能性はサレンの静寂の力だけで、彼女は私達の仲間・・・。なら、帝国に利用される心配はないじゃない?もちろん、ココチア連邦にもね」

「ふむ・・・」


ベルジィは今の作戦の無価値を説きつつ、幻惑の力の催眠術を使ってオーマの意識を誘導して行く。


「つまり私が言いたいのは、この際ベルジィは無視してもいいんじゃないか?って事」

「・・・・・」

「いっそ思い切って、ここで帝国から離れてプロトス将軍の用意してくれているワンウォール諸島の拠点に行くってのは?そこで正式に世界に対して帝国の反乱を発表して、帝国の反抗勢力を集めるの。今ならまだ、帝国と戦う気骨の残っている勢力も居るはず・・・なんならココチアと交渉しても良いじゃない?」

「・・・・・」

「____ね?」

「_____」


____手応え有り。

ベルジィの催眠術を駆使した説得は最早洗脳といっていい。

ベルジィは完全にオーマの意志を手中に収めたと確信した。


「ね?じゃー、ここからは撤退しましょ?」

「____いや、ダメだ」

「え!?」


まさかのオーマの発言に、ベルジィは言葉を失くしてしまった____。


 ベルジィの催眠術に抗うには、相当な強い意志と魔法耐性を持っていなければ、抗えないはずである。

そして今は、毒の効果で魔法耐性も下がっている状態だ。

オーマに抗う術は無いはずである。

 これまで、自分の幻惑術で意思を曲げられなかった経験が無いベルジィは、それでも説得を続けるが、動揺は隠せない・・・。


「な、なんで!?別にこれでも問題ないはずでしょ!?誰も困らないわよ!」

「いや、それだと一人困る人物がいる」

「ええ!?・・・・だ、誰よ?」

「____ベルジィだ」

「・・・は?」


まさかのオーマの発言に、ベルジィは再び言葉を失くすのだった_____。


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