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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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ジェネリーの歓迎会

 あれから10日ほど経って、ジェネリーは軍学校を卒業し、正式に雷鼠戦士団に入団した。

オーマとヴァリネスも、お互いに事を順調に進め、そして迎えたジェネリーの入団初日。

 デネファーの店の地下にサンダーラッツ幹部が集り、ジェネリーの歓迎会が開かれた_____。


「はーい♪では登場してもらいましょう!我らがサンダーラッツの新星、ジェネリーちゃんでーす♪」

「ほ、本日より、雷鼠戦士団に入団します。ジェネリー・イヴ・ミシテイスです!よろしくお願いします!」


「「お~~♪」」


ヴァリネスの紹介で、ジェネリーが新調した兵装で登場すると、幹部達から歓声が上がった。



 ジェネリーが今身に付けている鎧は、平民に支給される黒のレザーアーマーではない。

貴族に特注で造られるレザーアーマーで、ジェネリーの赤い髪と合う濃いオレンジとブラウンが基調なっており、所々銀色の装飾がなされている。

付与されている魔法も平民の物より、一段階上の魔法が付与されていて、物理防御も魔法防御も高い。



「うん♪似合ってるじゃない♪」

「はい!」

「カッコイイ」


ジェネリーは、幹部たちの褒め言葉に、少し照れくさそうに頬を赤らめた。


「でも、良いのでしょうか?私だけ皆さんと違う兵装で・・・」

「平民出の団長の指揮下に入るといっても、さすがに貴族の人間に平民と同じ兵装はさせられないよ」

「貴族といっても第二ですよ?」

「第二とはいっても貴族だ。平民と同じ扱いはできないよ」

「したら問題になるでしょうね」

「そういうわけで、俺達を助けると思ってその格好でいてくれ」

「分かりました。そういうことでしたら、この格好にも慣れます」

「ありがとう・・・それとな、ジェネリー」

「はい」

「似合っているよ。まさに騎士というべき凛々しい姿だ」

「ッ!?あ、ありがとうございます・・・」


 ジェネリーの新装を必ず褒めるようヴァリネスに言われていたオーマは、精一杯取り繕って賛辞を述べた。

言った後、緊張が解けてため息が出てしまったが、嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いているジェネリーには見えていなかった。


「う~ん。ほんと、惚れ惚れするねぇ。団長のハーレムの一人にするのは、もったいないねぇ」

「え?」

「コラ!フラン!あはは、気にしないでくださいジェネリー。フランは、あなたと団長の仲が好いのが、面白くないだけです」

「・・・面白くないのはクシナだろ」

「うっさい!この女たらし!!・・・はぁ、だからジェネリーにフランを会わせるのは嫌だったんです」


歓迎会の前から嫌な予感を覚えていたクシナは、その予感が的中して頭を抱えた。


「クスッ、でもこういうノリ嫌いじゃないです」

「おお!?マジ!?話しが分かるねぇ、ジェネリーちゃんは!これからよろしくね♪どんな事があっても貴方の白馬の騎士、このフラン・ロープが必ずやお助けします・・・キラン」


フランは気障ったらしい笑顔で、自慢の白い歯をキランと光らせた。


「ほんと・・調子のいい・・・」

「うざ」

「大体、騎士はジェネリーの方でしょ」

「ははは・・お気持ちだけ頂いておきます」


男前のフランがやれば、そこそこ絵になるのだが、サンダーラッツの女性陣には不評だった。

 だが、そんなことでめげる馬鹿ではない。


「気持ちだけじゃなくて、俺のすべてを頂いちゃってOKだよ♪」

「いい加減にしろ、フラン。これ以上ジェネリー嬢を困らせるな」


フランの執拗なジェネリーへのアプローチを、イワナミが参入してインターセプトした。


「ンだよ、イワ。お前もジェネリーちゃん気に入ったのか?でも、お前に指図される筋合いはねーぞ?」

「筋合いは有る。彼女は本日付けで、雷鼠戦士団重歩兵隊、隊長補佐として俺の隊に入る。俺の部下への手出しは許さん」

「はぁ~~!?何それ!?いつ決まったんだよ!?ウソだろ団長!?」


信じられないといった顔でフランはオーマに噛みついた。

 その突っかかってきたフランに対して、オーマは実に淡白だった。


「本当だよ。演習の時に話したんだ。適任だ」

「いやいやいや、ジェネリーちゃんの火力を活かすなら遊撃隊だろ!?」

「彼女自身の希望だ」

「そ、そんな・・・」

「諦めなさいフラン。あんたの隊は隠密行動の方が多いんだから、彼女には向いてないわ」

「ちぇ~、つまんね」


拗ねたフランは椅子の背もたれに寄りかかると、口をタコにして一人ブー垂れ始めた。


「でも、良いのでしょうか?」

「何が?」

「私の役職です。入団したてで、隊長補佐というのは・・・」


会話が途切れた所で、ジェネリーが内心で思っていた疑問を漏らした。


「君が気にすることじゃない」

「で、ですが・・・」


オーマには、ジェネリーの不満は容易に感じ取れていた。


 帝国軍人は皆、職業軍人。だから軍学校出たての新人が、指揮官に成ることは珍しい。

ないわけではないが、能力が高くないと入団してすぐに隊を率いることなど無い。

 ただし貴族は例外で、平民と交わる場合は、新人でも指揮官に成ることがある。

だが、“貴族だから”という理由でいきなり指揮官に成るのは、真面目なジェネリーには抵抗が有るのだろう。

 もっとも、帝国は実力主義でもある国なので、実戦経験が無い新人を隊長・小隊長にすることは無い。

そのため、“隊長補佐”という実質中身のない名目上の役職になる場合が殆どだった。


「隊長補佐なんて肩書は、何の中身も無い肩書よ」

「貴族は平民の下に付けられない。けど、隊長や小隊長は、実戦経験が無いから任せられない。そんな、実力主義社会と貴族社会を両立させるための肩書だからな」

「ただ貴族の面子を保つためだけのものよ。ジェネリーが気にする必要は無いわ」

「貴族の面子を保つためだけの肩書・・・」


 もちろんジェネリーは自分がいきなり指揮官を務められるとは思っていないが、“中身の無い肩書”と言われると、それはそれで釈然としない。

入団したてなのに、貴族だからという理由で厚待遇を受けるのも気が引けるが、その待遇が中身の無いただ面子を保つだけのものというのも腑に落ちない。

 その複雑な気持ちは顔にありありと出ていて、周りの人間には丸分かりだった。


 サンダーラッツの面々は、団長のオーマに“あんたの出番だよ”という視線を送る。

オーマも“言われずとも”といった態度でジェネリーに歩み寄り、声をかけた。


「ジェネリー。君のもどかしい気持ちは分かる。そもそもこの国の第二貴族という制度自体が君にとっては苦痛なしがらみだろう。だが現状は変えようがない。すまないが、受け入れてくれ」

「・・・はい」

「ただ___」

「?」

「ただ貴族制度上の建前のような肩書でも、俺個人は本当に君を評価しているし、期待しているよ」

「オーマさ・・団長・・・本当ですか?」

「君のことを信じると、あの時言ったじゃないか。今は形だけかもしれないが、君なら必ず立派な騎士になれる。君も自分を信じろ」

「あ・・・は、はい!!」


パッと花咲く様な笑顔を見せるジェネリーに、サンダーラッツの皆の顔が綻ぶ。

クシナだけが少し複雑な表情だった。


「クシナ、しっかり」

「わ、わかってますって!ウェイフィー」

「どうされたのですか?クシナ隊長?」

「えっ?あ、ああ、何でもないですよ、ジェネリー。気にしないで下さい」

「はあ・・・」

「クシナは恋の悩みで、歓迎会どころじゃないんだよ」

「フランッ!?何言ってんですか!!」

「そういえば、演習後にもそんな話をされていましたね。クシナ隊長、私で良ければ協力します!恋の悩みでも、何でも仰ってください!」

「えっ?え~~~!?ジェネリーがですか!?」


 ジェネリーの思わぬ発言に、クシナは驚きと動揺を抑えられなかった。

ジェネリーの瞳は真っ直ぐで真剣だ・・・・・暑苦しいとも言えるかもしれない。


「はい!私、少しでも皆さんの役に立ちたいのです!戦いだけじゃなく、恋だってお手伝いします!」

「い、いや・・・でも・・・」

「さあ!遠慮なく!!」


クシナの恋の悩みをジェネリーに話せるはずもなく、只々クシナは慌てるだけだった。


「き、気持ちは嬉しいですけど、い、今は遠慮しておきます・・・。そ、そう!ジェネリーはこれから何かと忙しくなるでしょうし・・ね?」

「確かに。先ずは我が隊に馴染んでもらわないと。覚える事が沢山有る」


さすがにクシナが可哀想になり、イワナミがジェネリーを止めに入った。


「あ、そうですね。分かりました。でも、困ったことが有れば何でも仰ってくださいね。必ず協力しますから!」

「ハハハ、ありがとうございます・・・。張り切っていますね、ジェネリー」

「はい、もちろん!念願の雷鼠戦士団に入れたのですから、一日でも早く一人前になって、皆さんのお役に立ちたいです!」

「すごいです!頑張ってください、ジェネリーさん!」


ロジがジェネリーにパチパチと拍手を送っている間、ジェネリーは背景で炎をメラメラと燃やしていたが、何かを思い出したように鎮火させた。


「あ!あのー、一つお聞きしたいのですが・・・」

「ん?何だ?」

「雷鼠戦士団は今度、何時、何処に出陣するのでしょう?」

「ああ。しばらくは戦場には行かないぞ」

「ええ!?そうなのですか!?何で!?」


張り切って戦場で活躍しようと思っていたジェネリーは肩透かしを受け、思わず叫んでしまった。


「特務を受けるためだ」

「と、特務?」

「宰相からの命令で、ウーグスからの特別な任務を受けることになっている」

「そのために北方遠征軍第三師団の中で私達だけが、帝都に戻ってきていたのよ」

「そ、そうだったのですか。一体どんな任務を?」

「まだ俺も知らないが、近いうちにウーグスから呼び出され、任務の内容を知るだろう。初任務が特別任務で大変だろうが、頑張ってくれ」

「は、はい!精一杯、頑張ります!!」


 特別任務の内容は既に知っているし、もう始めているが、その作戦の攻略対象だったジェネリーには言えず、表向きの任務の話しで誤魔化す。

オーマの心にチクッと罪悪感の針が刺さり、少し落ち込むが、すぐ気を取り直して歓迎会を盛り上げた。


 そんな歓迎会の際中、デネファーが酒を持って部屋に入ってきた。


「ジェネリー様、こちらの果実酒も如何ですか?」

「デネファーさん?」

「店主、よろしいのですか?」

「もちろんでございます。今日、貴方様のために用意した一品にございます」


デネファーの口調に、ジェネリー以外の全員が訝しげな表情を見せる。


「何だぁ?ずいぶん気前がいいな、デネファーさん・・・・・そして気持ちわりぃな」

「それは当然です。ジェネリー様は俺・・私の店に来てくださった、初めての貴族の方ですから」

「店主。お気持ちは嬉しいですが、そのように気を使って頂かなくても大丈夫です」

「へ?」

「ジェネリーは“貴族”って理由だけで特別扱いされるのが苦手なのよ・・・・・・そしてデネファーさんの敬語は私が苦手なのよ」

「そうそう、ジェネリーちゃんをそこら辺の威張るしか能の無い貴族と一緒にするなよ・・・・・そして敬語で話すなよ」


小声でデネファーをディスりながら、ジェネリーの性格について教えると、今度はデネファーが訝しげな顔を見せた。


「そ、そうなのか?」

「デネファーさんも、もっとフランクな態度でいいと思います。ね?ジェネリー?」

「はい、是非そうしてください。私のことはジェネリーでいいです」

「へぇ・・・こりゃ何とも珍しい・・・」

「デネファーさんの言葉遣いも珍しかった」

「てか、キモかった」

「悪かったな!こんな平民がやっている店に貴族が来店したら、何処もこうなるぞ!てか、普通は来ねぇ」

「まあ、確かに。ジェネリー嬢の性格を知らないなら、先程のデネファーさんのような態度になりますね」

「そういうものですか・・・そんなに私の態度は貴族では珍しいですか?」


「「うん!」」


「・・・・・・」


全員が迷わず断言し、ジェネリーは目を丸くして言葉を失う。

 その表情を可愛いと思い、オーマは少し吹き出して、ジェネリーとデネファーの前に出た。


「二人は初対面だろ?改めて紹介しようジェネリー。こちらはレッドベアの店主をしているデネファーさんだ。この店は今回の様に、私的に利用することもあれば、重要な作戦会議をする場所として使わせてもらうこともある。これから何かと世話になる人だからよろしくな」

「はい!でもこの店は作戦会議をするときにも使うのですね」

「ああ、ここなら誰にも聞かれず情報が漏れることもない。デネファーさんは、俺と副長の元上官で信頼できる人だ」

「知っています。炎熊戦士団フレイムベアウォーリアーズ団長、デネファー・ロイゲル」

「おお!?ジェネリー、俺のこと知っているのか?」

「はい、私はシルバーシュ出身なので、バークランドの将や北方遠征軍の方のことは少し知っています。両手に斧を持ち、敵を薙ぎ払う勇猛な戦士だったと聞いています」

「ゆ、勇猛?俺がかい?」

「はい、カッコイイと思います」

「フ、フハハハハ!そうかい、そうかい!うん、気に入った!何か困ったことがあったら遠慮なく言え!この店のメニューも、今日は好きなだけ飲み食いしていいぞ!」

「はい!ありがとうございます!」


デネファーは頬を赤くして照れながら豪快に笑うと、上機嫌でジェネリーにサービスした。


「浮かれている・・・」

「若くて可愛い、しかも貴族の娘に褒められて、のぼせてる・・・」

「デネファーさんも男だねぇ」

「ダサい」

「ワハハハハ!どうした!?お前達も大いに騒げ!せっかくのジェネリーの歓迎会だ!俺のおごりだ!」


「「マジッ!?」」


「おう!マジだ!好きなだけ飲め!!」

「ヒュー♪話が分かるねぇデネファーさん」

「そういうことなら遠慮なくいただきます」

「ぶっつぶれるまで飲む」


デネファーのおごり宣言でサンダーラッツの闘志に火が点き、全員のテンションが一気に上がった。


「よーし!んじゃーぶっ倒れるまで行きましょう!!ジェネリー!あなたも覚悟できているわね!?」

「は、はい!お供します!!」

「じゃー改めて、新しい仲間を加えた俺達サンダーラッツの幸運を願って!カンパーイ♪」


「「カンパーイ♪」」


その日はデネファーも店を開けず、貸し切りとなり、メンバーは本当にぶっ倒れるまで飲んで騒いだ____


___当然次の日、全員が二日酔いだった。


 デネファーはそれに加え出費もかさみ、軍人の頃のノリで騒いだことを激しく後悔した。

ジェネリーには入団初の教訓として、“飲みすぎ注意”が刻まれた。

そして、オーマは二日酔いで潰れている間、ずっと“ウーグスから呼び出しが来ませんように!”と願っていた。


 幸いなことに、魔法研究機関ウーグスからの招集は、その数日後だった___。

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