ベルジィの企て3
ここ数日、表向きの商売を続けていたサンダーラッツ一行は、再び組わけをして、サレン、ミクネ、の二人を中心にベルジィ探索を開始した。
ロジとクシナは、他のメンバーが外でベルジィ探索をしつつ商売をしている最中、事務所の留守と事務仕事を任されていた。
そして、運搬組のレインとユイラの二人も、まだ注文の受注前だったので、これを手伝っていた_____。
「うーん・・・もうそろそろ魔力の回復薬が尽きそうですね。探索を開始したからずいぶんと減っています」
事務所で在庫管理をしていたロジは、作戦遂行のため、どんどんと減り続けている魔力の回復薬を眺めながら、そう呟いた。
「では、またベルヘラから取り寄せる様ですね」
「はい。商人たちからの注文とは別で、また入荷リストに加えましょう」
「後、それに合わせて怪しまれない様に、ソノア・エリクシールでも適量購入しておく必要が有るでしょうね」
「では、今日は事務所に人もいますし、今日のうちに買い足しておきましょうか?」
「あ!ハイハイ!それなら私が行ってきます!」
ソノア・エリクシールへの買い出しの話が出ると、ユイラが勢いよく立候補してきた。
「ユイラ?よろしいのですか?なんか最近、よくソノア・エリクシールに行ってもらっていますが・・・」
「そうですね。この前も化粧品なんかの買い出しをしていましたよね?」
「大丈夫です!気にしないでください、ついでですから」
「ついで?」
「ロジさん、クシナさん、ユイラはソノア・エリクシールに行くついでに、友人に会いに行きたいのですよ」
「へぇー、友人ですか」
「ユイラさん、この街で友達ができたのですね」
「あはは・・・ええ、まあ・・・」
「ノワールさん、という方らしいですよ。ソノア・エリクシールの隣に住んでいるそうです」
「どんな方なんですか?どういう経緯でお知り合いに?」
「ええ!?あ、いや・・・ま、まあ・・何と言いますか、具体的にどうというのは難しいですね。ちょっとお話する機会があってウマが合う人だったって感じですよ」
「「へぇー・・・」」
(さすがにレンデル隊長にはBL仲間とは言えません・・・)
こういう訳で、ユイラは自ら買い出しを申し出て、少し友人と楽しむ時間を過ごす許可をもらって、ノワールに会うため出かけるのだった____。
住民区域でない商業区域にある住居は、大抵が商業区域にある店に住み込みで働く者達の寮だ。
ノワールの家はソノア・エリクシールの隣になる寮の一室だった。
ユイラは軽い足取りでノワールの部屋までの階段を駆け上がり、ニコニコ笑顔のまま部屋のドアをノックした____。
「___はい。どなたですか?」
「ラシラです、ノワール。遊びに来ました」
「まあ♪」
訪ねてきた相手がラシラだと分かると、ノワールの声も明るくなって、ガチャンとドアを開けてラシラを出迎えた。
「どうしたのですか?今日は事務所で仕事だと言っていたのに・・・」
「あははは、実はソノア・エリクシールに買い出しを頼まれまして、そのついでと言っては何ですが、訪ねてみよう____って・・・お邪魔して良いですか?」
「もちろんです♪どうぞ上がってください」
「お邪魔しまーす♪」
ノワールの部屋は1LDKで、一人暮らしするには十分な広さの部屋だったが、リビングの約半分を本棚が占領しており、その本棚に在るのは全てBL本だった。
因みに、この部屋には大量のBL本があるが、これでもソノア・エリクシールに入りきらなかった分を置いてあるだけである。
ユイラは部屋に入ると、慣れた様子で本棚の前を陣取る。ノワールの方はキッチンに行って、お茶とお菓子の用意を始めている。
ここ数日間の付き合いで出来た二人のルーティンだ。
「ふーん・・やっぱり、ノワールはオヤジ受けや、ヘタレ攻めにハマっているのですね」
「はい。昔はスパダリの鬼畜攻めが好きだったのですが、最近ちょっとそっち系のナマモノを見てしまいまして・・・それ以外のが読みたいのなら、“実家”に戻ればまだありますから」
「いえいえ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ。私もこれ系の好きです」
これまでBL界隈の事は何も知らなかったユイラだったが、ノワールとの出会いで、この界隈の用語も徐々に覚え始めていた・・・。
それだけ二人が打ち解けているという事だが、ノワール(ベルジィ)にとってラシラは、ゴットン商会を探るための標的でもあるため、BL仲間ができて嬉しくはあるが、同時に罪悪感も覚えてしまう複雑な心境になっていた。
(せっかくのチャンスだし、いつまでもこの関係でいるのは苦しいし、ここでハッキリさせよう)
そう決めたベルジィは、せっかくできた趣味を共有できる友人が他国のスパイでない事を祈りつつ、その友人のお茶に毒を盛った_____。
「ラシラ、お茶が入りましたよ」
「ありがとうございます。頂きます♪」
ノワールに呼ばれてテーブルの席に着いたラシラは、お茶と一緒に用意されたクッキーを一つ貰ってから、ノワールの入れたてのお茶を口に付けた。
ここ数日のいつもの流れなので、ユイラはまったく警戒することはなかった・・・。
「何か面白そうな物は見つけましたか?」
「はい。ちょっとこれらの“ホモ百合”なるジャンルに踏み込んでみようかと・・・」
「ラシラはその手の、受け男子が好きですよね。S攻めや総攻めなんかはお嫌いですか?」
「うーん、キャラによりますねー・・チャラい感じや、ナンパなキャラは嫌ですね」
ユイラは頭の中にフランを思い描きながら、そう言った・・・。
「ああ、私もチャラいキャラは・・・でも、女性にはナンパでチャラい男が、同性に対しては戸惑いながらも一途になる展開は好きです」
「おお!!そ、それは尊い・・・・」
「フフフ・・・踏み込んでみますか?」
「____在るのですか?」
「もちろん。少々お待ちを」
「御意____」
ノワールは、妙な口調になったラシラを置いて席を立つ。
そして_____
(そろそろ毒の効果が出ている頃ね・・・)
そう呟くと、ベルジィは魔法術式を二つ同時に展開する。
一つは鶯色の魔法術式、もう一つは紫色の魔法術式_____薬物属性と幻影属性の魔法術式だ。
「♪~~」
ユイラは、自分の後ろでベルジィが膨大な魔力で二つの魔法術式を展開しているにも拘らず、気が付く様子は全く無い。先程ベルジィがお茶に混ぜた毒の効果だ。
魔力の低下、魔法耐性の低下、魔法感知能力の低下、神経と感覚の機能低下と、これらを引き起こす毒。
勇者候補に上がるベルジィは、第一貴族のハツヒナが錬成する薬物の効果を遥かに超える効果を持つ薬物の錬成が可能というわけだ。
そしてベルジィは、幻を見せる幻影魔法と、幻覚症状を引き起こす薬物魔法を同時に発動する_____。
「トゥルース・カムズ・アウト・オブ・フォールスフッド(嘘から出た誠)」
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「ん?・・・あれ?ここは____」
「どうしたの?」
「え!?あれ!?副長?いつ事務所に?」
「ついさっきよ。何?寝てたの?」
「・・・あれぇ?」
ベルジィの幻惑魔法によって幻の世界に包まれたユイラは、困惑気味だった。
だが、自分がノワールの家ではなく、ゴットン商会の事務所に居ること自体には、疑問を抱かない・・・・抱けなかった。
ベルジィの幻影属性は幻を操れる。
その幻とは、幻覚や幻影だけではなく、幻聴なども含んでいる。
ベルジィは、精神属性の様に記憶の操作はできずとも、幻影属性の幻聴と薬物属性の幻覚剤・神経毒を組み合わせて、相手の意志を誘導する事ができる・・・・いわゆる催眠術という奴だ。
ただし、その効果はベルジィの魔力によって、通常ではありえないほど効果的だった____。
「体調がよく無いなら、休んでてもいいわよ」
「い、いえ、大丈夫です」
「そう・・・なら、最近はどう?仕事は順調?」
ベルジィは、ラシラがネリスを“副長”と言った時点で、おおよそ察しがついてしまったが、ネリスの口調を真似ながら慎重に言葉を選んで、ラシラから真相を引き出し始める。
「は、はい。今のところ_____」
そして数時間後、ベルジィはオーマ達の正体と能力、魔王誕生、勇者候補、籠絡作戦、反乱軍と反乱計画と、それら全ての情報を知ってしまった。
今回の勇者ろうらく作戦。オーマ達は、自分達がターゲットを見つけるより先に、ターゲットに自分達の正体を知られてしまうのだった____。




