ベルジィの企て4
ベルジィはユイラに幻惑の力を行使して、ネリス達ゴットン商会とオルス達雷鳴の戦慄団が、ドネレイム帝国の雷鼠戦士団だと見破った。
全てを知ったベルジィは、問答無用でサンダーラッツをこの街から排除する事を決断する。
そして、サンダーラッツ排除作戦に乗り出した_____。
「____その話は本当ですか?ソノアさん?」
作戦を練り上げたベルジィは、先ずその作戦の第一段階を遂行するべく、サレン達ベルジィ探索組に声を掛けていた。
「い、いえ、そう言われてしまうと噂でしかないので自信が無いです。以前、オルスさん達が感じた“気配”というのは、私には分かりませんでしたし、その気配と、軍事区域に出没するようになった者の気配が同じとは断言できません」
「あ・・そ、そうですよね。すいません」
「いえ。でも、軍事区域が慌ただしいというのは本当です。だから一応オルスさん達にお伝えした方が良いかと思って、ゴットン商会の事務所に向かっていたら、皆さまを見かけたもので・・・・」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます。ネリス支部長とオルス団長に代わってお礼を申し上げます」
そう言ってイワナミが丁寧にその巨体を折り畳むと、サレンとミクネもそれにならって頭を下げた。
「い、いえいえ、そんな・・買い物のついでですから、そこまでして頂かなくても・・・」
三人の丁寧な対応にベルジィは慌てた様に謙遜した。
そして、内心で作戦の第一段階は成功すると確信する____。
(サレン、イワ、どうする?)
(噂らしいので何とも・・・ですが、調べておく必要は有るかと____)
(____ですね。商業区域を出ることになってしまいますが、今も全く手掛かり無いですし、行くべきですね)
(おし!オーマ達には後で通信を入れるとして、軍事区域に行ってみよう!)
(はい)
(了解です)
ソノアからの話を聞いて、軍事区域に行ってみることにした三人は、そのままソノアに別れを告げてその場を後にした。
「ふぅ・・・先ずは第一段階成功ね」
ベルジィは三人を見送ると、ホッと胸を撫で下ろした。
サンダーラッツがこちらの正体に気が付いていない状態で、相手の全てを知っているというこの状況。
ベルジィはサンダーラッツとの情報戦において、圧倒的に優位に立っているわけだが、気は抜けなかった。
理由は勇者候補の存在だ。
ユイラからオーマ達の情報を手に入れた時、ベルジィが真っ先に警戒心を抱いた相手は勇者候補達だった。
その強さは如何程のモノかとユイラから聴取してみると、元魔王軍幹部の最上級魔族でさえ一対一で打倒した武勇伝を聞かされる事になってしまった。
勇者候補達の強さを知ったベルジィは、自身もその勇者候補の一人であることに驚きつつも、自分の幻惑の力はこの者達には通用しないだろうと思ったのだ。
幻惑の力は、通用すればチート級の絶大な効果を生む力だが、今現在のベルジィの実力では効果対象レベルは決して高くないという弱点が有る。
自分と同格以上の相手に使うのは、恐ろしくリスクが高い。
このため、ベルジィは勇者候補の強さを知ったときに、サンダーラッツ全員に一斉に術を掛けて一網打尽にするというのを諦めた。
つまり、今ベルジィが遂行中のサンダーラッツ排除作戦は必然的に、大将狙いになるという事だ。
勇者候補達を掻い潜ってオーマ・ロブレムに幻惑の力を仕掛ける___。そして部下に撤退命令をださせる。或いは、ずっとこの地で不要な指示を出させて、ずっと勇者ろうらく作戦を続けさせてもいい。
とにかく、殺してしまっては帝国が乗り出して来てバージアが戦火に巻き込まれてしまうので、オーマを幻惑の力で操ってサンダーラッツを無力化させようという作戦だ。
「じゃー、次に行きましょうか_____」
ベルジィは三人が軍事区域に向かうのを確認してから、自身も作戦の次の段階に移るべく、ゴットン商会の事務所へと移動を開始した_____。
ゴットン商会の事務所_____。
「ごめんくださーい」
「はーい・・・ああ、ソノアさんじゃないですか」
ベルジィがソノアの姿でゴットン商会の事務所を訪れると、ジデルとセリナが出迎えてくれた。
「どうぞ入ってください」
「私、お茶を入れますね」
「ありがとうございます。お邪魔します_____」
ロジに事務所の客室に案内され、ベルジィは室内のソファーに腰を下ろす。
「____どうぞ」
「ありがとうございます。頂きます」
クシナが入れてくれたお茶を頂きながら、ベルジィはゆっくりと寛ぐ____フリをしながら細心の注意を払って二人に怪しまれない様に周囲に気を払った。
(・・・・やっぱり事務所にはこの二人だけね)
ユイラからサンダーラッツの作戦における個々の役割も聞き出していたベルジィは、この時間帯にはロジとクシナしか事務所に居ない事も聞き出していた。
ユイラから聞いた通りなら、ヴァリネス、オーマ、フラン、ウェイフィー、ジェネリーの五人は、偽りの身分で街に出ていて、レインとユイラの二人は、ベルヘラから商品を入荷するべく、今日からワンウォール諸島へ向かっているはずである。
ベルジィは、ロジとクシナにリラックスした態度を見せながら、それが間違いでなく、今事務所にはこの二人しかいない事を確認した。
「それでソノアさん、今日はどうされたのですか?あいにくネリス様はカーグスト商会の方々と商談中で、今日は夜にならないと戻りませんが・・・」
「あ、そうなのですか?それは残念です・・・。でも、今日ここに来たのは、友人としてネリスさんに会いに来ただけではなく、お客として注文を聞いて頂くためでもあります」
「注文ですか?それでしたらボクが伺います」
「ありがとうございます。実は、以前いただいた薬の素材の中で、また使いたい物がありして・・・」
「そうですか・・・えーと、急ぎますか?」
「特別急ぎという訳ではないのですが、正直に申し上げれば、できるだけ早く欲しいです」
「そ、そうですか・・・」
「何か問題でも?」
「い、いえ、実は商品注文のため、レイフィードさんが本部と連絡を付けに今日出発したばかりでして・・・」
「まあ・・では、この注文は次の入荷の時になってしまいますか?」
「はい・・・」
「そ、そうですか・・・」
「申し訳ありません」
「い、いえ、謝って頂くような事では____」
___などと言いつつ、申し訳なさそうにしているロジに対して、ベルジィはこの事を分かっていながら、あえて心底残念そうな姿を見せた。
これは、予想通りに功を奏して、その姿を見かねたクシナが口を開いてくれた。
「それでしたら私がレイフィード様と同行しているラシラと連絡を付けましょう」
「え?そんな事できるのですか?」
「はい。何とか連絡を付けてみましょう」
「セリナさん、通信魔法を使うのですか?でも、今からじゃ届かないのでは?」
「ここからでは無理ですが、ボンジアに向かって少し馬を走らせれば途中で繋がるはずです」
「本当ですか!?そうして頂けると本当に助かります」
ベルジィは、心底嬉しい!といった様子で笑顔を見せた_____計算通りである。
今日、レインが商品を入荷させるためにワンウォール諸島に向かう事は知っていたし、クシナ達の持つ帝国製の通信機の性能なら、馬を使うなどすれば今からでも連絡が取れるというのも分かっていた。
これらを知った上でベルジィは、クシナをこの場から離れてもらうために、このタイミングで事務所を訪れたのだ。
「では、行ってきます」
「これが注文のリストです。後、もし在庫に幾らかあれば、その分は今日にでも持って帰りたいのですが、お願いできますか?」
「分かりました。ではボクが倉庫から持ってきます」
そう言って、クシナはユイラたちと連絡を取るため厩に向かい、ロジは倉庫に商品を取りに行った。
サンダーラッツがバージアに来てから、ソノアとはずっと懇意にして来たためか、二人共全く警戒せずベルジィを一人残して事務所から出て行ってしまった____。
「____成功ね」
面白い様に簡単に事が運んだことにベルジィはニヤけつつ、ロジが戻ってくる前に手早く事前に用意していた毒を、事務所の飲み水が入った瓶に入れた____。




